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無限深度の刀剣使い  作者: 堀田シヲン
序章
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第一話 成人の議

 今日も日差しが強い。

 そんな感想を抱いて、僕は開けた窓から顔を出した。

 

 僕の住まわせてもらっている孤児院は、決して裕福ではないが、食べていけないほど貧しいと言わけでもない。

 この町【スーメリア】は、世界の中でも5指に入るほどの大きな町で、孤児院の数も数えきれないほどある。

 貧富の差はどうしても出てしまうけれど、成人の議を受ける子は、必ずこの世界に必要な何かを生み出す。


 創造、という、神様から頂ける、一人一つ、生涯でたった一つだけ生み出されるものに、初代国王が価値を見出し、それが国の宝になると考え、国が支援をしている。


 人一人の想像力は宝。

 そういった考えから、国は同額の支援をすべての孤児院にしている。


 その、創造、というものは、【深度】という、なにかで価値が決まるらしい。

 若い職員さんが言っていたのを聞いたんだけど、15歳の成人の議だけでわかる、その人の深さとのことだった。


 懐が深いとはよく言ったもんだなあなんて、その職員さんは言ってたけど、浅いのは何か悪いことなのだろうか。

 深いだけでその人に高い価値が付くだなんて、僕にはあまり想像できない。


 僕は想像力がないんだよ。


 とりあえず、換気のために窓を開けたままにしておいて、部屋を出た。

 個々の孤児院の中でも、比較的年齢が高い、成人に近い子には個室が与えられて、結構自由に過ごせるんだけど、やっぱり昼間は仕事とか孤児院の手伝いとか、いろいろやらなくちゃいけないわけで。


 ここの孤児院には、成人に近い男女が僕含めて4人いる。3人が男子で、1人が女子。


 1階に降りて、個人に振り分けられる仕事が張ってある掲示板に向かおうとしたら、


「おーっす、おはよー。アル! 今日も女みてえに家事ばっか振り分けられんのか?」


 とか嫌味を言ってくる、同い年の男子、トムラ・ミケットが階段の前に立っていた。


「おはよ、トム。女みてえとは結構な言い草だね。それを後ろの子にも言えるのかい?」


 と、嫌味を返したら、トムラは勢いよく後ろを振り向く。

 そこには、唯一の女子であるミーナ・カスティルが眉間にしわを寄せながら笑っていた。


 「トムラァ、女みてえって、それ、女子をバカにしてるってことでいいのかなぁ? いいよねぇ? その女がいないと生活すらままならないような男にバカにされる女の気持ち考えたことある? ねぇ?」


 一気にまくしたてられるトムラは、僕に助けを求めこっちを振り向くが、何もできることがないから無視することに決めた。

 ミーナのさらに後ろには、一見すると女の子のような外見の小柄な男の子、アルト・ドールがミーナの服の裾を掴んでおどおどしていた。

 これでも同い年なんだよなあ……と思って、朝の挨拶をした。


「おはよ、アルト。今日も暑いね」


 話すのが苦手なアルトは、僕を見てコクンと頷いて、怒っているミーナから逃れるように僕の方に向かってきて、手を握ってきた。

 他の国ではどうか知らないけど、この国【アトラクシア】では同性婚が認められているから、まあそこら中に同性の恋人がいる。

 僕は恋とか愛とかわからないから、きっと成人の議を迎えるとそう言うものがわかるようになるんだろうな、なんてぼんやり思っている。


「まあ、怒るのもそれくらいにしてさ、今日の振り分け、見に行こうよ」


 と、原因を作ったわけでもないのに、なぜか罪悪感を感じてしまった僕はミーナにそう言って、階段を下りる。

 まだ怒り足りないのか、ミーナはトムラにぶつくさ言いながら僕とアルトに続いて階段を降りる。

 トムラは今にも泣きそうな顔でミーナの横を並んでついてきている。


 1階に着くと、広い廊下が広がっていて、目の前には入口、右手には礼拝堂と大広間、左手にはお手洗いがあって、お手洗いの手前に仕事の振り分けが書いてある羊皮紙張りがある。

 おとぎ話に出てくる、冒険者ギルドとかいうもののクエストボード? とかいうあれそっくりだ、と職員さんが言っていた。


 さて、僕らの仕事はというと、基本的には孤児院の中の家事手伝いなんだけど、力持ちな男子は、孤児院の外に駆り出されることも多い。

 でもまあ、薪拾いだったり、草刈りだったり、子供でもできる仕事ばかりなんだけど。


 孤児院の中の仕事は、掃除洗濯、料理に、下の子の面倒を見るとか、正直外の仕事よりも疲れる仕事ばっかりな気がする。

 でも僕はそれが好きで、そういう中の仕事を優先的に回すようにしてもらっている。

 トムラは遊びたい盛りなのか目立ちたい盛りなのかわからないけど、外の仕事に出たがっている。

 まあ、個人の趣向はそれぞれだからね。

 とやかく言わないけど。


 とまあ、仕事の内容確認のために、掲示板に行こうとしたら、ここの孤児院の院長が僕らを呼び止めた。


「アルメリア、トムラ、ミーナ、アルト。ちょっとこちらへ」


 急に呼ばれたのと、基本的に院長は僕らをニコニコと見つめるだけで何も言わないのに、今日はなぜか一番に呼ばれたから、びっくりしてみんな固まってしまった。


「アル、お前なんかしたのか?」

「いや、やるのはトムの方でしょ……アルはいい子だもん」

「は? 俺もいい子にしてたが?」


 とかなんとか、トムラとミーナが言い合ってた。

 なにか釈然としない。

 アルトもなんか頷いてた。

 なにに納得したのアルト?


「いや、呼び止めたのは怒るわけではありません。みんな忘れているでしょうけど、今日はみんなで成人の議ですよ」


 そう言われて、みんなではっとした。

 孤児院のみんなは誕生日がわからないから、同じ年に生まれた子の成人の議は一緒だった。


「わっすれてた! 成人かぁ! 私、何創ろう! 才能系かなあ? 才能系だよね! お裁縫いっぱいしたいし、服飾の才創ろうかなぁ!」

「俺は戦闘系かな。強い魔物倒して、迷宮潜って、世界に名を轟かせてえ!」

「いや、服飾は確か昔にあったから、同じ才能は創れるのかな? どうなんですかね、院長」


「ええ、創れますよ。同じ才能。深度は誰もが違うのです。同じ才を創っても、深度の差で全く同じ才にはなりませんから」


 深度。


 大人たちはみんな深度の話ばかり。

 想像力豊かだったら何でもできる世界なのに、なんでみんなそんなよくわからない深度なんてものにこだわるんだろう。


 でも、いいなあ。

 ミーナもトムラも、多分アルトだって、小さいころからずっと何を創造するか考えてたんだもんなあ。

 僕なんてそのときに考えればいいやと思って放置してたのに。

 まあ、料理とか洗濯とか好きだから、そういう家事系の才能を創るかなあ。


「まあまあ、今何を言っても、成人の議の時にすべてが決まりますから。準備しなさい。一緒に議場に行きますよ」


 院長がそう言ったとたんに、トムラたちは身なりを綺麗にしに自分の部屋に戻っていった。

 僕とミッシェルは、いつも身綺麗にしているつもりだから、何もしないで待ってるだけだけど。


 アルトと二人でぼーっとトムラとミーナを待っていると。院長が話しかけてきた。


「いいですか、アルメリア。アルト。あの二人は大丈夫でしょうけど、これからいうことは絶対にしないと誓ってください」

「? はい、なんでしょう」

「存在しないものを、創造してはいけません。この世に無いものも同様です。魂、霊魂、おとぎ話の英雄、そういった類のものもダメです。」

「……なぜですか? 町は、国は、国王様は、そう言ったものを望むと聞きました。未知の才能、武器、防具。国宝に認定されたら、それこそここにも結構な補助金が入ってくるはずですけど」

「……いいえ、アルメリア。そういう俗な話ではないのです。もっと上の、それこそ……」


 院長は僕とアルトにだけ聞こえるように、小さな声で、こう言った。


「……神様に、見放されます」



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