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無限深度の刀剣使い  作者: 堀田シヲン
序章
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第四話 さようなら

「あ……れ?」


 暗い孤児院の廊下で僕は呟く。

 神に会って、ミヅハに変わったことまでは覚えているけど、そこから先は思い出せない。

 結構不便だ、これ。

 変わった時の記憶も無いし、もしもミヅハが犯罪でも起こしてしまったら、僕が捕まるのかな。


 そもそも、ミヅハってどんな外見なんだろう。

 声しか聞いたことないし、なんだか元気いっぱいな感じな子だとは思うけど……いやまさか、体まで変わるとは思ってなかったけど。


「アルメリア? ……それなに?」


 アルトが、僕の手にある曲刀を見てそう言う。

 確か、ミヅハは、刀? ニホントウ? とか言っていたような。

 刃とも言っていたし、剣の一種なんだろうなあとは思うけど、アルトに説明できるほど詳しくはない。

 どうしたものかと考えていたら、トムラが僕の手から刀を取り上げた。


「なんだよお前、創造したのかよ! お前も剣か? どれ、見せてみろ! 変な入れ物に入ってるけど……」


 刀の握る部分をがっちりと掴み、思いっきり引き抜こうとするトムラ。


「おい! トムやめろ!」


 もしもあの刀が、鞘から抜くと同時にミヅハになってしまう物なら、おかしな兵器になるに違いない。

 体の乗っ取られるのと一緒だから。

 自分の意志で変わることを望むのならいいけど、変わることを知らないで意識が飛ぶ、みたいなことには絶対にさせたくない。


 僕はトムラから刀を取り上げようと手を伸ばすが、トムラは刀を抜けずにいた。


「あれ? なんだよくそっ! 剣のくせに抜けないんじゃどうしようもないだろ!」


 力任せに刀を鞘から引き抜こうとしていたが、まったく抜ける気配がない。

 あれだけ力任せに扱うと、どこかしら壊れそうな気もするけど、そういうのも全くない。


「……まあ、トム。ちょっと返して。僕が抜いてみる」


 そう言って、不貞腐れているトムラから刀を返してもらうと、ちょっとだけ抜いてみることにした。


 ……ミヅハ、頼むから変なことはしないでくれよ。


 そう思いながら、刀をすらりと抜く。

 トムラの苦労はなんだったんだろうというくらい、すんなりと抜けた。


「……やあ、始めましてかな。みんなは」


 私は、室内で刀を抜くなら脇差のほうがいいだろうに、と、変なことを思いながら、目の前に居る子たちに挨拶をした。


「……だれよ、あんた」

「名乗るのは、普通聞いたほうが先。アル君にも言ったけど、そういうの普通じゃない世界なのかな?」


 警戒が凄い。

 男の子なんて、どこからか取り出した、刀身が真っ赤な大剣の切っ先を私に向けている。


「トムラ、やめて。確かに名乗るのは自分からよね。ごめんなさい。私は、ミーナ・カスティル。で、こっちの怖い剣持ってるのが、トムラ、ミケット。で、そばにいる女の子が、アルト・ドール。これでいい?」

「いいよ。いいんだけど、名前は本人から聞きたかったなあ」

「それで、お前は誰だ。アルをどこにやった」

「私の中で眠ってる。いや、明確には寝てはいないんだけど、起きてもいない感じかな? 微睡みの中で漂っている。そんな感じ」


 んー、上手く説明できないな。

 アル君は、今は意識が無い。

 でも、完全には意識が無いという状況ではない。

 私の中で、無意識に行動を読み取っている、と言ったらいいのか。

 なにをした、まではわからないけど、ぼんやりと覚えているはず。

 だから、刀って言葉も覚えていたし、入れ物、鞘のことも覚えている。


 私は覚えてるんだけどね。


「アルメリア、いなくなった。あなたは、誰? 名前は?」


 確か、この子はアルトだったかな?

 かわいい女の子。

 小柄で、目が隠れるくらい長く青い髪。

 ……かわいい。

 持ってかえりたい。


「私は、ミヅハ。雨の神様の略称。アル君が付けてくれたんだ。別世界の神様なんて知らないのにね。すごいよ。アル君は」

「別世界? ミヅハは、違う世界から来たの?」

「そう。私は違う世界からいらないって判断されて、追放されて、こっちの世界に逃げてきた。追放者とか、烙印押された感じって捉えていいよ」

「神様に、追放されたの?」

「いや、神様じゃないよ。神様より上。理、世界の決まりから、いらないって言われたの」


 理。

 真理。


 世界によって移り変わるもの。

 神を至上だとする世界、人を至上とする世界、魔を至上とする世界、本当に、世界によって移り変わるもの。

 私が居た世界では、人の上に神がいて、神の上に理があり、理は世界そのもの。

 管理者とも言っていい。

 

 この世界では、神が一番上みたいだ。

 神は理そのもの。

 神が管理者。


 ……面倒臭そう。

 世界の管理なんて、頼まれたってやりたくないのに、なんでこんなことしてるんだろうね、神ってやつは。


「……ミヅハは、犯罪者なの?」

「うんにゃ、なにもしてないよ。ちょっとできることが普通の人より多かっただけ。それがね、世界に否定されたんだ。できちゃいけないことができちゃったんだ」

「……お前、何したんだ? というか、何ができたんだ?」

「トムラ君、君には何も答えられない。面倒ごとになる」

「なんでだよ!」

「ミーナちゃん、君にも」

「え、私も?」


 天使の匂いが、ぷんぷんする。

 言わないけど。


「まあね、アルトちゃんは大丈夫だけど、他の二人にはごめん。言えない」

「だから、なんでだよ! 理由を教えよって!」


 微笑みながら口をつぐむ。

 この会話もきっと、トムラたち天使の観察者に選ばれた者は、その人から情報を直接受け取る。

 深度が普通に深いだけだったら、人間としては重宝される存在なのだろう。

 この三人は、みんな普通の人よりは深いが、人間の範疇に収まっている。

 でも、アル君は。


「ごめん、何も言えないのはごめんだけど、私たち、いや、アル君は、神に仕える奴らから危険視されててね、ここから逃げないといけないんだ。神は意外と寛容だったんだけどね」


 そうだ。

 そういえば神の名前、知らない。

 後で調べておくか。


「アルメリア、いなくなる? ボクもついていきたい」


 アルトちゃんが言い出した。

 本当にもう、この子はかわいいんだから。


「連れていきたいのはやまやまなんだけど、一応君も監視対象だからね。連れてけないんだ。ごめん」


 微笑みを絶やさないまま、そう言う。

 性転換なんてしちゃったもんだから、どんな感情で、どういう生活を送るのか、あいつらは興味を持つ。

 なんてストーカー気質。

 嫌いな連中。


「あ、そういえば紙の束とか持ってる? 羊皮紙でも何でもいいよ。アル君との意思疎通に使いたいんだけど」

「あるけどぉ……質はあんまりよくないよ? 紙っていうのは王族御用達だからねぇ。一般に出回てるのは羊皮紙くらいだよ」

「全然おっけー。それ貰える?」


 ミーナちゃんが自室に戻ったと思ったら、すぐに出てきて、10センチくらいの厚さの羊皮紙の束を渡してくれた。


「まぁ、私たちはアルを信用してるけど、あんたは信用してない。なぜかミヅハを見てると心がざわついちゃう。出てくなら早くにね。私たちの為にも」


 ありがとーと言いながら、羊皮紙の束をポケットに入れる。

 これはこれで、案外邪魔だなあ。


 んー、アルトちゃん以外の2人の目が痛い。

 嫌悪感がにじみ出てる。

 

 ……監視の目、切れるかな?

 クラオカミの柄を強く握って、そう考える。

 

 ……よし、やってみるか。


 私は、深く、深く想像する。

 あいつらの目、監視の糸を断ち切るために、体は傷つけずに、天界とのリンクだけを切り取る。

 内部構造、この世界の魔法的概念、あいつらの目、そういったものを見る切るために、創造する。

 どこまでも深く、底の無いアル君しかできないこと。

 なんでも想像できるし、創造できる。

 あいつに、神を超えると言われるだけのことはある。


 私の”知識として見えるもの”と、アル君の深度。

 この2つが合わされば、本当に、何でもできる。

 そんな気がしてならない。


 ……よし、私の想像した通りなら、これで切れるはず。

 クラオカミを右脇に取り、切先を後ろに隠すように下げ、構える。

 脇構えという構えだ。


「トムラ君、ミーナちゃん、そこに並んで」


 私が何をするのかわかっていないようだ。

 2人は嫌悪感を隠そうとしないまま、けど私の言った通りに、二人で並んで立った。


「……ふっ!」


 右脇から刀を滑らせ、一気に2人を切る。

 体に傷がつくこともなく、あいつらに繋がっているラインだけを断ち切った。


 切られた! と思ったのだろう。

 2人は驚愕の感情を浮かべて、自分の切られた部分をペタペタと触っている。


「大丈夫だよ。変な奴が君らを通して私を見てたから、そのラインを切っただけ。体は何ともないよ」

「……えぇ……でもなんだろう。今まであんたにあった嫌悪感というか嫌な感じはなくなってる。なんで?」

「まあ、変な奴らの感情も流れ込んできちゃったんだろうね。天界の連中ってのは、総じてめんどくさいものさ」


 クラオカミを肩に担いで、からからと笑う。

 トムラ君は、まだぼーっとしてるけど、まあ時間がたてばきっと元に戻るでしょう。




「……素晴らしい、力です。アルメリア。いや、今はミヅハさんとでも呼べばいいでしょうか」


 ……どこからか匂ってきていた嫌な臭いは、こいつからか。

 パチパチと拍手をしながら、院長と呼ばれるここの責任者が暗がりから現れた。


「天使崇拝。神を信仰する世界で、それに仕える者を崇拝する異端信仰」

「異端とは失礼ですね。セラフィム様方、上位天使様は、神をも超える力を持ちます。それはあなたも見えているんでしょう? ミヅハさん」


 うん。

 見えてた。


 あいつらの潜在能力は、神として君臨しても遜色ないくらいの力を保有していることは見えていた。

 でも、それをただの人間である院長に見えるわけがない。

 私の様な、”世界に繋がった”者だったらわかるんだけど、そうではない。

 では、なぜ?


「……ああ、そう。あんた、天使になりたいのか」

「ご名答。流石は接続者ですね。世界には、固有の天使様がおられます。それは、神によって選出された人間が天使になる。神が選ぶのです。天使を。あなたのいた世界では、世界が神を選出する。ヘラクレス、聞いたことありません?」


 勿論、知っている。

 アルゴス王エウリュステウスに命じられた12の試練を乗り越え、半神半人の身でありながらも、神として祀られるようになった、人上がりの神だ。


「それと同じようなものです。私は天使様に命じられました。深度が深い人間を選出し、神との接続者を増やす。そうすることで、天界が、人間界を管理する。そういう世界にするために、私は院長というかたっくるしい役職に就いたのです。そのほうが手間はかかりませんからね。いやあ、今年は豊作でした。あと、30人ほどでしょうか。それで、天使様は神になり替われる。上の首をすり替えて、新しい神になあるのです。そして、私が上位天使になる。そう、天使様は約束してくださいました」


 あー、面倒。

 臭いし。


 無理やり操られてるのなら切れるけど、自分から操られに行ってるのは、切れない。

 糸が無い。

 接続が無いから、切れるものが無い


「そういや、あんたの名前、聞いてなかったね。みんなは知ってる?」


 トムラを除く二人が、そういえば、といった表情で首を横に振る。

 やっぱり、名乗ってなかったか。


「あなたは、ここで排除します。天使様に歯向かったのは、どんな罪より重い。冥途の土産に教えてあげましょう。私は、アントン・ラヴェイ。天使教の最高責任者です」


 そう言って、院長は天界で天使が使っていた、魔法のようなものを放とうとしてきた。

 アントン・ラヴェイねえ。

 私の世界では、サタン教会の創設者の名前だったはずなんだけど、こっちの世界では天使教か。

 どこの世界でも、めんどくさい教会の責任者とか創設者の名前って、同じなのかねえ。


「ねえ、アントン。冥途の土産ってセリフ言うのは、相手に逃げられるフラグってやつだよ。知ってる? フラグ」

「? ふらぐ……? よくわかりませんが、今から死ぬ存在に何を言われようとも、結果は変わりませんよ」


 はあ、と、大きく息をこぼし、私は上段に刀を構える。

 天の構えとも呼ばれるそれは、防御を捨てた、刀の長さをもっとも活かせる構えだ。


 あいつら天使どもは、無詠唱での魔法の行使だったが、アントンはまだ天使になっていないからか、長々と呪文とを唱えている。

 その隙を見逃す私ではない。

 変身ヒーローは変身している隙を狙うのが一番効率的。

 名乗りを上げている武士を攻撃するのはご法度だったらしいが、知るか。

 私は現代日本から来たんだよ。


「……ぃよいっしょお!」

「うぐぁっ!?」


 掛け声とともに、アントンの右手を切断する。

 魔法を切るより、やっぱり肉とか骨を切るほうが楽だな。


「んじゃ、とりあえず私は逃げるね! ミーナちゃん、羊皮紙ありがと! アルトちゃんも逃げたほうがいいよ! トムラ君は……ああ、まだ戻ってないか」

「ミヅハ! ボクも、ボクも連れて行って!」


 アルトちゃんが私に言う。

 でも、ごめんね。

 今は自分以外の人を連れて逃げる余裕はない。


「いつか、また会えるさ! 未開の森で会おう!」


 確か、アル君の記憶にあった。

 この世界の人間がまだ足を踏み入れていない場所、危険な魔物が多すぎて、誰も入れないといった場所があるらしい。

 そこならば、天使どもの目から逃れることができるはず。

 そして、悠々自適な生活を送るんだ!


「それじゃ、またね! 諸君!」


 孤児院の二階の窓から飛び出し、地面に着地すると、そのまま走り出す。


「アルメリア! 絶対、絶対また会おうね!」

「ちゃんと伝えておくよー!」


 そう言いながら、ポケットにしまった羊皮紙に事の顛末を書き込み、しまう。


 それでは、いざ行かん! 未開の森へ!

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