懺悔の資格もない
こんな事を書くと驚かれるかも知れないが、灯枇はスイミングスクール帰りの車内で、小さな弟から服越しに片胸をガジリと噛まれた。まあこれは一応弟のせいでは無く、灯枇が何か弟に軽いちょっかいを出しつつ猫可愛がりしていたら、父親が灯枇に噛みつけと弟をけしかけた事による不幸な事故だった。なので悪いのは全て父親で、全責任は奴にある。
灯枇は噛みつかれた後も非常に痛かったし、場所が場所なので誰にも言えなかった。何なら後遺症として左右のバランスが崩れ、あの時病院に行ってれば何とかなったのだろうかと密かに悩んだ。結局後々下着選びに困ったのと、また更に自信を失ったくらいだ。
後年、バカ売れした村上春樹の「1Q84」が中学の図書室にあったので、灯枇が借りて読んだところ、その作中にも左右のバランスが崩れた女性が登場して気が滅入った。更には濡れ場シーンの多さにうんざりして、読み飛ばして最終巻を手に取ってみたらまた濡れ場で、どんな本でも借りたからには読了する主義だった灯枇が、珍しく放り出した本の一つになった。
――でもそれは結果として、本人の自覚なしに灯枇にし返しただけだから、そう思うのかも知れない。
灯枇は1人で入浴すると、シャワーを使い過ぎて度々母親に注意されていた。それでもこっそり使っていたら、ある時急に入って来た弟にその原因を目撃された。とっさに考えた誤魔化し方は最低なものだった。
「お前も一緒入らんね? 別ん良かど?」
灯枇の弟は、素直に言う事を聞いて湯船に入って来た。
「ちょっとこれ当てて見なっせ、気持ち良かど? お母さん達には内緒ばい」
同じような場所にシャワーを当てると、弟はケラケラ笑い出した。よし、これで共犯になったから大丈夫だな。




