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第31話 ゲームの始まり


 やはり来たか。マーク・スタンナー。


 由華里の専属ボディーガードとして選んだベビーフェイスの悪魔。


 彼は自分と真逆で対極に位置する人間でありながらも、本質は同じだ。だからこそ彼が失い、彼に欠けている物、彼が欲している物…欲している者も…解っている。

 アーネストは自分の横で無邪気に枝の上に鈴なりになるサルを見上げてはしゃいでいる由華里を見た。それに気付いて由華里は満面の笑顔で笑う。


 とても幸せそうに。


 彼女を抱き寄せ幸せに浸りながらも、アーネストは永遠のエネミーに対して意識を外さなかった。


 恐らく彼もそうだろう。


 彼は確認に来たのだ。 昨日の今日で地球の裏側から即座に確認に来た。仕事対象者の確認と言う建前で、その実は違う。


 彼は確認に来たのだ。彼が長年無意識に欲していた者であることを。

 

 そう。自分は理解している。

 

 彼女が彼にとって最大の…蜜である事を。

 彼が自分にとって、由華里にとっても最大の脅威であることも。

 彼が由華里を自分と同じくらい由華里を愛することを…。

 彼女も…彼を愛するかもしれない事を…


 解っている。


 だが彼は由華里を愛するが故に、この世で最も最大の強力なガーディアンとなる事を意味する。愛する気持ちが強ければ強いほど、護る気持ちも強くなる。

 彼はその命を掛けて…由華里を護るだろう。

 自分と同じく、全身全霊を掛けて愛する由華里を守り抜くだろう。


 そうだ。由華里の命を護る為には、ウィルバートンの呪い等と言うふざけた運命から彼女を護る為なら、そのくらいのリスクを負うのは厭わない。


 彼女が生きているのなら全てが許される。こんなふざけたあり得ない関係でも。


 そうだ。

 解っている。


 彼も遠くの人混みから同じ嫌悪の気持ちで睨んでくる。

 そういう顔をするな。


 やはりあの餌には抗えなかったのだろう?そしてここに君がいる時点で、君は既に私のゲームに捕まっている事になる。


 そうだこれはゲームだ。

 君と私の。

 由華里さんを間に挟んだ「ゲーム」だ。


 だからこそ私は先手を打ち優位に事を運ぶ。


 君達は気付かない。君達の中に芽生えるであろう気持に。

 いずれ気付くことがこようとも…その時は既に私の勝利になるように既にスタート時点で決められている。


 そう。

 君と会見した昨日の時点で既に結末は決まっている。


 残忍な目でサングラスの下で薄くアーネストは笑い、由華里を抱き寄せキスをする。由華里がくすぐったそうに幸せな目で見上げる。


 彼が…遠くから怒りを飛ばしてくるのがわかる。


 アーネストは低く心の中で嘲る笑い声を上げた。君には永遠に出来ないことだと冷たく投げ捨てるように心の中で言い放つ。それがせめても溜飲となるかのごとく。


「ここでサルに群がられたのよ。ホントに大変だったの」


 無邪気に言う由華里の言葉にひかれるように、枝の上にサル達が集まる。庇うように抱き寄せるアーネストの腕の中で、またねと言うように由華里が笑い手を振ると、サル達は目をくるりと回して遠回しに一行を見送った。


「彼が来ていましたね」


 先に進む由華里に聞こえないようにウィルが耳打ちする。アーネストは薄く笑う。


「気付いていたか?」

「ええ。オーラが凄く、周囲から浮きまくっていましたね」

「昨日の今日で早い移動だ」

「グレゴリーの報告では会見後直ぐに向こうを発ったようです。そして最短ルートで来た。由華里様を確認しに。真面目な奴ですね」

「真面目すぎて、この警護に憤りを感じていたようだな」


 ウィルは肩を竦めた。


「まあ…このガチガチのガードの仕方は彼の流儀とは真逆ですからねえ。呆れたのでしょう」

「仕方ない。今はこれでしか由華里さんを完璧に護りきることができない」

「彼は受けるでしょうか?受けてくれると助かるのですが…」

「受けるだろう。ボディーガードの件は彼で決まりでいい。秘書の件は?」


 ウィルがパッドを差し出す。その候補者をざっと目を通し写真に×を次々とつけて行く。


「残りの中での選別を「彼」と共に急げとアニカに伝えろ」


 一礼し下がるウィルはその内容を転送する。瞬時にOKが返ってくると振り返り、遅れて来たアニカに渡す。


「ボディーガードの選出は終了したよ。残るは秘書だ。君に一任された」


 アニカがサングラス越しに驚きの目を向ける。


「あら?私が独断で決めていいの?最終メンバーを」

「ボディーガードと決めるようにとのアーネスト様の命令だ」

「ボディーガード?彼で決まり?契約は済んだの?」


「契約はまだだが、グレゴリーが動いてアーネスト様が断言したのだ。彼で決まりだ」

「了解」


 アニカは腕を組んでパッドのデーターを見る。


「人数が随分減っていない?」

「アーネスト様が先程減らした」

「OK」


 アニカは直ぐ様データーを編集しメッセージを出した。直ぐ様返事がくる。直ぐに返事を返す。


「仕事、早いわね?彼。で?どうすると思う?」

 パッドを小脇に挟んでアーネスト達の後を追いながら、アニカは楽しげにウィルに聞く。彼も楽しげに返す。


「さあ?私ならどこかの慈善団体に送金するね」

「何故?」

「まだウィルバートンと契約はしていな。故に、拘束はされたくない」


「1万ドルよ?」

「100万でもお断りだ」

「欲がないのね。あら?もう結果がでたわ」


 そして2人は顔を見合わせ苦笑した。


「慈善団体に送金したわ。彼も無欲ね?でも由華里様に関する仕事は真面目にするわね?」

「アーネスト様が一目で決めた者だからな。秘書はそれで決定かな?」

「いいえ。こればかりは直に会いたいわ。NYに戻って直ぐに面接を開く予定。手配済みよ」


「私は今夜NYに戻る。諸手続きの完遂を急がせ確認する。アーネスト様の厳命だ」


 渋顔のウィルにアニカは苦笑する。


「ウィルの仕事が不手際だったからじゃないわよ。由華里様効果が想定外過ぎたのよ」

「だが…アーネスト様に直接、由華里様と別れるように言ってきた馬鹿共がもう既に5人だ」


 ひゅー!とアニカは口笛を吹いた。


「5人?昨日の他にも?」

 

 ああ…とウィルはげんなりと呟く。


「恋は盲目と言うけど…恐れを知らないと言うか無謀と言うか…。社会的抹殺をされたいのかしら?」

「既に全員アーネスト様の激燐に触れて痛い目を今頃味わっている筈だ」

「当然ね。人の婚約者を横取りしようなんて恥知らずもいい所だわ。処置はだれがしたの?」


「ニックだ。だから彼は今この場にいない」

「いいなー、私もそれに参加したいわ~」


 本気で言うアニカにウィルは苦笑した。


「冗談事では無いんだよ。ここでこの結果なのだから、NYに戻ったらどう言う反応が起こるか想像するだにぞっとする」


「確かに。NYの方が目も直感も肥えている者も、マを持て余す者もゲーム好きの者も多いわ。由華里様がダイヤの原石だと見抜き群がる者は多いしょうね。男女問わず。」


 彼女は7、8と指を開いた。


「何の数だ?」

「ラブレター?かしら?昨日までの分は既に処分済みだけど、今日の分よ。花にチョコに素敵な宝飾品やバック付きでね。由華里様のバースデーはまだなので、全部丁寧に送り返したけど」


「手厳しいな」

「当然でしょ?するとNYでは無粋な物がもっと増えるわね?」


「だから帰国して直ぐにマーグリット家に花嫁修業に名目で行っていただくことにした」

「また隔離?」


「アーネスト様と同席以外に出席されるparty関連では、キャスーン様とラスマス夫人にお目付け役になっていただいてく」


「適役ね。それにキャスーン様から言いだしそうな提案だし。キャスーン様としてもウィルバートンの事を教えられるのは彼女だけだから願ったりかなったりじゃない?」


「確かにね。問題もあるが」


 アニカは物凄く嫌な顔をした。


「あー…あのバカ娘ねえ…。今のところ、アンナ・マーグリットからアクションはないのでしょう?」

 ウィルが同意に頷く。


「無いがどう考えても彼女と由華里様は水と油で真逆だ。絶対に向こうから問題を起こすな」


「私は反対だわ。あのバカ女の害の方が大きいと判断するわ。アーネスト様もご理解なさっているでしょう。なのに何故?」


「アーネスト様が仰るには社交界デビューのいい練習になると言われている」

「…まあね…。彼女くらいを簡単にスル―できなければ、1日で潰されてしまうわね」


「そうだ。それにキャスーン様がそうそう「彼女」の好きにはさせないだろう。「彼女」も大好きな母親の手前、あまり事を荒げる事もしないだろう」


「でも由華里様が大変だわ」

「ご本人も納得されている」


「アーネスト様とアニカ様の御関係を?」

「それは知らない。従兄同士と言う事は認識されている。彼女が相当意地悪であることもね」


「誰が言ったの?」

「キャスーン様だ」


 まあ!と、アニカはおかしそうに笑いだした。


「ならば安心ね。キャスーン様達は由華里様を擁護してくださるわ。そうだ!他にも数人…口うるさそうな夫人達にお目付け役をお願いしたらどうかしら?彼女達は喜んで由華里様のガードを引き受けるわよ。」


「既に手配済みだよ。それと、広報の為にも帰国したら直ぐに複数のパーティーにお二人で出席をしていただく予定だ」


「まあ!ウィル!何時からあなたが由華里様の秘書代理になったの?」


「君は別口の仕事で忙しかっただろうが?」


「もう済んだわ!由華里様の秘書が決定するまで、私が秘書代理するから大丈夫よ」


 全部よこしなさいと言わんばかりに手を出すアニカに、ウィルは不満の顔を向ける。


「本来の仕事はどうするんだ!?」


 にやりとアニカは笑い自信満々に胸を張る。


「由華里様と出会った時から暫くは由華里様専属秘書として動けるように、全部片づけ済みよ。他のも兼任できる体制にしてあるからご心配無用!

 私は貴方達みたいにちんたら仕事をするのは趣味じゃないの。だから貴方達はなーんの心配無く仕事に戻っていいわよ?今直ぐ」


「楽しみを独り占めするきだな?!」


 ホホホホとアニカは楽しそうに高笑いし、仲よく寄り添い合い観光をしているアーネストと由華里の後を追った。ウィルは肩を竦めてその後を追った。だが、直ぐにアニカが戻ってきた。


「どうした?」


「由華里様が発熱されているわ。ご本人はこの暑さが移っただけだといけど、お疲れから熱中症を起こしていたら不味いわ。午後の観光は中止してホテルに戻るわ」


「医者を待機させよう」


 ウィルは携帯電話を取り出し至急手配した。由華里に気どられないようにアーネストが上手く誘導しながら出口に向かってくるのを確認しながら。

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