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無限深度の刀剣使い  作者: 堀田シヲン
序章
3/14

第二話 無限深度

 議場。

 それは、神様に創造の力を授かる場所。

 神殿とも呼ばれるその場所は、なぜかみんな神様の存在を知っているのに、神殿とは呼ばないで、議場と呼んでいる。

 その理由は僕にはまだわからないけど、大人たちに聞いたら、口をそろえて


「創造したときにわかるよ」


 としか言わない。


 何か秘密があるのか、言っちゃいけない禁忌でもあるのか、そこは探ってはいけない話なんだろうなあと、漠然と思っている。


 議場に足を運んでいるときに、そんなことを思い出していた。

 トムラとミーナは、歩きながら何を創造するかとか、深度ってどうやって測るんだろうとか、思いついたことをそのまま口に出しているかのように、上機嫌で話している。

 アルトは、院長に言われたことを思い出しているのか、いつもよりもおどおどとしている。

 まあ、僕も同じようなもので、ずっと院長の言葉が頭から離れない。


 神様に、見放される。


 それはどういうことなんだろう。

 この世界に居られなくなるのか、今までの暮らしが全部なかったことになるのか、人々の記憶から、神様から見放された人の記憶だけ無くなって、いなかったことにされるのか。

 答えの出ない疑問が次々と湧いては消え、湧いては消えを繰り返している。


 よほど深刻な顔をしていたのか、ミーナから心配されたけど、この話はするなと院長に言われたから、何でもないよ、と、ぎこちない笑顔で応えるしかできなかった。


 院長は僕らの前をゆっくりと進んでいる。

 議場は、成人になるまでは入っちゃだめだといわれた。

 これも、言われただけ。

 詳しくは教えられてない。


 何か、変だ。


 そう思っていたら、成人になるのが怖くなって、議場に向かう足が急に重くなって、進まなくちゃいけないのに、動けなくなった。


「? アル? どうした?」


 トムラが僕に問う。

 この抱き始めた、抱いてしまった疑問をみんなに伝えなきゃいけないのに、口が開かない。

 声に出さなきゃいけないのに、出せない。


 いや、本当に、物理的に、精神的にも、何か強い力がかかっている。


『言ってはいけない』


 と、誰かの声が頭の中で響いた。

 男とも女ともとれる、判別がつかない無機質な声が頭の中で響く。


「……院長」


 僕は何とか絞り出した声で、院長を呼ぶ。


「……聞こえてしまったのですね。アルメリア。仕方がありませんが、議場へは私たちだけで向かいます。成人の議は必ずしも成人の日に受ける必要はありませんしね」


 逃れることも、できませんが。


 と院長は呟いた。


 恐怖感が体を蝕む。

 なにをさせられるのだろう。

 なにが行われるのだろう。

 想像が悪いほうにどんどんと膨らんでいって、勝手に手が震えだした。


「とにかく、議場へはトムラたちで行かせます。アルメリア、あなたは孤児院に戻って職員の手伝いをしていなさい。成人の議の内容は、後できっとアルトが教えてくれますよ」


 突然名前を呼ばれたアルトは、びっくりしたのか、少し体を震わせた。

 同じことを院長に言われたのに、アルトはそこまで怖がっていない。

 あの不気味な声が聞こえていないのだろうか?

 知らないほうが幸せなこともあるけれど、この声のことは、アルトだけには伝えなければいけないと声を出そうとしたけど、やっぱり強制的に声が出なくなってしまっている。


 アルトは、院長が言ったのだからやり遂げなくちゃいけないとでも思ったのだろう。

 決意の表情を浮かべて、めったに声を発さないミッシェルが、僕に向かって言った。


「アル、ボク、がんばる。アルに伝えられるように、がんばるから」


 違うんだ、やめてくれ。

 この議は、この神様は、何かおかしい。

 守ってくれる、優しい神様なんて甘い存在じゃない。

 絶対の支配者のような、物語に出てくる恐怖の魔王のような、恐ろしい何かだ。


「……わかりました。戻って手伝いをしています。院長」


 声が勝手に口から出てきて、僕は焦る。

 足が勝手に動き、もと来た道を戻りだし、僕は恐怖を覚える。

 報告待ってろよ、と、トムラが能天気に言う。


 やめろ。

 やめてくれ。

 僕の友達に、家族に、得体のしれないものを受けさせるわけにはいかない。


 必死で危機を伝えようとするけど、体はもう自由に動かない。

 なんとか抵抗しようと体をこわばらせたけど、鋭い痛みが心臓を貫いたように走る。


 だめだ。

 何もできない。


 そんな無能感が僕を包んだ時、いつの間にか近くに来ていた院長が、僕の肩に手を置いて、そっと耳元でささやいた。


「今は、意識を手放しなさい。今夜、審判の時まで、気力だけでも、何とか」


 そう聞こえた瞬間に、僕の意識は深い穴に落ちていった。









 ……ここは、どこだ?


 真っ暗で、閉塞感がある空中に、僕は浮いていた。

 周りを見渡してみるけど、明かりがないせいか、まったく見えない。

 見えないどころか、何も感じない。

 自分の体の輪郭さえもわからない。


 これは、まずい。


 仕方ない、使うしかないか。


 成人になるまでは使ってはいけない、と言われた、マギアと言われる技術。

 誰もが持っている、体から生成されるといわれるマギを使い、呪文を唱えることで発動できるマギア。


 確か、成人になっていないと、マギが暴走して、身体的にも精神的にも成長阻害させてしまうとのことだった。

 呪文だけは教えてもらっていたけど、決して使うなと強く言われていた。

 でも、確か、今日僕は成人になった。

 ……はず。


 記憶がおぼろげだ。


 でも、今は現状確認が最優先。

 真っ暗なところで魔物にでも襲われたら大変だ。


「……アクティノ・ヴォロー」


 光を放射するマギア。

 だったはず。


 唱えた途端に、右手から淡い光が放たれた。

 

 よし、成功だ。

 これで周囲確認が……あれ、何も見えない。




「そりゃそうよ。ここはあんたの深度の深いところ。光で照らしても何も見えないし、何も感じられない。底無しとはまさにこれ。あんた、どういう深度してんの?」


 聞きなれない、女の声が頭に響く。

 脅威は感じない。

 敵意もない。


 ……貴女は、誰?


「私? 私は……そうね。例えるなら……そう、刃。刃物でもいい。何でも切れる、とっても鋭い、こわーい刃物。でも、普通は尋ねる時は自分から紹介したほうがいいんじゃない?」


 ああ、そうだった。

 礼儀作法で教わったっけ。


 ごめんね。

 僕はアルメリア。アルメリア・スコターディ。


「ふーん……カンザシに、暗闇か。暗いけど、鮮やかな花。いいわね。いい名前じゃない」


 カンザシ……? なんだそれ。

 花の名前? 知らない。僕の知ってる花には、そんな名前は無い。


「まあいいわ。アルメリア、今からあんたに、私の名前を付けてもらうわ。花には水が必要。雨よ。そういう名前がいい。自由には決められない制約を向こうの偉いのと交わしてるから、そこはごめん」


 むこう? どこだ? 君はどこから来たの?


「それは後程。時が来たら。今はまだだめ」


 なぜか、彼女の声は僕の中にスッと入ってくる。

 拒むという考えが出てこないくらい、スッと。


 名前か……雨ねえ……。

 そのまま雨だと寂しいし、何かひねった考えも出てこない。


「ゆっくりでいいよ。あいつが出てくるまで、まだたっぷり時間はある」


 あいつ……? この子はよくわからないことをいっぱい言うなあ。

 じゃあ少し時間ちょうだ……あ。


「ん?」


 ミヅハ。

 ミヅハがいい。

 なんかしっくりくる。


「……おお、おっどろいた。まさかその名前が出てくるとは。トラロックとか、マリアマンとかじゃなく、ミヅハ? 思い付きでその名が出る? うわー、アルメリア、君、すごいね」


 なんで褒められてるのかな。

 ぱっと出てきただけなのになあ。


「よろしい。私は今からミヅハを名乗ります。アルメリア、君も私のことをミヅハって呼びなよ? 意識が引き戻されたら、きっと忘れてるでしょうけど」


 忘れる? っていうか、ここはどこ? 深度とか言ってたけど、それって?


「今教えても、ぜーんぶ忘れちゃうから、後でね。私を掴んだら、全部思い出すから。 ……っと、そろそろあいつが出しゃばってきそうな予感。じゃ、またあとで!」


 グイっと体が引き上げられる感覚がしたと同時に、ミヅハの気配がどんどん遠ざかっていくのがわかる。


 またあとでっていつだよ! ねえミヅハ!






……………






 

 ぼんやりと、意識が戻った。

 ここは、孤児院の自室のベッドの上? なんでこんなところに。

 今朝、僕はみんなと一緒に成人の……あ。


「トムラ! ミーナ! アルト!」


 ベッドから飛び起きて、廊下へと出た。

 2階は全部個室だから、部屋の場所はわかる。

 とにかく、3人の安否を確認しなくちゃ。


「お、起きたか! アル!」


 トムラが部屋から出てきて、僕の顔を見るなりそう言った。

 その声を聞いたからか、成人の議に出ていた他の2人も顔を出した。


「大丈夫か!? 何か変なところは!? なにをしたの!?」


 トムラの肩を掴んで、ガクガクと揺らしながら、一気に捲し立てた。


「おっちょっまてっおまっ落ち着っ」


 あんなことがあった後だ。

 僕の記憶も無い。

 院長に何か言われてから意識がない。


 ミーナが、僕を落ち着かせてから、少しずつ事情を話し出した。


「アルが帰った後にね、議場に行ったの。そこで先に深度を測ったんだけど、深度って面白いね。人の深さだって。職員さんも言ってたでしょ? 懐が深いとかなんとかさ。あれって、深ければ深いほど、その人の芯の強さ、意志の力、気持ちの持ちようが強いんだって。逆に浅いとか高いとか、そういうのって嘘だったり見栄だったり、そう言うものが深度を浅くしたり、穴を埋めて高く積みあがったりするんだって」


 深度。

 まだよくわからないけど、心の話、かな。


「で、測り方なんだけど、まあありきたりよね。英雄譚そっくり。水晶に触るの。それの色。浅いほど透明で、深いほど暗くなるんだって」

「んで、俺ことトムラ様はなんと深紅! ものすごい深いらしいぜ! ちなみに測った3人は全員色は違えど、みんな深い色で、今年はすごいって話してもらった!」


 まあ、話を聞いてると今のところ普通、かな。

 変なことはされてないみたいだ。


「そこから創造の力を戴きに行くんだけど、それがね、もう、すごいの! 私、



 神様に会っちゃった!」



 ……え?


「みんなに話聞いたんだけどさあ、全員拝見した神様の顔、違うらしいぜ! 俺が会った神様は男だったんだけど、ミーナは女神で、アルトは性別わかんなかったんだって!」


 神様に、会った?


「それで神様の前で直接創造するんだけど、私はやっぱりお洋服いっぱい作りたいから、服飾の才を創ったの!」

「俺はこの大剣だな! 竜殺しの大剣を創った! 深紅の深度を持つ俺にふさわしい、真っ赤な刀身の大剣だ!」


 神様の、目の前?

 見方を変えれば、それって監視されてるのと……。


「で、アルトなんだけどさ、まあ見てもらったほうが早いわ。ほれ、ミッシェル。恥ずかしがってないで出て来いって」


 ミーナの後ろでこそこそしていたアルトが、その身を現した。


 ……胸が、ある。

 女の子に、なってる。


「……アルメリア、ボク、変えてもらった。こっちのほうが、アルメリア、好きそうだったから」


 性転換って、いいのか? たしか院長は、存在しないものはダメだって……でも、性別は存在するから、いいのかな。


「アルメリア、耳、貸して」


 女の子になったアルトが、僕に耳打ちする。


「審判は、もうすぐだって、院長が言ってた。気を付けて。神様は、怖い」


 審判?

 ……そういえば、そんなことを言っていたような気が……。








 急に景色が変わった。

 今までいた孤児院ではなく、純白の宮殿、色とりどりの花、透き通った青い川が流れる、神聖な空間が、僕の目に入る。


 審判。

 僕は何か罪を犯したのだろうか。


 今、僕の目の前に居る『ナニカ』に問いたい。


 神様、僕は何をしましたか。

 ただ生きていたかっただけなのに、裁かれるのはなぜですか、と。


『……これより、創世以来初となる、無限深度を持つ、アルメリア・スコターディの脅威を問う』


 酷くしゃがれた声で、神様はそう言った。

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