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第26話 魔王降臨と女神降臨


「Mrウィルバートン、お願いがあります。Miss由華里・平野と別れて下さい」 


 青年王子の爆弾発言に、インコムで話しを聞いていた警護の者達、周囲にいたデニスを含む全員が、ピシリと凍りついた。

 同時に一斉に物陰から顔を出して「彼」の無事を恐る恐る確認した。その青年王子が生きているかどうかをだ。


 彼は生きていた。


 が!!目の前に立ちあがる恐怖の大魔王と化したアーネストの怒気に気おされ、プールサイドで腰をぬかし息も継げずにガタガタ震えていた。デニスが何かとりなしているが全然役に立っていない。


 まずい!あれは失禁物の恐怖を頭から浴びせかけられている!


「ゆ…由華里様―――っ!」


 誰が叫んだのか、青くなった警護の者達の中から由華里へのヘルプが叫ばれ、その瞬間に涼やかな声が響いた。


「なあにー?」


 途端にその場にいた全員が叫んだ。


「由華里様!!!こちらです!!!」

「こっちです!」

「プールサイドにいます!」

「早くいらしてください!!」


 大騒ぎして由華里を呼び周囲の者達(含むデニス)に、アーネストは「黙れ!!」と一瞥したが全員がブーゲンビリアの大樹の横から、アニカに手を引っ張られて由華里が急いで走ってきた。


 胸元に手を当て小脇に何か抱えながら、走ってきた由華里はなんだか異様な光景のプールサイドを見回して、「まあ?」と言いながらアーネストの側に来た。

 途端にアーネストの凄まじい怒気が収まった。はあーーっと安堵の声が周囲に広がった。


「まあ?どうしたの?Mrナイド?具合でも悪くなりましたの?」


 ヘタレ込んでいるナイドに屈みこんで手を差し出す由華里を、物凄い勢いでアーネストが傍に引き寄せた。慌ててアニカ達がナイドを助け起こす。由華里は眉根を潜めてアーネストを見上げた。


「何を怒っているの?木暮?」


 由華里の非難めいた声に、その場の全員(含むナイド)がひえっ!と叫んで固まった。吹き出していた憤怒を由華里の手前、必死で抑え込んだアーネストは笑顔を引きつらせて笑う。


「怒っていませんよ」

「うそ。怒っている。なあに?なんのお話をしていたの?」

 

 怪訝な顔で小首をかしげる由華里に、ナイドが意を決して言う。


「私は!Miss平野とMrウィルバートン氏のこの婚約に対して異議申し立てをしました!」


 再び氷りつくその場。アニカとデニスが怒りにこめかみを引き攣らせ、目くばせで同時にプールに叩き込もうか?と合図をしだした。

 由華里は目を大きく見開き、そしておかしそうにコロコロと笑いだした。その場の全員(含むアーネスト)がぎょっとしたように由華里を見た。


「まあ!面白いことを仰るのね」

「冗談ごとではなく!Miss平野!」


 由華里はくすくす笑いながら、アーネストの横にぴったりと寄り添った。


「異議申し立てをされたのは貴方が初めてですよ?Mrナイド。それに木暮にそれを面と向かって言うなんて、勇気がおありね。でも?それは無理だと思います」


「え?」と、驚くナイドに由華里はにっこりと天上の花々の様に輝く笑顔で言った。


「私達、誰がなんと言おうとも愛し合っていますから」


「ですが!まだ出会って1週間ですよね?」


「まあ?愛するのに時間は関係ないと思いますよ。それに、私はこの1週間で他の誰よりも結構彼の事を知っていると自信を持って言えますよ。彼の底意地の悪さとか腹黒さとか」


 ぶっ…と、デニスが吹き出し、アニカも必死で笑いを堪え、苦笑いしているアーネストは由華里を抱き寄せて軽くキスをして、唖然としているナイドに冷ややかに言う。


「そういう事ですので。失礼」


 そして唖然としているナイドをその場に残して、由華里を伴いさっさかその場を後にした。由華里はおかしそうにアーネスト見上げて言う。


「木暮、よくあの人をたたっきらなかったわね?それくらい物凄く怒っていたわよ?」


「怒っていません。呆れていただけです。」

「怒っていました」

「はいはい、怒っていましたよ。大体、婚約したての私から貴女を奪おうなど言語道断です」


「あはははは。面白いわねえ。私に言うならまだしも、木暮に言うなんて、Mrナイドはどうしちゃったのかしら?」


「恋は盲目という言葉を思い出しましたよ」

「恋?Mrナイドは誰に恋をしていたのかしら?」


 やれやれとアーネストは由華里の無神経に近い鈍感さに苦笑した。まあいいかと思いながらも。そして小脇に抱えている大きな貝を見て怪訝な顔をした。


「ところで、その貝はなんですか?さっきまで持っていませんでしたよね?」 


 由華里は小脇から貝を持ち直して、はいとアーネストに渡した。大きなピンク色の巻貝を不可思議そうにアーネストは見回した。


「ほら貝…ですか??」


「そう。さっきのテラスから少しいった先に海が一望できる展望台があるの。浜辺にも降りれるの。プライベートビーチだから他の人達は入ってこれないんだけどね。そこから少し離れた浜辺に、地元の子供達が大勢いたの」


「はあ?私が少しいない間に何をしていたのですか?お茶をしていたのではないのですか?」


 あははと由華里はおかしそうに笑う。


「ホントねエ、お茶をしていたのだけど、話の流れから地元の子供達の話しになって、すぐそばの海岸で会えるわよと言われて、それで気づいたらみんなでそこに行っていたの。

 でね?私が婚約中だと聞いたら、子供達がこれをくれたのよ。ホラ、中は綺麗なピンクに金色に虹色に変わるでしょう?綺麗よね」


 貝は貝だと思いながらも、由華里がそう言えば美しい貝に見える。


「そうですね。で?これが何か?」

「なんでも結婚にはいいおまじない?お守りになるとか?とにかく縁起がいいのでとプレゼントしてくれたの」


「ああ…巻貝は一部地域では子宝や子孫繁栄や財力系の意味合いを持つそうですからね。それで由華里さんにプレゼントしたのでしょう」

「私達への最初のプレゼントね」


 にこにこ笑う由華里は上機嫌で、アーネストも先ほどまでの怒りや不愉快さが嘘のように幸せな気分になっていた。由華里マジックとはよく言ったものだと苦笑しながら、彼女を抱き寄せてキスをした。涼やかな風が一陣、海から遠く渡ってきて花々の咲き乱れる庭園を抜けて行った。


 会場では主役達を探しており、二人はにっこり笑いあうと仲良く貝を抱えたまま会場に戻った。

魔王大降臨で危うく大惨事になるところを由華里の女神威力で押さえました

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