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田島香南を守る会

「私、彼氏できたんだ!」


「っ?!」


昼食、栄養や水分を摂る時間。机を寄せた、あたし、村坂代々喜(むらさかよよぎ)、シキオ(自称・北森四季夫(きたもりしきお))は唖然と田島香南(たじまかな)を見た。

藪から棒だ。1つだけ買った購買のマカロニパンからマカロニが1つ蝙蝠柄のランチョンマットの上に落ちた。


「卓球部の2年の江原広司(えはらひろし)先輩! 一昨日の放課後、告白されちゃったっ」


「・・おう」


「それは、現実の話か? 田島ぁ」


「いいじゃん! よかったねっ」


「現実だよ村坂。エア彼氏じゃないし」


ややムッとしてる田島。


「月、5千円課金していた2次元の推しはどうするのだ?」


イジワルな質問をしてみる。


「だって・・『()』じゃん」


「田島ぁーっ! お前、(まん)サー(漫画同好会)だろぉっ?!」


なぜか義憤に駆られている村坂。


「エヘヘっ、次の日曜日、美術館に水彩画の個展見に行くんだ!」


「初デートに水彩画はシブいな」


漫サーの眼鏡っ子に行くのもだが、有り無しの判定が『上位運動部』よりガバい辺りが卓球部男子クオリティと言えるだろう。


「水彩・・あの薄く塗ったヤツか」


コイツも油断すると言動がガバい。机の下でシキオの脛を蹴ってやった。


「イテっ」


「とにかく! 私はリア充組に昇格だからっ。日曜のデートでキスとかしちゃうかもしれないよ?」


「接吻だとぉっ? 田島ぁっ」


「・・まぁがんばりなよ」


「いいなぁ。じゃあ、草ヶ部さんか村坂さん、どっちか俺とデートしようよ?」


「じゃれるんじゃないよ。じゃあ、ってなんだ?」


「施しは受けぬ! 北森ぃっ」


「え~?」


取り敢えずその日の昼休みはそんなとこだった。



で、日曜日。昼前。天気がやたらいい。日渡り・極東3種A型は昼も動けるが、日差しが得意というワケでもない。

増血剤を1錠飲んでなかったら立ち眩みしていたかもしれない。


「目立つ所をウロついて!」


スパッツ穿きの学生服の上から黒のケープを羽織ったあたしは、拡げて伸ばした黒のケープの裾に銀のスローイングナイフ数本を巻き付けて旋回させる。

その勢いで赤ん坊くらいの大きさの『(かさ)』に目玉と脳のような物を持つクラゲのような魔物を引き裂いて消滅させた。

クラゲの魔物は滅びる前に僅かに放電したが大したことない。

ちょっと高級そうだが、普通の民家の屋根の上だ。

周囲で菱沼の手下の蛇人間達が『(かく)し』の結界を張ってくれているが、街中の高所だから銃も撃てないし、スローイングナイフも気軽には投げられない。

近くでは学生服の上から件のフード付きの毛皮を被って電撃等はお構い無しに殴り付けて、シキオが他にも高所にウヨウヨいるクラゲ達を仕止めていた。

単純に位置取りのマズさと、何も考えずに本能だけで動いてる厄介さがあった。


「シキオ! こんな知性も無いヤツらっ。菱沼(ひしぬま)の魔除けどうなってるんだ?! 最近多過ぎるぞっ」


私は本来、家の近所と学校と通学路の縄張り以外は関係無いっ。


「ん~~、マキコ。菱沼さんにまだ言うな、言われてるから言えないなぁ」


「なんだソレ?! あっ」


ふと見るとわりと近い所に美術館が見えた。


「田島さん気になる? もうだいぶ数減ったし、なんかあったら鳩かなんかで報せるから、様子見に行っていいよ」


「いや、別に。田島の色恋に首を突っ込む筋合いは無い。目に付いただけだ。手を抜くと菱沼が後でうるさい」


あたしは引き続き、黒のケープの裾で巻き付けたナイフで放電しながらフワフワ寄ってくるクラゲの魔物を引き裂きながら言った。


「ふーん。でも、2年の女の子達とか卓球部の1年の男子の話だと、江原広司はちょっと女癖悪い、って聞いたけどなぁ?」


「何ぃーっ?!」


屋根を『すり抜け』て、下から奇襲してきたクラゲの傘の中の脳を踏み潰しながらあたしはブチキレた。

田島香南はっ、あたしの『血を吸ってみたい序列』で8位の人間だぞっ?!



黒のケープの迷彩効果で姿を消し、地上に降りたあたしは素早く美術館入り口近くの建物の陰まできた。

黒のケープの中に銃と財布とスマホだけ抜いたウェストバックをズブっ、としまい、代わりにケープからしまってた制服のジャケットを取り出し、それから黒のケープを右の手首に黒いリストバンドとして変化させて目立たなくした。

ジャケットを着て、スマホと財布をジャケットのポケットに入れた。

最後に目を閉じて両目の上に片手の掌を当て、気持ちを落ち着かせて、力が灯って紅くなっていた瞳を普通の人間の瞳の色に戻した。


「ふぅ。面倒なことに、・・っ!」


『どこにでもいる陰気なモブJK』になりきって物陰から出ると、美術館入り口近くの奇妙なモニュメントの陰に薄いブルゾンにロングスカート姿の村坂が張り付くように隠れて、周囲をザワつかせていた。


「・・・」


あたしは足早に村坂に近寄った。


「村坂」


「おふっ? 草ヶ部ぇっ。なんで制服? なんでスパッツ??」


しまった、スパッツ!


「これは・・走ってきたんだよ。パン見えも阻止した」


「意味わからんのだが?」


「気にするな。・・田島か?」


「うむ。小一時間程前に既に江原広司と入っていった。直に出てくるであろう」


「江原広司の噂を、聞いたのか?」


「噂というか、演劇部の友達に学校裏サイトに入り浸ることを趣味にしている陰湿な女子がいるのだが」


友達の守備範囲広いな。


「そいつの情報によれば、江原広司は『本命彼女』と、田島とのデートの後にこの近くの映画館に行くスケジュールらしい」


「なっっ?」


なんて雑なヤツ!


「あくまで噂だがなぁ。だが、江原広司は『陰キャの文化部の元カノ』の数が確認されるだけで9人もいるっ。草ヶ部ぇ、わたしの見立てでは、ヤツは・・陰キャ専門の肉食獣だ!」


卓球部! 慎重158センチメートル! 成績中の上! クラスではそこそこ面白キャラ! 部は県大会級に行けたり行けなかったり! 玉葱みたいな髪型! 一見無害! 一見無害に見えるじゃねぇかよっ!!


「どうしたらいいんだ村坂? ・・はぁはぁ、どこに埋める?」


血の気が引いてきた。


「落ち着け! 草ヶ部ぇ。まずは証拠を押さえる。スマホはタッチミスが怖いから演劇の練習で使う、部のレコーダーを持ってきた」


ブルゾンのポケットからマジックで学校名と『演劇部』とガッツリ掛かれた棒状のレコーダーを取り出す村坂。


「どのタイミングで田島と離れて本命彼女と会うかわからん。ここで待つのだ、機が熟するのを!」


「合点した!!」


あたしと村坂は、通行人にギョッとされながら、取り敢えず田島と江原広司が出てくるのを待った。

5分も経たない内に、2人は出てきた! 結構近い位置まで手を繋いで来て立ち止まると、向かい合う2人! 田島はうっとりしてる。


「個展、よかったね。江原先輩! 私もああいうタッチ、参考にしてみようと思うっ」


「? そだね。いいかもね。花の絵が多かったね! じゃあ、俺っ、この辺りで部活の後輩と待ち合わせしてるから! 相談でねっ」


「うん・・じゃあ」


手を離し、少し迷って、赤面した田島は意を決した顔で江原の肩に手を置き、江原の頬にキスをした! しちまったよっ。


「また明日学校で! 連絡もするっ」


「うん! 後輩と話したりするから、夜11時くらいにしてねっ」


「うん! 夜11時くらいに連絡するねっ」


ずっと赤面したままの田島は、わーっ、って感じでモニュメントの陰のあたし達にも気付かず、小走りに立ち去っていった。


「ふーっ、水彩とかダリぃな。やっぱ漫サーはハズレか。へっ」


田島が離れると人が変わる江原広司! あたしはモニュメントの陰から出掛かったけど、村坂に腕を掴まれた。

顎で江原広司の手元を促す村坂。見れば、江原広司はスマホを操作しだしていた。


「・・あ! ユウナっ。ごめんごめん、声、聴きたくなっちゃってっ。へへっ。ああ、今、こっちは美術館の近く。え? いや、何もしてないよ? ちょっと近くのコンビニでトイレ寄ってただけっ! へへへっ。もう浮気はしないって~。ユウナ一筋! へへっ。うん、映画館の近くの本屋のカフェ? ああ、わかるわかるっ。すぐ行くよぉ、はーい」


通話を切る江原広司。


「はぁ~、カフェって5階じゃん? なんでいちいち上行くんだよ。マジ、頭悪いよな、あの女。乳デカいだけだなっ。マジダルっ!」


江原広司は毒づきながら、映画館の方へと歩きだした。

あたしと村坂は顔を見合せてからモニュメントから飛び出した。


「っ?! おっ、何?!」


「我々は『田島香南、及び犬に噛まれたツイてない女子達を守る会』の者だ!」


腕を組んで江原広司の前に立ってやった。


「全て録音させてもらったぞ?」


起動しているレコーダーを付きだす村坂。


「・・香南の連れかよっ、ダリぃなっ! ガキかよっ」


「お前は既に悪評が立っている。学校のサイトにこれを投稿されたくなかったら、田島からは手を引け!」


「・・・ハッ、わかったよっ。別に、今、他にキープが無くて暇だったから、引っ掛けてやっただけだしっ。あんなヲタチビ眼鏡っ、俺、ノーダメだからっ!」


プチンっ! 辛うじて目が紅くなるのは堪えたが、あたしは右ストレートの構えになりかけたっ、しかし、


「ポッポーーーっっ!!!」


「ポポーっっっ!!!」


突然、鳩が3羽来襲して、江原広司の玉葱ヘアを攻撃しだし、江原広司は慌てふためいた。


「うわぁっ?! なんだよっ、痛ぇっ、クソッ、最悪だ! お前ら、底辺女子が2度と俺に絡むなよ?!」


「ポッポォオオっっっ!!!!」


「痛ぇええっ?! ちくしょーっっ」


江原広司は鳩に追われ、周囲の人々を驚かせながら、それでも映画館の方に退散していった。


「正に天罰である!」


レコーダーを手にガッツポーズの村坂。あたしは、最初に自分が隠れていた建物の陰を振り返った。

シキオが頭と片手に従えていた鳩をさらに逃げる江原広司の方にけしかけてから、こちらに向かって肩を竦めてみせた。

クラゲの魔物は問題無く片されていたが、途中でバックレたあたしは菱沼に「友情に厚いのだな、気恥ずかしいヤツ」とか言われたりはした。



そして、月曜日。


「うわーーーんっ!! フラれたっ。なんでぇーっ?!」


SNSでサクっと切られたらしい田島は朝、学校で顔を合わせるなり号泣した。


「水彩画の良さがわからないヤツはお前に合わないということだ。これは必然!」


序列8位の田島に肩を組んでやる。肌越しでもわかる。いい血の匂い!


「男なんてシャボン玉だぞ、田島ぁ。ポッキーを支給してやろう」


田島にポッキーを差し出してやる村坂。泣いて、ポッキーを齧る田島。


「でも、ぶっちゃけ。あんまり江原広司はいい話聞かないよね?」


あたしは知っている。昨日の昼間の内に、シキオはシキオシンパの女子達を『懲らしめちゃおうよ?』と誘い、主に2年の女子ネットワークを駆使して結局悪評を広めた結果、江原広司は卓球部内で吊し上げを食らい、これまで取っ替え引っ替えにした未遂の田島以外の女子達に謝罪行脚するハメになったことを・・


「そうなの? というか私、頬っぺにチューしたんだよっ? アレ、なんだったの??」


「幻、幻!」


「う~そ~~だぁ~~~っ!!! やっぱ私、課金する! 3次元は無理ぃっ」


田島の涙混じりの叫びが、教室にこだました。まぁ、5千円までにとどめときなよ・・

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