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第17話 由華里の爆弾発言

 一同はアーネストの腕の中でふにゃふにゃしながらブランデーのグラスを抱えている由華里を見た。


「由華里様」

「にゃに?」


 にこりと由華里は幸せそうに笑い返事をする。4人は顔を見合わせた。


「由華里様、お聞きしたいことがあります」

「にゃに?」


「由華里様、欲しい物がありますか?お好きな物でもいいですけど?えーと、日常品でもタオルでもソープでもなんでもかまいませんが?」


 おいおいアニカ…と一同は苦笑する。

 アニカはシッ!と3人を黙らせた。

 ふにゃふにゃの由華里はうーんとゆらゆら揺れながら考え込む。


「欲しい物です」

「ほちいもの?」

「そうです。なんでもいいのです」


 うーん?と由華里はふにゃふにゃ揺れる。


「やめたまえアニカ、酔っ払い相手に」


「ですがアーネスト様、こういう酩酊状態の時ほど本音が出たりしますよ?」


「そうだなあ?こういう時ほど本性でるよな。由華里様、何か欲しいのないですか?」


「スイーツでも、着物でもなんでも」


 由華里はにこっと笑った。


「きもにょ、貰った」


 5人は顔を見合わせた。何の話しだ?あ!とデニスが叫んだ。


「ああ!!あれですよ!平野宅でアーネスト様が選んだあの着物の反物ですよ!」

「あれか…」


 あれはまだ仕立て中で着物にすらなっていないが。だがニックは目を輝かせ期待を込めて言う。その後ろで早くもウィルが老舗呉服屋から取り寄せた着物や反物のデーターを調べ出した。


「由華里様、着物好きですか?好きですよね?もっと欲しいですか?」

「いらにゃい」


 即答する由華里に、はーーーーっと4人は舌打ちしながら嘆息した。

 アーネストは4人の無駄なあがきをせせら笑った。


「あの反物ですら受け取るのに散々御寝たんだ。そうそう理由が無い物は欲しいとは言わないだろうさ」


「流石アーネスト様、由華里様のお気持ちをよく御理解されてますね」


「ちゃかしているな?ニック?」


「そうではありませんよ。ならば、アーネスト様なら由華里様は何を欲しがると思いますか?」


 アーネストは肩を竦めた。


「自由だろう」


 4人は怪訝な顔をした。


「物心ついた時からあの父親と母親にガッチリ管理され籠の中で育てられた。あの猪との婚約でやっと自分が籠の鳥であることに気付いて自由を求めて家を飛び出し」


「そしてアーネスト様に即座に捕獲された」


 アニカ達はクスクス笑い、アーネストは否定せず肩を竦めた。


「そういうことになるな。だが、彼女はここに来ても主張要望は主義一貫していた。自由だ。自分の力で人生を切り開いて生きていく自由だよ」


 一同はがっかりとした顔をした。


「ですがそれはもう、アーネスト様が与えてしまいました」


「そうだ。彼女は自由だ」


「でもまたここに舞い戻ってきたじゃないか?」


 不思議そうに言うデニスに、ニックが肩を竦める。


「文句をいいたかったんだろ?なんだか問答無用でたたき出された感じだと怒っていた感じじゃないか」


「そうだな。アーネスト様に文句を言いにきたのだろう?」


「シチューを頭に来てぶちまけるのではないかと冷や冷やしたよ」


「由華里様がそんな事する訳ないでしょ?失礼ね!」


「まるで「私の由華里様」発言だな?アニカ?」


「当然よ!私は貴方達と違い、お二人の出会いからずっと見守らせていただき関わってきたのよ!それにこの4人の中で由華里様は私に一番信頼を寄せていただいているわ!」


「それは君が女性だからだろう?」


「なんとでも仰い!こういうのは早い者勝ちなのよ!最初のアーネスト様の同行にスケジュールを調整できなかった自分達の無能さを嘆くといいわ!」


 高らかに笑うアニカと歯ぎしりする3人の男性ブレーン達を見回し、アーネストは呆れて言う。 


「何を由華里さんを挟んで張りあっているのだね?君達は。大体、君達は全然解っていないな。彼女は私との約束を果たしに来たんだよ」


「約束?」


「そうだ。私は最初の日に彼女と約束した。あの時、色々と彼女を怒らせた詫びに、ディナーをおごると言ったんだよ。それを彼女は律儀に覚えていてね、それでここに来たらしい。あのシチューを持って」


 一同はテーブルの上の大きな鍋を見た。


「意外と美味しかったですよね?由華里様は料理上手ですか?」


 うーん?とアニカとアーネストは首を傾げた。ニック達はわかりましたと納得した。


「ですがそれではまだ約束は完遂されてませんね。

 あれは由華里様がお作りになったシチューですので、由華里様のおごり?と言うか由華里様側からのディナーになりますよね?

 アーネスト様からのディナーはまだですよね?」


「確かにそうなるな」


 アーネストは由華里を支えながら、スコッチを飲んだ。


「いずれにしてももうどうでもいいことだ」


 むくっといきなり由華里が起きあがり、一同はぎょっとした。由華里はむすっとした顔でアーネストを見た。


「ど…どうされましたか?由華里さん?」


「どーでもいいって、どーいうこと?」


「え?」


「約束したディーな―、どーでもいいってどーいう事?」


 アーネストはいきなりの話しに面食らった。


「ですが…私達はもう別れたのですからもうあの約束も終わりだと思いますが?」


「酷い」


「え?」


「酷い!!!木暮ってばいっつもそうなんだもの!!いつでも自分で勝手に解釈して納得して私の気持ちなんて全然解っていない!バカ!!」


「えーっと…由華里さん?もしかしてディナーを楽しみにしていたのですか?」


 うんと由華里は頷く。


「ならばそうおっしゃって下されば良かったのに。ハハハハ。いいですよ?ではどこかのレストランに頼んでデリバリーをしてもらいましょう。私は明日の便で帰国しますので今しか時間がありませんが」


「アーネスト様、ディナーと言うより、夜食か早い朝食の時刻ですが?」


 ちゃちゃをいれながら、デニスはフロントへの受話器を取り上げた。


「由華里様、何をお食べになりたいですか?」


 途端に由華里ははらはらと涙をこぼしだし、全員がげっと叫んで由華里の側に寄った。


「どどどどど!どうされましたか?由華里様?」

「痛いところでもあるのですか?」

「足がまだ痛いんじゃないか?」

「痛みどめ、どこ?由華里様のバックに入っている筈よ!デニス取って!」

「これか?」


 アニカが薬を探しだし、ウィルの入れた水と一緒にアーネストが差し出した。

 だが、由華里はふるふるとかぶりを振る。


「違う」


「え?ではどうしたんですか?」


「ちゃんとしたディナー。きちんとドレス着て…木暮がエスコートしてくれて…」


 一同は顔を見合わせた。


「もういい」


 由華里はむくれてアーネストの胸に顔を押しつけ眠ろうとした。


「ままままま!待って下さい由華里さん!起きてください!話しがまだです!」


 慌てて揺さぶるアーネストに由華里は物凄く不機嫌な顔を向けた。思わず吹き出しそうになるのを押え、アーネストは真面目に聞いた。


「ちゃんとしたディナーがしたかったんですね?」


 うんと由華里は頷く。


「私がエスコートして、ちゃんとその…デートをしたかったのですか?」


 少し顔を赤くして由華里は頷く。一同は仰天した顔を見合わせた。


「「「一言も言いませんでしたよ!!!」」」


「そーいうのは、女性から言っちゃだめって…お母さんが…」


 一同は顔に手を当てて天を仰いだ。やっぱりあの母親がストッパーでトラップか!!!


「いやいや言いましょう、由華里さん。貴女はティーンエイジでもないいい歳したレディいなんですからハッキリ言いましょう!ちゃんと!自分の気持ちを!仰ってください!」


「アニカ、もっとブランデー飲ませろ!酔いがさめると不味いぞ!」


「オレンジジュース混ぜて!由華里様は甘いの好きだから」


 オレンジジュース割りのブランデーと言う気持ち悪い物をデニスが差し出し、アーネストが少し飲ませる。由華里はにっこり笑う。


「甘くておいしいね」


「ハハハハハ…そうですね。それは良かった。で?続きですが?由華里さん?貴女の気持ちを聞かせてください」


「あたチの気持ち?」


「そうです。例えば…私の事はどう思いますか?」


 まじまじとアーネストを見た由華里は心底嫌な顔をした。


「嫌い」


 うわああああーっとアニカ達は号泣したい気分でソファーに散った。

 やれやれとアーネストは由華里の頭を抱き寄せ苦笑した。


「それは知っています」


「木暮は私をおいてっちゃうから…キライ」


「え?」


「なーにがサヨナラよ。バカ!

 涼しい顔して。いい子面して。

 結局遊びだったんじゃない。

 何が本気よ、ウソばっか!

 なーにがウィルバートンよ!!

 だからなんだってのよ!そんなのただの名字じゃない!


 2人なら大丈夫だって言っていたのに!!

 私が好きなのは木暮なんだから!

 アーネストなんて変な名前のどっかのバカじゃないんだし、ウィルバートンなんてCEOじゃないもん!


 なのに!

 みんなで寄ってたかって木暮と私を引き離そうとして。

 バカじゃないの?

 あんなマンションンほしくないもん。

 仕事も欲しくないもん。

 着物なんてバカ!!いらない!!


 私は木暮の側にいたいだけなのに、バカ!!!

 あんたなんてさっさとNYに帰っちゃえ!!

 私を平気でおいてっちゃうなんて信じられない!

 なんで私をおいていくのよ!!

 バカ!バカ!バカ!!

 木暮の馬鹿!

 だいっきらいいいいいいいい!!!」


 盛大に一気にまくしたてた由華里は唖然としているアーネストの首に抱きつき、そして幸せそうに笑った。


「愛しているのに、バカ」


 そして顔を彼の胸に押し当てて、そのままスースーと寝息を立てはじめた。


「今…妙な事を口走らなかったか?」


 驚愕の顔のアーネストに4人のブレーンは蒼白になり、アーネストに抱きついて眠る由華里を揺さぶった。


「由華里様!起て下さい!」

「今、大事な事言いましたね!?」

「もう一度言ってください!」


 ぎゃあぎゃあわめく4人の声など聞こえないのか、由華里は幸せそうにアーネストの胸に抱きついて爆睡している。


 アハハハハとアーネストはいきなり笑い出し、やれれと由華里を抱き上げ立ちあがった。


「アニカ、由華里さんのマンションに連れていく。メリンダ達を呼んできてくれ。できれば君も同行してくれ」


「ですがアーネスト様!」


「いいんだ。もう終わったことだ。

 それは彼女も納得し理解している。

 妙な事を口走ったがただそれだけのこと。

 とにかく彼女をこのままここに置いておく訳にもいかない。

 マンションに連れていく。

 私一人では彼女の名誉に関わるかもしれんし、また要らぬウィルバートンのトラブルに巻き込ませかねない」


 アニカは嘆息し、メリンダ達を呼びに言った。

 不服そうなデニス達に苦笑し、アーネストは由華里を大事に抱えたままエレベーターに向かった。


 そう。もう終わった事なのだ。 


 2人で悩みそして答えを出した。

 交わることのない世界で生きて来た私達が出会い、そして奇跡的な幸せな時間を共有できた。


 束の間の夢を見た。


 忘れていた人を愛する心を思い出させ、そして苦しませてくれた。

 幸せな苦しみを与えてくれた。

 それだけでいい。


 私の愛は彼女を殺す。

 ウィルバートンの名前は…彼女を殺す。


 だからいい。

 ウィルバートンとは関係のない世界で…幸せになってほしい。


 だだそれだけだ。

田口を追い出した後の酒盛りその②です。爆弾発言をした由華里ですが…弱気アーネストはあきらめムードでダメダメです。何故そうなのかと言うと…。

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