特亜重工
「目が覚めたか? 身体の調子は良さそうだな、直ぐに自己診断プログラムを走らせてくれ、経緯をデータに圧縮して送ってあるから読んでおいてくれ」
インファの魂を新しいボディにインストールして情報を送って置く、私は今から特亜重工の本社に乗り込まないといけないからな。
「……ありがとよ旦那、なにか忙しそうだがどこに行くんだ?」
情報屋のサガなのか詮索好きなのは、偶に傷だな。
「――特亜重工だ。奴らを始末してくる」
「旦那ぁ……無茶しやがる」
誰が切っ掛けなのかわかっているのか? 私の内心の気持ちを視線だけで彼女に訴える、手配が回っているインファは特亜重工自体を何とかしなければ生きていけないと分かっているのだろう。
気まずそうに眼を伏せながら呟き始める。
「――わかってるよ。あたいの為だろ? そんな苦労掛けさせるつもりなんて……ねぇよ」
こいつは素直に喜べないタチだ、そっぽを向いているがしっぽがこいつに生えて居ればブンブン振り回していただろう。
「嬉しいって素直に言うんだな。――まぁ言ってくる。ここの街の支店から潰してくるぞ」
そう言い終わると上空に転移する。街の拠点は分かり易い、巨大な兵器工廠が併設されており今日も元気に稼働している。
街の上空を飛行しながら特亜重工の支店のデータを検索していく、本社を除き支店数は八十五か所。
重要データは本社に集積されているな、ここには回収する価値のある物はない……と。
兵器工廠上空に到着する。何を建造しているのか汚染された排気ガスが漂っている。今朝方起きたハッキングの被害を受け、工廠の稼働が一時的に停止しているな、好都合だ。
>>雷/対象/広域展開
発動/迸る雷
大気を切り裂き工場一帯が眩い雷に光に包まれた、ランダムに走り抜ける大電流は人や機械類を差別なく焦がしつくす。
光に遅れてズドンッ、と地響きのような轟音が街に響く。音速を超え遅れて衝撃が周囲に伝播する。
漂い始めるオゾン臭が人々の記憶に刻みつけられる。
「威力と速度は高いが殺し損ねる奴が出るな、ランダム性が高いのも難点だな」
地面を舐めるように走る炎でもなく、樹木の枝の様に広がる雷の特性故か。
発動/迸る雷
駄目押しにもう一度発動させる、殺し尽くさなくても十分破壊活動は完了しただろう、さっさと次の街にある支店へと飛んでいく。
十件ほどの支店の破壊活動を終える。数件ほど前からオートマトンが滞空装備で待ち構えていた。多連装ミサイルランチャーが肩に装備されている、誘導レーザーが私に照射されると、パシュゥ、と気の抜けた発射音が断続的に鳴り響く。
数百本に及ぶ追尾ミサイルが迫りくるも私に触れる前に炎壁によって消失した。
「無駄だと言うのに」
順番に破壊されている支店に脅威を覚え、これでも全力なのだろう。
>>地形/対象/広範囲
アガレスの概念兵装をその身を持って知るがいい。
発動/突き上げる大地
地面が隆起し建物が崩壊していく、突然現れた大地にオートマトン部隊も巻き込まれ誘爆していく。突き上げられた搭乗者の絶望した視線と目が合う。
ゆっくりと、掌の中に破壊の概念を込めると広げた指を握りしめる動作を行う。
――爆散
その瞬間隆起した地面が爆散する、天然の弾丸となり、数キロにわたる土地に住む人々、建物が被害を受ける。
空に撃ちあがった岩石は、噴石となり降り注ぐ数百キロの岩は人間を容易に磨り潰し血液が噴き出していく。
半径十キロは瓦礫の山となり人の住める土地ではなくなってしまった。
「――次だ」
まだまだ、支店は残っている。一番近い位置から破壊活動をして言ってはいるが本社は別の大陸にあるらしいからな。
特亜重工本社。
工廠がいくつも連なり敷地面積は街に及ぶほどの大規模工業地帯でもある。
特亜重工幹部会の会議が本社ビルの最上階で行われている。
議題に上がっている内容は現在進行形で支店で破壊活動を行われており、アースユニオンの重要軍事施設で七賢者の鍵を奪取されている可能性が高い人物“シンタ・ダンタリオン”の話題で持ちきりだ。
アースユニオン最下層で本社研究員と会話を行っている最中に突如通信が遮断される事件が起きている、救助に向かったが七賢者の鍵をもつアンドロイドが消えており、後日消えたアンドロイドに似た個体が武装組織ダンタリオン内部にて見掛けられるといった報告が上がっている。
アンドロイド部門の研究者でもある、スタディ・ボーガンは歯噛みをする。
ようやく三つ目の七賢者の鍵を手に入れられ、プラネットリングの一部だけでも手に入れられる所だった、のにだ。
特亜重工の地下深くに厳重に保管してある二つの鍵を利用して、プラネットリングからオートマトンの設計図を引き出し、企業の発展を支えてきた経緯もある。
十名の最高幹部が円卓を囲み、重苦しい空気を醸し出している。
著しくない迎撃結果に頭を抱えているのだ。
すでに支部の半数は壊滅、打つ手があると言えば特亜重工本社で開発されている特型浮遊要塞オートマトン/G.M.F.Fがここにはある。
惑星上に侵攻してきた特型を素体に、特亜重工が改良に改良を重ね完成させた自慢の兵器だ。
「最悪ぅ。なんであたぁーしの支店が攻撃されてるのぉー? 誰がヘマやったのよ? だ・れ・が?」
商売事だけは右に出る者はいないとされる巨漢のデブオカマ、リリィ・メイリア。もちろん偽名だ。
ヘマをやったと言えば七賢者の鍵の回収部隊だろうか、その部隊に支持を出した人間と言えば。
「わ、わしじゃないぞ? それに作戦は成功しておった! 急に研究員が消えたのじゃぞ!? シリンダー内のアンドロイドにもアクセスは成功しておったし」
あの街の特亜重工の統括者である。スカム・ガンダルフィ老しかいない。
「――それにぃ、あの町の情報屋の殺害命令出したのはだぁれ? シンタ・ダンタリオンの情婦って情報上がってるんだけどぉ?」
「し、知らぬ! 作戦計画概要とアンドロイドの情報が洩れてからケジメを付けさせただけじゃ! あんな化け物が出て来ると思わんじゃろう? 咆哮だけでビルを破壊し、雲を割り裂くなど想像できるのか!? 空を飛び、雷を操り、地すら奴の掌の中じゃ! ――あやつは、プラネットリングが開発した新種のアンドロイドではないのか? のう、スタディ・ボーガン!?」
自身のミスを怪物の異常性を引き出して誤魔化しにかかってるな。気持ちは分からんでもないが。
「……あんな広範囲に影響を与える兵器なんぞ人間サイズに納める何ぞ不可能……いや、待てよ。プラネットリングの研究データにあった位相空間への兵器格納ならできなくもないが――」
恒星間移動の際、固定化した位相が乱れ、実験は失敗したと報告されていたが。
「あの怪物のせいにしても結局責任は逃れられないわよぉ、どうしてくれんのよぉ?」
そうだな、責任を取らなければいけない事にはかわりないな。
「……すでに儂の支部は壊滅してしもうた。どうする事も出来んよ」
すでに思考まで老いたか、アンドロイド技術で延命してはいたが脳が劣化しているのかもしれないな。
――現在、最大迎撃目標である特殊個体が警戒網に観測されました。実働部隊は戦闘条項に従いただちに持ち場へに出動せよ。非戦闘員はと指定されたシェルターへ避難行動を取れ。繰り返す、現在、最大――
本社内に緊急警報が鳴り始め工廠一帯に緊急放送が流れ始めた。
「奴がとうとう来てしもうた……おしまいじゃ……」
「あんたが直接手を出した犯人なんだから自分で首でも持って行きなさいよぉ!」
こうして言い争っているうちにも恐らく目指すはこの本社ビル、七賢者の鍵の移送を考えなければッ――
――ゴォンッ。
轟音と共に意識が途切れた事だけはなんとか覚えている、恐らく天井が崩落したのだろう、瓦礫が飛んできて衝撃を受けたのだと理解する。
室内を見渡せば幹部連中は――生死不明だな、ただ分かることはひとつ、ガンダルフィ老が本物の怪物の手に握りしめられて情報を吐かされている。
空間を割り出現している巨腕の根元にはシンタ・ダンタリオンが厳めしい顔をして立っている。
ああ、やはり位相空間に収納されている兵器があったかと、流れ出る血など気にせずに考察を始める。
――ぐちゃり。
ガンダルフィ老の頭部が破壊された室内に転がると、残りの抜け殻が壁に叩きつけられた。




