安上がりのスケート靴
結局俺達は灯枇ちゃんに降参した。果たして美味しい宝物のありかは意外と単純に、灯枇ちゃん家の洗面所に置いてあるタンスの引き出しの中で、タオルに紛れて隠してあった。皆でクッキーを分けて食べながら、結尾君は灯枇ちゃんに話しかけた。
「いや~、ホントありがとう。樹とごっこ遊びして、こうしてクッキーまで作って貰って」
「……え、そんな。灯枇も誘って貰えて嬉しかったから。いとこのお姉ちゃんが来たら、庭でナイフ使って草花料理作るんだけど。その本格的おままごとよりは、樹ちゃんとごっこ遊びする方がずっと楽しい。これ、嘘じゃないから」
この従姉というのは、時々低学年の灯枇ちゃんの教室まで来てちょっかいを出す、5年のボーイッシュお姉さんだ。
お姉さんは、保育園児までの小さい子供が可愛くて好きらしく、今は灯枇ちゃんの弟にご執心のようだが、それとは別に、些細な事に言いがかりをつけて、ふざけて問い詰めると異様にそれを気にして終いには泣き出す灯枇ちゃんの反応が面白くて仕方ないようで、灯枇ちゃんは廊下ですれ違う従姉のクラスメイトである5年生達にまで、あ。アイツの従妹だ~、と言われ、どう反応していいのか毎回悩んでいるそうだ。
「お礼と言っては何だけど……安上がりのスケート靴の作り方、知りたくない?」
『えっ?』
俺と灯枇ちゃんはまたハモった。
「コレ超簡単だから、今度やってみ? 包丁を2本用意します。靴底にぶっ刺します。はい終わり」
「何それ~、そんなの滑ったら大怪我するじゃん」
灯枇ちゃんはケタケタと笑い出し、俺の場合は一瞬で冬場のアクアドームを想像すると、血塗れのスケートリンクを器用に滑る結尾君の姿が思い浮かんで来て、やっぱりこらえ切れずに吹き出した。






