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錬金生物?

 精霊世界にてVRアバターに付与された悪魔の概念が成長し、その振る舞いに“らしさ”がでてきたように思える。


 性格が人をからかうようになったり、勿体ぶる言い回しが好きになったり。


 楽しく過ごせているからそんな私を否定しないがな。


 現在は次元を揺蕩っており次に世界へと引っ張られている感覚がしている。


 ゾンビの世界ではそう時間はかかっておらずもう一軒程向かっても大丈夫だろう。――居酒屋の梯子感覚で回るものじゃないんだけどね。









 む、ここはどこだ、どこかの工房のような室内なのだが大きな窯が数個程ぐつぐつ煮えたぎっている。


 足元には古惚けた書物が置かれており、私はその“本”の上に浮いており、身体も全身真っ黒になってしまっている。


 悪魔らしい悪魔の姿であろう、二本の角は側頭部より捻じ曲がり全面に突き出しており、尻尾は刺々しく蛇腹状に、手と足の先の爪は鋭くあらゆるものを切り裂くだろう。


 両の手で顔に触れてみるが竜のような顔に、鋭い牙も生えている。


 うーむ、目の前に引っ繰り返っている、小さな少女なら状況は分かるのだろうか? その後ろに居る妙齢の美女は、極めて厳しい表情をしているが不安になるではないか。


「判定レベルオーバー……測定不能ッ!! マズイ! ピコラッ! 逃げなさい、今すぐに!」


 うん、私危険生物認定されているのだが。


「まさか、禁書庫に封印されている錬金生物がこんな悪魔を召喚するなんて聞いてないわよ!? ボロッちいし弟子の訓練に丁度いいかと思ったのに!」


 失礼な奴だな。そんなボロから出て来て申し訳ないね。


「食らえ! 虹の守護縛符ッ!」


 数枚のキラキラ虹色に輝く、符とやらが私に飛んでくるが目の前でポシュンと消滅した。


「なんですってッ! レベル百まで効果が見込める超高い魔術符なのにぃ……」


 話が進まないな、そろそろ声を掛けるべきか?


 おや、小さいお嬢さん、えっとピコラちゃんだったかな? 悲壮な顔をして手に何かを持っている。――小樽のようだが、中身は……火薬かね!?


 自爆特攻はさすがに辞めて貰いたい。


 パチリとフィンガースナップを軽やかに鳴らすと。小樽が消滅する。


「――え、え、えッ! し、しししし、師匠。小樽爆弾が消えましたぁ!!」


「え、ええ、ええ、み、みみみみ見たわよ。そ、存在消滅……駄目だわ、私達死んだわ。ワールドクラスの化け物を呼んでしまったのね……私って天才だけど馬鹿ね……」


 両手をパチンと叩いて合わせると、ビクリッと二人が飛び跳ねた。ヤバイな、過去最大にこの子達面白いかもしれない。――クククと悪役の様に笑う。


 指をくるりと宙に円を書くと、目の前にテーブルと紅茶セットが現れる、ゆっくりと紅茶にお湯を注ぎクッキーも用意する。

 

 その間彼女らは緊張しすぎで倒れそうになっていたが私を注視して動かない。


 丁寧に入れた紅茶を彼女達の前に置き、クッキーもさらに盛り付けると声を掛ける。


「どうぞ、紅茶の入れ方にはこだわりがあるのですよ、クッキーも毒など入ってないのでご一緒にどうぞ? ――お座り下さい。逆らえる立場ではないのはお分かりで?」


 ぶんぶんぶんぶん、と人形のようにカクカク縦に首を振る。


「結構。まあ最後の晩餐と思って味わいなさい。現状の説明と世界観、この街の成り立ちなどゆっくり時間を掛けて説明してくださいね? お代わりは珈琲でもいいですよ?」


 ひとまず彼女達に色々聞くところから始めないといけない。


 どうやら奇跡的な召喚事故みたいだしな、紅茶の香りを感じながら彼女達の話を聞く事にする。










 ええ、と話をまとめると国を跨いで存在する巨大な錬金術師の協会があり、特級錬金術師に認定されるには新種のレシピを複数開発し尚且つ普遍的に認知される物でなくてはならない。


 そして効率よく錬金を行うには人それぞれ相性の良い“杖”が存在する。


 杖を製作するには貴重な鉱石や素材が必要で自身で取りに行かないと相性が分からない、そこで錬金生物と契約して艱難辛苦を超え素材を手に入れる旅に出る。


 ――だが、ワールドクラス超危険生物“悪魔”を呼んでしまいさあ大変。


 国でも禁忌とされている“悪魔”は存在するだけで呪詛を撒き散らし、大災厄を呼び、人類を破滅に導く、とんでーもないヤバイ奴。だそうな。


「ふむ、では私がいる事がバレると君たちはとっても困るわけだ?」


 ビ、ビクゥッ、と椅子から二人が飛び上がった。


「いい方法があるのだが……うん、対価が欲しいねぇ。何にしようか?」


 師匠が健気にも身体を張って私の前に顔を近づけて来る。弟子思いなのかな?


「ど、どうか対価はこの“弟子”にして下さい! 私は美味しくないです!」


「え、え、え、師匠ッ! ひどいですよぅ! いつもいつも酒場のツケを私に払わせたり、おやつのツマミ食いをしたりしてぇ!」


「何を言っているのよ! 弟子の物は私の物! 弟子は師匠の為に犠牲になるものなのよ!」


「ふえぇ~今回ばかりは許さないのです! 師匠のお夕飯抜きですからね!」


 何この可愛い不思議生物たち、もう我、対価いらないんだけど。


「……では、その師匠のお夕飯を対価に貰おうか。――良いな?」


「ふえぇ? そんなのでいいのですか? 師匠やったです悪魔さん契約してくれました!」


「え? そんな……私のお夕飯はどうするの? もうツケが効かないのよ!?」


 ええ、こいつらの命の対価安いな。まぁいいか。姿を縮小して、角の生えた子供にでもなるかな? 肌の色が褐色になってしまうが我慢してくれ。


「これでどうかな? 角の生えた褐色の子供では……駄目だろうか?」

 

 二人の視線がこちらに固定される。瞳を輝かせて今にも飛びつかれそうだ。


「か、か、か、可愛い~! あんた、そう変身できるなら最初からしなさい! 悪魔呼んじゃったって錬金術士の協会クビになるかと思ったじゃない!」


「ずるいですよ~師匠! わたしにも抱っこさせてください! 契約したのはわたしです~。だから抱っこもわたしのです~」


 小さな体なのでスッポリと師匠とやらの腕の中に納まった。身長はピコラよりも少し小さいな、ピコラも小学校低学年クラスの大きさだが。


「ピコラとやら、私はお腹が空いたぞ? 師匠のお夕飯の代わりに作ってくれるのであろう? 楽しみに待っているぞ」


「あ、わっかりましたぁ。というわけで師匠! 今日はお夕飯抜きですねぇ」


「え、ホントにッ!? ピコラの鬼畜生!! 靴下片方だけ隠してやるんだからね!? あやまっても許さないんだから!」


 この世界にも鬼がいるのか? 後で書物でも読ませてもらおう。


「し~らない、悪魔さん今日はシチューですよ? お肉一杯入れてあげますからね。ふふ~ん」


「悪魔さんと呼んでは不味かろうに……名はダンタリオンと呼んでくれ」


「ダンタリオン君ですね! 分かりましたぁ」


 ピコラはそう言って厨房へ向かって行った。師匠は私をギュッと抱き締めると真剣そうな雰囲気を出す。


「……合わせてくれてありがとう……あなた優しいのね。本当は殺されてもおかしくなかった。本気で死を覚悟したわ――けれどあなたの雰囲気に掛けたの」


「ふむ、とんと記憶にないな。ちょっと面白可笑しい師弟愛に感動しただけだよ。こういうのも悪くない。私をとくと愛でよ」


「――分かったわ。ありがとダンタリオン」


「ならばこういうミスを無くしてくれ。私は契約の悪魔ダンタリオン。約束した事は守る。君達師弟の旅路を必ず守り通そう――任されよ」


「そこは一生とは言わないのね、イケズ」


「世界を跨いで活動しているのでな。割と忙しいのだよ? 先程も邪神と共に世界を滅ぼしてきたばかりでな。こういうほのぼのとした雰囲気が丁度欲しかったまで」


「…………私達師弟って最高に運が悪くて最高に運が良かったようね」


「ちょっと邪神ちゃんが可愛そうな身元でな、一千万人分の怨嗟をプレゼントしただけよ。師匠とやらも貴重な金属や魂などいるかね?」


 彼女はゴクリと息を飲むと質問をしてくる。


「そ、それは対価を取る物なの?」


「無料だとも、アコギな商売はしないぞ? その代わりお願いなのだが錬金術を私も学びたい。提供できるものは相談して順次出していこう。もしかすると杖の製作にも役立つかもしれんぞ?」


 顎に手を当て考え込んでいるな、特にデメリットは無いのだが。


「と言う事はダンタリオン君は私の弟子ね! 弟子の物は私の物弟子は私の為に犠牲になるものよ!」


「こいつ……ひっ叩こうかね」


 ぺしん、とデコピンを背後に食らわせると師匠が仰け反っていた。


「あいたああぁぁぁぁぁぁぁぁああ! 師匠に対してなにすんのよ!? この暴力弟子が!!」


「ちょっと世の理不尽に嘆いていただけだ。師匠の事は……嫌いではないぞ?」


 ニカリと微笑む。内心悪くないとも思っている事だし、少しは心砕いてもいいかなと思っている。


「む、その笑顔反則。大人しく抱き付かれておきなさい、ダンタリオン君」


「了解した。お夕飯ができるまで後頭部のナイチチを楽しんでおく」


「な、な、な、あ。ナイチチですってぇぇぇぇ! あるもん! ちょっとあるもん! ――あ、無視すんなこのやろー!」


 うむ、いい塩梅だ。心が癒されるな。これからもよろしく。ナイチチ師匠。

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