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新しい家族だよ

 アンドロイドの彼女を液体で満たされたシリンダー内から救い出す、液体は循環機能を保持しており、もしもの時の為にこの装置を慎重に取り外し回収しておく。


 ≪清浄≫で濡れている彼女を綺麗にすると上下セットの防護服を渡す。シンプルな衣服だが、おしゃれをするのは、ここを出てからでも遅くないだろう。


 ごそごそと着替えている彼女にここの施設の解析を行いたい旨を話すと、簡易アクセス権を貰うことが出来た。施設に残されている人間、もしくはアンドロイドが彼女だけなので自然と最上位指揮権が彼女の物になっていたらしい。


「ありがとう、中央にある転移装置でプラネットリングに行くことは可能か?」


 少し考えた後あまりよい返答を返せないのか心苦しそうな顔をしている。


「……いえ、プラネットリングのAIからアクセス拒否されたままだと思います。相互認証しなければ通行できません」


 ならば解析してから回収しても問題ないな、彼女を放置する事になるが、転移装置の解析に移る。


 転移装置に触れ、モニターを空間に投影させる。上部に数値の羅列がしばらく流れて行く。


「うむ、勉強になるな。こういうアプローチの方法があったのか。概念兵装だと“こういうもの”だと、大雑把な所があるからな」


 相互観測による世界間に存在を誤認させ再構成していく。


 これなら、どの地点に居ようと装置を使うことができるな、次元間転送システムにも応用できそうだ。


 簡単に言うとこの装置は世界を騙して、その場所にいた事にしているだけだ。


 シュレディンガーの猫は有名だろう。実験の内容は残酷なものだが、蓋をした箱の中身が“生死が重なっている状態”と言う結果になる。


 この装置で強制的に世界法則に“どちらにも存在する状態”を認識させ。確定させることで転移が可能となる仕組みだ。


 これは、“観測する”という世界法則に干渉する技術がないと実現できない。


 調べ甲斐がある装置だなこれは。


 しばらくモニターに向かって作業していると、アンドロイドの彼女が隣に座ってくる。


 シリンダーから出てきたばかりで何も食べていないだろうと、クッキーとペットボトルのお茶を用意する。


 ぺこりと頭を下げるとポリポリとハムスターの様に齧り始めた。


 ポリポリポリポリ。


[――超技術ではなく、これは人間の発想の賜物ですね。眼から鱗です]


「そうだな。次元間の拠点の安定性に繋がるな」


 ポリポリポリポリ。


 大まかな概要が判明した。後はプラネットリングとのネットワークを解析してハッキングできるシステム構築を行う。


 ここにある装置で指令、もしくは相互データ通信を行っていたようだしな。


 ポリポリ…………ショボン。


 バスケットに山盛りに乗せたお代わりを、そっと彼女の手元に置いてあげる。


 バリバリバリバリ…………。


 彼女、意外と食意地が張っているな、まあお腹が空いていたんだろう。





 システム構築の作業をしている間、彼女はクッキーを二回ほどお代わりをしていた。クッキーばかりでは飽きるだろうと思い、ロールケーキを出したのがまずかった。


 目の色を変えて貪り食い始め、五本もお代わりを要求してきたのだ。


 渾名はもぐもぐちゃんで決まりだな。 


 システム構築も無事終わり周囲の装置も全て回収した、後は撤退するだけなのだが。


「今から転移術を使うんだがなにか不都合はあるか? 私に話しかける事のできる特異技術なのだが、影響があったり、相互干渉をしたりしないか? ちなみに、私の転移技術は量子的なものではなく、概念由来のものだ」


「――所謂、脳開発され、結果生まれた超能力というものです。分類はテレパシー。脳が発生させる量子が思念に干渉し、会話や精神的攻撃を加えることが出来ます。強度が上がればサイコキネシスと呼ばれるものに分類されます」


 なるほど、思念による通信は良く行っているから分かり易いな。チャンネルを彼女の固有波に合わせると……。


 ――こういう事か?


 ――!! なぜ使えるのですか! 超能力者だったんですか?


「いや、違うよ? 思念通話はわりとポピュラーな技術なものでね、チャンネルを合わせたのだよ。とにかく、転移には問題なさそうだし手を握ってくれるかい?」


「? ええ、はい」


「それでは移動するよ?」


>>精霊術/次元転移トランジション


 転移座標か私が認識していればこのように移動は容易だ、軍事基地に地下施設は知らなかったからね。でもヴィネの概念兵装である千里眼を使い転移するという強引な方法もあったのは事実だ。


 クティとデートがしたかったなんて言えないよね。


 周囲の景色が一変し私の自宅になった事で、もぐもぐちゃんが慌てている。


「これが、転移術だよ。科学技術由来ではなく精霊術というものだ。この世界にはない技術だ。さて、自己紹介でもして色々と情報を教えて貰えないかな? その代わり紅茶とお菓子をごちそうしよう」


 テーブルの上に置かれた見たこともないお菓子が並べられ、彼女の口からは涎が垂れ始めていた。





 彼女の名称は、脳強化試作実験型P-03。サイキック能力に特化させた試作実験型アンドロイド三号さんということだ。


 思念攻撃や脳細胞の破壊攻撃を低出力で何度も私に掛けてもらう、効きはしないが対策と耐性を付けるために協力してもらった。


 脳量子の操作方法解明できたため防御方法も構築できた。


 また攻撃を開始してもらうも無事防御に成功した。原理さえ解明させれば防御方法の構築など意外にできるものだ。


「私の存在意義が……」


「ありがとう、助かったよ。本題なのだが“七賢者の鍵”を解析させてもらえないか? 君自身の魂とも言えるブランクを念のため保護した上でだ――理解できるように細かく説明させてもらう」


 少し長くなるが保険として新たな身体を実際に生成して、どういう原理で行われるのか、解析に万全を期するがもしもの為の新しい体という事を説明した。


 保持しているだけで狙われる原因になるアクセス権を抜き取り、身体を移す選択肢もあることを告げる。


 新しい体のメリットデメリットも伝えると、しばらく悩んではいたが移ることを選択した。


「――少し、少しだけです……胸囲のサイズを大きくできますか? 能力はそのまま使用できることは分かっていますが」


 やけに人間臭いなこのアンドロイドもぐもぐちゃんは。


 お望み通り微調整を彼女の指示で行う。戦闘を熟せるようにあらゆるパラメータも向上させておく。


「では、お願いします。アクセス権なんて持っていてもしょうがないんですよね」


 アクセス権を守り通す使命とやらはどこに行ったんだ? 糖分の取り過ぎでバグでも発生したんじゃないのかね?


「では、始めるぞ」


>>死霊術/安らかな眠り(デス・スリーピング)

>>死霊術/魂縛ソウル・バインド


 銀の腕で彼女に触れる。感情マップとブランクをそのまま優しく抜き取ってあげる。すぐさま、用意した新しい身体に注ぎ込んだ。


 魂が身体に馴染んでしまえば時期に目を覚ますだろう。


 七賢者の鍵が内包されている彼女の元肉体を量子化して私の中に取り込んだ。


 一応再度出す事ができるように丁寧に解析していく。


 これは――肉体が七賢者の鍵と量子的に重なり合っている。魂を抜き取らなければ死んでいたのは間違いないな。


 重なりの情報を解析し、複製を行っていく。なかなかセキュリティの強固なプログラムだなこれは、長丁場になりそうだ。







 クティを呼び出してゆっくりと二人で珈琲を飲んでいる、これでも私の内部では解析が行われており、カステラを食べて糖分を補給している。


 安静にしているもぐもぐちゃんは私の寝室のベットに寝かせている。


「主殿、お疲れさまでした。悪辣な罠には私も驚きましたが」


「ああ、あれか。ああいう全てを巻き込んだ自爆染みたトラップもあると勉強になったな。最悪に最悪を想定するぐらいで丁度いいかもしれないな。反省したよ本当に」


「確実に殺しに来ていましたね、データも破損されているようですし。他の遺跡も慎重に行きましょう。私がお守りしますので」


「今回は同行して上げれなくですまないな。クティとデートをしたかったのだが……また今度な?」


 照れている顔が可愛いな、見た目は黒髪褐色肌の綺麗なお姉さんなんだがな。


「ええ、お待ちしております……っと、彼女が起きたようですね。主殿、彼女の名前はどうするおつもりで?」


 もぐもぐちゃんはさすがに可哀想だよな、ハインティでいいんじゃないか? 気に入らなかったらダンタリオンを名乗ってもらおう。


「――ハインティと呼ぼう。気に入らなければ彼女が決めるだろう」


「分かりました、彼女を連れてきますね」


 寝室に向かったクティが、眠たそうな彼女を連れて来る。


「おはよう。まだ眠たそうだね? 移植は成功したよ、暫くは身体を休めて馴染ませると良い、それと君の名前を決めたんだ。“ハインティ”と呼ばせてもらう。気に入らなければ変更すればいいし、いずれ自分で決め直すのも良いと思うよ?」


「……ハインティ。私の名前――ありがとう」


 ニコリと笑った彼女の笑顔は純粋で綺麗な顔だった。そうして喜んでもらえるなら家族として迎えて良かったと思えるよ。

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