与えられ過ぎると苦しくなる
「与えられ過ぎると苦しくなる」これは昔灯枇が勝手に読んだ、親向けの育児関連の冊子に載っていた4コマ漫画や、その解説に書かれていた言葉だった。しかしその言葉は何故か深く深く、そんな事は気にせず与えられて然るべき立場の灯枇の脳裏に刻み込まれてしまっていた。
ところで灯枇のボーイッシュな従姉は、その末っ子パワーのなせる技なのか、とにかく物をねだって買って貰うのが上手だった。口煩い灯枇の祖母や、従姉から見て叔父に当たる灯枇の父親にも、灯枇からすれば驚異的な程、ちょっとした素敵な文房具等を上手く買わせては、ちゃっかりと手に入れていた。
それは例えば灯枇のランドセルを購入しに同行した際にも、如何なく発揮された。主役の灯枇本人は、全くもって好きでも何でもない安物の赤ランドセルを、アウトレットショップの売場に連れて行かれ惰性で選ばされたにも関わらず、従姉はその間に気に入った文房具を見繕って、ちゃっかりと買って貰っていた。それを灯枇がそのまま真似しても駄目で、何故従姉は年上にも関わらず、年下の自分ばかり我慢させられるのか、灯枇は不思議でしょうがなかった。
しかしそんな灯枇は灯枇で、実は貴重なパトロンが居ない事も無かった。いつも縁側のソファで煙草を吹かし、お気に入りのアイスバーを貪り、常に不機嫌そうでン~、ン~と唸り声の調子の上げ下げで指示や返事をする一見恐ろしげな祖父は、もう1人の祖父と違って愛想など無きに等しい人物であったが、もう1人の祖父と同じく、灯枇や弟達によく物を買ってくれる点は共通していた。
不機嫌な方の祖父は、冷凍庫からアイスバーが切れると車で買い出しに出掛け、その際に灯枇や弟も一緒に車に乗っけて行った。祖父はスーパーで買い物かごに、灯枇や弟が欲しいお菓子や食玩の箱を放り込むと、何も言わずに買ってくれた。しかし余りに何箱も入れ過ぎて買って貰うと、灯枇は激しい罪悪感に苛まれた。まだ灯枇の弟が付いてこれないくらいに小さかった頃には、祖父が買ったビールケースの箱にオマケで付いていた首掛け式のデジタルウォッチを、灯枇が使えとくれた事もあった。
そんなパトロンであった祖父のお陰で、灯枇はスーパーに売られていた、まともでキラキラして、可愛くて綺麗なシール類をようやく手に入れることが出来た。その頃には学校にシールを持参するのは禁じられ、シール交換は放課後遊ぶ際に行われていたが、相変わらず人気ではあった。本当はシールなどどうでも良かった灯枇は、頼まれるままシールを交換した。
後々確認してみると、意外と素敵なシールと交換出来ていた事もあったが、面倒になってただあげてしまっただけのシールもあって、灯枇は祖父に対して申し訳なさと罪悪感を覚えた。更にはその頃、人を物で釣るのは良くない事だという母親の教えもあったせいで、灯枇の心は重石で一杯一杯になっていた。唯一愉快だったのは、灯枇が従姉から押し付けられた、従姉が友達と撮ったプリクラシールが全くの不人気で、一切誰も見向きもしなかった事だった。




