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大図書館へ

 錬金術とは素材同士の相性を見極め、適切なタイミングで投入し杖でかき混ぜる。レシピさえ判明すれば誰でも簡単に作成できそうだろう?


 ところがそうはいかない。


 合わせる素材同士の可能性を杖を使って意思を込め、導きだすという作業が困難を極める。


 素材の特性を知らなければいけないし、完成後の効能などしっかりと認識していないといけない。

 

 もちろん相性なと素材の収穫時期や、鮮度が悪くても結果が左右される。


 ハッキリ言おう、私に向いていないと。


 コンマ何グラムの世界や、原子配列が、云々なら高速演算でどうとでもなろう。


 毎回結果が変わり、可能性の意思を伝えるさじ加減で効果が乱高下するのだ。もういっその事、素材を乱獲して作ってもらった方が早いと思い錬金術の習得を諦めた。


 言っておこう、錬金術師は尊敬に値すると。


 しかし、人間性までが伴うかどうかは疑問ではあるがな。


「ふ~ん、ふふふ~ん、ふふふふ~ん。――できたわ、クルテ草の丸薬!」


 レシピ自体はすでに覚えており効能も分かる、気分で効果が上がるのならば応援している事が私にできる事だ。


「いつも思うが本当に錬金術師は凄いな、私には真似ができない」


「あら、嬉しい事言うじゃない! でしょ? でしょ? うふふふ」


「師匠! はやくはやく、急がないと納品が間に合わないですよぅ」


 街の薬屋に注文されているクルテ草の丸薬、コジ粉の飲み薬、カスミ液の点眼薬の三点が注文されている。


 それぞれ、精神安定剤、風邪薬、目疲れに対応した効能を持っている。


 こういう簡素な治療薬の錬金に必要な素材は近場の森で採取ができ、最近ピコラと共に出かけている。


 門番とも顔見知りになり森の常連となっている。


 師匠が作成した注文された薬をピコラと丁寧に梱包し、背負うタイプの薬箱に詰めていく。


「ダンタリオン君行くよ~、ダイナミック薬屋さんに行かなきゃ!」


「もうすこし穏やかな店名にすればいいのにな、あの店主も見た目はお淑やかな女性なのに」


 何度も行けば顔見知りにもなる、背後に綺麗な花が咲き乱れるイメージを持つ美しい女性店長なのだが、名付けが壊滅的に悪いのだろうか?


 じいさんばあさんもダイナミックになるのか?


「ほら~行くよ~」


 はいはい、薬箱を背負いピコラについて行く。力持ちな私はもっぱら荷物持ちと護衛となっている。









 「またお願いね~、ダンタリオン君もおりこうさんね、ほら、飴玉あげるわね、うふふ~」


 私は貰ったしゅわしゅわする飴玉を口の中で堪能しながら女性店主に大人しく撫でられる。


 店長の名はメルシア、このしゅわしゅわする飴玉はこの店の目玉商品だ。


 喉のイガイガに良く効くと評判だ。


 なんでも錬金術に頼らない特殊な技法で配合しているらしい。何それ凄い、私を弟子にしてくれないかね?


 納品が終わるとピコラと二人で商店街を歩き、今日のお夕飯の食材を購入するのが定番だ。


「ダンタリオン君今日は何食べたい? コッコ鳥のから揚げにする?」


 ああ、あれか。あのカリッサクッの食感と溢れ出る肉汁は最高だったな。それにしようそうしよう。


「ああ~涎が出てる。ほら、お肉屋さんに行くよ~」


 三人分のお肉とパン粉を購入し帰路に着く、そういえば最近美味しいご飯しか食べていない記憶しかないな……ピコラの料理がうまいのが悪い。


 食卓を三人で囲み、ガツガツとコッコ鳥のから揚げを食べていると、師匠であるルコレが話しかけて来る。


「あなた達、いい加減杖の素材を調べてこないの? 錬金を手伝ってくれるのは嬉しいけど」


「!! 忘れていましたぁ!? ダンタリオン君が毎日美味しそうにご飯を食べるから料理に力が入ってました~」


「うむ、対価を十分に貰っている。今なら宝石をトン単位で出すぞ?」


「ダンタリオン君が貴金属出してくれるから家計は大助かりだけど杖の素材としては相性最悪なのよね~、道具としては新種のレシピが沢山出来たのになんでかしらぁ?」


 私が師匠に提供した他世界の金属、オリハルコニアや、隕鉄、マントルコアなどの超希少金属は大層役にたった。


 飛び上がらんばかりに歓喜し、しばらく薬の納品作業に影響が出たくらいだ。


 しかし、契約内容であるピコラの杖には不適切と結果が出ており、大事な物だけピンポイントで役に立たなかった。


 恐らくこの世界の理を操作し錬金するという事象に、他世界の理が反発するのだろうと推測をしている。

 

「取り敢えず杖の素材として基本である、精霊樹木の枝から取ってきたらいいんじゃない? 他の素材は文献を大図書館で調べるとして」


「精霊樹木……ああ、深い森の清浄な泉付近に、自生しているというのを書いてあったな」


「ああ、あの凄い値段の高い素材ですね!」


「そそ、自分で採取と言うか精霊樹木にお願いして枝を貰わないと、自身の杖として精霊の働きかけが馴染まないのよ」


「この街からだと……一週間ほどの旅になりそうだな、他にも採取できる素材があるかもしれないし、大図書館とやらで調べものをしても遅くはないんじゃないか?」


「そうね、ついでに採取してほしい素材のリストを書いて置くから二人ともお願いね? ちゃんとおこずかい上げるから! ね? ね?」


 ナイチチで私の後頭部に引っ付くと、精一杯の色気を振り撒いて来る。こいつの目の中には、錬金三昧と書かれている。


 実際錬金術師は特級の資格を持っていれば潰しが効くし、実際儲かるらしい。


 このルコレの様に錬金趣味に傾倒している変人が錬金術師に多いらしいからな。


 まあ、色々錬金で作成したアイテムを貰っているし、それぐらいなら私は問題ない。ピコラはどうしたいのだろうか?


「う~ん。丁度、素材図鑑の更新を行いたかったので大図書館に行くのですよぉ~」


 そうなった。


 ピコラの隙を伺い、盛り付けしている最後のコッコ鳥のから揚げは頂いた。









 ルコレの工房は王都の近くにある大きな街で営んでいる。


 街道を半日ほど歩けば王都へと到着するが、私がいるのにそこまで時間を掛けるわけにはいかない。


 ピコラを小さな背中に背負い、地面から少し浮きながら高速で飛行している。


「うわ~早~い! ダンタリオン君が居ればどこでも飛んで行けるね!」


 そうだろうそうだろう。実際インベントリで素材の収納、飛行を行い素材の採取地域へすぐさま行ける。錬金術師垂涎の悪魔である。


 王都の入り口にある検問の手前でピコラを降ろすと、入場の待機列へと並ぶ。


 特級錬金術師の証明書が有ればすぐさま通行できるが、ピコラが取得するまでにまだまだ掛かるだろう。今は大人しく待っているだけだ。


 王都の街並みは賑わっておりピコラの視線がキョロキョロしている、そのままだとスリに……。


「あいだだだだッ! 何すんだクソガキ!」


 腕を捻って地面に押さえつけるが言いがかりを付けて来るスリ、首元に隠し持っていたナイフを肉に食い込ませる。


「大人しく出すもん出せば生かしてやらんこともない。五秒待つ――賢明な判断だ」


 一瞬だけ殺気を漏らすと素早く頷き、金目の物を置いて逃げて行った。このお金を使ってピコラの好きな物でも買って行こう。


「ダンタリオン君大丈夫!? あの人なんだったの!?」


「スリだったよ? おこづかい貰ったから帰りになにか好きな物買って帰ろう」


 散策も終わり、目的地へと向かっていると王城に隣接する大図書館が見えて来る、その大きさは見上げると首が痛くなりそうだ、入り口には石柱が綺麗に並んでおり、美術的にも装飾に括っている事が伺える。


 その大図書館の入り口で受付を済ませると売店で写本するための用紙とインクを購入する。ここで購入した物でなければ写本ができないというルールが存在している。


 無料で閲覧できるのだからそれぐらいは払って当然だろうなと思う。


 目的である素材の資料庫へ向かっていると切りそろえた髪の毛が目元まで隠れ、少し陰のある印象の女の子と目が合った。


「!! あ、あ、あなた……悪――」


 瞬時に彼女の口を塞ぐと耳元で囁く。


「それ以上の名称を言うと王都民すべてが不幸になるぞ? 貴様はそれでもいいのか? 私はここの資料を閲覧しに来ただけだ。――それともなんだ、貴様は種族差別肯定派か?」


 首を横に振りながら身体がブルブルと震えている。


 するとピチャリ、と液体の零れる音がした。


 足元に視線を向けると彼女の股の間に差し込んでいる私の足を伝い、液体が漏れ出している。――これは。


 彼女の顔を見るとポロポロと涙が零れ落ちており、これではまるで私が虐めている様ではないか。


「ああッ! ダンタリオン君! 女子のを虐めちゃ、めッ! だよ! ごめんね、ウチのダンタリオン君が……大丈夫?」


 彼女からゆっくりと離れ、指を鳴らすと≪清浄≫を発動させ綺麗にした。


 その術式を見たのか凄く驚いている。


「初めまして! わたしはピコラだよ~? あなたは?」


「私? 私はマジョル。マジョル・アーカイブ。――そこの子、悪魔でしょ?」


 一応小声で聞いて来ては居るが完全に気付いているな。


 顔面蒼白になっているピコラを見てこの状況をどうするか考えてみる。

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