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吸血鬼マキコ  作者: 大石次郎


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14/17

アクドポッカリ

夏休み、あたしはベビー用品を買いに来ていた。

人に化けた蛇の上役1人と下っ端の蛇2人、アゲハ丸、シキオも来ている。ワコとコウタは今日は地元だ。

あたしは籠を乗せたカートを押して粉ミルク売り場に来ていた。制服は目立つので例のゴシック調の私服を着ている。

同じ学校の人間にバレると無駄な噂が立つのでマリーナ帽にサングラスにマスクまで付けてかなり怪しい風体にはなっている。

店内には店の明るいテーマソングが流れている。



・・選び放題、買い放題、タ~カ~マ~ツ~屋~~っ!!!



「たーかーまーつー屋ーっ、と」


曲に乗って思わずハモってしまった。

店の広報戦略に洗脳されてる場合じゃない。

ちゃんとしたミルクを選ばないと。ベビー菱沼はなんだかんだで魔物なので、日によって変動が大きいが普通の赤子の2倍から8倍くらいミルクを毎日飲む。

しかもグルメで気分屋だからミルク選びは慎重にやらないとマズい。

だが、蛇達も直属のシカオも食べ物のチョイスが雑いからとても任せてられない。

あたしがミルクを選んでいると、カタログからそのまま出てきたようなシュっとした私服のシキオがベビー用品を山積みした大きい方のカートを2台押してこっちに来た。


「シキオ、ここミルク売り場だぞ?」


「実はね、この間のウブメの巣を調べたら助けられそうな赤子が数名だけど生き残ってたんだ」


「へぇ?」


「ちょっと変質してたから普通の人間の元にはもう戻せないけど、引き取り先が見付かるまで取り敢えず蛇達の館で預かってるんだよ」


そんなことになってたのか・・。あたしは狩るだけだから、アフターケアの話まで知らなかった。


「このミルクが美味しいの?」


あたしが手に取っていたミルク缶を手に取るシキオ。


「っ!」


なんか、猛烈に恥ずかしくなったっ。


「知るかっ! 菱沼とその子らじゃ好み違うだろ? 安いの買うなよっ?」


「えーっ?」


あたしは必要なミルク缶を取ると、カートをぐいんっ、と反転させてシキオから離れた。

ずんずん離れてゆくと、通路の向こうからベビーベッドを2つ抱え上げたアゲハ丸が、他の客や店員をギョッとさせながらこっちに歩いてくる。チッ、めんどくさいな!

アゲハ丸は大正風の袴にブーツ、キャプリーヌ帽子(鍔の広い古風な婦人帽子)に丸縁眼鏡という格好だ。なんかの撮影みたいになってるぞ?


「あにやってんだよ、お前はよ」


「拙者もベッドが欲しいでござる。床に寝るのはもう嫌でござる!」


「それ『お前用』かよっ。小さいだろ?」


「身体を丸めたらギリ入るでござるっ」


「具合悪くなるぞ? やめとけやめとけ」


「拙者もベッドで寝たいでござる!」


「んどくせぇな~」


ウチの部屋、狭いだろうにっ。

今日の買い物はそれなりに手間取ることになった。



その2日後、あたしとアゲハ丸とシキオと菱沼の眷属の蛇達は、市の外れにある廃坑に昼間っから潜っていた。

この辺りで廃坑マニアが失踪していたのと、菱沼が孵り直しで卵の中に居た頃に、教団ごと失踪していた小規模なカルト組織がどうもこの辺りに来ていたらしく、蛇達が調査した結果・・


「シャーッッ!!!!」


先に鋭い牙の口を持つ無数の触手にあたし達は襲われていた!


「『アクドポッカリ』って、こんな規模でハッキリ実体化するもんかっ?!」


あたしは右手の小太刀形態のアゲハ丸で切り裂き、左手の拳銃で銀の弾丸を撃って貫通させながら手間取っていた。そこそこ相性悪いっ。

アクドポッカリは植物の根に近い性質を持つミミズの魔物だ。

通常は山野の湿った窪地、古木の陰、動物の死骸が多く埋まった場所、荒れた墓の土に宿るが、姿は希薄で通り掛かった者の足に絡んで転ばせ、その痛みや恐れを吸う程度の下等な魔物。知性も低い。


「元々強い個体が菱沼さんが弱ったタイミングでここに入り込んで、タイムリーにカルト組織がここで集団自決を図ったからややこしくなったのかもね!」


(まさかり)でバサバサ斬り伏せてるシキオっ。相性良さそうだけど、この触手は『末端』に過ぎないんだよなぁ。

カルト組織は使用端末や市内の拠点に集団自決を仄めかす書き置き等は残していたが、詳細は不明だった。

集まった(呼び寄せた?)信者達を喰ったのか? 死体を喰ったのか? 順番はわからないが、どっちにしても始末の悪い結果になってる!


「ひぃいーーっっ!!!」


「助けっっ」


蛇達が触手の多さに対抗しきれず、何人か喰われだしていた。


「お前らは餌になっちまうっ! 下がって閉じ込めの(じん)を張ってコイツらを狭い範囲に押さえろ!」


「了解ですっ! 直にワコさんとコウタさんもいらっしゃるのでっ」


蛇の上役は下位の蛇達を連れ、慌てて撤収していった。


「さて。マキコ、蝶で位置わかった?」


「ちょっと待てよ・・」


あたしはさっきから、触手の切断で発生させた血の蝶を攻撃ではなく、坑道の方々に放ってアクドポッカリの『本体』の位置を探っていた。

・・・・・いたっ! デカいっ。


「こっちだ! 一気に行くっ」


あたしは黒のケープの中に4本キープしているシキオの血のボトル2本を切断し、獣のような血の蝶を大量発生させて逆巻かせ、アクドポッカリの触手を削り散らして道を開いた!



あたしとシキオは獣の蝶の渦を先行させながら、暗い坑道を高速で駆けた。上下側面から這い出してくる触手も、アゲハ丸と拳銃と鉞でガンガン始末してゆくっ。

だが、本体まであと少しという所で触手の密度が一気に上がったっ!


「坑道中の触手を集められたかな?」


シキオは制服の上に毛皮を待とう姿から獣の姿に変化して本気を出し始めていたっ。


「うぜーしっ、キモいしっ!」


あたしも手が足りなくなって黒のケープの裾で銀のスローイングナイフ十数本を掴んで振り回し、迎撃の足しにするっ。


「マキコ! シキオ! ジリ貧でござるっ」


「しょうがないな・・」


シキオは全身から獣毛の鞭を多数出して、周囲の大半の触手を絡め取って縛り上げた!


「シキオ?」


「コイツら繋がってるから意外と止められる! マキコは今の内に本体をっ!」


取り零しに喰い付かれながら言ってくるシキオっ。


「・・わかった。すぐ片すかんなっ!」


あたしはもう1本ボトルを切って獣の蝶に勢いを付け、坑道のより奥へと突進していった!



そこは広いドームになっていて、坑道マニアの物らしい所持品や、カルト集団の物らしい拙い印象の宗教用品や衣類の切れ端等が散乱する中、無数の触手を持つ、脈打つ肉の球根のような巨大な魔物が鎮座していたっ!


「デカキモ臭いヤツっ!」


吐きそうな臭気と湿度だった。


「ヴェエエェーーーッッッッ!!!!!」


肉塊の巨体に無数の口まで出して咆哮を上げるアクドポッカリ本体!

触手のよる攻撃が増すっ! あたしは最後のボトルを切り裂きつつ、2錠目の増血剤を口に入れたっ。

血が沸き立つ!


「オラぁっ!!」


スローイングナイフを砕かせながら、黒ケープを拡大展開させて一気に周囲の触手を斬り払い、全ての獣の血の蝶をアクドポッカリ本体に放った!!


「ヴェエェーーーッッ???!!!」


残った触手と新たに発生させた触手で蝶も嵐を受けるアクドポッカリ!

全て・・受け切りやがった!


「くそっ」


さっき程じゃないが、触手を発生させて血の蝶を失って地面を駆け回るあたしにけし掛けるアクドポッカリ本体!

あたしは必死で銃撃とアゲハ丸で迎撃しつつ躱す!

これに、アクドポッカリ本体は身体全体に巨大な『目』を発生させて、あたしを『観察』し始めた。


「見んなよっ、照れるだろ?!」


目玉を1つ撃ち抜いてやったが、アクドポッカリは急に狙いをあたしからアゲハ丸に変え、集中的に狙いだした!


「拙者っ?!」


刀身に目玉を1つ出して戸惑うアゲハ丸っ。


「コイツっ!」


あたし自身はフリーになった分、避けながら、アクドポッカリ本体の目玉を次々銃で撃ちち抜いてやったが、アクドポッカリはまるで構わず執拗にアゲハ丸を狙い、遂にあたしからアゲハ丸を取り上げっ、絡んだ多数の触手を切り離し!


「アゲハ丸っ!」


「マキコぉ~っ」


それは球状に丸まると石化して石の球の中にアゲハ丸を封じてしまった!!


「ヴェッヴェッヴェッヴェッ!!」


嗤ってやがるっ! 知性も上がってんなっ!!


「触手野郎っ!!」


銃撃しまくったがすぐに拳銃を取り上げられっ、暴発も構わず銃を握り潰され、不潔で醜悪な触手に囲まれたあたしは全身に喰らい付かれた! コイツら増血剤2錠の効果で噛み砕けないらしく、砕く代わりに血を吸ってきやがるっ!


「うあぁぁーーーっっっ!!!!」


黒のケープじゃ処理しきれないっ。それでも!


「・・吸ったなっ? あたしの血っ!!」


あたしは全身の力を増したっ。


「支配権は簡単にやらねーぞっ?!!」


ヤツが吸ったあたしの血を、『血のナイフ』に変えてあたしと繋がった全ての触手と本体をズタズタに引き裂いてやった!


「ヴエエェーーーッッッッ??!!!!」


吠えるアクドポッカリ本体っ。

触手から解放されたあたしは石球で固められたアゲハ丸に片手を翳した。


「アゲハ丸っ! ベッド買っていいぞっ!!」


呼応しっ、石球の内から力が溢れ、ヒビが入った!


「二言は無いでござるなっ?!!」


石球を砕き、アゲハ丸があたしの右手に収まった!

あたしは左手を突き刺して抜き、血の蝶の渦を発生させて乗り込むっ!


「ヴエェーーーッッ!!!!」


失血で目眩がして吐きそうだがっ、触手の迎撃を血の蝶の渦で消し飛ばし、片手を持ちのアゲハ丸を球根状の本体に突き刺してやったっ!


「ヴェッッ!!!!」


爆発的に内部から血の蝶を噴出させて身体を半ば3つくらいに割いてやったが、もう一押し力が足りない。血の蝶も発生してすぐに形を保てなくなるっ。


「ぐっっ!」


意識が飛びそうだっ。

その時、


「名誉町民んんーっっ!!!!」


天井をドリル状にしたワコの鎌の尻尾と旋風で突き破って、一緒に突っ込んできたコウタが炎の両拳で割られたアクドポッカリ本体に飛び掛かった。


「パァアアーーーンチィっっ!!!!」


爆炎で! 2つの大穴を開けられアクドポッカリ本体は焼き尽くされっ、まだ蠢いていた触手も全て消滅していった。

燃え拡がる火炎はワコが風を操って止めたが、ドーム内で炎の勢いは止まらない。天井の穴の上にも拡がり出していた。


「火とガスと崩落っ、全部マズい! ズラかるよっ☆」


「・・っ」


あたしは気が抜けてしまい、血の蝶が全て解けて落下しだしてしまった。


「マキコっ?」


辛うじて握ってるアゲハ丸の刀身も霞んで見える。ヤバいな、こんな下等な魔物相手じゃ命のストック、損した感じだ・・

ぼんやり思いながら、ゆっくりした感覚で落ちてゆくとふんわりた、モコモコした毛皮で絡みとられた。

シキオだな。シキオの匂いがする。手入れされてる犬とか猫の匂いだ。あと、鍛えてる方の男子の匂いも。

触手が消えてこっちまできたか、毛皮を伸ばしてキャッチしたな。

死体が焼けると蘇生に齟齬が出るかもしれないからちょうどいい・・と、


「ぼぅっ?!」


口になんか筒状の物をブッ込まれて液体を飲まされたっ! 血だっ! 血の味っ! 濃厚な匂いっ! 舌触りっ! 攻撃用のシカオの血のボトルかっ?! ケープから取り出した? まだあった? 自分でもキープしてた?! いやっ、とにかく! めちゃ飲まされてるっ!!


「ぶはぁっ! やめろぉっ! お前の血っ、飲まない! 馴れ馴れしいぞっ?! うっ? こぉおおおっ???!」


左手の傷以外の体力は一気に回復したがっ、凄まじい『栄養』のシカオの『獣達の血』に! あたしは総毛立って震えが止まらなくなったっ。


「あははっ! マキコっ、何その反応っ?! 髪の毛逆立ってるよっ? はははっ」


「緊張し過ぎた歌舞伎役者のようでござるっ」


あたしは坑道を疾走する獣化を解いたシキオに抱えられていた。ワコとコウタも続いてるんだろう。


「お前らなっ、飢餓状態のヤツに濃縮エナジードリンク飲ませるようなもんだぞっ?! 殺す気かっ!」


とにかく、爆発炎上しまくる坑道からあたし達は脱出した。



坑道から脱出した翌日。

左手に包帯をして部屋着で寝っ転がってるソファベッドに時折、ガツガツとぶつけられながら、スマホでニュースを確認していた。

カルト組織の集団自決の死体は発見され、坑道は自決に使われた練炭や放置可燃物が原因の爆発崩落事故が発生したことになっていた。

状況的に対価の回収がほとんどままならなかったのと、自分から死ぬつもりだった者達の復元は難しかったんだろう。

ただ、親等に連れられただけの子供達や一部の自己判断がついていなかった障害者や精神疾患者達は多少は復活させられて、それぞれ『施設に保護されていた』と改変が試みられていた。

まぁ事実の整合性の為に関係者親族としてメディアや動画投稿者やネットの書き込みに突っ込まれてはいたが・・


「こんなもんか」


復活させた者達は返って酷い目に遭うような気もしたが、こっから先は『人間達の領分』であたしらじゃお手上げだ。


「ふー・・・」


成り行きで飲むハメになったシキオの獣達の血がまだ騒ぐ。身体の芯に火が点いたみたいだ。

昨日の夜はアゲハ丸を2時間くらい近くのカラオケボックスに追い出してシャワーに籠るハメになった。くそっ! シキオの分際でっ、


ガッ!


ソファベッド一際激しく揺れた。


「静かにやれよっ! そこの亀の電灯割るなよっ?」


だらしない部屋着のアゲハ丸は午前中に「約束でござる!」と買ってきたシングルベッドを狭いリビングにどうにか設置しようと四苦八苦していた。

あたしの部屋で空いてるのはリビングだけ。


「置く場所が無いでござるっ! マキコは引っ越しすべきでござるっ」


「なんであたしがあんたの為に引っ越すんだよ。そっちの端にでも置けよ」


「押し入れが塞がるでござる」


「じゃあ、テレビを端に寄せたらいいだろ?」


「『テレビの位置』から部屋のレイアウトを変えるつもりでござるかっ?」


「いいからベッド、どっか端に置いとけっ、つってんだよっ!」


「むぅぅっ」


アゲハ丸は怪力でシングルベッドを持ち上げて、狭い部屋をウロウロした挙げ句、あたしのソファベッドの隣にピッチリと置いた!


「あたしのベッドにくっつけんなっ!」


「場所が無いでござるーっ!!」


泣き出しやがったっ。


「泣き止めっ!!」


「嫌いでござるっ!!」


この後、めちゃくちゃ揉めて、同じマンションの住人達からクレームが入りまくった・・

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