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異世界なんてあるわけないだろう

作者: 岡村

異世界なんてあるわけ無いだろう。

そんな夢の様な話に頼れるほどこの国に猶予はないんだ。


背の高い木の扉の向こうから漏れ聞こえた声を聞いた。



あなたは異世界より召喚された勇者様です。

数人の人々に囲まれた祭壇で目を覚ます。

最初にかけられた一言がそれだった。


状況が把握できない。

だが今まで何をしていたのか、何故こんなとことで目を覚ましたのか、それも定かでは無い。


大変お疲れでしょう。

部屋を用意させますので、今夜はゆっくりお休みください。

明日の朝、改めて事情を説明致します。


高貴な顔立ちの男性、いや老人という年齢か。

取り囲んでいる人々の代表に当たる方のようだ。


ぼくは混乱したまま黙って頷いた。

とにかく時間が欲しかった。


案内の道中見た景色は絢爛なお城のようだった。

祭壇の部屋から随分歩いたので、もうどこから来たかもよくわからない程広大な建物だった。


こちらのお部屋をお使いください。

朝になれば使いのものがお迎えにあがりますのでごゆっくりお休みください。


ありがとう、と言いかけたけど

言葉が通じるのか不安になり、黙って会釈をした。

部屋の内側から扉を閉めた後、相手の言葉がわかるなら言語は問題ないか

なんて思い直した。


とにかく記憶が白濁としている。

どこから来たかもわからないのに異世界などど言われても眉唾も良いところだ。


不相応に立派なベッドに横たわると、すぐに意識を失った。

なんだかふわふわしている。

元より遠い現実感と遠のく意識で、自分の存在が酷く曖昧になるのを感じた。


壁際の台の上に細工を施した手のひら程の木材に、ガラス片を埋め込んだようなものが置いてある。

仕組みはわからないが、ガラス部分に数字を表すであろうルーン文字のようなものが浮かんでいた。

たぶんこれが時計だろう。


まだ夜中じゃないか。


しまった。

夜中に起きたことがまずいわけじゃない。

トイレの場所を聞いていなかった。

案内された場所は大きな部屋ではあるが居室のみのようだ。トイレや浴室は別にあるらしい。


大きな扉の開閉音を殺すようにそっと開ける。

同じような扉が続く回廊。

とりあえず部屋にあったメモ用紙を扉の下に滑ら

せ、戻り先の目印にすることにした。


だれか通った。


誰かはわからないが無闇に扉を開けて探す

なんてことはできる限りやりたくない。

それなら聞いてみるのが一番賢い解決策だろう。


声をかけようと近づくが何しろ広い。

見失わないようについていくのが精一杯だった。

3つほど角を曲がった後、不安にも 誰か は、

突き当たりの部屋に入ってしまった。


ため息を漏らした。

だが肝心の物はまだ漏れてはいない。

静まり返った城内で起きている人がいるなら、部屋を訪ねてでもトイレの所在を聞くべきだろう。


正直能動的に誰かに声をかけるのは得意ではないが、意を決して部屋を訪ねることにした。


話し声が聞こえる。

耳をそばだて、様子を伺う。


万一、魔王征伐に成功すればそれで良い。

討ち取られたり、道中力尽きるなら、それもまた第二、第三の矢を鼓舞するきっかけになる。

それが出来れば彼は紛れもなくこの世界の勇者となる。


ぼくの話だろうか。


異世界から勇者が現れ、そのカリスマ性で兵を従え、類稀な剣技で世界を導く

そんな夢物語のような話があれば民衆を謀るような真似をする必要はないのですがね。


さっきとは違う声

中にいるのは2人だろうか。


神に祈って、縋って民を救えるならいくらでも愚王となろう。

だが現実はそうではない。

降りかかる火の粉を前に祈りを捧げても

身は焦げ、国は焼け落ちるだけだ。


そもそも異世界とはなんだ?

異世界なんてあるわけ無いだろう。

そんな夢の様な話に頼れるほどこの国に猶予はないんだ。

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