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空港の悪い空気

 歩いて空港へ向かい漸く到着する。入り口は封鎖されており、見た事ない部隊が展開しているようだ。


 先程の避難部隊の仲間だと説明するも武装解除を強要される、もちろん拒否すると拘束されそうになる。


 しかしそこに山岸三等陸佐がやって来ると説明をし、なんとか入場する事が出来た。


「ダンタリオン君!? 無事でよかった! 何があったんだい? それと、運転をしていた木戸三等陸曹は…………そうか」


「それより問題なのは、私を追い越していった糞共ですヨ? 私の車両のタイヤを打ち抜いていきましタ」


「!! 今佐官のみで会議をしている所だ、説明を頼む」


 会議を行っている場所へ移動する為に空港へ入っていくと、先程の車両が止められており、そこには誰もいなかった。車両を睨みつけながら空港ロビーへ向かうと三十人程の佐官が集まっていいた。


 山岸君の上官なのだろう、偉そうな人間が話しかけて来る。


「君かね? 外部協力員である怪しい奴は。なんでもこちらに向かってくる途中で避難車両に発砲したそうじゃないか。すぐに拘束したまえ」


「!! 待って下さい! ダンタリオン氏は最後尾で避難の為に殿を務めてくれていました! 車両に発砲したのはそこにいる矢口二等陸佐です!」


 ひとまず周りの人間が拘束に動くのが止まる。その答えに対して矢口と言うゴミクズの返答はどうなんだろうな?


「上官に無礼な事を言うなんぞ、偉くなったな三等陸佐。そこの傭兵崩れとこの私の階級を見比べれば真実が良く分かるだろう?」


 だそうだ。もういいだろう、この茶番も。


「ああ、もういいですよ口を開かなくテ。傭兵の流儀ではね――やられたらやり返すんですヨ?」


 ――パンッ。


 だらり、膝から人間が崩れ落ちる様は人生の終わりにしては呆気なく、ゴミクズでも最後に笑わせてくれる。


 隠し持っていた拳銃で矢口とやらの額を撃ち抜くと、すぐさま拳銃を構えている人間を順に殺していく。


「ああ、銃を構えない方がいいですヨ? なんで救出活動に命を掛けたのに犯罪者にされないといけないのですカ? この国は狂っていますネ」


 ――パンッ。


 構えようとした佐官の額にまたひとつ穴が開いた。


「ええ、と、私に拘束を命じたあなたの階級は何ですカ?」


 驚愕の眼差しでこちらを見ている偉そうな人間。呆けてないで説明しないと死んでしまうぞ?


「き、き、きさまああああ! どうなるか分かってる――」


 ――パンッパンッパンッ。


 余りにも耳障りな騒音だったので脳天に一発、眼球に二発お見舞いする。


「さて、残りの佐官は話が分かる人だと思いたいですガ……返事しろヤ」


 威圧を込めて返事を促すと丁寧に頷いてくれた。


「オーケーオーケー、やっぱり阿吽の呼吸? は、イイデスネー。目障りな上官が消えるとスムーズに行動出来まース。現在一番階級が高い者ハ?」


 残り半分となっとなった佐官達、山岸君が一番低い筈だが誰も手を上げようとしない。


「話進まないネ、十秒上げル。答えろヤ」


 みんなの視線が、うだつが上がらなさそうな人間に集中する。


「……久城くじょう二等陸佐です。ええっと、ダンタリオン、さん、でしたよね。なぜ殺したのですか?」


「君は民間人の為に殿を請け負って、囮の為に車両を撃ち抜かれ同僚の運転手が殺され、ようやくたどり着いたら外様だからと犯罪者扱いされ、殺人を起こした上司がのうのうと笑っていたら許せるかネ?」


「…………」


「それが答えだヨ。この緊急事態に多少佐官が死のうが怪しまれないから大丈夫だヨ?」


 うんうん、とすっきりした顔で、撃ち殺した死体の髪の毛を掴み引きずってロビーにある窓から次々と死体を外へ放り投げて行く。


 信じられないような顔をしているが死体があったらロビーが汚いだろう?


「ん、ああ、仲のいい人間がいたら後で弔って上げると良いヨ? それと周知徹底するといい――銃を私に向けたら必ず撃ち殺すので肝に銘じておけヨ? 日本の文化、威嚇射撃なんて役にも立たないんだかラ」


 そう言い捨てると空港ロビーを抜け、屋上へと向かう。









 自販機で販売しているん微糖の珈琲を購入し、屋上のベンチに腰を掛ける。缶珈琲のプルタブを手前に引くとカキョ、と心地のいい音が鳴り口元に運び喉越しを味わう。


 丁寧に私が淹れた珈琲とは比べ物にならないが、これはこれで偶には良いと思う。お気に入りのメンソールの巻煙草に火を付けて、深く肺の中に煙を歓迎する。


 今までに自衛隊の対応が良かったのでいい子ちゃんをしていたがこれ以上は、罷り成らん。この国では殺人は罪になるのだがあの時点で佐官が拘束されないなら私が殺しても問題ない。


 運転手の殺人をしたのだから私が佐官を殺しても拘束されてはならない、道理だ。


 しばらくぼんやりと喫煙をしていると、祥子ちゃんがやって来る。顔はとても真剣な表情をしている。


「ダンタリオンさん。殿を務めてもらいありがとうございます。ですが……あの、ロビーの惨状……なぜ……なぜ人をそんなに簡単に殺せるのですか? 緊急事態なのは分かります」


「――ふむ。真面目に答えるとしようか。あの殿を務めている途中私は矢口とやらに車両のタイヤを撃ち抜かれ車両が横転、運転手である君の同僚が死んだ、聞いていないのかね?」


「! はい……存じませんでした」


「そして、ロビーにて殺人を犯した矢口を山岸君とともに糾弾した。そしたらね、逆に私の拘束命令が出たのだよ? 殺人未遂の容疑でだ?」


「それは……キチンと説明すれば……」


「最高階級の上官がそう命令してもかね? 殺人を犯した事が明白な矢口とやらがのうのうと笑って私に罪を着せ、国籍の怪しい私が裁判を起こして奴に殺人を立証できるのか……道理で考えたまえ、可能かね?」


「……不可能です」


「だから殺した、私に刃を向ける人間は等しく殺してきた。――じゃあ殺さないにしても、だ。助けた集団に殺人の罪を着せられて冷静でいられるのかね? 私からしたら皆殺しにされないだけでも感謝されるべきなのだよ君たちは」


「それは……」


「君たちは私がいなければ助からなかったのは分かるはずだ。私を擁護するならまだしもなぜ君は私を糾弾するのかい? 命を助けてもらった人間が殺されそうになった挙句逮捕されようとしていた。佐官を責めるならまだしも君も私の敵となるのかい?」


 そう言うと彼女の額に拳銃の銃口を押し付けた。


「私の法律は私が決める、生命の軽重も私が決める。目には目を死には死を」


「…………」


「君は一番先に思うべきことと言うべきことがある――何か分かるかね?」


「――わかりま、せん……」


「運転手をしていた木戸三等陸曹の冥福と、仇を取った私に対するお礼だ」


「! 木戸三等陸曹の事は……考えていませんでした……私はなんて……事を……」


 銃口を突きつけられているにも関わらず泣きじゃくり始める。はぁ……。


 額から拳銃を話し、ホルスターに収納する。


「殺人が罪だとしても、仇は取ったんだし多少は喜んでくれたまえ、殺人者の冥福は間違っても祈るなよ? 日本の法律では敵討ちは罪だが君の家族や子供が殺されて何も思わないのかね? 私は復讐を肯定する派なんだ」


 再びベンチに座ると煙を吹かし始める、今日は特に煙草が上手い。


 彼女はしばらくすると頭を下げて戻っていった。このような空気になってしまったがいつ木戸君を蘇生しようかな、タイミングが分からないぞ。


 空港内を徘徊し色々な店を物色していく、先程の惨劇があった為か私の事を聞いた自衛隊員は苦い顔をして擦れ違って行く。


 まあ、普通なら危険人物として逮捕されるのが通常だが現在向こうも事を荒げたくないらしい。


 土産物屋にある食料も回収されているが乾麺が残っていたのでカセットコンロを用意して調理を始める。


 ことこと鍋で乾麺を似ていると向こうから騒がしい空気が感じられる。チラリと視線を向けると少年が所持している拳銃を没収しようとされている。


「これは身を守る為に所持している頂いたものです! 自衛隊員が殺人を犯したと聞きました。確実に安全と言えるまで所持しています!」


「ここはもう安全だ! ――自衛隊が殺人など犯さない! 嘘を言って統制を乱さないでくれたまえ!」


「嘘を言っているのはそちらだ! ――ダンタリオンさん!?」


 背後から虚言扱いをしている自衛隊員の後頭部に拳銃を突きつける。ゴツリ、と後頭部に何が当てられているのか察したのだろう、動きが止まる。


「だれが虚言を呈したっテ? ん? 発言に気を付けたまエ。私の運転手の同志が矢口二等陸佐に殺されたんだガ……? ――もう一度聞こうカ? ああ、返事は大きな声で頼ム」


「……矢口二等陸佐に、木戸三等陸曹が……殺され……ました……」


「聞こえないナ。誰が誰に殺されたっテ?」


 ゴンッ、と後頭部を強めに叩いた。


「矢口二等陸佐に、木戸三等陸曹が殺されました!! 陸上自衛隊員が殺人を犯しました!」


 ゆっくりと銃口を話すと、大きな音を立て拍手を始める。


「素晴らしい献身ダ! 民間人を逃がすために陸上自衛隊員どうしで殺し合いをするなんて素晴らしい愛国心ダ! 私も車両のタイヤを撃ち抜かれた時に嫌らしい笑みを浮かべていた、今は亡き矢口二等陸佐に哀悼の意を示そうではないカ!」


 その話の内容に疑いの目を自衛隊員に向け始める民間人たち。


「せいせい、囮として殺されないように気を付けるのだヨ、民間人の諸君! こうして発言があったという事は紛れもない真実! 闇に屠られる前に武装し備えたまエ。敵はゾンビだけではなイ、味方にもいるのだという事ヲ」


 周囲の目が殺人を肯定した隊員に向き、刺々しい雰囲気が漂う。眼を背け走り出していくが、この雰囲気はすぐには拭えないだろう。


「ああ、ひとつ言っておく、私と共にいた木戸三等陸曹はとても素晴らしい人物だっダ、山岸三等陸佐が率いる部隊に所属していた自衛隊員だけは贔屓にして欲しい。彼らは命を掛けて君たちを守っタ。それだけは念頭に置いてくレ、特に佐藤祥子准陸尉なんてとってもプリティで素敵な子ダ」


 そう言うと少年を連れて乾麺を茹でている場所に戻る。帰って来たころには麺が伸びてしまっていたが、味付けの粉をお湯に掛けて、少年にも分けてあげる。


「まあまあ、麺が伸びているが食べたまエ、疲れているダロウ? 私も頑張り過ぎたのデ、ゆっくりと食事を取りたいのだヨ?」


 そう言うと大人しく取り皿を持ち、伸びた麺を啜り始める少年。


 空港の夜はちょっと冷えるかもね。器からほんわり上がる麺の湯気がここの雰囲気の寒さを表しているようだった。


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