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ほぼ人間

吸血鬼にも色々種類がある。なんかミミズの化け物みたいなのもいるし、オーソドックスに日光や十字架やニンニクが苦手、ってのもいる。あとはまぁ中国のキョンシーとか、南米のチュパカブラとか、日本のケウケゲンとか、例を上げたらキリがない。

どいつもこいつも定期的に人間の血が吸えないとやってけない人間依存種族だ。

世界吸血鬼学会の説によればどうやらあたし達吸血鬼は全種、元は人間だったらしい。

となると人間由来の魔物の中でも、あたし達はかなり『未練がましい一群』と言えるだろう。

因みに、あたし、草ヶ部万亀子(くさかべまきこ)の種族というのは、


「草ヶ部さんっ!」


「ふぁ?」


体育館の端でだらしなく三角座りをしながら、イヤホンをして密かにおはじき型の課金ゲームに興じていたあたしは、突如飛来したバスケットボールが顔面にぶつかって昏倒させられた。

あたしの種族は『日渡(ひわた)り・極東3種A型』。日中活動し、普通に年を取り、基本的に出産で増え、血液は週にお猪口一杯程度で問題無く、特に弱点は無い。

しかし、強いて弱点を述べるならば・・


『脆弱かつ無能力』


という性質があった。

敢えてはっきりと宣言しよう。

我々は、ほぼ人間であると。



保健室で目覚めた。

ベッドから起きて、上履きを履き、少しふらつくがカーテンを開ける。

無駄に美人な保健師の菱沼(ひしぬま)が長い舌を出して旨そうにイモリの黒焼きを食べていた。吸血鬼じゃないが、コイツも魔物。


「菱沼、学校でそんな物大っぴらに喰うなよ? 人間にバレるぞ?」


菱沼は涼しい顔で、続けて臭い消しのレモン味のタブレットをモリモリ食べだした。


「ひゅんへつれほ? ほんへひな」


食べ終わらぬまま、小さな紙パックに入ったプルーンジュースを差し出してきた。貧血をどうにかしろ、ということらしい。


「・・ありがと」


大人しく飲んだ。脆弱な日渡り種でも、一応吸血鬼なので血が増えると大体のダメージはそこそこ回復する。



で、なんだかんだで下校する。


「いやーっ、ビックリしたぁ。持崎(もちざき)さんも慌ててたよ?」


クラスメートの小柄で縁眼鏡を掛けた漫画同好会の田島香南(たじまかな)。人間の友人、その1。


「草ヶ部って、虚弱だから、『私、イジメてないよっ?』アピールがあの後凄くてちょっと面倒臭かったわぁ」


同じくクラスメートで痩せて背の高い演劇部の村坂代々喜(むらさかよよぎ)。人間の友人、その2。


「うっかり『陰の者(いんのもの)』を踏ませてしまったばかりに、サッカー部の副キャプテン男子と付き合える『陽の者(ようのもの)』を動揺させてしまったようだね」


「そうそう、全く、恐れおおいことだよ。むしろ草ヶ部が菓子折りを持ってゆかないと」


背を屈めて言う村坂。


「『袋入りブラックサンダー』で手打ちにできまいか?」


「なんと豪気なっ! それはもはや買収だぜ? 草ヶ部ぇっ」


「ふふっ、袋入りブラックサンダーの力で1枚だけでもインスタに登場してもらい、リア充を偽装できまいか?」


「狡猾なヤツっ! 私もその画面に入れろっ。青春の記憶を改竄する!」


「卑屈だなぁ・・」


あたしと村坂に呆れる田島。

我々は、それから駅前のアーケード商店街に向かう。田島の画材と村坂の舞台衣装の材料と、それから実際、あたしは袋入りブラックサンダーを買った。

駅前にはスタバもあるが、


「あの施設っ、なんたる『意識高いオーラ』かっ!」


「村坂気を付けろっ、我々のような者が『なんとかペチーノ』を一口でも飲むと、穴という穴から『ペチーノ』が噴出して死に至るぞっ?!」


「おのれペチーノっ!! 絶許(ぜつゆる)っっ」


「もうっ、2人共さー、駅前結構人多いから、恥ずかしいよ。そこのマック入ろ?」


赤面している田島。


「よかろう」


「参ろうぞ、村坂の」


我々はマックに入った。



田島と村坂はポテトとドリンクだけ頼んでいたが、あたしはコーラのみにした。

液体はわりとイケるが、固形の人間の食べ物は消化するのに疲れる。

既に昼休みに田島と村坂に付き合う形で少食とイジられながらコロッケパンを1つ平らげてみせていた。陽キャの持崎にバスケットボール喰らったし、あたしは疲れてるんだよ・・


「今期、万策尽き過ぎだよねー」


「あ~、田島が好きなので止まってんの多いよなぁ」


田島のアニメトークに村坂が付き合っている。あたしはどっちかというとドラマ派だが、友人として乗ってやらねばな。等と思って薄い視聴知識で話に入ろうとしていると、


「っ!」


香ばしいマックの店内に、私のよく知る臭いが2つした。本性を出した魔物と、人の血と肉と髄液の臭い。


「あたし、ちょっと御手洗い行ってくるわ」


「は~い」


「無事、帰還しろよ?」


「うッス」


鞄を持ったあたしは2人や外の客や店員や把握している防犯カメラの視界の範囲で普通に移動し、そこから離れると、ポケットから増血剤を1つ取り出して指で弾いて口に入れた。目が、紅くなる。

ドクンっ! 血がたぎるっ。これで部活を真面目にやってる男子高校生程度の身体能力と、五感の発達、回復力の上昇等は確保できる。弱過ぎるから、ドーピングする!

あたしは素早く洗面所から個室になってるトイレに入ると、鍵を閉め、歯で指を傷付けて出した血を操って高い位置にある小さな窓の鍵を外し窓を開け、そこに飛び付く。

ゴキゴキと間接をあちこち外し、蛇のように窓から出て路地裏に落ち、またゴキゴキと間接を戻す。


「・・こっちだな」


臭いを嗅いで確認すると、路地裏を走りだす。鞄に手を突っ込んで底の隠し蓋を外してサイレンサー付きの拳銃を取り出して安全装置を外す。

路地裏の先に、見えず、近付けば立ち去りたい衝動を感じる『壁』があったが、蹴破る。砂が崩れるようにして穴が空き、あたしは中に入る。

中は血塗れだ。サラリーマンらしいのが喰われていた。歪な裸の子供に大きな口だけの頭部の魔物が3体。『オオグチ』の系統だろう。


「ナンダッ?」


「オ前モ魔物ダロ?」


「分ケテヤラナイゾ?!」


相手は動揺したけど、私は無言で3体を銃撃した。『銀の弾丸』で2体は為す術無く消滅し、最後の1体は手傷を負って激昂して口の頭部を拡大させて飛び掛かってきた。

あたしは既に『靴で踏んで』触れている運が無かったサラリーマンの血液を多数の血の槍に変えてオオグチを串刺しにして、消滅させた。


「マーキングしてたろ? ・・この辺りはあたしのテリトリー」


あたしはスマホで後始末の連絡をした。

日渡り・極東3種A型は虚弱な為、血の携帯と、魔物を殺す為に人間が作った武器を活用する術を身に付け吸血鬼の中でも奴隷の身分から脱して生存していた。



埃を払い、血も始末して、普通の顔であたしはマックに戻った。


「というか、このビルダー見なって!」


「うわーっ?! 肉だよっ」


村坂がボディビルダーの画像コレクションを田島に見せびらかしていた。


「草ヶ部ぇ、この尻筋(しりきん)のキレっ! 見てくれよっ」


「あーごめん、ちょっと直接的過ぎる」


「いや違うっ、人間賛歌っ!!」


「肉々しいわ」


「筋肉のあるお尻だったら、私画くの得意だよ?」


「え~? なんで1回2次元挟むんだよ? もっと生身の筋肉を信じろよっ?!」


あたし達はいい時間まで、マックで無駄話をしていた。

ほぼ人間の暮らし。あたしは気に入っている・・・

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