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第18話 画策

 アーネスト・ウィルバートンは目覚めたベットの上で不機嫌に顔を顰めていた。


 昨夜と言うか今朝というか、とにかく泥酔した由華里をマンションに連れて行き、メイド達に後を任せてホテルに戻り就寝したが、頭の中にはあの由華里がほざいた言葉がぐるぐる回って眠れなかった。


 不愉快だ!!


 この私に何時までも他人の言葉を反芻させるなど言語道断だし、酷く腹立たしい!あの戯言の前にも何か延々と腹の立つことをほざいていたようだが


 大体!!!

 なんで私が一度望んだ物を諦めないといけない?

 この!私が!だ!?


 アーネストははああああと深く息を吐くと、怒りを抑え込んで頭をクリアにした。


 どうも彼女と接していると彼女のペースに巻き込まれて妙な考えや違う方向の事になり兼ねない。

 彼女と離れて頭を冷やしてよくわかった!

 自分と彼女の吸引力では彼女の方が大きいのだ。

 由華里の方が他人に与える影響力が大きいのだ。


 冗談じゃない!


 このまま由華里のペースで押し切られては大変不愉快だ!


 彼は起き上がりバスルームに入ると、思い切り熱いお湯を浴びて不敵に笑った。


「みていなさい由華里さん。この私がそうそう簡単に引き下がるとは思わないで欲しい。欲しい物はきっちり回収させてもらう!」


 逃げられると思うなよ!


 と、ガン!とアーネストは壁に拳を当てた。


 食堂に向かうと一斉に立ち上がったブレーン達は、いつもと変わらぬ態度で朝食に望むアーネストに少し拍子抜けた顔を見交わした。


「おはようございます、アーネスト様、本日のご予定ですが、予定通りに出国で宜しいでしょうか?」


「I国大使館のバーキンズ大使は先のガス田開発で世話にもなったからな。彼からの要請のレセプションパーティーへの参加は予定通りだ。それとも東京で何かやり残した事案でもあるのかね?」


 彼の問いにブレーン達はにこやかに微笑む。


「特にございません」

「ならば予定通りに」

「Yes sir」


  アニカ達もいつも通りの態度で今後のスケジュールを確認し合いながら朝食を手早く優雅にとっていく。


 昨日までの賑やかなやりとりが繰り広げられた朝食とは大違いだった。

 ちらちらと、全員が時折、由華里が座っていた席を見ながらも、別に何も意見を言うでもなく顔にも出さずに食事を進めていた。


「あら?」

 アニカは会話と同時に確認していた携帯電話を見た後、綺麗に塗られた爪を見ながらニヤリと笑った。


「どうした?アニカ?」

「何でもないの。NYは今日は雪になるらしいから」

「毎年の事だろう」


 デニスも今来たデーターを見ながらにやりと笑いながら言う。


「去年は大雪で橋を渡れないと予測していて、マンハッタンのホテルに宿泊したなあ」


 ウィルも一同を挑発的に見まわし、ニックも満足げに周囲を見まわす。


「私はデリーにいたので半袖だったよ」


 4人のブレーン達は同時に笑い合い、そしてにこやかな視線を交し合い頷いた。

 

 アーネストはコーヒーを飲みながら苦笑した。

 どうやら彼等も諦めていないようだ。何を画策しているにかはわからないが。だが、今日直ぐには無理だろう。

 全員が昼前にはそれぞれが日本を出国し目的地に向かわないといけないスケジュールが詰まっていた。

 まあ、自分はI国の約束を果たしたら、早くて明日には日本には戻れるだろう。それで十分に間に合うはずだ。問題はどう彼女とあの化石一家を納得させることだかが…。


 アーネストはクリアな頭の中で今後の由華里捕獲計画を綿密に立て直していると、ニック以外の全員がバラバラに行動し、最終的に成田空港のラウンジで落ち合う手はずになった。


 クラリサ等メイド達はなんだか由華里がいなくなってから精細を欠いた様子で、冴えない顔でもくもくとホテルを引き払う準備に追われていたが、アニカに何かを指示されると急に機敏に動き出した。


 アニカはあの二人を巻き込んで何かする気だな?


 アーネストは苦笑した。エントランスに回されたロールスロイスに数名のボディーガードと秘書のマグガードと共に乗り込んだ。


 車内でマグガードからスケジュールを聞きながら、ふと入ったメッセージに苦笑した。


「如何しましたか?」


 そう聞く向かい側に座るニックに、アーネストはにこやかに言う。


「ジョージ叔父様からキャスーン叔母様が日本にいらしているので「よろしく」とのメッセージだ」


「キャスーン様が日本に?」


 キャスーン・マーグリットはアーネストの父親のアーサー・ウィルバートンの実妹で、彼にとっては唯一の叔母になる。唯一と言えば親族の中でただ一人の血の繋がった、彼の味方でもある。その家族も。


 そしてそのキャスーンは、ブレーン達以上にアーネストの結婚を腐心しており憂慮していた。


「どうやら援護射撃にきたらしいな」

「は?」


 怪訝な顔のニックにアーネストは上機嫌で言う。


「誰かのサプライズだろう」


 ニックの様子を見る限りでは、キャスーンは彼の持ち駒ではないらしい。

 デニスかウィル…デニス辺りがキャスーンに泣きつきそうだと彼は予測し苦笑した。

 大方、成田のVIPルームで待ち構えて説教か説得をする気でいるのだろうと。


 なので、空港のVIPルームで待っていると思っていたキャスーンがいない事に、アーネストは不可思議に思った。


 はて?叔母様はどこにいかれたのだろうか?

 その同行は他のブレーン達も関知していなかった。


 実はキャスーンはこのアニカ達から聞き込んだ「アーネストが花嫁候補を見つけた」報告に嬉々とし、連日やいのやいの花嫁獲得進行状態はどうなのか五月蠅くアニカに聞きこんでいたのだった。


 だが、5日目以降の報告にキャスーンは激怒し、直ちに日本に向かった。

 アニカはキャスーンが来ても事態は好転しないと説得したが、キャスーンはある案をアニカに提示し、その案にアニカは驚き、そして乗ることにしたのだった。


 朝食の席でアニカが受けた報告は、早朝に羽田入りしたキャスーンが、由華里のマンション近くのホテルにチェックインし待機し準備万端であるとの連絡がきたものだった。


 そしてアニカはキャスーンと合流し、由華里のマンションに奇襲をかけていたのだった。


 その頃、成田のVIPルームラウンジにデニスとウイルが遅れて現れ、彼らは同時に親指を立ててにやりと笑いあう。


「君達。何を画策しているのかね?報告は怠りなくしてくれたまえ?」


 アーネストの牽制に、3人は顔を見合わせ上機嫌に笑いあう。


「もちろんです。まだ報告の段階ではないので、お待ちください」


 ほほうとアーネストは苦笑する。


「それよりアニカは?まだですか?」


「まだの様だな」


 こともなげに言うアーネストにちらちらと目を向けながら、3人は少し焦ったように頭をくっつけあう。


 ニックは「連絡がない」と少し不安そうに言う。

「アニカなら大丈夫と思うが」

と、言いつつ、デニスはちらちらと落ち着きなくドアを見る。

 腕時計を見るウイルは「座ろう」と一同を促した。


「なんだね?君達はアニカ待ちか?」


「「「はい!」」」


 アーネストは苦笑した。


「マグガード、そういえばキャスーン叔母様はみつかつたのかね?」


 マグガードはニックを見る。ニックは携帯電話に入った連絡にガッツポーズをし、嬉しそうに言う。


「はい。キャスーン様はこちらに向かわれております」


「ここに?向かっている?叔母様は今までどこにいたのだ?昨日、NYを発ったらしいが?東京に着く頃じゃないのか?」


「キャスーン様は今朝方羽田空港にお着きになられたそうです、アーネスト様」


 羽田?怪訝な顔をするアーネストは眉根を寄せた。


「羽田から成田に向かっているのか?」


「はい。アーネスト様にお会いしたいそうですよ」

 

「搭乗時間までに間に合うといいな。都心からここまでは2時間以上はかかるだろう。私はあと…1時間したら搭乗だ。もしも間に合わなかったら、ウィルかデニスが応対してあげてくれ」


 ブレーン達は少し焦りの色を見せながら目くばせしあい、そして大丈夫と頷き合う。我々には女神がついているからと。


 そしてその1時間後、勢いよく開けられたドアから、大きなラリックの壺を抱えた由華里が、半分目を回しながら押しこまれて来たのには…


 流石に…その場の全員が驚いた。


 部屋の真ん中に押しやられた由華里はぽかんとしたまま、部屋中を見まわし、そしてアーネストを見た。あの優しい黒曜石の瞳で。


 真っ直ぐに。彼だけを。


「yes!great!!アニカ!」

「素晴らしい!!!」

「流石アイスブルーのワルキューレ!!」


 やんややんや拍手喝采をするニック達に、アニカははあはあ息を切らしながら満面の笑顔で大袈裟にお辞儀をして応える。アニカは大きな額(あれはなんなんだ??)を小脇に挟みながら、ドアの前で勇ましく仁王立ちした。


「アーネスト様!出血大サービスで!大切な忘れ物をお持ちいたしました!この私の苦労に!絶っ対に!!報いてくださいませ!」


 行くわよっ!と叫んで、アニカはニック達を部屋から追い出し、ドアを勢いよく閉めた。

 直ぐにドアを開けると、


「キャスーン様からです!」


 と、叫んで、小さな箱を放り投げ、それをアーネストが受け止めた。

ブレーンの画策がやっと実ります。

酒盛りの後~成田空港拉致とアーネストとの再会の間の話しです。

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