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吸血鬼マキコ  作者: 大石次郎


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13/17

骨鯨

夏休みに入ったあたし、村坂、田島は市内の『縄文大海進展じょうもんだいかいしんてん』を開催している博物館に来ていた。


「展示名からしてぇ、カッコいいなぁ~」


「タダ券を北森(きたもり)君にもらえてよかったね!」


「ヤツは生きてるだけで、貢ぎ物が集まるシステムを構築しているのさ」


タダ券もだが、理由は他に4つあった。


1つ、縄文時代の鯨の骨のレプリカ標本が凄いと評判。


2つ、村坂は夏の演劇大会が終了し、田島も夏のコミケが終了し、暇にしてた。


3つ、我々は暇であれば博物館にゆくこともやぶさかではない、と思考するタイプ。


4つ、博物館周辺に夜間の怪しい霧の目撃情報が続発。あたしの仕事の範囲・・


シカオ達も別動で調べているはずだった。アゲハ丸は危険度は低そうだったのと、シキオが側にいない状態だと対処がややこしいので別動隊にパスしていた。

館内は展示名通り、縄文海進で海に沈んでいた海辺の平地だった地層から出た物をあれこれ展示してる。

縄文集落の痕跡物と海の生物の痕跡がゴッチャに展示されていて、思いの外面白い。

土偶の破片に張り付いた甲殻類の化石とかあんだよ。ビジュアルがカオスっ。

あたしが撮影可エリアで軽く興奮してスマホを持って村坂や田島と撮影していると、視界の端に離れた柱の陰に隠れた私服のコウタ(ジャージにサングラス)と私服のアゲハ丸(浴衣にサングラス)がちょいちょいと、手招きしてきた。


「・・悪い、ちょっとトイレと、貝塚に突っ込んだカブトガニの化石見てくる」


「豪気なっ」


「行ってらっしゃ~い」


あたしはサッとを2人の視界から消える所まで行ってから壁際をこそこそ取って返してきて、柱の陰に向かった。


「変装ヘタクソかっ?!」


取り敢えず小声で突っ込む。


「んだよ、自分だって吸血鬼だからって私服、ゴシック調じゃんかよ?」


「本性丸出しでござる!」


うっ・・、部屋着以外の私服はあんま着ないからこんなんしかない。


「あたしはいーんだよっ!」


「ヒデぇっ、マキコが友達連れてくるからめんどくさくなってんだぞ?!」


「横暴でござるっ」


ぐっ・・村坂は明日から家族旅行だし、田島は明日から予備校の夏季集中講義があんだよっ。

だが、グダグダ言ってもラチがあかない!


「いいからっ! なんかわかったか?」


2人は不満気な顔をしたが、どうにか『仕事』モードに切り替えた。よしっ。


「やっぱ、鯨の骨のレプリカに力の残滓(ざんし)があったが、『本体じゃない』って感じだな」


「レプリカや博物館関係者や、霧で被害が出てないか探ってる蛇達やシキオやワコからは今の所、収穫はないようでござる」


「悪意がなかったり、まだ魔物としてはっきりした形に発生する前の段階のヤツかもな。取り敢えずあたしもそのレプリカ見てみる」


「俺らは博物館の食堂でメシ食ってからレプリカ関係者に絞って調べてみるぜ!」


「『大海進丼』が映えるらしいでござる!」


「ああ、そうかよ」


それで2人と別れたが、アゲハ丸のヤツ、画像SNSやってんのか?? 1回、目立つなっ、て注意した方がいいな。たくっ、

とにかくあたしは村坂と田島がまだそっちまで回ってないのを確認してから、素早く鯨の骨のレプリカの展示まで移動した。


「は~、こりゃまた」


想定の3倍はデカい。まぁ鯨だしな。そして、やはり魔物の力は感じたが、コウタの言う通り本体の気配はなかった。


「立派でしょ? 私の夫がレプリカの監修をしたのよ」


「っ!」


レプリカに集中し過ぎて、不意に隣から話し掛けられたから攻撃的な反応をしそうになっちまって、慌ててたぶん紅くなってる目を閉じて気を落ち着けてから振り向いた。

身なりのいい老婦人だった。背筋もしゃんとしている。


「学者さん、なんですか?」


「ええ、考古学の。この展示の海進域の発掘をしていて、もう10年も前に亡くなってしまったけど」


「そうですか・・」


思い切りレプリカ関係者来たな。


「発掘地のもう少し奥まで発掘したかったみたいだけど、国や大学の予算を取れなくて、最後まで残念がってたわぁ」


「それは」


と、ここであたしのスマホが振動した。取り出して確認すると、シキオからのメールだ。わざわざメールってことは長文だろう。

少し迷ったが学者の夫人が今この場に来てるってのがわかってれば、結局殺し屋に過ぎない、あたしよりむしろ蛇達の方が上手く調べてくれるだろう。


「すいません、ちょっと電話を」


「ええ、お友達によろしくね」


「友達って程じゃ、はは・・」


館内は殆んどのエリアで電話禁止。あたしはふわふわした受け答えで取り敢えず人気の無い職員用通路に入り、メールを確認した。

ビッシリ書いてある。要約すると、博物館の霧は日に日に拡大しているが、普通の人間にはほぼ認識もされず今のところは被害はないが、力のある霧の中では弱い魔物でも多少活性化する傾向があって放置はできそうにない。

関係者の内、特段に怨恨や魔物や魔物に絡んだ品に関わった人物は見当たらないが、数名、力を持つ家系の人間はいて、調べてはいる。

シカオは意識不明で入院している鯨のレプリカ監修者夫人の様子を見に行っている。この夫人の本家は神社の巫女の家系で・・って、えっ?


「意識不明で入院っ?!」


あたしは通路から出て鯨のレプリカの方を見て確認した! いないっ。


「お友達によろしく、とか言ってたなっ」


あたしは人気の無い通路に戻って、シカオに電話した。



・・日が暮れると、あたしは博物館に一番近いネットカフェからヨロヨロとコウタとアゲハ丸と出てきた。出てすぐ横の路地裏に入る。

モソモソとリストバンドにしていた拡げて黒のケープを羽織る。


「なんでなんもしてないのにバテてんだよ?」


「昼間、村坂と田島と博物館行って、本屋行ってミスドまで行って駅で別れてからまたこっちに戻ってきてんだぞ?! 虚弱なあたしがっ! ドーナツ食べさせられて! 夏の日差しの中をっ。小1時間くらい仮眠取っただけで回復するかよっ?!」


「っ? マキコ、そんな虚弱だっけ? 日渡りだろ??」


「ガラス細工のように扱えっ!」


「えー??」


「とっとと、屋上に昇るでござる」


「おわっ?」


アゲハ丸があたしを抱え、壁を駆け上がりだした。コウタも続く。

ネットカフェが入ってる4階建てビルの立ち入り禁止の屋上からは博物館がよく見えたが、


「・・増血剤を飲むのはまだ早いから好きにさせているが、降ろせよ」


「お礼を言うまで逆に持ち上げるでござる!」


アゲハ丸は逆に頭の上に抱え上げやがった!


「やーめーろっ! コウタにスパッツ見えんだろっ?」


「見せんなっ、つーかワコまだかよ?」


屋上で小競り合いをしつつ、蛇達やシカオと連絡を取っていると完全に日が落ち、夜になると、ようやく風に乗って海辺のリゾート地に来たみたいな格好のワコが合流した。


「はーっ、秋田まで行ったのに無駄骨っ☆」


「あんた、スマホ電源入れとけよ? 連絡つかないだろ?」


「速く飛んでる時は無理無理~っ☆」


コイツも大概だよっ。とにかく、それからさらに5時間(!)経ち、博物館から人気が無くなって、おそらく守衛2人くらいしかいなくなると、周囲に奇妙な霧が立ち込めだした!

すぐにシカオから電話が入った。スピーカーモードで通話を繋ぐ。


「夫人の容態が急変した。かなり悪いみたいだね! ただ、市立病院では特に怪異は起きてないよ」


「シキオはそっちにいてくれっ、こっちはあたしらで対処する」


「わかった。何かあったら連絡する」


通話は切れた。あたしは増血剤をガリっと齧ってから飲む、血が騒ぎ、魔物の力が増した。


「皆さん」


霧の中、蛇の上役の1人が屋上に現れた。


「想定より霧の範囲と力が強いです。下等な魔物の類いが騒ぎだしていますが、雑魚は対価集めついでに我々が始末します」


「任せた」


「はっ」


上役は霧の中に消えた。

それこら間も無く、博物館の方から管楽器のような奇妙な鳴き声が響き、建物の真上辺りに巨大な影が出現した。


「鯨だ!」


それは骨の身体に半透明の肉体を持つ鯨だった。頭部の上に2人、人が乗っている!


「とっとと倒しちまおうぜっ?」


両拳に炎を点すコウタ。


「いや、そういうモノに見えない。ちょっと話す! アゲハ丸っ」


「ふむ」


あたしはアゲハ丸を小太刀の姿に戻し、ケープから取り出したシキオの血のボトルを斬って、獣のような血の蝶の群れを造りだし、乗った。


「コウタ、フォロー。私は遠巻きで雑魚狩り専念するよ☆」


「まだるっこしいなぁ!」


ワコは風に乗って飛び上がり、コウタも拳の代わりに足に炎を点して飛び上がってあたしに続いた。

霧の中、一度絡んできた下等な魔物を切断しながら鯨に近付くと、


「っ!」


若い。20代くらいの昭和風の私服を着た落ち着いた雰囲気の男女が鯨の頭の上に乗って何か話していた。身体は透けている、霊体だ。

乗っている鯨の骨は実体のあるレプリカの物だった。天井に損傷は無く、すり抜けさせたようだ。

戦闘型の魔物でない方が返って特異な力を発揮することはわりと多い。


「・・あんた、身体が死にそうだよ?」


2人はこちらを見た。


「昼間の子ね。私達はこの子を子供達の所に返してあげようと思って」


「海にでも帰すつもり?」


「そうじゃないわ。夫が発掘できなかった平地の先に、この子の子供達の骨が埋まってる。そこへ連れてゆきたいの」


発掘地は隣の県だ。直線で行くと他の土地神や強壮な魔物のテリトリーをいくつも越えることになる。


「・・わかった。だが、あたしらの案内に従ってくれ。間に交渉できそうにない土地の主がいくらかいる。そこは避ける」


「お願いするわ。貴方、行きましょう。私の時間も残り少ないから」


若い姿の夫の霊は頷き、骨の鯨は妖しい霧と共に発掘地の方角に飛び始めた。

あたしとコウタはその先頭に回り、あたしは蛇の上役に電話した。


「狩らずに発掘地まで案内することにした。主達に交渉と、ルートを指定してくれ! 夫人が亡くなると維持が難しくなる気配もあるっ」


「わかりました。シキオさんとワコさんにも伝えます。夫人は延命させた方がよろしいですか?」


あたしは若い姿の夫人の霊を振り返って聞こうとしたが、言う前に首を振ってきた。


「必要無いそうだ。配分は察してるんじゃないか?」


「わかりました。ルートは逐一SNSで!」


通話は切れ、あたしとコウタは霧を纏う骨の鯨を先導に専念しだした。


「元々力が使えた、って感じでもないな」


「ええ、こんな身体になって、ふと気付いたら夜の博物館に魂だけで来ていて、その内、夫やこの子の霊とも会えるようになって・・。いや、2人とも、私の寂しさが呼び出してしまったのかもしれない」


夫人が俯くと、夫がそっと手を握り、骨の鯨は管楽器の鳴き声を放った。


「力に目覚める機会が無いまま人生の最後まで来ちまったんだな」


コウタが飛びながら近くに寄って耳打ちしてきた。コイツ、さっきまでキャベツ太郎食べてからキャベツ太郎のにおいが凄いな! 話がいまいち入って来ないが、


「・・それでよかったんだろ」


とだけ応えておいた。



骨の鯨の速度はさほど速くなく博物館から何時間も飛び、東の空が白染み始める頃、ようやくあたし達は発掘し損なったという何の変哲もない、田園の先の、上空から霧越しに見ると、やや切り立った2つの山裾の挟まれた平地にある森まできた。

発掘するのに広域の森の伐採までする、となると行政が尻込みするのもわからなくはなかった。


「ここね。呼んでおやり」


夫人が鯨の頭の上で座って頭を撫でてやると、鯨は一際大きく鳴いた。すると、それに応えて、森の土のしたから骨の鯨よりカン高い幼い鳴き声がいくつか響き、すぐに半透明の小さな骨の鯨の霊が4体、地から飛び出してきた!

小さな鯨達は甘えるように骨の鯨の周囲を飛び回りだす。

これに、骨の鯨は長く吠え、吠え終わると骨の鯨も、小さな鯨達の骨も、夫人と夫も光に包まれ始めた。


「見守ってくれてありがとう。貴女達は神様の遣いなの?」


あたしとコウタは面食らったが、コウタは、


「へへっ、俺様は!」


とすぐ調子に乗りかけたので黒のケープを口元に巻き付けて黙らせた。


「ただの暇は化け物だよ。忘れていい。最後にちょっと妙なことになっただけで、あんたはいい人生だったよ」


「優しいのね・・」


夫人と夫は本来の年老いた姿に戻って、光の中、骨の鯨達と共に昇天していった。レプリカの骨標本だけ森に落ちた。

コウタの拘束も解いてやる。

妖しい霧も晴れ、朝日が昇り始めた。あたしには少し眩し過ぎる光。

ワコや、飛ぶ舟に乗った菱沼の蛇達も寄ってきた。


「マキコっ、お前なぁ!」


「出番ほぼ無しでござる」


コウタのクレームやアゲハ丸のボヤきを聞きつつ、あたしはシキオからの電話に出た。

夫人は穏やかに亡くなったそうだった。



翌日、昨日はあまり構えなかったので、クズるとややこしいので、あたしは午前中から神社奥の湖の異界の御殿のベビールームに来て、一番楽な学生服姿でソファに座り、ベビー菱沼を抱いてぼんやりしていた。

今日は、コウタは自分の町で人間の子分達とボランティアのゴミ拾いに行っていて、ワコは本拠地の街の寺の法事かなんかを手伝い(あれで尼もやってるらしい)に行っていた。

シキオは蛇の上役の指南の元、ベビー菱沼用の粉ミルク作りをせっせとしていた。

アゲハ丸はゴーグルを付けて何やらVR対戦ゲームに興じ、


「何っ?! バカな! 3属性を掛け合わせることでシールド貫通効果を付与だとっ?! ぐわぁ~~~っ!!! で、ござるぅっ!!」


とかなんとかやっていた。


「・・いい人生、なぁ。勢いで、いいこと言っちゃいまちゅたね? 菱沼」


あたしは、ベビー菱沼に話し掛けてみた。イタチの着ぐるみ風ベビーウェアの着た菱沼はただ、うとうとするばかりだった。

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