迷子の迷子の黒板消し
灯枇のもう一つのトラウマは、行方知れずになった黒板消しだ。ある時日直だった灯枇は、2階の教室から窓の外に腕を出して黒板消しをはたいていた。
「あっ、落とした」
灯枇が靴を履いて落とした筈の場所まで取りに行くと、黒板消しなど影も形もない。何で何でと焦りながら見渡すと、1階の2ー1の教室が目に入った。2ー1の窓をノックして開けて貰い、開けてくれた女子に訊ねてみると、成程やはり勘違いした2ー1の人間が、先に黒板消しを回収したらしい。
「これで全部だよ。どれが落とした奴かな」
灯枇が見せられた黒板消しは、全て落とした物との特徴が一致せず、灯枇は手ぶらで教室へと引き返した。しかしそれもまた勘違いだったのだ。落とした黒板消しの特徴は正反対で、2ー1の黒板消しが増えたならどれでも良いのだから、1つ回収して来るべきだったのだ。
「せんせー、野々下さんが黒板消しを無くしました」
「何でそんなことをするの。ちゃんと探した?」
面倒なことにこの勘違いに次ぐ勘違いに灯枇本人が気付いたのはだいぶ後で、その時状況を適切に説明し、十分な理解を得られるだけの語彙力か人望を、灯枇は持っていなかった。紛失した黒板消し探しに他のクラスメイトも駆り出され、当然見つかる筈も無く悪者に仕立て上げられた灯枇は、その後片手を汚してチョークの粉を払う日直達を見たり文句を言われる度に、日々針のむしろ状態だった。しかも担任教師はこの時点でも高齢で、数年後に体調を崩したと退任式で他の教師から発表があり、まさか黒板消し事件のせいでは無かろうなと灯枇は酷く恐ろしくなった。
しかしながら、2ー1にはそれでなくとも元々大量の黒板消しがあったのだ。それなのに何故灯枇のクラスでは、日直達がたった1つとなった黒板消し相手に、アホみたいに痩せ我慢を強いられなくてはならなかったのだろうか? 無くなったら無くなったで、担任教師が新しい黒板消しを補充しない道理などあったのだろうか?




