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マジョル

 夕暮れ時には帰宅しないといけないんのでマジョルを使って素材の資料探しを行う。マジョルが資料を探し出し、私が資料を運び、写本を行う作業台でピコラが写本を行う、という分担作業を行っている。


 時間がもったいないので詳しい話を後ですることを約束し、彼女には手伝ってもらっている。


 決して魔導刻印を施したアイテムで買収したわけではないぞ?


 普段ぽやぽやしているピコラも、特級錬金術師の弟子として破格の才能を持っている。今も作業を行っている顔は真剣で、書き写す速度は尋常ではない。


 偶に大きなミスをするが基本的に優秀なのだ。ぽやぽやしているが。


「……悪魔っていたんだ。お化けみたいなものかと思ってた」


「――間違いではないぞ? どこにでも現れ、甘い誘惑で惑わす怖い存在だ」


 マジョルの呟きに反応した私は背後からそっと首筋に触れた。ビクンッ、と彼女の背が跳ねたが、もう漏らさないでくれよ?


「! ――意地悪な事はわかった。でもプレゼントの追加を要求する」


「欲張りさんだな。でも悪魔的には良き回答だ、これをあげよう」


 魔臓結晶の指輪を渡す。ストックはまだあるが補充がしにくい品物だ。


「――なにこれ? 紅い指輪?」


「数多の人間の心臓だ――何千人という命の結晶。愚者の石とでも名付けようか。強力な魔術の触媒になる」


「そ、れは……禁忌とされている邪法錬金! 過去に錬金生成しようとした国が滅んだ絶望と怨嗟のレリック級アイテム……」


「受け取ったな――これで君も禁忌の共犯者だ。見つかれば殺されるぞ……」


「卑怯なッ! ――なにこれ! 外れない! 鬼! 悪魔!?」


「フクククク、悪魔ですから。ああ、楽しいなぁ。――アイテムを通して少し魔術を使ってみると良い、面白い事が起きるぞ」


 彼女は外れない呪いにも似たアイテムを通して魔術を使用し始める。


 部屋を明るくする為の基本的な呪文を恐る恐る唱えている。


『――開けぬ夜は無き、暮れぬ陽は在らず、暗闇を照らせ明星の光』


 閃光弾を撃ち込まれたような目が眩む膨大な光量が発生する。


 図書館でも奥の狭い場所で試して良かったな、マジョルは閃光が直撃してフラフラしている。


 私の小さな手を彼女の瞼に当てて視力を回復させる。≪奇跡の甘露(ヒール・ドロップ)≫を発動させると少々手元が濡れる。物理的に霊薬を発生させているから、もしかしたら錬金の素材になるかもしれんな。


 彼女の顔をよく見ると開かれた瞳の虹彩が紅く煌いている。


 これは魔眼の類か? ――これは見え過ぎているな、悪魔だとすぐに分かったわけだ。


 彼女の瞳はとても知りたがりのようだ、普段の生活でも目がとても疲れるだろうな、仲良くなれば術式を遮断する眼鏡でもプレゼントしよう。


 尻もちをついている彼女を引き起こす。彼女は瞳が露出している事に気が付くと目元を髪の毛で隠してしまう。


「――見ました?」


「魔眼? 見え過ぎて疲れるだけでしょそんなの」


「そういう事じゃないんですが……いえ、いいです」


 目を背けると愚者の指輪を触りながら色々試し始めた。気に入ってくれてなによりだよ。


 再び資料探しに戻るとピコラの写本作業が終わっていた、ちょっとマジョルとのやり取りに時間が掛かっていたようだ。


「もうっ! 探したんですからね! そんなにマジョルちゃんと仲良くなっちゃってぇ~!」


 はいはい、マジョルの手元の紅い指輪を見てぷんすこ怒っている。


「ご機嫌取りではないがピコラには守護の指輪を帰ったら作ってあげるよ。早く資料をまとめたら帰りに買い物をして行こう」


「約束ですからねぇ~!」


 ピコラの顔を見るとなぜか落ち着くな、ヘーゼルのクリクリとした大きな瞳に癖っ毛のあるショートボブ、平凡なんだけど愛嬌があって良い。娘にしたいタイプだな。


 マジョルも手伝ってくれたおかげなのか、作業もおやつの時間までに終わってしまった。


「大体の目星がついたか? かなりの量を素材図鑑に更新していたけど」


「ばっちりです! ビビっと来たものがいくつかありました~」


 そのあたり私には分からないが錬金術師の素質に左右されるらしい。ビビッときたからとか、なんとなくそう思ったからとか、いいと思ったからなど。ふわふわ抽象的すぎる職業だな。


 後方に所在なさげに視線を彷徨わせるマジョルはいるのだが、買い物に付き合わせるか?


「マジョルちゃん一緒に買い物に行かない? ダンタリオン君と王都ないの買い物におこづかい出してくれるんだって!」


 元々師匠から貰っておいた分とスリからカツアゲした分があるからな、個人資産も馬鹿にならないぐらい持っている。


 ちょくちょく暇な時に加工している、趣味の彫金で作った物を街の知り合いに低価格で販売している。宝石を綺麗にカットしていて品質が高いのに驚くほど安い値段で売るなと、逆に怒られてしまっている。


 ダイナミック薬店の店主メルシアにはお世話になっているので、彼女にはアメジストを散りばめたバレッタをプレゼントした。


 有無を言わさずマジョルの手を引いて王都の繁華街へ繰り出す二人、私はさりげなく護衛モードに切り替えるも楽しそうに買い物をしている。


 大図書館を出てからマジョルの護衛らしきものが慌てて着いて来ている、剣の腕が立ちそうな女性だな、彼女はどこかの有名な家系なのだろうか?


「ねぇねぇダンタリオン君! これ、マジョルちゃんに似合うと思わない!?」


「は、恥ずかしいよ……」


 マジョルの司書が着ているようなカッチリとした服装に、赤いチェックのキャスケットがよく映える。――良いね。


「寒色のモード系の服装に、暖色の可愛いキャスケットは良いチョイスだ。お互いに引き立て合ってマジョルにピッタリだね」


「でしょでしょ! ほらっ、マジョルちゃんこれ買おうよ!」


「え、でも……」


 まごまごしている間に支払いが終わり、帽子は可愛い袋に入れられてピコルからプレゼントされてしまう。


「はいっ! わたしとダンタリオン君がマジョルちゃんに会えた記念品ね!」


 渡されたプレゼントをマジョルが胸に抱きしめる、意外と気に入ってくれたようだ。


 すると無粋にも護衛と思われる女性が痺れを切らしてこの場に入って来る。


「お嬢様ッ!! いい加減帰りますよ! ご当主様がお待ちです!」

 

 少し強引にマジョルの手を引くとプレゼントした帽子を入れている袋が地面に落ちた。――おい。


 不躾な護衛の女性の首を掴むと地面に叩きつける。顔面を地面に強打させ鼻血が噴き出している。なにか叫ぼうとしていたので数回地面に顔を叩きつけた。


「――てめぇ、可愛い女の子同士で仲良く親交を深めてんのが見えねえのか? 空気読めやアバズレがッ! ――護衛の腕も糞なのに空気の読めなささも糞なのか? あ゛!?」


 かなりの殺気が漏れていたようで周囲が騒然となる。小さな男の子に組み敷かれている女性が顔面を地面に叩きつけられてはそうなるか。


「!! まって!? ダンタリオン! ごめん! 私が悪かったの! 約束の時間を過ぎていたから……。クリュレ、行こう……」


 手を放していた私の足元から起こすとそのまま手を引いてどこかへ行ってしまった。床に落ちている、帽子の入った袋が悲しそうに土誇りを被っている。


 私はそれを拾うと≪清浄≫で綺麗にしインベントリに仕舞う。


 しょんぼりしているピコラの頭を撫でてあげると声を掛ける。


「――大丈夫だ、マジョルも楽しそうにしてたんだろ? これは後で私がプレゼントして置く。ちょいと家族が怖くて焦って忘れただけだ。気にすんな、私の可愛い契約者よ」


 いつも以上に丁寧に愛情を込めて撫でてあげると気を取り直したのかお菓子を買いに行こうと手を取り引っ張られてしまう。


「そういうおませなダンタリオン君も好きだよぉ? ありがとうね~」


 彼女なりの照れ隠しなのだろう。大人しくお菓子を買い漁りに行く。師匠へのお土産も買わないとあの人とんでもなく拗ねるからな。


「師匠へのお土産も忘れずにな?」


「あ!? そうだったねっ! 今日はすっごく楽しくて忘れちゃうところだった!」


 テヘペロが似合う人物は貴重だと思う、嫌味が無いのがいいね。


 夕暮れまでに工房に着くとお土産の催促を早速されてしまうが、対策はバッチリだったので拗ねられずに済んだ。


 マジョルへプレゼントを渡しに行かないといけないな。

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