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猿 後編

落ち着くのが大事だ。ツイてない、ってのはまぁあるけど、そんなの最初からだ。ロクに戦えなかった頃に比べれば随分マシ。

この、たぶん発生したばっかしでハイになってるお猿野郎も、上手くあたしや菱沼の蛇達を『突破』できて、いつか落ち着いたら、(ああ、あの頃、クソみたいだったな。今もクソだけど)ってしみじみ思うはずだよ。

懐かしい故郷みたいにさ。

あたし達はこんな所に帰ってくるしかない。何しろ、こんなだから。


「会話っ! 会話だ!! そうっ、それだよっ! 忘れてたぁっ!! そうかそうかっ! これまで30回くらい? 他の化け物とガッツリ殺し合ったけど、そういえばまともに『会話』してなかった! ありがとう君! ありがとう? 俺、今、ありがとうって言ったよ! ウキキキっっ!!!」


「うるさいよ」


あたしは片手でマシラの首魁を銃撃した。簡単に飛び退いて避けられる。撃ち気だけで外されるな。けどいい、上手く距離を取れた。


「ウキャキャキャッ!!!」


手下の仮面のマシラどもが、あたしが首魁を攻撃したことに反応して一斉に襲い掛かってきた。よし! こっからはパズルだっ。『体液』のあるヤツがっ、吸血鬼に近接挑む間抜けさっ、教えてやる!!

首魁が面白がって一先ず観察に回ってるのをチラっと確認しつつ銃と長巻を持ち替え、跳び掛かってきた中の最前列で、一番隙の多い、引きの悪いヤツに逆に突進しする!


「っ?!」


戸惑わせたまま、片手振りの長巻で腹をかっ捌いてやった。まだ仕止めてないから消滅はしない、『血の支配権』を得た!


「逆巻けっ!!」


マシラの血を紅い刃の渦に変え、一気にマシラの群れ全てを呑み込み、引き裂き、渦の規模を増す!! 手下の仮面マシラどもが全て消滅しても血の支配権は手離さない!!


「わぁ~、凄いなぁ。綺麗だ!」


私は鮮血の渦を纏って首魁の男と対峙した。既にマシラどもが滅びているので長持ちはしない。まず、操ってるあたしの負担もある。

コイツが賢いヤツなら、『ただ待てばいい』と判断するだろう。


「吸血鬼? 吸血鬼なのかぁ? 格好はそれっぽいよな?『人間の知識の外』だから、君のことがわからない! 面白いなぁっ。君、もっと知りたい!!」


首魁の男が着ているフード付きの毛皮がザワ付いて、男と一体化し、様々や獣や爬虫類の要素を内包した大猿の魔物に変化した!!!


「戦おうっ! 君っ!!」


首魁マシラは巨体になっても高速で殴り掛かってきた! バカで良かったよっ!


「じゃれてんなっ」


躱すと床を粉砕する一撃に、血の渦の刃を数十喰らわしたが中々通り切らない。


「ボォアッッ!!!」


「っ?!」


咆哮が強烈な衝撃波になるっ、血の渦で防いだけど、1発で3割は削られたっ! ガードはダメか!

血の渦に乗って不規則に高速移動し銃をホルスターにしまい長巻を両手持ちで構え、圧縮した血を纏わせる。

動きを察っして猛烈な拳の連打を打ってきたが、躱す躱すっ! 産まれたてくらいのベイビーに負けてたまるかっ。


「切れろっ!」


擦れ違い様に思い切り斬り付けてやったが、バキッ! 異様に硬い手応えっ、血を纏わせた長巻の刀身の方が砕けてしまった!


「はっ?」


振り返ると、首魁マシラは両腕の甲に亀の甲羅のような物を露出させて防いでいたっ。


「なんだそれ?!」


「凄い凄いっ! 甲羅が殆んど斬れてる! 俺の一番硬い技なのにっ」


甘かったっ、手下の時点で『硬い部位』を持ってたのに、首魁に類する性質がないわけないっ!

既に血の渦の5割を消耗し、あたし自身もだいぶクラクラしてきた。

それでも相手の癖は大体わかったし、向こうもあたしのパターンを学習したつもりでいるはず。『わからん殺し合戦』なら、あたしの方がより卑怯なヤツ持ってるっ。次で決めてやる!


「お前っ、名前聞いといてやるよ! あたしは草ヶ部万亀子!!」


「おっ? 俺、自分で付けたのある! 俺、『北森四季夫(きたもりしきお)』っ!! シキオっ! って呼んでくれよっ、マキコ!!」


「馴れ馴れしっ、馴れ馴れしいヤツ!」


あたしは残る血の渦を一気に噴出させたっ。


「シキオっ!!」


あたしは血の渦の中に柄だけ放り捨て血の奔流の中に自分も呑み込ませ、全ての血の渦でシキオに迫る!


「マキコっ! ワクワクするっ、来いよ!『楽しい』なんて初めてだっ。全部地獄だと思ってた! 凄いなっ、ウキキッ」


まず、血の渦の中でフル加速付けさせた長巻の柄をシキオの喉元へ向けて近距離で射出する! 難なく右手1本の甲羅の盾で弾かれた。右!

あたしは最大に力を込めた黒のケープの力で気配も姿も消してシカオの右側面に銀のスローイングナイフを持って現れた。

左脚とナイフを血の渦で強化して、腕を振り上げた体勢で無防備な右の脇腹に柄頭部位を蹴って突き刺す!!


「っ!」


即座にシカオに裏拳で錆びた放置機材までブッ飛ばされて黒のケープの力も解除されたが、血の渦でなんとかカバーして耐えた。

血の渦の残量は1割もない。


「マキコ、これでおしまいか? 毒でも仕込んだ?」


「『血』は毒さ」


あたしが左手を掲げると、傷付けて支配権を奪ったシカオの体液を体内で激しく暴れさせた。


「ンガァアアーーーーッッ??!!!」


「シカオっ! 仕返しごっこはこの辺だよっ」


あたしは右手で今日、3錠目の増血剤を取り出し、迷わず指で弾いて口に入れ噛み砕いた。


ドクンッッッ!!!!!


頭が割れそうだっ、心臓が痛いっ! だが、『魔』の力が増した!! あたしの左手の皮膚も裂けたが、シカオの体内から血の渦が噴き出す程に勢いづく! 全身をズタズタに引き裂いてやった!!!


「ガッ・・・ハッッ」


仰け反ったシカオは白目を剥き巨体で尻餅を付くと変化が解けて、引き裂かれたフード付き毛皮を来た血塗れの男の姿になって沈黙した。

・・まだ、消滅はしてない。


「フーーーッ、帰ったら、お風呂。入浴剤は、一番いいヤツ使う。風呂上がりは、冷凍してる無農薬のプルーンでスムージー作ってジョッキで飲む。フーッ、フーッ」


血の渦は消えた。あたしはヨロヨロと歩いて、沈黙してシカオに迫る。ホルスターからサイレンサー付きの拳銃を抜き直す。


「村坂に、メールを、打つ。SNSは長くなる。電話は、体調悪くて、無理、と伝える。フーっ。田島も。最悪、見舞いに来ても、会わない・・弱り過ぎると、フーっ、ふぅうう、・・人を噛む、から」


シカオの目の前に来た。眉間に銃口を右手1本で向ける。左手はもうダメだ。廃工場ならサイレンサーいらないな、と思ったりもしたが、まぁ、いい。


「・・楽しかったか、シカオ。お前は、人間に憧れてはいない。羨ましいな。じゃあな」


会話が成立する魔物は嫌いだ。嫌って程わからされるから。

あたしは、引き金を引いた。


「っ!」


突如地面から垂直に放たれた白く輝く無数の大きな鱗が! あたしの銃撃を防いだっ。

周囲の全てが輝く鱗に覆われ、気温が下がり、湿度が上がり、気付くと足元に冷たい水が張り、あちこちに睡蓮が咲きだす。

あたしは水中に身を横たえた、途方のなく巨大で頭部は見えない蛇の背に立っていた。

シカオの姿が無い。


「菱沼っ! 出張ってくるなら最初から自分で片せよっ」


「・・気が、変わった。お前達の様子が、可愛いかったからな、ククククッ・・・」


「可愛いい?!」


コイツっ! 頭にきたっ。だが気が抜けたら一気に負担がきて、あたしはその場にヘタり込んだ。


「ううっっ」


「日渡りはほんとに脆弱ね。・・報酬に、『苔餅(こけもち)』をあげよう。お前でも効くだろう」


水中から長過ぎる女の手が伸び、緑色の羊羮だか餅だかよくわからない物を差し出してきた。


「・・・くそっ」


あたしはヤケクソ気味に苔餅を取って、かぶり付いてやったっ。


「っ?! 苦ぁーーーーっっっ!!!!!」


口が曲がるっ! 沼の底みたいな臭いっ!!


「アハハハッ!!!! 草ヶ部万亀子、明日も元気に登校してきな・・クククッ」


菱沼の声は遠ざかり、『沼の異界』も消え、あたしは元の廃工場にいた。


「・・・」


その場に座ったままクソまずい苔餅をもちゃもちゃ噛んで、呑み込みたくないが呑み込む!


「んぐっ」


すぐに、嘘のように力が回復した。左手も。


「・・土地神だからって調子こきやがって!」


あたしは立ち上がり、黒のケープ意外はボロボロにされた制服の埃をはたきだした。



・・浮いてる? いや沈んでるのか? 俺、水の中か? 冷たい、気持ちいい。苦しくないな? また死んだのかな? 俺。

ぼんやりしてると、水の中が泡立って、白衣を着た綺麗な女が現れた。人じゃ、ないなぁ。


「北森四季夫。シキオよ。お前は私の下僕(げぼく)になれ」


(なんで?)


「お前は面白く、見込みがある。最近、私の支配域が荒れているのだ。お前のような者も来る。クククッ」


(マキコと殺し合って、面白かったし、なんだか、もう・・仕返しも、なんか、そんなに腹も減らない気もしてきた。俺も仕返しされた方がいいと思う。色々殺したから。地獄ってヤツに行くよ。あんたの所で働かない。もう、生きてなくていいや)


俺は本当にそう思って、水の中の綺麗な人に笑い掛けた。

その人は、なんだかとろん、とした顔で口元だけニッと笑い返してきて、長い舌をペロリと一度少し出してから、腕を組んで考えて、それから俺にこう言ってきたんだ。


「シカオ、報酬をやろう。お前を・・」


それは、思ってもない話だった。



昨日はなんとか村坂と田島の『大丈夫か? 心配だぞアタック』を凌げた。結局家に来た田島とは、2時間くらいゲームで遊んじまったよ。

最初にしたマリカではいい感じに盛り上がったけど、その後にしたスト4では殺伐とした。

田島、弱ボタン攻撃からのキャンセルばっか狙うから典型的な『友達無くすファイター』なんだよっ!

とにかく今朝も無事登校。


「おはよう・・村坂、田島」


「二日酔いくらいのテンションじゃあねぇか、草ヶ部ぇ」


「おはよう草ヶ部。今日、青汁とお爺ちゃんが飲んでる高麗人参茶のスムージー作ってみたっ、飲みなよぉ」


「あ・・ありがとう」


等と話したり、また苦いの飲まされたりしていると、朝のホームルームになったんだけど、


「はーい、今日は転入生を紹介しまーす。はい、入って」


担任がざっくり言って、クラスがザワつく中、入ってきたのは!!


「どうもぉっ! いつも元気っ! 遅れてきた健康優良児っ!! 北森四季夫でーすっ!! よろしくっ」


「っ?!」


シキオだ・・。毛皮は被ってない。目立つ風貌とキャラに騒然となる1年C組っ!


「うっわっ、キャラ強めのイケメン来たわコレっ!」


「草ヶ部どうしよう! 私が月5000円は課金してるキャラにそっくりだよっ?」


「いや、まぁ。・・5000円は多いでしょ?」


あたしがチラチラ、シカオの様子を伺いつつ田島を嗜めていると、いかにも『こっそり君にだけ』って感じてウィンクしてきやがった! コイツっ。


「・・菱沼め」


「え? 菱沼センセ? どこ?」


思わず小さく呟いたら村坂に聞き取られてしまった。


「ああ違う違う、菱沼先生にカイロもらったからお礼しないとな、て!」


「義理堅いヤツ! 草ヶ部ぇ」


「ははっ」


取り敢えず、笑っとくしかなかった。

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