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第39話 動き始めた不穏な影達


「女性陣達は楽しそうだな」

「そうですね」


 アーネストはおかしそうにいい、ロスとジョージ達もおかしそうに笑う。


「ここまでは問題なく無事に終わったが、次は明日の問題があるなあ?なあジョージ」


 ジョージ・マーグリットはロス・ラスマスの言葉に苦味潰した顔をした。


「貴方の耳にも入っていますか?」

「世界中の社交界での話題は、株や金融市場でもなく君の一人娘の動向じゃないか?」


 ジョージは深い憂慮の嘆息を漏らした。


「ジョージ叔父様のご懸念はアンナのことですか?」


 言い難いことを単刀直入に言う甥っ子にジョージは苦笑した。


「そうだ。アンナはまだ君を諦めていないようだ」


 アーネストは肩をすくめた。


「諦めるも何も、我々は従兄弟同士なだけでそれ以上でも以下でもありませんが?叔父様と叔母様の名誉に掛けて宣誓致しますが、私とアンナの間には何もありませんよ?」


「わかっている。そんな事は私達夫婦が重々承知している。アーネストは私達の望まない事は決してしないことも含めてね」

「望まないこと?」


 シャンパンで赤ら顔のロスが怪訝な顔をする。


「私達夫婦は娘には愛のない結婚は望んでいない」


 なるほどなとロスは鼻を鳴らした。


「親の心子知らずか」


 ジョージは悲しげに頷く。


「叔父様、アンナがなにか画策しているのですか?まさか、由華里さんと私を引き裂こうとでも?」


 あり得ない話だとアーネストは一笑に付すが、ジョージは沈痛な顔をした。


「有り体に言えばそうだ。まさか既に何かあの子はアクションを起こしてきたか?」

「いいえ。特に何も。私からは何度か彼女に婚約と婚姻の事は話しているのですが。その件に関してはなんの返答もしませんね」


「返事をしないのか?!」

 ロスが興味津々で身を乗り出す。


「いえ。滞在先のベニスの天気はとてもいいと饒舌に話していましたがね」


「天気か!!」


 二人は額に手を当て大笑いした。


「ジョージ!アンナは明日のパーティーで悶着起こす気満々だぞ?」


「ええそうですよ。ですからキャスーンはエレノアと共に防衛線を貼ろうとしているのです。明日呼ぶ客は由華里を気に入るであろうご婦人方を多く呼ぶそうです」


「らしいな。わしも粗相するなとエレノアにガッツリ言われておる」


 アーネストは不可解な顔をした。


「で?アンナは明日のパーティーで何をする気ですか?何をしても彼女の品位と名を辱めるだけとは思いますが?」

「確かにな。だが女は怖い。自分の物だと思ってたものを第三者に奪われられるはプライドが許さないんだよ」

「私はアンナの物ではありません」

「由華里の物だな?」

「そうですね」


 ニコリと言うアーネストに二人は「おおお!」と驚嘆の声を上げる。


「このアーネストにこんなこと言わせる由華里には、アンナはとても勝てまい」

「あの子は由華里を甘く見ているんだ」

「由華里は、ぱっと見の従順で従属的な日本人女性の典型的なイメージだからな」

「はあ?皆節穴の目ではないんですか?由華里さんが従属的?」


 呆れて言うアーネストに二人は大笑いする


「ハハハハハ、まあそういうな。ぱっと見はそうだ。だが、よくよく考えればこのアーネストを一目ぼれさせて、手こずらせただけで違うとわかるがな」


「まあ、アンナは由華里に敵対意識というよりは、自分以外の女がウィルバートン夫人になるなどとは思ってもいないからなのだろう」


「ですが既に由華里さんは私の妻です」

「だまくらかして妻にしたもんな」

「ロス」


「ハハハハハハ!以前のお前さんなら、アンナがウィルバートン夫人になる可能性は高かったんだよ」


「何度も言いますが。あり得ません」

「だがお前さんは結婚など、子孫を残すための契約程度にしか考えていなかっただろう」

「有り体にいえばそうですね」

「今は?」


 アーネストは肩をすくめる。


「由華里さんがいれば問題は何もありませんが…まあ子供は二人位は欲しいですね。彼女が産んでくださるなら。そういう想像はとても楽しいです」 


 あははははとジョージとロスは大笑いする。嬉しそうに。


「君とこういう会話ができるようになって嬉しいよ!アーネスト」

「はあ?随分と私は非人情な人間と思われていたのですね」

「事実だろう?」

「ええ。由華里さんにもよく怒られます」

「そりゃ傑作だ!」


 はははと3人は笑いあい、瞬時真顔になる。


「とにかく、アンナはアーネストのこの青天の霹靂のような変化についていけない。いや、気づかない、気付こうとしない。

 そこが問題だ。

 何度も私達はアンナと話し合いを持ったが聞く耳が無い。

 アンナが明日のパーティーで何かアクションを起こすのは明白だ。

 致し方ないのでアンナは我々の名代で、現在ジュネーブに行かせている」


「邪魔者を追い払ったか?」


「有り体にに言えばそうだ。由華里の立場が現在微妙である以上、これ以上騒動は起こさせたくない。アンナの事は放っておいておけばいいと私達は考えている。そのうち現実に目が醒めるだろう。」


「どうかなあ?」


「今はこれしか手がないんだよ、ロス。それより問題なのが、来週から当家でキャスーンがウィルバートン家のしきたり等の花嫁修業を、由華里に施すつもりでいてね…」


「聞いとるよ。エレノアもはりきっとる」


「「なんでエレノアが??」」


 アーネストとジョージは怪訝な顔で言う。ロスは肩を竦めた。


「儂がわかるもんか。エレノアに聞いてくれ。案外、キャスーンと何か計画をしているのではないか?」


 二人は納得した。


「とにかく、一番大事な時期だ。アンナには無用のトラブルを避けるために、ヨーロッパ外遊を続けていて欲しい。まずは・・・明日のパーティーを成功だせることが先決だがな」


「おうさ!明日のパーティーは楽しみにしていろよ!」


「そうですよ、ロス。明日は我が家で二人の婚約祝いパーティーは絶対成功させますからね?」


 初夏を思わせる軽やかなドレスに着替えさせらてた由華里を引っ張ってきたエレノアが、嬉々として言う。


「おお!これはこれは!力を入れたな!エレノア!」


 先程とは打って変わり艶やかな昼間のParty仕様姿の由華里(本人は不服そう)に、一同は感嘆の声を挙げてアーネストは由華里を抱きしめた。


「美しいですよ、由華里さん」

「ランチするのに何故こんな格好をさせられるの?それに、このネックレス重いんだけど…」


 美しい花模様のドレープのダイヤのネックレスを外そうといじる由華里の手をキャス-ンが止めながら、にこにこ説明する。


「これからのランチは明日夜のラスマス家での婚約祝いパーティーの前座みたいなものよ。だから気合をいれているの」

「前座?」


「そうよ。由華里はとんと理解していませんけどね、アーネストの妻の座を狙っていた者はこの社交界にもごまんといるの。そこにこんな無防備な由華里を放り出せませんからね。先手を打ってバックボーンを強固にするのよ。

 まずはランチのレストランにいるであろう、ゴシップ好きの連中に餌をバラまくの。このネックレスは当家が先日のダイヤモンドセレクションパーティーで購入した目玉商品の一つよ。これで、貴女の後ろには私達がいると馬鹿でもわかるわ」

「そんなに高価なものなのですか?」

「金額もインパクトよ。

「さらに明日のパーティーでそれを盤石にするわ。明日招待しているのは、私の旧知の者達ばかりなの。由華里の味方になってくれそうな方達を呼んであるのよ」


「味方?」


 怪訝な顔をする由華里にエレノアは得意げに笑う。


「そうよ!貴方達は結婚準備に忙しいし、肝心のウィルバートン家は新婚家庭用に改修に入るからパーティーは不可能でしょう?だから、後見人になったうちが企画したのよ。私達からの婚約祝いの一つよ!だから盛大にやるわよ!」


「そうだ!こんな凄い話題はない!今一番ホットなPartyだ!招待されたがっているのは世界中にいる!」


 ロスはうきうきと言う。もう!とエレノアが苦笑する。


「茶化さないで、ロス。でもそうね。今世界中で話題のカップルに会いたいと招待状争奪戦状態なのよ」


 ふふふんとエレノアはご機嫌に笑い、一同は賑やかに笑いあい、ランチ会場に向かいましょう!とわいわいと賑やかにぞろぞろとエレベーターに向かった。その少し後に続いていくアーネストに、キャスーンがそっと耳打ちする。



「アーネスト、何度も確認しますけどね?由華里は間違いなくもうウィルバートンの人間になったと言う事ですよね?」


 アーネストは心配そうな叔母にやさしく頷き、腕を組んでゆっくりと歩いた。


「そうです。もう何者も由華里さんを私から奪う事はできません」


 アーネストは満足げな笑みを浮かべた。そうあの母親達ですらもう手出しは出来ない!彼女は既にウィバートンの人間なのだから!

 キャス-ンはほっと胸をなでおろす。


「良かった。バリ島での珍事を思うと、さっさと婚姻届を出して由華里・ウィルバートンにしたほうが彼女の立ち場がはっきりしていいとは思います。でも…由華里の笑顔の威力と言うのかしら?人を引き付ける何かのパワーの凄さは、それでも影響を及ぼすかもしれないわね」


「それもウィルバートンの呪いの影響の一つなのかもしれませんね」


「そうね…由華里の威力を呪いが底上げしていると言うのかしら…いずれにしても色々な事を早急に進めないといけないわね。彼女を奪われないようする為にも」


「勿論です。屋敷内の事はオーソンとアニカ達に任せるとして、秘書、ボディーガードも選抜がほぼ終了しています。その間はマーグリット家とラスマス家でお願いいたします」


「大丈夫よ。エレノアも手伝ってくれるので、アンナが何か仕掛けたらラスマス家に移動させますから安心しなさいな。貴方の人生一度のこの好機を逃がさないようにね?」


「ありがとうございます、叔母様」


 アーネストはキャスーンの頬に愛情と感謝を込めて軽くキスをし、二人は声を挙げて幸せそうに笑い声をあげた。そして由華里が手を振るエレベーターホールに急いだ。

 

 NYに降り立った途端に由華里を囲む悪意の数に、セキュリティー課から報告された脅迫から様々な嫌がらせに至るまでの数の多さに彼等は驚愕した。その想像以上の反目と悪意に反吐が出そうだった。


 なんとしても護る。

 東京での二の舞は決してしない。絶対に!!


 あの「不愉快な男」が全てを認識し承知したうえで、彼女の前に現れるまでは…どんなことをしても由華里を護らなくてはならない。その期間はかなり行動も制限され息苦しい状態にはなるだろう。


 だが、丁度いい。結婚準備というカモフラージュが彼女達の目をくらましてくれる。多少の障害や不愉快な事はあろうが…


 命を奪われるよりはましだ。


 一同は地下駐車場から、巨大なロールスロイスに乗り込み移動する。移動先は目と鼻の先のホテルだ。

 ホテル前からエントランスに至るまで、華やかな一同は周囲の目を浚う。


 どきまぎしている由華里を中心に囲んで、一同はホテルの最高級レストランの個室に案内されながらも、更にその煌びやかな一団は人目を引きつけ瞬く間に話題になる。

 中には携帯電話のカメラを構える輩もいるが、ボディーガード達が一斉に彼等を牽制し写メを停める。


 ハドソン川を一望できる個室に入ると、既にエレノアが集めた「味方」の各界の著名人や夫人達が歓迎して出迎え、一斉に紹介が始まる。

 落ち着いた頃に、広いテラス席が開け放たれ、由華里は歓声を挙げてそこからの景色を気にいった様子を見せた。

 その様子に満足し、一番いい席を勧めて彼女達と弁護士達ともに盛大な昼食会を始めた。


 これでいい。彼女の後ろには常に我々がいるのだと言う事を知らしめる。彼女は既にアンタッチャブルな存在なのだ。何者も彼女を脅かすことは許さない。


 何者もだ!


 彼は由華里とテラスから見渡すマンハッタンの街並みとハドソン川と大西洋の大いなる輝きを前にしながら固く誓った。


 由華里はそんな周囲の思惑など全然知る由もなく、ただ膨大な書類から解放された解放感に喜び、またこれから向かうウィルバートン邸での事を心配しかしていなかった。

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