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獣の咆哮

 七賢者の鍵を解析も終わり日課でもあるスラム街のオートマトンの強化を行っている。


 六連装ミサイルポッドを丁度手に入れていたので、逆関節で上半身に人間が搭乗して操縦するタイプのオートマトンに積み込んでいた。

 

 頭部の無い外骨格の延長線上のようなフォルムは、良く壁外でも見掛ける簡易な作りをしたタイプだ。


 ――ピピピッ。


 情報端末に連絡が入る、この番号は……インファだな、危ない橋を渡っていたので念の為番号を渡して置いたハズだ。すぐに応答する。


「――どうした」


「旦那ァ!! しくじっちまったッ! 今壁外に居る! ――グボッ。……最後に……話せて……良かった、ぜ」


 インファに渡していた銀の反応を即座に探知――ここかッ。


 壁外の旧市街地のビルの間に転移した、周囲には真新しい弾痕が激しく瓦礫を作り出している。前方には砲口から煙を噴き出している改造されたオートマトン。

 

 ロゴには、特亜重工と記載されている。


 そして足元には……息絶えたインファ――。


「……魂縛」


 今まさに肉体から抜け出そうとしている魂を縛り付ける。そうそう私と関係を持った君が来世に向かうことが出来るとは思わない方がいい。


 ゆっくりと死体を抱え、溢れ出す血液が腕を伝い滴り落ちる。


 まだ、暖かい。これが親しい者の死か……覚えておこう、忘れれはしないがな。


 ああ、それにしても特亜重工か。死にたいみたいだな。うん、殺そう。


「ああ、ああ、ああ、ああ。――ぜってぇ殺ぉす!」


 あああぁぁぁぁああぁぁあ゛あ゛ぁぁぁぁ!!




ViewPoint Switching/

 



>>依頼に記載された標的の顔との整合率九十パーセント以上一致。

>>個体名/インファ 性別/女 依頼通りに殺害遂行せよ。

>>搭乗者/マーカス・ライアー


 特亜重工製の高性能AIが標的の照合を始めている。


 旧市街地を逃げ惑う女性一人を追うオートマトンの集団、ガトリングが鈍色に輝き、二脚の逆関節が砂埃を巻き上げ獲物を追い立てる。


 二十機もの隊を組んで狡猾に逃げ場を狭めていく、オオカミの如き連携は精鋭のソレだ。


>>前方百メートル追い詰めました。狩りを始めてくださいファング隊。


 精鋭に配布されたAIの命令が下る、逆らう人間はこの場に存在しない。立場が“上”なのは高性能AIのようだ。任務遂行の無駄口を叩く者は見当たらない。


>>照準固定、ガトリングドラム回転、射撃開始


 ――キュルル。


 数瞬の回転後、無慈悲放たれた弾幕が女性の胴体を貫いて行く。


 突き当りのビルまで弾丸がめり込み、瓦礫が飛び散った。


 噴き出した血液が地面を染めて行く、血染めのキャンパスは泥に塗れ広がっていく。


>>推定、死亡を確認。確実に頭を吹き飛ばし命令を遂行せよ。搭乗者ライアー


 残酷なまでに命令を下すAI、この部隊の中にコレを好きになれる者などいない。

 

 再び照準が固定され射撃の準備に入る。銃身冷却の為、クールタイムがあと数十秒ある。メンテナンス時に報奨金から天引きされるため、冷却は長めにとるのが常識だ。


 標的の後方に男が急に現れた。サーチにも確認されておらず本当にゴーストの様に出現した。


>>異常確認、照会、情報照合結果一件確認、掃除屋クリーナー遺物使い(レリッカー)死体収集家コレクター、武装組織ダンタリオン頭目。シンタ・ダンタリオン。重要警戒人物です。


 彼はこちらを一瞥すると標的の死体を抱き上げた、精鋭であるファング部隊を睨みつける。彼らは嫌な予感がしていた。長く生きる“コツ”はその天性のカンに従う事だ。そうして長く戦場を駆けて来た。


 特大の爆弾が燻っている。普段は仲の良くない者同士の目が合った。絶望の瞬間がこちら向かって来てやがる――と。瞬間、鳥肌が立つ。




「あああぁぁぁぁああぁぁあ゛あ゛ぁぁぁぁ!!」




 天性の勘で異常を敏感に察知し回避が間に合った者は約十機ほど、後はビルの外壁に叩きつけられ再起不能だ。


 十機ものオートマトンの装甲がひしゃげ、同僚の顔が破裂した。


 獣の咆哮。それだけだ。


 シンタ・ダンタリオンの口内から出た咆哮/衝撃は直線的にこちらへ突き進み、両サイドに砂埃が分かれて行った。その風景はモーセの海割りの様に衝撃波が全てを割り砕く。


 轟音を立て通り過ぎて行った道はヤスリで削られたようだ。


 後方を確認すると衝撃波の勢いは止まらず、上空の曇り空が割れて晴れ間が見えた。


 雲間から地上を照らす光が獣の姿を照らし出し、かの獣は天に祝福されているようだ。


>>状況理解不能、情報を取得しつ撤退を推奨、あれは“ナニ”ですか? 過去データ参照も該当件数ゼロです。本社にデータ送信継続、異常事態と判断、特級危険人物に認定、命令受諾、撃破せよ、直ちに撃破せよ


 ファング隊は悲鳴を上げたくなった。アレに勝てるわけないだろう、と。


 ――チリッ。


 認識した瞬間に、一機のオートマトンがはるか上空に、蹴り上げられた“だろう”。


 なぜならシンタ・ダンタリオンが足を天に向けているからだ。彼の片手には首を掴まれた同僚が苦しみ藻掻いている。


>>ガトリングドラムフルバースト

 

 判断は早かった。普段気の合わないAIと息が合うのも今回が初めてだ。あの同僚が間違いなく助からないと判断した残り九機の隊員達が、コンマもブレもなくガトリングガンを全力射撃した。


 ――ダッダッダッダッ。


 二脚の逆関節がオーバーロードしようとも、この全力機動射撃をファング隊は止めない、皆わかっているのだ、奴はコレじゃ死なないと。


 脚部を縦横無尽に操り瓦礫の山を乗り越えていくファング隊、集弾性は落ちるが九機交互に弾倉を交換していき、継続ダメージを与えて行く。


 後方で音がした。


 隣に同僚がいなくなろうとも気にしてはいけない、ひとり明日を見れなくなっただけだ。


 皆、精神が追い詰められているのが分かる。数十秒おきに同僚がひとりづつ天に召されていく。


>>対象生存、射撃効果認められません。今回は逃げてもいいですよ? ライアー


 最近のAIは冗談が上手のようだ。


 ガトリングガンの最後の弾倉だ。これが無くなくなる時がファング隊の最後だと認識している。


 残り部隊員は二人。弾が切れた同僚はたった今上空へ飛んでいった、さぞかし上空からの景色は綺麗だろう。


 ――カララララ。


 ガトリングドラムの回転が止まる。最後の弾倉が今、切れた……。


>>ライアー。あなたの事は好きでもありませんでしたが――嫌いでもありませんでしたよ? 良き来世を


「――糞ったれAIが……そこは、嘘でも愛してると言うとこだろうがよ……ああ、罰が当たっちまったかなぁ……リーシャ済まなかった――」


 熱を感じたのは一瞬だけだった、何か強大で暗い腕に掴まれて、地獄のような空間に引きずり込まれたんだ。


 周りは同僚が周囲を見渡している、そして上空には――


 巨大な悪魔が居たんだ。俺達は怒らせたらいけねえ奴を怒らせちまったんだ。


 この時ほど神の存在を渇望したことはねえや、ああ、俺達に来世なんかなかったんだ。向かう先は地獄よりもひでぇ虚無しかねぇんだ。


 ああ、悪魔がやって来る。巨大な掌が俺達の頭上に落ち――




/End




 ぐちゃり。


 最後のオートマトンを顕現させた悪魔の掌で叩き潰した。


 腕だけを虚空に三十メートル程顕現させ、横に薙ぎ払ったためビルが数件根元から吹き飛んでいる。少し――興奮してしまったな。


 首をコキリと鳴らすと、掌握した奴らの魂を存在事握りつぶした。


 溜飲は少しは下がったか。回収できないくらい特亜重工のオートマトンを破壊し尽くしてしまった。データが残っている機体が有ればいいが。


 最初に吹き飛ばし、大破した機体を探し出した。


 生きている部品を探し出すと調査を始める。


「こいつは。今もなお情報を送っているな――おい、見ていただろう? 特亜重工の連中共。殺しに行くから待ってろよ?」


 ――ハッキング開始、特亜重工のネットワークを全て破壊せよ。


 データ送信されているラインを辿り、繋がっている機器のプログラムを全て破壊する。


 しまったな。特亜製の情報端末も、もしかしたら巻き添えを食らっているかもしれない。


 急に出てきたからな、そろそろ帰還しよう。今後このような事が無いように身の回りの強化は必須事項になった。


 中途半端な関係になるのならすぐに引き込まないとな。

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