下校時間の憂鬱
下校途中、恐らく庭の花の蜜が目当てだった花蜜吸と、鍵の閉まった自宅の玄関先で話し込むことの多かった灯枇は、話を切り上げるタイミングが間に合わず失禁してしまう事が何度かあった。
「大丈夫だよ。クラスの誰にも言わないから」
花蜜吸は驚いた後にそう言った。それと確かに、失禁したのは灯枇の失態だ。しかし花蜜吸は目玉焼き小僧と親しく、学校では灯枇に対して意地の悪い態度で振る舞う人間達の1人だ。なのに下校中は灯枇にとっても多少なりとも話しやすく変化して、他に意地の悪い、例えばクラスメイトの妃鞠や雲母などの人間達の事を悪く言って、灯枇に同情を寄せたりもする。
次の日学校で目玉焼き小僧や雲母と笑いながら何か話している花蜜吸を見る度に、灯枇は内心気が気で無かった。花蜜吸に何か依頼事をされる度、灯枇は握られた秘密を人質に取られているような気分に陥った。だからもう花蜜吸とは下校したく無いのだが、他に通学方向の同じ親しいクラスメイトも居らず、灯枇は今日も嫌々ながら花蜜吸と下校する他無いのだった。
そんな花蜜吸とは一度だけ、灯枇は放課後遊ぶ約束を交わして彼女の家に遊びに行った記憶がある。もはやおぼろげな記憶の彼方だが、何かクレヨンしんちゃんの映画を見て、何か話し込んだような記憶はある。そしてこれだけは間違いないのだが、花蜜吸は唐突に感情を高ぶらせ、灯枇の目の前で何やら泣き叫んだ。
後々花蜜吸は、たしかフコーカに転校して行った。それから更に数年後、灯枇は自身の母親から、花蜜吸の転校理由は、両親の離婚によるものだと聞かされた。灯枇はそれを聞いて、特に何とも思わなかった。




