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無責任な行動

 少年に銃の整備方法を教えながら会話を繰り返していく、自身の手で分解清掃を行う表情は真剣そのものだ、何が彼をこうも追い立てるのか気になってしまう。


「少年、なにがそんなに君を追い立てるんだい?」


「! …………それは」


 銃の整備を止めて俯く。拳に段々と力が入り、強く握り締めた。


「……言っても信じてもらえないかもしれないですけど……聞いていただけますか?」


「――聞こうじゃないカ? 猫が人間をネコの世界へ連れて行こうとモ、異星人がやってこようとモ、――異世界に勇者として召喚されようとモ」


「! ――実は、異世界に召喚されて“いたんです”」


 ほう、それは興味深い。軽く頷き話の続きを促す。


「……異世界、異世界にある国。学校のクラスメイトと共にヴォーダンへ召喚されていました」


 ふむ、良くある定番のパターンだな。人間が虐げられている為、お救い下さい、とね。


「……魔物に侵略され、国が存亡の危機と教えられると、私は選ばれし勇者なんだとクラスメイトと共に興奮し、訓練や座学に勤しみました」


 あー、特定の年齢で掛かる病ね、高校生にしては遅咲きなのか? クラスメイトも同じみたいだがね。


「――実際の戦闘はそうではありませんでした。魔物の姿は醜悪で、臓物や血液が飛び散り、実際、嘔吐を何度も繰り返しました。ですが嫌悪感に耐え魔物の国にクラスメイト全員と軍隊の戦力を持って侵攻していきました」


 ふんふん、色々と乗り越えてきたのだね、聞くだけで素晴らしい英雄譚だ。


「民を救う為だと、魔物を駆逐するのだと、持て囃され、賞賛され、女性に言い寄られ、有頂天になっていました。――しかし、魔物の王の姿は人間の女性だったのです」


 おお、魔物と思いきや人間がラスボスなのか。なかなか鬱展開になりそうだな。


「私は彼女に問いました。『なぜ人間の国を侵略するのだ?』と、すると彼女はこう言ったんです『……哀れな操り人形よ、そこにいる魔物に浄化の魔法を掛けてみよ』と」


 嗚咽交じりに少年が泣き始めた、ああ、展開が読めたな。


「浄化の得意なクラスメートに浄化を頼みました、もちろん魔物の王への警戒を辞めずに。すると魔物に浄化を掛けた瞬間――臓物を飛び散らせた人間が現れたのです」


 ああー、鬱になるわな。魔物を殺していたのにも関わらず人間だとはな。


「もちろん、嘘だと、戯言だと。叫び、クラスメイト全員で攻撃を仕掛けました。激戦の末、見事に魔物の王を打ち取りました、その時の感触は未だに掌に残っています……」


 ここでハッピーエンドにならないことは私でも分かるよ。


「魔物のを王を倒した私達は王城で歓迎会を開かれるとの事で集まり、大勢で食事をとっていました――ですが、食事には毒が盛られクラスメイトが次々に倒れて行ったのです。私は苦しみながら聞きました『なぜこんなことをするのか!?』と、返事は『魔物の王に呪われている貴様たちを生かしておけぬ』とね」


 ああ、バットエンドだね、だけどなぜ君は生きているのだろう?


「浄化の得意な聖女のスキルをもつ幼馴染に咄嗟に解毒魔法を掛けられて逃げ出したんです、幼馴染を連れて。並み居る兵士達を切り捨てて行きながら召喚された魔方陣の部屋へ逃げました。

 そして陣を起動させ送還を試み、幼馴染と二人だけで逃げ出そうとしたんです。だけど罰が当たったんでしょうね――陣が起動したときには幼馴染は事切れており、送還されたのは……私だけでした」


 すでに顔を見れないくらい鼻水と涙で溢れている。


「送還された私は、何も力が残っていませんでした。恐らく送還陣にも何か仕掛けられていたんでしょう――そして呪われていた私がここに戻って来たから……」


 ゾンビ騒動が発生したと。そういうわけか。


「私は正義の味方だと盲信し、魔物の国へ呪いをかけた国ヴォーダンの尖兵と化し、人間を虐殺した挙句、この世界へ災厄を齎した世記の大罪人なんです、だからこの拳銃を渡された時に少しでも救える人がいればと……力を欲した理由はこういう経緯です――信じられないでしょう?」


 いや、普通にあり得そうな出来事なんだけれどもね。うむ、どうしたものかな。その魔物の王とヴォーダンの単なる戦争なんだけど……その魔物の女王だっけ。多分生きて居そうなんだよね……。


「信じる信じないの話ではなク君はどうしたイ? 魔物の国とは戦争だったと思うんだけド」


「信じて頂けるんですね……クラスメイトに会いたい……殺してしまった人たちに謝りたいです……殺した私が何をいっているんだと、逆に殺されそうですが……」


 ふんふん、実際どうなるんだろうね、面白そうだ。アラメス、術式の流れの解析は終わっている?


[――とっくの昔にです、失礼な]


 ありがとう、それと木戸三等陸曹の死体を蘇生させて屋上にでも置いておこう。


「――少年よ。その世界に行けるなら今すぐ行きたいかい?」


「! 行き、たいです……無理でしょうけど」


 少年の手を取り特定した次元座標へと空間を歪める。


「実はね、私、こういう者でして」


 二本の角を生やして見せる。


「悪魔という物です、次元を揺蕩う悪魔、なので呪いの座標を特定してしまえばこんなことも出来ちゃいます」


 彼が瞬きをした瞬間、周囲の風景が歪み始め石畳の部屋へと転移した。


「ここはッ! ヴォーダンの召喚の間! 戻って来た! 戻って来たんだ!」


「少年よ、興奮するのは構わないが、力が戻っては居るのかね?」


「ええ、力が漲って来るのが分かります――これで仇が討てる……」


 少年の顔が醜悪に歪み、顔が赤く染まる。これが憤怒の表情という物だね、良い表情だ。


「ならば存分に復讐を果たすといい――ああ、これは餞別だ、切れ味の良さは折り紙付きだよ?」


 黒鋼で作成された切れ味の鋭い長剣と拳銃の予備弾倉をいくつか渡す。


「では、行ってらっしゃい。私は観光でもしてくるよ」


 そう私が言うなり、ぬらりと剣を鞘から抜き部屋から出て行ってしまう。


「少年の復讐が果たされるといいね。私は呪いの術式を辿るとしようか」


 彼に渡した長剣は精霊世界で入手した呪われた剣で。血を吸えば吸う程、装備者への力へと変換される。たとえ身が滅びようともその力は発揮される。


 自分自身を止められるなら止まるといい。血と殺戮に酔えば破滅しか待っていない、殺害した謝罪をしたいと言っていたので彼にはぴったりだろう。


 謝罪をせずに殺害を彼が行うハズ無いだろう?









 空を駆け眼下に眺めるコテコテのファンタジー風景。こういう風景が少年少女達をゲームの世界観に没入させる要因でもあるのだろう。


 しばらく飛行を続けると赤黒い霧が立ち込めて来る、血と怨嗟が混じった元は人であったものだ。


 ブランクと怨嗟のエネルギーが混じり合い物質化しようとしている。何かのきっかけで爆発的に膨大なエネルギーが破裂する。


 この位置ではあの国もひとたまりもないだろう。


 呪いの術式の中心点は恐らく魔物の王の居城だった場所。彼女の心象風景が城を変質させ血と臓物が壁面に彩られている。


 城のバルコニーには人間の腸とおぼしき物体が床にびっしりと敷き詰められ、歩く度に悲鳴を上げる。それぞれ、ブランクが内包されており生命として生きている。


 ぶちゅりぶちゅり、私の足音が醜悪鳴いている。気持ち悪いがよほどの怨嗟なのだろう、全く持って人間とは業が深いな。


 玉座の間に到着すると今にも具現化し始めている、邪悪なる存在魔物の女王。


 その姿は見て居られなくなるほどに、すべてが冒涜的だ。


 その姿に近づくと私に視線を向けて来る、なんせ彼女の身体は数多もの眼球とヒトの神経で象られているのだから。


 このままでは意思なく破壊を繰り返し満たされぬまま終えてしまう。

 

 発動アクティベーション嘆きの川(コーキュートス)


「魔物の王よ、悲劇の女王よ、徹底的に、余すことなく、絶望を与え、破壊し、この世を滅ぼしたくはないか?」


 ムルムルの概念兵装、死者との交渉を使い、疎通不可能な存在でも言霊として意思を交わすことが出来る。


 大気が震えるような怨嗟が迸る。


「了解した。とくと受け取るがいい一千万人分の怨嗟だ」


 陰陽術士の世界でためこんだ霊力結晶にたっぷり怨嗟を詰め込み、私の疑似コアと混ぜ合わせる。


 目玉集合帯の中心部に手を突き刺し捻じ込む、竜を使役し竜そのものになり毒を纏うアスタロトの概念は君にこそ相応しい。


 膨大な霊力を注ぎ込み、混ざり合い、凝縮させる。


 精神生命体となる閾値を超え、破裂しそうになるも強制的に抑え込む。


発動アクティベーション嘆きの川(コーキュートス)


「君の怨嗟はその様な力に負けるほど、柔じゃないだろう? 絶望させ、破壊し、滅ぼすのだろう? 君が滅んでどうする。ほら、頑張り給え、とってもとっても可哀想な女の子?」


 私の挑発が最後にひと押しになったのか、凝縮した闇が顕現する。


 彼女の肌の色である深い暗黒が、これ以上の祝福も怨嗟も受け入れること敵わず、交わる事も許さぬと主張しているようだ。


「気分はどうだ?」


 暗黒に浮かぶ口角が吊り上がるように裂けた。


「では存分に果たせ」


 コクリと可愛らしく頷くを姿がブレ、城の壁が破壊されていた。


「なんともアグレッシブな子だねぇ……私は見物に回りますか。この世界は彼女のものだ。存分に励むがいいさ」


 彼女が動く度、手を振るう、蹴りを出す、息を吐く、雄たけびを上げる、地を歩く。


 全ての行動で周囲の木々が消し飛び、雲が裂け、大地が割れる。


 竜と化せば、そのブレスが大陸を焼き尽くし、地割れが起き、大陸が割れた。


 その行動は三日三晩続き、それでも彼女は満足しない。


 辛うじて被害を受けていない王城に戻ると、王都にある広場に、剣を地面に突き刺し、瀕死の少年がいた。


「――少年よ、満足したかい?」


 ぜひゅぜひゅ、と肺すら損傷している。だが、彼の顔は笑顔で満ちている。


「――そうか、それは良かった。謝罪は良かったのかい?」


 何かを思い出したように絶望の顔に変わる。


「大丈夫、彼女は破壊の化身へと変貌したから。復讐は自分でするそうだよ?」


 ほっとした顔に戻り、ゆっくりと瞼が閉じて行く。


「いずれここも破壊され尽くすだろう。ゆっくり休むといい……幼馴染も待っていると思うよ?」


 最後に無責任な慰めの言葉を吐くと、心臓がピタリと止まった。

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