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江津湖探検

 若草市の野蛮な風習として、(ちまた)で密かに有名なのは、俗称でぼした祭りと呼ばれる馬追祭りだ。


 今では大人しげな祭りへと変化しているが、灯枇(あけび)が父親に連れられて見に行っていた頃は、手綱を引かれた暴れ馬が街の中を闊歩して、時折見物客らの人混みの中に突っ込んで怪我人を出した。実際に近くまで見に行って、危ないと思ったら父親に引っ張られるのだが、不謹慎なのは重々承知の上で、灯枇(あけび)はそのスリルが堪らなく好きだった。


 なので高尚ぶるつもりは更々無いのだが、これと似たような野蛮な風習が、ヒヲス小学校の生活の時間で毎年繰り返されていた。その具体的内容としては、何人かの保護者も同伴して一緒に歩いて江津湖まで向かい、そこで生き物達を大量に捕獲して小学校まで連れ去る。まあアメリカザリガニに関しては外来種駆除と言えなくもないのだが、連れ去られた生き物達は、素人の小学生達による飼育によって、学校で次々と全滅する。


 これを経験した灯枇(あけび)の場合も、まず同伴していた冥ちゃんのお父さんに捕まえて貰った、小魚と小エビとアメリカザリガニの幼生が入ったバケツを、うっかり転んで道中にひっくり返してしまった。


 結局1番大きかったアメリカザリガニの幼生だけが、何とか灼熱の道路上で見つかって救助されたのだが、そのアメリカザリガニの幼生も、教室に帰った途端クラスメイトからまとめて飼育するという名目で供出を命じられた。


灯枇(あけび)が渋々差し出したそのアメリカザリガニの幼生は、他のアメリカザリガニの幼生達と共に、次の日全滅しているのが見付かった。


何故ならば、クラスの全員が成長しきったアメリカザリガニ達に夢中で、幼生達の事など顧みて世話をする気が全く無かったからだ。


そのまた次の日はカニ達が全滅した。これは水槽の水を満杯まで入れていたせいで、息ができなかったからだと、原因を摩訶不思議先生が調べて来て解説してくれた。最終的に生き残ったのが、成長しきったアメリカザリガニ達だったが、その精鋭のザリガニ達らも、脱皮に失敗したりしてちょくちょく死んだ。脱皮した後しばらくはハサミが無くて安全なのだが、灯枇(あけび)はとうとう、それでも尚恐ろしくて一度も触れる事が出来なかった。


 そのアメリカザリガニ達の中で特に印象的なのが、衣装ケースの中に設置されていたコンクリートブロックを伝って脱出を計り、何を間違ったか授業中の灯枇(あけび)達の教室に堂々と乗り込んで即座に捕まった、うっかり者のアメリカザリガニ1匹だ。結局どれがそのウッカリザリガニであろうと、ヒヲス小学校の廊下に置かれた衣装ケースの中で、儚く不自由な最期を迎えたに違いないのだが、灯枇(あけび)はどうにもこの風習が受け付けなかった。


 死んでしまった生き物達は、ヒヲス小学校敷地内の、そこかしこに土葬された。往々にして墓標は無く、灯枇(あけび)は一度学校の畑の中にひっくり返って埋まっていたプラスチック皿を発見して、何だろうと思い地面から引っこ抜いて腰を抜かしそうになった。


「ひょえぇっ! (なん)コレっ」


 そこにあったのは何匹かのアメリカザリガニの死骸達で、恐れおののいて立ち去った灯枇(あけび)の耳に、他クラスの女子達の会話が飛び込んで来た。


「あーっ、誰かがお墓をひっくり返してる」


「ひどーい。ちゃんと埋めてあげたのに、可哀想」


 しかし、そこかしこにお墓があった事を知る者など、たまたまクラス当番で直接埋葬しに行った者達に限られ、やがて生き物達は土に返り忘れ去られて往き、再び同じ事が次の新2年生とその関係者達によって繰り返されるのだ。





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