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ちょっといい話

 私が見ているのに飽きたのは四日目であった、それまでに彼女が殺しつくした人間のブランクを永遠と吸収する、所謂彼女の掃除機になった気分であった。


 この世界の人口はそこまで多くないようで、未だに死んだ人間は億人をちょっと超えたくらいだ。


 彼女が遠くへ行っている間に疑似ブラックホールの実験と研究を繰り返し、ようやく大陸ひとつを飲み込めた。

 

 その瞬間に大規模な水蒸気爆発が起こり、膨張した空気が大気を巡り大嵐が断続的に続いた。


 二つ、三つと大陸が消えるたびに惑星は雲に覆われ、海水温度は上昇し続けとうとう星には太陽が当たらなくなる。


 地軸がズレ、気温は乱高下し、生物の住める星ではなくなった。


 疑似ブラックホールの安定化に成功すると銀で惑星の存在置換リライトを始めた。


 存在置換と吸収を交互に繰り返し、わたしは惑星を飲み込んでいく。


 こちらに気付いた魔物の女王が満足しているのかぴったりと私の側にくっつくと、熱いキスをしてから私の中へ入っていった。


 中に感じる彼女の気配は満ち足りており、スヤスヤと眠りに付いている。


「しかたない奴だな。アラメス、惑星吸収は初めてだが調子はどうだ?」


[――霊脈も惑星そのもののブランクはさすがに絶大ですね。宇宙空間にある小惑星や生命の存在しない星はなぜかブランクがありませんからね]


「そうか。どれだけ早く吸収できるか試してみてくれ、いづれ星を飲み込まなければいけない戦いが待っているかもしれないからな」


[――どこの誰と戦うんです? 阿呆ですね]


「そう言うな。美味しい御馳走が偶然手に入って良かったな」


[――そう仕向けたくせに]


 はいはい、吸収頑張ってくれよ?


 最短最速で一月ほど掛かってしまった。私は微睡んでいただけなのだがね。目の前には惑星大の銀が浮いている、のか? 戻れと念じると一瞬で消え失せる。その瞬間空白になった地点に吸い込まれそうになる。


 ――質量を考えていなかったな。危ないな。


 ああ、大気が無いから喋れないな。


 しばらくブランクにも霊力結晶にも困らなさそうだな。怨嗟も凄いのなんの。邪神数百匹作れるんじゃないかな?


 ――アラメス。吸収したブランクを私の存在強化に回しておいてくれ。


[――もうしていますよ? 気付いてないんですか?]


 ――そうだったのか? ああ、感じるな。惑星の息吹そのものを。


 自然すぎて気付かなかったな。この調子じゃ周囲を巻き込みそうだから少し慣れておこう。









 避難を行っていた空港へ転移して戻って来る。


 どういうことだ、ゾンビで溢れかえっている。その中には見た事のある救助した民間人や警備をしていた自衛隊員もいる。


 人の反応を探していると――屋上か、バリケードを設置して立て籠もっている。


 すでにゾンビの発生源は私の中で眠っているので遠慮せずにゾンビ共を燃やし尽くす。


 発動アクティベーション炎の支配者(フレイム・ルーラー)


 空港内に存在する蠢く死体を対象に存在を燃やし尽くす、この概念兵装はフラウロスの物だったのだが一番殲滅力に優れ、攻守ともにお世話になっている。


 雷のフルフルや大地のアガレス、水のフォカロルも悪くないが小回りが利きにくい。


 屋上へと繋がる階段を上がり、大分損傷したドアを叩いて声を掛ける。


「ダンタリオンだ、状況はどうなっている? ゾンビの発生源を突き止めたんだが……生きているのか?」


 しばらくすると応答があったが声がかすれて衰弱して入る。


「……ゾンビはどうなった……」


 声に覚えがある、これは、山岸三等陸佐だな。


「ああ、私が空港内のゾンビを処分した。確認してくれても構わないぞ?」


「!! 本当かッ! すぐに開ける!」


 屋上へのドアが開くと髭を生やし、頬のこけたやつれた山岸くんであった。


「確認できる体力はあるか? ほら、食料だ。状態の不味い人間に先に分けてやってくれ」


 ゼリー状の栄養補給飲料を手渡すと急いで屋上に戻っていく、自販機から回収した飲料水も箱ごと持って行くと、数百名の人間が屋上の床に寝転がり憔悴していた。


 逆に大人数いた為か辛うじて秩序が保たれていたのは奇跡だな。殺人や強姦、生きた肉を漁ったりするのが定番だが、精神的支柱が存在したのだろう。


 顔を知っている部隊員も天から降る甘露の如く飲み物をグビグビと飲み干していく、急に飲んだのでむせているが。


「動ける人間は空港の安全に休息できる場所の確保と、病人、重症者の搬送を行ってくれ――それでいいですか? もちろん飲み物と食べ物を摂取してか休息してからでもいいですよ?」


 死人が出ているか不明だが、希望の光が灯った今の状況なら何とかなりそうだな。

 

 軽傷者から飲み物を口に含ませ、空港のラウンジのソファーへ寝かせて行く。


 現在、安全確認が封鎖した空港内のみ確認が終わっており、倉庫に備蓄していた食料の調理が始まっている。


 その中には祥子ちゃんも生きて存在しており少し安堵する。


 これで死別していたら後味悪いからな。彼女が無事でよかった。


 私自身もカセットコンロでカップ麺を食べるためにお湯を沸かしていると、山岸くんがやって来る。


「――今までどこにいたのか……とは聞かないが本当に助かった……本当に駄目かと思ったんだ――君に言われた言葉の意味が分かったよ、本当の英雄に成れる人間はどんな困難も乗り越える。言葉で言うのは簡単だが、困難が訪れた時に分かったよ、これが英雄と愚者を隔てる領域なんだなって……そうしたらなぜか心から力が湧いて来てさ、君のお陰で愚者にならなくて済んだよ……ありがとう……」


 そういうと。ボロボロと泣いてしまったので肩を軽く叩いた。


 ぽつぽつと話す状況を聞くと悲惨の一言だった。


 結果予想通り救出の船も飛行機も来なかった。どこも余裕がなかったんだ。


 籠城する為の食料確保や、インフラを継続させる為に資材を都内に確保する部隊が結成され、作戦自体はうまく行っていた、


 屋上にいソーラーパネルを設置し、管制塔の無線に接続。いつでも外部と連絡を取れるようにして。倉庫などにも数か月分の備蓄を確保、それまでは良かった。


 だが自衛隊員に感染したのに申告いせずに部屋に閉じこもる事件が起きた。


 そりゃあ感染を申告すれば殺されるのだからな。


 民間人を襲い始め一気に感染が拡大、避難していた八割の人間がそこで死亡した。


 私が蘇生した木戸三等陸曹もそこで亡くなったそうだ、彼は私の車両の運転を引き受けるくらい良い人そうだったからな。


 それから、急いで屋上で作業していた山岸君が救助作戦を決行、銃器や弾薬が少ないながらも百人程度の人間を救うことが出来た。


 屋上にも物資がそれなりにあった為、制限を掛けながら籠城、現在に至る感じかな。残念ながら持病を持つ老人などは無くなったが、そういう理由がない人以外は無事生存した。


「そうか……大変だった。とは言葉に表せないな。武器弾薬をトラックに積んで持ってきているから防備を万全にしてまた回収作業に出るしかないな。――ここだけの情報だがゾンビの勢いが弱まっている。それと感染しなくなった」


「!! 本当か!? 本当なんだな!?」


「ああ、本当だ。未だに解明されていないゾンビになる原因が分かったんだ」


「――一体何なんだ? ウイルスでもないのだろう?」


「原因が解明されないのはオカルトだからだ――呪術と言っても信じないだろう? 邪神への供物、俗に言う魂だ。それの効率的に収集する為に感染、拡大するよう術式が組まれていた。ゾンビには人の魂が無い」


「――馬鹿にしている……分けないよな」


「君はその現象の証明を見ているハズだ」


 少し考えているが心辺りに気付く。


「! そうか! 木戸三等陸曹か!!」


「そうだ、私は魂を扱うエキスパートでね、確かに車両の転倒の際彼は死んだ。人の避難に貢献し、私と共に戦った生き方に感銘し、もう一度生命を与えたんだ。決して邪法でもなんでもないぞ? ――彼が英雄たる行動を取っていたからこそ私が動いたんだ。だが、またゾンビとなってしまったのなら生命は戻らない」


 そう考えると死して尚、彼は英雄的行動を取れる魂からして本性が高潔なのだろう、本当に惜しい人物だ。


「――そうか、木戸は英雄か……負けてられないな」


「そう言って死に急ぐな、山岸君。君はとうに英雄足り得るのだよ、凡人が足掻き苦しみ、英雄足らんとする精神は強靭でとても美しい。私が認めよう、君は英雄だ――もしかしたら一度くらい死んでも生き返らせてあげるぞ?」


「……ふっふふふ、あーはっはっはっは!! ダンタリオン殿が言うと本当なんでしょうな、ふくくくく! 私は英雄と認められたぞ! なんと誇らしい! 自衛隊で勲章を貰えるより嬉しいかもしれないぞ! はっはっはっはぁ!」


 そう高笑いすると部下の隊員がおかしなものを見る目で凝視する。山岸君はそのあと盛大にむせていたが。


「と言う訳でな。ゾンビの拡大は起こらないんだ、噛まれても感染はせず怪我だけなので注意してくれ、感染症や破傷風などの可能性はあるからな? 本能のまま動き続けるゾンビの肉体は時期に滅びる。人間の死体の様に硬直を始め、腐敗し、土にかえる」


「そのことを周囲に……言っても信じてもらえないか。もともとダンタリオン君は言っていたな、原因を突き止める為の部隊だと」


「ええ、そうですよ。原因と言うか関係というか、私が最後に会話していた拳銃を所持した少年がいたでしょう?」


「――まさか、あの少年なのか? 原因が……」


「いえ、関係性はありますが原因ではないですよ? もっとオカルトになりますが、クラスメイト全員、異世界に召喚され戦争に巻き込まれ、呪いを掛けられたんです、それで協力し国に殺されかけて、ほうほうのていで逃げ出してきちゃんです――呪いも一緒に」


「あれか!? クラスメイトの集団失踪事件。一時期有名になっていて彼だけ傷だらけで救助されたんだ。確かに失踪が不可解で謎に包まれていたが確かに繋がる!」


 両手を叩き物凄く納得している顔だ、不可解な事件がオカルトの証明になっているからな。


「そうです、いわば彼は被害者なんですけどね。戦争に勝ったのは良いものをクラスメイトが毒殺され幼馴染と召喚された陣に戻り、帰る瞬間には――彼の幼馴染は死んでいたそうです。帰って来るもひとりぼっちで、彼はこう言っていました。少しでも助けられる人を救いたい、その為に拳銃と言う力を欲したと」


「…………」


「でも残念なことに、異世界に行ったら復讐に走ってしまい力尽きたんですけどね――凄い笑顔で幼馴染の仇を取れたと喜んでいました」


「…………ん? 異世界に行けるのか?」


「行けますよ? 私、ダンタリオンの悪魔なので」


「ん? 悪魔? コードネームでもなく?」


「ええ、じゃないと魂を扱えないでしょう? 私これでも良識派なんですよ? 救出活動も頑張っていたじゃないですか?」


 ええーまじかー。みたいな顔をしている山岸君。呪術は信じるのに私の事を信じるのに時間が掛かるようだね。


「まあこの説明を隊員に話すかどうかの判断は山岸君が決めてください。明るいニュースではあるので話易いと思いますが……まあ木戸君の事を話せば信じるでしょうがね」


「そうだな――ん? 原因はどうなったんだ? 判明はしたが排除したと言わなかったよな?」


「ああ、彼女ですか。あまりにも不憫だったので全力で怨嗟のぶち込んだら異世界滅ぼして満足して眠ってますよ――私の中で。見ます? 汚染されますが」


「――ようやくおめえさんが悪魔だって理解したわ。まるで鏡みたいな人間だな。あの時の自分の勘に従って正解だったわ」


「ふふふ、よく言われます。だって悪魔ですから」


 カップ麺にお湯を注ぎ山岸君と並んで食べる。色々とすっきりしたので物凄く美味しく感じてしまった。


 サービスとしてオートマトンを十機ほどプレゼントしたけど戦争の火種にならないよね? 解析したら自壊するように設定したから大丈夫だと思うけど。


 祥子ちゃんにルビーの指輪をプレゼントしようとしたけれど隊員の誰かと恋仲になっていたので二人にはお揃いのダイヤの指輪を作ってあげた。


 たまには祝福する側もいい気分になれるものだと思ったね。


 そろそろ、この世界からおさらばすることを山岸君に告げると隊員みんなで見送りをしてくれるようになった。


「みなさん、お元気で。私、ダンタリオンの悪魔は、あなた達に祝福を送ります」


 ひとりづつ回復効果のあるネックレスやブレスレットを進呈していく。


「それは所謂オーパーツという物で怪我や病気に聞く回復を齎す祝福が込められています。効果は壊れない限り永続、下手すれば寿命が数十年延びます。生まれた子供に上げるもよし、一時的に病人や怪我人に付けるのも良し。その際は奪い合いにならないよう気付かれないようにこっそりと、ですよ?」


 え、まじで。山岸君と同じ反応をするってことは上司に似たんだろうな。


「皆が英雄的行動を取った私からの祝福です、悪魔ですけどね? それでは皆さんこの“悪魔”と縁があればいつの日か」


 そう言うと次元を捻じ曲げて空間を潜る。山岸君涙ぐんでいたけど頑張るんだよ?


 ――あたりめえだ!


 では皆さん、また来世で。

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