美味しい宝探し
灯枇ちゃんと結尾君の小さな妹は、何やらごっこ遊びに熱心になっていた。指人形や食玩フィギュアを様々な設定に見立てて、喋らせたり動かしたりするのだ。
ただしそこでは、浮気や妊娠という不穏な単語が飛び交い、そのうち母たる王女様役のバービー人形が、泣きながら家を飛び出すわ、その子供達という設定を与えられた、数えきれない程の人外の動植物系キャラクターフィギュア達が、それを恋しがって追いかけるわという奇想天外な物語が繰り広げられていた。
俺と結尾君は、学校から借りて来た「リンの谷のローワン」や、灯枇ちゃんが親にねだって買って貰った「名門フライドチキン小学校」を読みながらTVを見ていた。フライドチキン小学校の校長先生は、大変に愉快な人物で、俺は入学するならホグワーツ魔法魔術学校とどっちが良いだろうと真剣に悩んでいた。
そのうち、灯枇ちゃんと結尾君の小さな妹は、何やらごっこ遊びの設定で揉めだしたようで、何か他の事をしようという話になった。
「あ、良い事思い付いた!」
灯枇ちゃんは何かとてつもない事を閃くと、癖なのか両手のひらを打ち付けて1回だけパァンと鳴らす。そのまま灯枇ちゃんは台所に行って冷凍庫から細長い既製品のクッキー生地を取り出すと、包丁とまな板を使ってサクサクと適度な薄さの丸型に切り分けていき、オーブンで焼いてクッキーにした。俺がありがたく焼き立てをつまみ食いしようとすると、ピシャリと手を叩かれた。
「今から宝探しするんだから、食べちゃダメ!」
そう言って、灯枇ちゃんは俺達全員を和室に待機させ、アルミホイルに包んだクッキーを家のどこかに隠して来ると、俺達にそれを探させた。もちろんノーヒントで、灯枇ちゃんは俺達がトンチンカンな場所を探して、あっちでも無い、こっちでも無いと右往左往する様をニヤニヤしながら眺めていた。