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第14話 ウィルバートン家の呪い

 自分は有頂天になっていた。


 長い間、遠い過去に置き捨てて来た忘れ去っていた人間的な感情。

 それを彼女に取り戻してもらい、

 そして彼女の発する幸せのオーラに感化され、

 自分も彼女と同じ属性の世界に生きる幸せな物なのだと…


 勘違いをしているのに気付かない程に…

 有頂天になっていたのだ。


 自分は彼女を愛している。

 純粋に。

 ただ彼女を愛している。


 その感情のなんと素晴らしい事か!

 そして間違いなく(まだ認識はしていなが)彼女も自分を愛している。

 2人の間には何も隔てる物はなく、

 ただ愛すると言う気持ちだけが存在し輝いている。


 それだけでいい。

 彼女がいればいい。

 それだけでいい。


 だが…。



 果たして「それ」が彼女の幸せになるのかどうなのか…その宿命は彼女を見逃したのかどうなのか…彼にはまだ判断が出来かねていた。

 だからこそ…全てを明かす訳にはいかなかった。

 由華里の命を護るためにも。


 そう思っていた。


 自分の真実を、彼女がどんな人物を愛し「その世界」に足を踏み入れているのかを認識させなければ、そして周囲にも誤認識させカモフラージュしておけば大丈夫なのだと…


 判断を誤っていた。


 その判断ミスの隙を突かれたのか?

 それともウィルバートンの呪いは虎視淡々と時期を狙っていたのか?


 私が彼女をこれ以上なく深く愛してしまうのを…

 その残酷な仕打ちが最大限に効果を発するのを


 待っていたのか?


 真昼の丸の内のオフイス街のど真ん中。

 ひしめく大勢の人々が行き交う雑踏のその真ん中で、由華里は刃物を持った男に襲われ、車道に突き飛ばされた。


 暴漢でパニックになった歩道、そしてそれにパニックになった車道に「彼等」は由華里を冷酷無比に確実に突き飛ばした。


 迫りくる車の前に。


 彼女に内密につけていたボディガードの行動があと1秒でも遅れていたら、こうして由華里は病院で検査を受けていることはなかっただろう。

 痛々しい姿で「ごめんさない」とうなだれてはいなかっただろう。


 日本の警察は偶発的に起こった異常者の突発的行動と判断しそう発表したが、FBIとウィルバートンのセキュリティーは100%計画的に練られた由華里を狙った暗殺事件だと断定した。


 由華里が襲われたと知らせを受けた時のあのぞっとする感情。

 冷静になりながらも心中は半狂乱だった。

 気づいた時にはブレーン達の静止を振りほどいて、大混乱する現場に駆け付けていた。


 この私が。

 あり得ないほどに取り乱した。


 だが、ボディーガードに護られ、それでも何が起こったか分からず嵐に怯える雛鳥のように歩道の灌木の間で震える彼女を見つけたときのあの感情。


 真っすぐに自分が呼ぶ声に反応し、

 そして助けの手を差し伸べた。


 私に。

 助けを求めて。

 この生死を分ける現場の中で…自分を見極め、

 私の名を呼びその手を差し伸べ身を預けてくれた。


 それだけでもう満足だった。

 

 無事の彼女を確認し抱きしめられただけで…

 神にも悪魔にでも彼女を救った者に感謝を捧げた。


 怪我を負ったと知った時は慄然としたが…こうして診察室でしゅんとうなだれている彼女を見ることが生きていることを確認できることが…


 心底嬉しかった。泣きたいほどに。


 だが同時に確実に彼女には、自分に課せられた重い運命が伸し掛かっている事も再認識し、激しい苦しみを感じた。


 ウィルバートン家の呪い。


 ウィルバートン家に嫁いだ女性は総じて短命。

 まるで運命に引き裂かれるように若くして悲劇的に命を落とす者が多い。


 それを自分が嫌と言うほど理解していたというのに…。

 だが、由華里の放つ幸せなオーラの中でそれをすっかり忘れていたのだ。


 油断していたのだ。


 呪いは、まだ完全に手にいれていない彼女の上にも襲いかかるのか?

 私が彼女を愛してしまった、ただそれだけで?


 その呪いはありとあらゆる手段を使い、ウィルバートン家の当主から愛する者を奪おうとするのか?


 彼女はまだウィルバートンと言う名前すら知らないと言うのに…。


 この私の本当の姿も名前も知らないというのに。


 まだ自分の気持ちすら…


 愛しているとすら告げていないのに…。


 それでも運命は私から徹底的に愛する者を奪うのか?


 その残酷な運命が由華里を覆いつくし殺そうとしているのに…


 それでも…

 もう離せない。

 離したくない。

 彼女を他の者に渡したくなどない。

 絶対に渡さない。

 離さない。


 ただ…傍にいて欲しい…。


 だからあがく。なんとしても彼女を連れて帰る為に。


 全てを急がせた。


 母親の華代が母の直感で娘の危険を察知し、それが私の傍にいるが故に起こると言う事を見抜き、娘の安全を計る為に私の手元から逃げる算段をつける。


 最初に会った時から母親の華代が一番のエネミーであり、トラップだと察知してはいたが、彼女の手腕は驚くほどに素早く的確だ。


 できればウイルバートンのブレーンにほしいほどに。


 だが今は明らかな敵。


 母親の思惑を全て無効にし、由華里が逃げられないように四方を埋めるように、囲むように全てを急がせた。全て上手くいくと思った。


 だが…ウィルバートンの運命は残酷だった。

 ほんの隙を油断を見過ごすことなく…

 由華里の命を奪いに襲いかかった。


 由華里は自分の部屋のあるアパートメントの7Fの踊り場から、

 刺客により真下の駐車場に向け

 

 無抵抗に放り投げ出された。

丸の内事件~踊り場事件までの間のアーネストの心の葛藤です。

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