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第37話 後見人 ロス・ラスマスとエレノア・ラスマス

マンハッタンの一等地に聳え立つウイルバートン・グループ本社ビルの屋上、ヘリポートに青い機体のヘリが一機舞い降りる。


 出迎えるトップクラスの重役達が、爆風の中に整然と並んで、降り立つアーネスト達に一斉に一礼した。

 彼は軽く彼等と挨拶を交わし、そして屋内に向かう。重役達も後に続く。


 社内に入ると屋上の喧騒が嘘の様に静かになり、ほっと由華里は息を吐いた。既にスタンバイされているエレベータに乗り、トップフロアにある会長室隣室の会議室に移動する。


 室内には数十名の男女がいて一斉に立ちあがり一礼する。

 

さらに人数が増えた事に驚く由華里に、アニカが先程の重役を含めて、端から紹介して行く。重役以外は、殆どが顧問弁護士や専属会計士達等だった。


 必死で名前と顔を覚えようとしている由華里に苦笑して、「全部覚えなくてもいいです」と、囁くと同時に、ウィルがアーネストに耳うちした。

 彼は承諾して、由華里を促しドアの方を向いた。


「失礼します。アーネスト様、ラスマス夫妻とジョージ・マーグリット様がいらっしゃられました」


 ドアが開けられ、堂々をした風格(ぽっちゃり体形ともいう)の初老の男性と、対照的に優美なスタイルの初老の女性が腕を組んで入ってきた。そして、キャス-ンと同じ雰囲気を醸し出す男性が続いて入室してきた。


「由華里さん、こちらは、ラスマス夫妻と、キャスーン叔母様のご夫君であるジョージ・マーグリット氏です。


 今日の私達の結婚に関する契約に立ち会っていただきます。また、ラスマス夫妻はこちらの社交界での由華里さんの後見人となってくださいます。


 ロス、エレノア、ジョージ叔父様、私の婚約者の由華里・平野嬢です」


 由華里は3人と握手と軽く抱擁を交わし挨拶を交わした。

 ジョージは優しい穏やかな目で由華里を歓迎し抱擁する。

 ロスはでっぷりと太ったお腹を揺らしながら豪快に笑い、濃い青い瞳を笑わせながら豪快に抱擁する。

 エレノアは優美な物腰で優し気なハシバミ色の瞳を笑わせ、上品に抱擁を交わしあった。

 ロスとエレノアは好奇心丸出しの笑顔で由華里を上から下まで満遍なく見て、にやにやとアーネストを見る。その意図を察知し、アーネストは軽く咳ばらいをして一蹴した。


「ロス・ラスマス氏は大投資家で有名な方ですので、ご存じでしょう。Mバンク、Kバンク、C協会、Vグループ、Wカンパニー、その他多くの会長等を務めてます。


 エレノアは私の母とも懇意にしていたそうなので、ウイルバートン夫人関連事業のよきアドバイザーになってくれるでしょう」


 夫妻はアーネストの説明に顔を見合わせると、おかしそうに笑いだした。


「まあ!アーネスト、そんな説明は野暮ったくてよ」


「そうだそうだ!ユカリ、私達とアーネストは友達なんだよ。事業の上でも利害関係が無く、敵対もしていない。ハッキリ言えば私達はアーネストの底意地の悪い性格が好きでな!そのストイックで刹那的な生き方もまんざらではない!」


「それは褒めてませんね?」


 アーネストの言葉にエレノアが肩を竦める。


「当たり前じゃない。褒めてませんわよ。あなたの生き方は私は嫌いですから。ロスは面白がっていますけどね。

 でも…(抱きしめている由華里をじろじろ見ながら微笑んで言う)女性の趣味は良かったのね。こんな素敵な女性を見初めるなんて、見直しましたよアーネスト」


 まるで教師ができの悪い生徒を褒めるように言うエレノアに、アーネストはおかしそうに笑い大袈裟に会釈をした。


「お褒めの言葉、ありがとうございます」


 一同はどっと笑う。

 戸惑う由華里に、エレノアは腕を回してにっこり笑った。


「勘違いしないでね。今回の件を引き受けたのは打算やお遊びなどではありませんよ。キャスーンやアーネストから送られた資料や映像等で、貴女の人となりが気に入ったからです。そして投資し甲斐があると踏んだからですよ。実際会えて、私達の直観は正しかったと喜んでいるの」


「あ、ありがとうございます」


「ふふふふ、まあ本音を言えば、一番最初は、この悪魔みたいな男を魅了した女神に興味があったのも否定はしませんよ」


「エレノア」


「キャスーンも勘違いしないで。それは個々に来る最初の理由。私達はあなたに会えて、申し出を受けてよかったと思っています」


「何故ですか?」


「貴女のオーラはアーネストと真逆でとても好きだから」


「オーラ?」


「ええ。貴女とアーネストが並んでいる姿はとても斬新で驚いたわ。貴女はこの魔王の毒気を完全に中和しているの。それはすごい事なのよ」


「はあ…??」


「まあ、貴女は自己評価が低いようですけど、これから自覚していくでしょう。私達は今からお友達よ。友達の後押しをするのは当然ですもの。私のことはエレノア、彼の事はロスと呼んでね?いいかしら?」


「嬉しいです!NYに来て最初のお友達ですね。エレノア、ロス、宜しく」


 ぱあっ!と笑顔全開で笑う由華里の威力に、ロスとエレノアは驚いた後に面白そうに顔を見合わせた。

 周囲の殆どは度肝を抜かれたように、驚きどぎまぎしている。彼らがそれ以上余計な感情を抱く前に、アーネストが魔王の覇気をまき散らし一周する。その様子をロスとエレノアは楽し気に、にやにや見ていた。


「凄いわユカリ!私達、どんどんあなたが気に入ってきたわ!」

「おうさ!暫く飽きないですむな!」


 はしゃぐ二人にアーネストは苦笑した。


「ありがとうございます。では、面倒な契約事はさっさと終わらせましょう。お2人とも、この後、話題をばらまきに行かれるのでしょう?」


「そうね。そうしましょう!」

「おい!さっさと用意してくれ!」

「まあ!」


 キャスーンのあきれた声に、二人は頷き大きく笑うと、ぎゅうううと由華里を双方向から抱きしめた。


 ウィルが手をサッと挙げると同時に、会議室内は一斉に動き出した。重厚な樫材を使ったデスクの前の椅子が引かれた。


「それではこれから、ラスマス夫妻、マーグリット夫妻立ち合いの元、アーネスト様と由華里様の婚姻に関します諸手続きを全てを済まさせていただきます」


 緊張した面持ちで頷く由華里の横に坐り、アーネストは手を強く握り締め大丈夫と目で合図する。二人の両側にそれぞれラスマス夫妻とマーグリッと夫妻が着席した。

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