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吸血鬼マキコ  作者: 大石次郎


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血のコネクション 3

雀の宿のマッサージチェアであたし、アゲハ丸、コウタが並んで座ってウィンウィンウィンっと揉まれて和んでいると、シキオがタブレットPCを持ってこちらに来た。

ワコは宿のバーで口説いてくる他の魔物の客を気を持たせてから袖にする暇なゲームに興じていてこの場にいない。


「マキコ、菱沼さんの蛇の上役から。大変みたいだよ?」


「大変?」


首まで揉まれていると見難いし、操作し難いので途中で料金もったいない、と思いつつマッサージチェアの背から身体を起こし、上半身はフリーにしてタブレットを受け取った。


「これ、メール? 動画?」


「姐さんっ!」


動画通話だった。


「うおっ? 通話かよ、なんだよ?」


背景は湖の異界の御殿の主の間、か? 荒れ放題だ。上役の蛇もボロボロになっている。他の蛇達も背後で何やらバタバタしていた。

ケンジとかいうヤツの襲撃? いや、いきなり菱沼には行かんだろうし、シキオが慌ててない。なんだ??


「姐さんがこちらに中々帰ってこないのでっ、主の不機嫌がそろそろ限界ですっ! 先程ようやく眠って頂いたのですが・・ハッ?!」


顔を引きつらせて画面外を振り返る上役の蛇っ。その直後、画面内で爆発が起こり画像が途絶え、乱れた音声のみになった!


「びぇえええぇ~~~~っっっ!!!!」


菱沼の爆泣きっ!!


「主ぃーっ?!!」


「落ち着いて下さいっ!!」


「ほらっ、こちらインドより取り寄せたるナーガ族のお乳っ! 美味でございますよぉ??」


更なる爆破音っ! 通信は完全に途絶えた・・・


「なんか世界が終わりそうだね。マキコだけでも1回帰っておく? 村坂さんと田島さんもちょっと心配してきてるみたいだし」


「いやぁ、ティパナリー達はタカフネ達に便乗して明日の夜にはケンジ一派を奇襲する、って話だし、半端に帰るのはやめとくわ」


すぐ引き返してこれる自信無い。


「ただ心配だから、なんとかもう一回通信繋いでくんない?」


「ん~っ、やってみるよ」


その後、無事通信が繋がり、あたしは必死で2時間近く画面越しにベビー菱沼の機嫌を取り、取り敢えずは落ち着かせることに成功した・・・



翌日の夕方あたし達はティパナリー達と合流し、目的地近くのステーキハウスの2階フロアに来ていた。鬼2人ももう合流している。

窓から車線の多い国道を挟んだ雑多な中小工場等並ぶエリアの先の大きな倉庫が建ち並ぶエリアを見る。

このステーキハウスは土地神関連の店で貸し切りにしていてティパナリーのグループも土地神に貸しを作る形だ。

既にタカフネ達がホテルでやらかしている上に後処理の面倒さを考慮したのかもしれないが、土地神達とのやり取りに関してティパナリー達からはほぼ何も言及はなかった。

現地の有力者に話を通しておく、程度の感覚なのかもしれない。


「お嬢のことはタカフネには何も言ってないわ。まぁ察してるでしょうし、古参にはいくらか伝えてるから特に問題は無いと思うけど、ギリギリまで姿は隠してなさいね?」


夕陽でもまだ日があるからフードを被ってるティパナリー。益々占い師っぽい。でもって相変わらず爆乳だ。この間もだったがコウタが倉庫等全く見ずにティパナリーの乳だけを見ている。

見過ぎているのでしまいにワコに手で両目を隠され「ぐぉっ?」とか言っていた。


「わかってる。アイツ、あたしが出てきたから余計死ぬ気になってんじゃないか?」


ティパナリーは意外そうにあたしを見た。


「ポンっ、と飛ばして物を言うところはお嬢のママにほんとそっくりね」


「お前、そんなことばっか言うなっ」


こそばゆいやら、うざったいやら。


「ふふ・・そうね。私もアイツに思うところはあるから、ここは1つ、惨めったらしく生き残ってもらおうかしらね?」


妖艶に笑みを浮かべ、ティパナリーは大きな胸を持ち上げるように腕を組んだ。



ケンジ一派は倉庫エリアでタカフネ達が御法度にしている、人間や希少血液を持つ魔物の類いその物の売買を計画していた。

今回に限らず随分前からやってはいたそうだがそれが段々と大胆になり、最近ではほぼ公然と規模も大きくやりだしているようだ。

それなりのカスだが、タカフネを煽ってもいるんだろう。

対するあたし達のプランは、食材の奴隷の救出は白装束の土地神の手下達が担当。

顧客の方は手が回らないのでスルー。

タカフネ達はケンジとケンジ派の幹部にのみ的を絞って奇襲。ティパナリー達はその露払いと逃走防止。

乱戦後、あたし達はケンジ1人を狙って突っ込む手筈になっていた。

ケンジ一派の結束は堅く買収等はできなかったから、ぶっつけ本番にはなっている。


「・・マキコ。ケープの中、なんかゾワゾワするぜ」


「大人しくしとけ」


隠れるのが下手くそなコウタはあたしの黒のケープにしまってる。右手もだが、ケープも万全じゃないから居心地は悪いんだろうな。さっきからやたら顔だけ出してくる。

アゲハ丸もややこしいので最初から小太刀形態にして既に手に持ち、峰に片手を添えてなんとなく指で撫でる感じにしていた。と、


「マキコっ、しつこく撫でるのをやめるでござるっ。セクハラでござるっ」


急に刀身に一つ目を出して抗議してきやがった。


「はぁ? お前、鞘が無いから据わりが悪いんだよっ」


「このケープの中になんか包帯みたいなのあったから、巻いときゃいいんじゃねぇか?」


「だからモゾモゾするなっ」


「別に布で巻かれたくないでござる」


「どーでもいいっ」


あたし達3人が倉庫近くの物陰でケープの力で気配を消しつつ、小声で小競り合いしていると、スモーク張りのボックスカー3台と黒塗りのセダン車が1台、人気が全く無く、平然と門も開いた倉庫の敷地に入り込んできた。

露骨に怪しいが、相当強く認識に干渉している。あたし達も門近くに来るまで気付けなかった。


「使い魔をすぐ放つらしいから静かにしとけよ?」


あたしは黒のケープに力を込めて姿を隠すことに専念した。

停められた車両から出てきたのは合わせて16名のいかにも輩なヤツらだったが、ティパナリー達のような間抜けはさは感じられなかった。

来日している構成員はケンジを含めて7名のはず。半数以上は準構成員だ。背広を着ている紅い目の日本人に見える日渡り達がケンジとその直属だろう。

褐色の肌のガタイのいいヤツらが準構成員。こちらも紅い目だが、日渡りではない。ティパナリー達が見せた資料ではオランバッチとかいう蝙蝠人間の魔物達。

日渡りの中に、1人一際殺気の鋭いヤツがいる。20代後半に見える。ケンジだ。不眠症みたいな目付きをしている。

ケンジは日渡りの部下に持ってこさせた瓶の蓋を開け、月明かりにうっすらできていた自分の影を拡大させ、そこに振り掛けだした。血は飛び散らず、影に吸われる。

夜風に乗ってはっきりわかる。人の子供、それも幼児の血液だ。そんな献血は無い。チッ、コイツは殴って昏倒させるだけじゃ済ませないな!

瓶の血を全て吸い尽くすと、影から人の拳程の大きさの蝿のようなモノが数十体涌き出してきたっ!

ジェングロット、小型の吸血使い魔だ。それはあっという間に倉庫の敷地全域に拡散し、「ギーギーッ」「チーチーッ」と喚きながら辺りを嗅ぎ周りだしたっ。

あたし達のすぐ側にも来た!

あたしはケープを拡大し、身を伏せ、身体をほぼ全て覆って身を潜めた。

牙と虫の羽根を持つ裸の小人だが、ミイラのように干からびていた。醜い。


「ギーギー・・チーチー・・・」


かなり近くまできた。地面によだれを垂らすジェングロット。臭い、身体も吐息も、死体の腐敗臭その物だ。

違和感を感じているのか? 去らない。やるか? このまま位置を変えるか??

あたしがアゲハ丸を手に、ケープの中のコウタも一緒に冷や汗をかきだしていると、


「もういいっ、戻れっ!」


ケンジが鋭く叫び、ジェングロット達は素早くケンジの影の中に戻っていった。

ケンジは側に控えていた補佐らしい巻き毛の女の日渡りに促し、女はオランバッチ達に東南アジアの言葉? で指示を出してスマホを取り出し、連絡を取りだした。

すぐ処分する端末だろう、普通に英語で電話をしていた。

オランバッチ達は車から装飾されてるらしい瓢箪(ひょうたん)を3つ取り出し、栓を開けて中に縮小して閉じ込めていた7つのケージを外に出した。

人間の容姿のいい男女の大人と、子供、それから人型の魔物の子供や、人型以外の魔物も一部いた。いずれも手錠等を嵌められた上、薬物を盛られているらしく虚ろな顔で無反応だった。

人間は役30人、魔物は10数人といったところか? 資料通りだった。

頭に来たコウタが外に出してきた片腕の温度を上げだしたが、あたしは左手が多少焼けても構わず掴んで振り返った。


「・・悪ぃ」


我に帰ったコウタは小声で言って熱を抑え、腕を引っ込めた。気持ちはわかる。



約10分後。倉庫エリア近くで様子を伺っていたに違いない、いずれも海外の四駆車2台と高級セダン車1台が倉庫の敷地に入ってきた。


「・・ゲスの客でござる」


忌々しげに呟くアゲハ丸。顧客達は無視してさっさとカチ込む案も無いではなかったが、後から増援が来る形になるより纏めて奇襲を掛けた方がいくらかマシ、ということで待つことになっていた。

上手くビビって退散してくれたらいいんだけどな。

車から顧客達が降りてきた。人間の欧米人に見えるが、明らかに魔物だ。リーダー各の女に、補佐の男。子分6名。

資料でもおよその人数と欧州系である以外は判然としなかったヤツらだが、それなりに手練れ程度の力に見えた。所属のコネクションの末端なんだろう。


「・・・」


タカフネ達がどこに潜んでいるかもわからないし、どのタイミングで行くかはわからないが、あたし達は一番最後だ。じっと待つ。

学校から離れて、魔物とばかり付き合い魔物とばかり殺し合っていると、人間としての暮らしが幻みたいに思えてくる。


いや、違うか。あたしだけ幻なんだ。


そんなことを考え、ケンジ達と笑って話しながら食材の奴隷達を見分する西洋系の顧客の魔物達や周りの様子を見ていた。

・・その時が、来た。


「イェイィアアァーーーッッッ!!!!」


聞き覚えのある雄叫び! もう仙桃(せんとう)を喰ってるなっ。倉庫の屋上の縁にイェンが現れたっ!

爆発的に地面から大量の竹の槍衾(やりぶすま)が発生し、オランバッチ4体を仕止めと持っていた3つ全ての瓢箪を破壊っ!

さらにケンジ派の日渡り2人も串刺しにし、ついでに顧客の子分2人も貫いたっ。

顧客の子分は死ぬと石になって砕け散ってから消滅を始めている。石の魔物?

生き残りのオランバッチ達は蝙蝠人間の本性を表し、ケンジ派の日渡りは自分の影から血を纏った武器を取り出して構えるっ。

ケンジは自分の影からジェングロットの群れを再び呼び出すっ。

顧客の子分の生き残り達は石の身体と翼を持つ魔物の姿に変化し、リーダーの女は口から何かのガスが漏れている蜥蜴人間? の姿に変化。補佐の男も爬虫類系の特徴を帯びた姿になったが、どこからともなく取り出した亀の甲羅にみえる盾を構えた!

ここで周辺の建物の陰からタカフネ派らしい日渡りが8人飛び出して、おそらく銀の弾丸の機銃と散弾銃を連射!

オランバッチはさらに2体、ケンジ派の日渡りが1人殺され、ジェングロットも半分は倒されたっ。

顧客は狙われはしなかったが、流れ弾から身を守りながら車の方へ後退を始める。

ケンジは女の補佐に自分を守らせながら、冷めた顔で自分の陰から血を纏った太刀型の妖刀、フガク丸を取り出した。


「フガク丸っ!」


また知り合いらしいアゲハ丸が緊張する中、タカフネ派の日渡り達は即、銃撃を止め、小瓶から撒いた血で自分達を覆いだした。


「飛べよ」


目で追いきれない速度で太刀、フガク丸を振るい、血の斬撃を飛ばすケンジ!

一撃で8人のタカフネ派の日渡り達は吹っ飛ばされ、2人は防ぎ切れず両断され、切られると同時に血を奪われて干からびて消滅していったっ。


「アチョアァッッッ!!!!」


間髪入れずイェンが屋根の縁が弾ける勢いで、直線上にいたジェングロットを粉砕しながら竹の長棍(ちょうこん)を手にケンジに襲い掛かった!

これに補佐の日渡りの女が阻止に入り、すぐに他の2人の日渡りも加勢に入ったっ。


「お前は見込みがあった、ケンジ」


配下の日渡り達が吹っ飛ばされた先からタカフネが、血を纏ったオドロ丸を手に現れた。


「ォオオーーンッッ!!」


「ギーッ! チーッッ!!」


生き残りのオランバッチとジェングロット達が一斉に襲い掛かるっ。

タカフネはオドロ丸を振るい、血の茨を網のように放ち、ジェングロットを引き裂き、オランバッチは捕らえて血を吸い付くして消滅させた。


「タカフネ・イナバだなっ?! これは高くつくぞっ?!」


2人減らさせた顧客の魔物達は、捨て台詞を吐いて四駆車1台とセダン1台で走り去りだしたが、頭上に生じた妖しい光から噴出したした無数の髪の刃にセダン車は小間切れにされ、四駆車は地中から現れた巨大蟹の魔物モヤンクタム(ボビーってヤツ)によって叩き潰され、爆発炎上したっ!!


「子供や数が少なくなったヤツらを売り買いするのは、どうなのかしら?」


妖しい光は本性(光る内臓丸出し)の姿を取ったティパナリー。よっぽどムカついたのか? 思ったより早く出てきた。というか顧客はスルーじゃないのかよ。

とにかく、蟹のボビーとその辺からワラワラ出てきた他の手下達はケンジから距離を取る構えだ。

ケンジのあの攻撃性からするとボビーじゃ的にしかならないし、それ以下の手下達じゃ寄ってもあまり意味無いからだろう。


「・・パイセン2人して吊し上げかよ、ヒデェなっ! へへへっ」


「あちしも同意するよっ、ケンジ!」


フガク丸の刀身に一つ目が出て話しだした。声がファンシーだなっ。


「いい年して若者ぶらない方がいいわ」


「仕事に意味を求め過ぎたな」


間合いを慎重に詰めるタカフネとティパナリー。


「説教、あざーす。・・イラ・イライ・ランギト!!」


来るっ、ケンジの奥の手! ヤツの影が拡大しっ、そこから5体の、超巨大な怪魚の魔物が出現したっ! 1体だけでもボビーを丸呑みにできそうなサイズっ。


「2体は仕止めろっ!」


タカフネが命じるといつの間にか、屋根等、周囲の高所に配置していた槍を持った東南アジア系の男女十数名が鳥人間に変身してイラ・イライ・ランギトの怪魚達に襲い掛かっていった。

タカフネ配下のエクエクという鳥の吸血種族の者達だ。

ボビーと他のティパナリーの手下達も怪魚対応に乗り出したっ。手下の日渡り達は派手に火器類を使う!

このタイミングでポフンっ! と煙と共に白装束の眷属の者達が食材の奴隷達のケージの周りに現れ、あたふたと拡大する布を掛けだしたっ。今かよ!


「ロートルと婆さんに止められるようじゃ俺もそこまでかぁ」


タカフネとティパナリーから注意を逸らさず、白装束達は放置するケンジ。白装束達は布で包んだケージごと、またポフンっ! と煙と共に消えた。やりきりやがった!


「殺っちゃおうよ! ケンジっ。殺っちゃおう! 殺っちゃおう!!」


「・・だ、な」


ケンジは大きくフガク丸を構え、タカフネはオドロ丸に血の茨を逆巻かせ、ティパナリーは鋼の髪を捻っていくつも束ね始めた。

3人の殺気が限界まで高まるっ。

最初にタカフネが踏み出した! 続けてティパナリーが編んだ鋼の髪を展開するっ。

ケンジの姿が一瞬霞んだように動きアスファルトを踏み砕き、血の刃の竜巻が起こったっ!

タカフネは血の茨で対抗し、ティパナリーは束ねた鋼の髪を血の竜巻に撃ち込んだっ。

荒れ狂う血と血がぶつかり合い、束ねた鋼の髪の破片が鋼鉄の槍のようにしてあちこちに飛び、あたし達のすぐ側にも突き刺さった!

2対1で、ジリジリと・・ケンジが押してるっ!

コイツ?? ムカつくがタカフネとティパナリーは、今は、本気出してるぞっ?!


「マキコまだかよっ」


「オドロ丸が折られそうでござるっ」


「う~っっ」


こっちはただの観客じゃないっ。だがまだか? 違うか? イラ・イライ・ランギトの怪魚は抑えられていたが、すぐ減らせそうにない。

イェンは補佐の女以外の2人は仕止めていたが、仙桃の効果がもう切れ、互角の削り合いに持ち込まれている。

・・・まだだ! あたし達が最後に行く意味で出るタイミングじゃないとっ。大体あの動きとパワーにコウタやあたしはついてけない!

一手、一手でいいから取っ掛かりがほしい。


「ケンジっ!」


ティパナリーが残った全ての鋼の髪を束ねて血の竜巻を破ってフガク丸に打ち込んだ! そこへ血の竜巻を斬り裂き、血の茨を纏ったタカフネが駆け込むっ。


「っ!」


ケンジは影を操ってタカフネの足に突き刺して突進を遅らせ、一気に血の竜巻圧縮させ、円状の血の刃に変えてタカフネとティパナリーを吹っ飛ばしたっ!

ティパナリーはボブカット程度の髪のみ残した状態になり、タカフネのオドロもボロボロに刃零れししていた。

2人とも傷だらけにされた上、傷口からかなりの血液を奪われているっ。


それでもっ、ケンジはこれまでで一番の大振りに体勢が崩れているっ!


そう近くはない工場の屋根から轟音の銃撃!!

ティパナリーの胴体だ。射撃時、鋼の髪で完全固定した対戦車ライフルで特注の銀の弾丸を撃つ!

さっき束ねたティパナリーの髪を撃ち込んだフガク丸の刀身とほぼ同じ箇所に狙撃の衝撃というより砲弾でも炸裂したかのような爆音っ! 派手な火花っ! 破片にケンジは半身と左眼を傷付けられたっ。


フガク丸にヒビが入る!


「痛ぁああーーーーいぃっっ??!!!」


金切り声で絶叫っ! 支配が途切れ、宙でほんの一時動きが止まった旋回していた血の2割程度がティパナリーの胴体の方に殺到し、工場ごと叩き壊して沈黙させたっ。


「フガク丸。雑な攻撃をするなって、落ち着けよ」


「うう~っっ、早く全員殺っちゃおうよぉ? オドロ丸はちゃんと砕いてね! アイツ生意気だからっ!」


「こっちの台詞であるぞっ?」


「ふぅぅ~~・・・ケンジ」


タカフネは刀身に一つ目を出して立腹してるらしいオドロ丸を手に立ち上がった。


「お前じゃない」


「ハッ」


ケンジは嗤ってフガク丸を構え直し血の竜巻を纏い直し、タカフネもオドロ丸を構え自分の血を使って血の茨を纏い直した。


ここだ!


あたしはアゲハ丸を手にコウタを黒のケープに入れたまま、物陰から飛び出したっ。



シキオの血のボトルをアゲハ丸で切断し、獣のような血の蝶を巻き起こす! ボトルは残り3本っ。増血剤はとっくに1錠使ってる。

あたしに合わせ、姿を表した鬼2人も、


「ふんっ!」


「そいやっ!」


とイラ・イライ・ランギトの怪魚2体にそれぞれ金棒で打ち掛かり、ワコは「癪に障るけどね☆」とイェンと交戦している補佐の女の日渡りに斬り掛かるっ。

シキオは即、完全に獣化して咆哮の衝撃波で血の竜巻をさらに1割は削った。


「ああん?」


「アゲハ丸だよっ、ケンジ!」


半笑いだが面倒そうなケンジ。

あたしは黒のケープを操り、取り出した2本目の血のボトルを粗いボブカットにされてダウンしているティパナリーに投げ、獣の血の蝶ので強化した銃撃で血の竜巻に2発撃ち込んで血を削る!


「マキコ! なんのつもりだっ?!」


「察しろよっ、オッサン!」


あたしはタカフネの近くまで移動するともう1発威嚇射撃しつつ、3本目の血のボトルを黒のケープで投げ渡した。

ケンジは血の竜巻を大きく発生させるのをやめ、圧縮して身を守りながらあたしとシキオとタカフネに血の刃で牽制しだした。

掠っただけで血を奪われる。鬱陶しい攻撃だっ。


「ティパナリーがいなかったら手も足も出てないだろっ?!」


「やりようはあるっ! ティパナリーの差し金だな? お前から助力を受ける筋合いは」


「ほんとっ、ごちゃごちゃ言うヤツだな! さっさとそれ使っとけっ!」


あたしは銃撃を続け、シキオがもう1発咆哮の衝撃波を撃って圧縮した血の竜巻が半減まで萎むと、銃からアゲハ丸に持ち替え突進したっ!

ケンジ! 明らかに格上だが、殴り合いができるとこまでは持ってこれてるはずっ。


「フガク丸!」


「アゲハ丸っ、お前なんか? 前と違うぞ??」


「オッラァーーっっ!!!」


あたしは残りの獣の血の蝶の渦の4割を使って圧縮した血の竜巻に斬り掛かるっ! 堅っ。ちょっと近接早かったか??

すぐにシキオも(まさかり)で斬り掛かったが、2人掛かりでも通りきらないっ。


「お前がマキコか」


ケンジは影を操ってあたしとシキオの脚を狙ってきたが、それはもう見てる!

どうにか捌くが、ケンジはあたし達が影の触手? への対応に手間取っている内に血の竜巻を練り直し、3つに分けた圧縮した血の刃の2つをシキオに、1つをあたしに打ち下ろしてきたっ。

シキオは鉞を砕かれ倉庫までブッ飛ばされっ、あたしも獣の蝶の渦を全て削られた!

それでもケンジの血の竜巻も4割弱まで減ってるっ、やれる! あたしは最後の血のボトルを切断して獣の血の蝶の渦を起こしたっ。ついでに2錠目の増血剤も噛る!

2人の気配も近付いてきた。


「話しは後だ」


「アゲハ丸、是非も無し」


「ピンチのクセに偉そうな物言いでござるっ」


自分とオドロ丸をいくらか回復させたタカフネがあたしの左隣に構え、


「ベリーショートになっちゃうわ」


髪以外はだいぶ回復したように見えるティパナリーが右隣に構えた。


「・・結局、血統かよ」


「とばっちりだろうがっ、お前が始末悪いからつまんねーことになったんだろ?」


「言うね。・・フガク丸っ!」


「はいよーっ!」


力を高めるケンジ! タカフネがありったけの血の茨でケンジの血の竜巻に風穴を空け、ティパナリーが無理矢理伸ばした鋼の髪で地面を覆ってケンジの影を封じたっ。

あたしは空いた穴からケンジの間合いに突進する!


「っ!!」


ケンジのフガク丸を振るった渾身のカウンターをアゲハ丸と全ての獣の血の渦で受けきるっ! また右の拳の傷が開いたっ、キツい!


()ぅっっ!!!!」


「ござるぅっっ!!!!」


アゲハが刃零れしだすがっ、フガク丸を弾き刀身のヒビから叩き折ってやった!!


「あっ・・」


フガク丸の刀身の一つ目から力が消えた。あたしももう2錠目の増血剤の効果が切れそうだがっ、ダメ押し!


「コウタぁっ!!」


「しゃあっ!!」


黒のケープをそこそこ焼きながら(下手くそっ!)飛び出したコウタが燃える拳でケンジにボディブローを叩き込んだ!

そのまま前方に押し出してゆくっ。ティパナリーの髪の守りの範囲を超えても、コウタの炎の光がケンジの影を寄せ付けない!


「番長パンチぃんだぁっ!!」


「ぐぅっ?!」


そのまま逆の炎の拳でケンジの顎を上空に打ち上げるコウタ!


「番長パンチ(ツー)っ!!」


「がはっ!」


両足に炎を灯し飛び上がって打ち上げたケンジを追い越し、今度は地上へ向けて炎の拳で殴り落とすコウタ!


「番長パンチ(スリー)んだぁああっ!!!」


うるせー攻撃っ!!

ケンジは爆炎を上げながらアスファルトに叩き付けられっ、力を失った。


「うぉおおーーーーっっ!!! 俺様のっ! 伝説のぉっ!!!」


上空で興奮して騒いでるが、取り敢えずアイツは置いとこう。あたしは右の拳の自分の血で強化した拳銃に持ち替え、ケンジの方に歩いていった。

イラ・イライ・ランギトの怪魚達は全て倒され、補佐の女も竹の槍衾で磔にされたところをワコに両断され、消滅した。

崩れそうな倉庫から毛皮を羽織った状態のシキオも出てきている。ティパナリーとタカフネはあたしに任せるつもりのようだ。


「・・・蟹くらいは味方にしときゃよかったなぁ。ボビーの餌は、イカの切り身とか? へへっ」


まだあちこち燃えるアスファルトの窪みの真ん中でケンジは大の字になっていた。右手に半ばで折れて静かになったフガク丸をまだ握ってる。


「あたしにしたら降って湧いたようなもんで、お前が悪さしてる今夜の姿しか知らない。言うことあるか?」


「皆、大好きなお嬢ちゃんよ、俺の巡り合わせだ。だが」


ケンジは折れて沈黙したフガク丸をあたしの足元に弱々しく投げてきた。


「フガク丸はいい刀だ。マシな持ち主がいれば大したことをするかもしれないぜ?」


「わかった」


あたしはケンジの胸に狙いをつけた。


「日本で死ねるなんてなぁ」


あたしは撃ち抜き、ケンジは塵になって消滅した。


「手間を掛けたね。フガク丸は取り敢えず預かるよ」


近くに来たティパナリーが髪でフガク丸を回収した。


「マキコ。やっぱり、お嬢がウチのコネクションを継いでくれないかい? ねぇ? タカフネ」


「・・それなら俺を殺せ。お前には資格がある」


タカフネはオドロ丸の構えを解いて言ってくる。他の仲間達やコネクションの手下達も近くに集まってきた。

遠目に白装束達も様子を伺ってる。


「お前らさ、わかってないだろ?」


あたしはティパナリーとタカフネにきっちり向き直った。


「あたしは草ヶ部万亀子。高校を卒業する女だ」


言ってやった。最近は子育ての真似事もしてるしな!

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