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無限深度の刀剣使い  作者: 堀田シヲン
一節
9/14

第四話 闇と竜

「悪魔?」


 悪魔っていう存在は、おとぎ話では聞いたことはあるけど、この世界に存在するとは思ってはいなかった。

 昔の作り話とかでもあるけども。

 悪魔、ねえ。


「悪魔って、いたの? 昔には」

「いた! すべてを焼き尽くす炎を吐き、その背に生えている翼から発する突風は全てを吹き飛ばす! 災厄そのものだ! その闇をなぜお前が発する! あの悪魔の眷属か! やはりお前は排除しなくては……!」





「だーめだって言ったでしょ? ルプス。君はまだ懲りないのかな? またコテンパンにされたい?」


 勝手にアル君の左手をクラオカミに伸ばして、引き抜き、私に変わった。


 この世界の記憶を辿る。

 そしたら、この世界で悪魔と言われていた存在に辿り着いた。

 

 私の知っている世界では、『竜』と呼ばれている存在だ。

 ドラゴン、と言った方が正しいかもしれない。


 悪魔と呼ばれていたのは、他に表現方法が無かったからだと思う。

 ドラゴンっていう存在は、この世にはただ一種しかいなかったみたい。

 それも、私と同じ、別世界からの追放者。

 危険すぎる存在がゆえに、ここの世界に飛ばされたのだろう。


 でも、私と違うのは、体を持ったまま飛ばされたということだ。


 正しい知識なのかはわからないけど、科学的な視点からすると、宇宙という一つの世界から、突然原子の一つでも消滅、あるいは増殖をしたら、その世界は宇宙ごと消滅するって仮説がある。

 それが正しいとするならば、ドラゴンを追放した世界は、そのドラゴンに消滅させられる寸前だったのかもしれない。

 消滅させられるくらいなら自滅を選んだのだろう。

 そのドラゴンのいた世界は、もうなくなっていた。


 こっちの世界では、神が何かをしたのだろう。

 そのドラゴンと同質量の生物が消失させられている。

 随分な人口と魔物が居なくなっていた。


 いや、これは天使どもがやったのかな?

 こっちの世界とは、なかなか繋がりが持てないんだよねえ。

 天使に妨害されてるのか何なのかわからないけど、神とか、そういう天界関連の情報があんまり入ってこない。


 今度連れていかれたらぶん殴ってやる。

 アル君が。


 「ミヅハ殿! あの闇は危険です! あの災厄は、俺たち未開の森の仲間が総出で何とか倒せましたが、損害がかなり出ました……今でこそ頭数は元に近くなりましたが、まだ当時には及ばないくらいで……」

「まーまー。アル君にはその災厄の因子が混ざってるけど、あの危険な竜みたいに同じ思考は持ってないよ。まるで逆。平和過ぎて怖いくらい」

「竜……? あの災厄は竜という名前なのですか?」

「まあ、これだって名前は無いけどね。私のいた世界で一番近い存在が、夜刀神って呼ばれてて、元居た世界では、ハエレティクス。ここの世界で近いのは…なんだろう? プルードって名付けてみたんだけど……まあそこは置いておいてね」

「あの悪魔の因子が……やはりあの小僧は危険なのでは?」

「その竜だって。実際はそんなことしたくなかったみたいだよ。力が大きすぎるがゆえに、その力に振り回されてただけ。本当は人々と仲良くしたかったし、別世界でもこっちの世界でも、竜は平和に暮らしたかったみたいなんだよね」


 大きい力を持つだけで恐れられるし、それだけで攻撃される。

 ただ、挨拶の仕方とか、接し方とか、そういう方法がわからなかっただけ。

 行動一つでそこら中に災害を引き起こしてしまう。

 だから、攻撃されてしまって、倒されて。


 辛かっただろうなあ。

 悲しかっただろうなあ。


 それで、羨ましかったんだろうなあ。

 アル君みたいに強い力を持ちながら、平和に暮らす人が。


 だからこそ、自分の因子をアル君に混ぜ込んだんだろう。


 因子とは、生まれながらに持っているだけじゃなくて、植え付けることもできる。

 特殊な能力を持っていないと無理なことだけど、それくらいのことは竜はできたみたいで、アル君に因子を植え付けたみたいだ。

 深すぎる深度で、あまりに強い潜在能力を持っているのに、平和に、自然に、町の人々から愛され、羨ましかったんだろうなあ。


 アル君の意識の奥には、その竜の因子、まあ言い換えれば意識が眠ってる。

 然るべき強さをアル君が得た時に、きっとコンタクトができるだろう。


 私みたいに表層に出てくることは無いだろうけど、きっとアル君のいいアドバイザーになってくれるんだろうなあと期待している。


「そうなのですか……あの悪魔、いえ、竜はすすんで害を振り撒きたくは無かったのですね……当時はああするしかなかったとはいえ、申し訳ないことを……」


 ルプスがそう嘆く。


「でも、仕方ないと思うよ。倒すしか竜を止められなかったわけだし。逆に止めてくれてもらって、ありがたいとか思ってるかもだよ。アル君が成長したら、竜も覚醒するはずだから、少し話を聞いてみるといいかも」

「はい。ぜひそうしたいと思います」


 少しすっきりとした顔で、ルプスが言った。

 うん。

 それがいいと思う。


 生物はコミュニケーションが大事だからね。

 一方的な思想の押しつけは摩擦を生む。

 たとえ敵対してても、よく話をしてみたら、結構息があったりするしね。


「いいね。それが生物の理性だよ。それをアル君にも見せてくれたらいいんだけどねえ……」

「小僧は別です。あいつは軟弱すぎます。俺とミヅハ殿で鍛え上げねば。その竜とも交流できません。鍛えましょう、ミヅハ殿」


 うーん。

 ルプス、君脳筋過ぎです。

 まあ鍛えることには賛成だから、言わないけど。


「まあそういうことだから。アル君に戻るね」

「ええ……小僧に戻ってしまうのですか……俺はもう少しミヅハ殿と交流を……」


 いやあ、見た目30代手前のイケメンに言われたら心苦しいところもあるけど、ちょっと気持ち悪くもあるなあ……。


「うんにゃ、戻るよ。交流するならアル君とね。私の大切な器なんだから、私と同じように接してくれるとありがたいなあ」

「……努力はします……しかし、せっかく鞘を新しく創ったのでしたら、長い間変わっていてもいいのではないですか?」

「うーん、まずはアル君に許可とってからだね。主人格というか、元々の持ち主はアル君だし」

「……身体も創ってしまえば、ミヅハ殿にずっとついていけるのに……」


 ああ、言い出すと思ってた。

 それだけはしないと思っているのに、ルプスは言っちゃうんだよなあ。

 私への忠誠心というか、執着心というか、そう言うものがすんごいんだよなあ、ルプスは。

 アル君にもそれを、いや、アル君に対してはいい友人として向き合ってくれると助かるんだけどなあ。


「身体は創らないし、創らせない。アル君の身体じゃないと、私は存在できないから。どうしてもそれが受け入れられないのなら、離れたほうがいい。私たちから」


 私だけに執着しているのであれば、私たちには不必要だ。

 何回も考えているんだけど、私達は2人で1人だ。

 決して離れることができず、そして離れようとも思わない。

 アル君の中にいるのは私だけじゃないけど、そのうち出てくるだろう。

 竜もいるしね。


「……いえ、ミヅハ殿から離れることなど考えられません。小僧も鍛えないといけないという使命を受けましたし、小僧、アルメリアを見守ります。俺が保護者のような存在になりましょう」

「い……ん? 保護者? 友人とかじゃなく?」

「自分の見た目はまだ見ていないのでわかりませんが、目線からして結構な身長差がありましょう。友人というより、親子と言った方が違和感が無いと思います」


 んー……?

 髪色も違うし、顔だちも違うし、それは……あ、そういえばアル君孤児か。

 いけるいける。

 大丈夫。

 だよね?


「まあ、関係性は置いておいて、近くにいるいい感じの存在になってくれると嬉しいな!」

「はい、ご命令とあれば」

「いやあ、命令っていうよりお願いなんだけどね?」


 硬いよ!

 ルプス!

 硬い!

 もっと気軽に親子なら親子らしく接してあげて!


「うん……まあ、戻るね。アル君に……」

「はい、またお会いできるのを楽しみにしています」


 クラオカミの元々の鞘にクラオカミを納刀して、アル君に戻る。




 ……うん、だんだんこういう状況にも慣れてきたぞう。

 またミヅハが説得してくれたんだろうなあ。

 ルプスがすっきりとした表情で僕を見ている。

 なにがあったかはわからないけど。


 あ、そうだ。

 ミヅハの能力を試してみよう。


 濡れ烏の柄を握りしめ、世界の記憶を探る。

 知りたい事柄、ここであったこと。

 それを知るために魔力を濡れ烏に注ぐ。


 ミヅハは何もしなくても知ることができるみたいだけど、僕にはまだ無理だ。

 新しく使えるようになった魔力と言うものを使わなくてはいけない。

 まあ、それもまだそのものを使うことしかできないけど。

 応用とかそうのはまだ知らないし、使い方もわからないから、習わないとなあ。


 とりあえず、ここであったことはわかった。

 ルプスと親子かあ……。

 悪くないけど、親子でありつつも師弟関係って、なんか道場の親子っぽいなあ。

 悪くないけど……めっちゃ厳しそうだなあ……。

 現実でルプスに鍛えられて、夢でミヅハに鍛えられて。


 ……あれ? これ休む暇無い?


 少ししゃがみこんで頭を抱える。

 夢の中は時間が止まってるとは言え、かなり厳しい環境に身を置かされていることに気が付いた。

 修行の毎日……少し前の僕には考えられなかったことだ。

 成人の議から変わり過ぎだ。


 正直、いつも通りの日々を過ごせると思っていたんだ。

 将来の夢とかは特になかったけど、お世話になっていた孤児院の職員になって、子供たちの世話をして、家事をして、代り映えのしない毎日に飽きつつも、どこか満足した生活を送ると思っていたのに、これだ。


 深度深度。

 深いだけでここまでさせられるか普通。


 ……だめだなあ。

 下向きな気持ちになってきた。


 切り替えなきゃな。


「っし。ルプス師匠、良かったら今から稽古つけてくれない? 強くならなきゃなんでしょ? 僕の中の竜と話してみたいし」

「なんだ、随分複雑そうな表情をしているな。オスは強くて悪いことなどない。ミヅハ殿の大切な身体でもあるのだ。傷一つでも付けられたりしてみろ。修行の内容を10倍にしてやる」

「うわあ……勘弁してよ……」


 まあ、そんなやりとりをしたけど、結局は未開の森に行ってからのほうが修行が捗るであろうということで、まずは未開の森に向かうことにした。

 昨日使っていた拠点はとりあえずそのままにしておいて、背に背負えるだけの荷物をもって、歩き出す。


 で、まあここはもう未開の森の入り口なわけで。

 魔物もうじゃうじゃ強いのがいるわけで。




 早速出会いました。

 蛇に。


「まあ……こいつはここの森の中では下の下だが……小僧では厳しいかもしれんぞ……」


 わかってるんだよう……戦闘力が無いのは……。


 鞘から濡れ烏を抜き去り、闇が自然にあふれだす。

 それを見た蛇はやっぱり敵意をむき出しにして、威嚇なのかなんなのか、身を縮こませてシャーシャー言ってる。


「気を付けろ? あれは飛び込んでくる前の予備動作だ」


 ルプスがそう言った途端に、蛇が僕に向かってすごく早く跳んできた。

 濡れ烏の闇で手元が見えないとはいえ、感触はあるから、刃を蛇に向かって突き出してみた。


「阿呆。突き出すだけでは避けられるだけだ。薙げ。攻撃は薙ぐか受け流せ」

「こっちは初心者だよお!? いきなり実践とか無理い!」

「俺は生まれた時からもう実践の中だったぞ。甘ったれるな。これくらいの経験はこなせ」


 半泣きになりながらも、僕は濡れ烏を振るう。


 そういえば、この武器、突く専用だった気が……?

 薙ぐことは攻撃には使えないけど、防ぐことはできる……?


 何度目かの蛇の跳躍を防いで、ようやくそれをやってみた。


 跳んでくるのは直線だ。

 それを横からいなす。

 それで、着地したところを攻撃。


 できたら、良かったんだけどねえ……。


 初めての戦闘で疲れ切り、蛇も跳びすぎて疲れて、お互い動けなくなって。


 蛇と目が合う。


 もう、やめない?


 お互いそういう意思疎通ができてしまった。

 なんとまあ間抜けな終わり方だった。


 去っていく蛇。

 見送る僕。

 呆れるルプス。


 そんなこんなで、僕の初戦闘は終わりを迎えたのでした。

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