土曜日生まれの子供は生きていくなかで苦労が多い
ヒステリック婆さんの習字教室には、可愛くて快活で、優しくて陽気なきょうだいが居た。
その片方は、男の子だったからより厳しくしても構わないと思われたのか? はたまた灯枇にも身に覚えがあるように、習字の筆の抜けた毛がピヨっと出ているのが気になって、手で抜くような極々ありふれた習性があったからか? とにかく男の子はその現場を、うっかりそういう癖が大嫌いな、心の狭いヒステリック婆さんに目撃されてしまった。
「この、手がいかんとたい!」
ヒステリック婆さんは全く持って意味不明な事に、男の子をガミガミと罵倒し、挙げ句の果てには彼の手をピシャリと本気でビンタした。
「あんな事したら、習字が嫌いになっちゃうよ。可愛くて快活で、優しくて陽気な子供なのに」
誰かがヒソヒソと、ヒステリック婆さんには聞こえないように言っているのが聴こえた。
ヒステリック婆さんも極々稀に気まぐれを起こしたのか、はたまた教え子全員に、本当はめちゃくちゃ嫌われている事実が堪えて来たのかは定かでは無いが、日曜日の先生が代理で来た日に、お城の二の丸公園上空で、ブルーインパルスが飛んでいた事があった。この一大事は、西原児童館の習字教室の窓からも、一部始終を目撃出来たので、受講生達は皆お習字などそっちのけで、飛来音がする度窓の側まで駆けて行き、すげえすげえと喜んだ。
「土曜日の先生だったら、絶対見せてくれないね~!」
誰かがうっかり、ありのままの感想を述べた。
「私が日曜日の先生に、見せてあげて下さいって頼んだんですよ!」
へー、そう。でもそうやって結局怒るって事は、どうせ感謝されたかったんでしょ? それって全然優しさじゃないよ。失礼だとか何だとか、またガミガミガミガミ煩かったけど、何様のつもり? なんて反論は灯枇の頭には一切思い浮かばす、ああ、先生も優しくなって来てるんだなあと、無知故の感慨を覚えていた。
あまりにヒステリック婆さんに怒鳴られ過ぎて、灯枇は自分の字に関しては上手い下手が分からない。何を書いても下手っぴに見えてしまう、悲しい習性が身についてしまった。そしてこれは習字学習者にはありふれた癖らしいが、筆圧が異様に強くなり、学校でも灯枇の答案を採点していると手が汚れるのだと、ずっと先の担任教師にまで困り笑顔で指摘された。
灯枇は普段のヒステリック婆さんが出すノルマを完成させるのに一杯一杯で、特殊な昇段用の清書は提出できた試しが無かった。だから結局、習字教室から解放される6年生になっても尚、初段直前の級で成績は終わってしまった。だが世の中にはこういった、うまく行けばさっさと昇段が可能な裏技的近道があるものだから、人様の資格を聞いただけで簡単にひれ伏すのは、一旦待つべきなのかも知れない。




