こんにちは、お嬢さん
暗闇の中をひたすら進んで行く内部の概略は網膜上にマップとして表示され、私の魔眼で光の明暗、熱の高低、の情報を解析。先程から小石を放り投げ、鋭い聴覚で反響定位を行う。
新たに作り上げられていく詳細なマップは進む毎に更新されていく、現在地下三階、恐らく十階以上ある階層をひたすら降りて行く。人間用のエレベーターダクトは塞がれており使用できなくなっていた。
この基地を放棄する際にでも破壊したのだろう。
大型機器を搬出入できる斜行エレベーターもあるが特亜重工の私兵に見張られてる上に大量の土砂が流れ込んでいた。地面に潜行もできるが物凄く泥だらけになるのだよ。
施設に使用されている演算装置はナノマシンが内蔵されており運が良ければ破損を免れ残ってることが多い。
一回層ずつ情報端末にデータが残っていないか確認していき、ようやく軍事施設の全体マップを手に入れた。
「これは、転送装置か? 量子技術を持っていたのなら考えられるな」
最下層に設置されていることが分かったが。武器庫や兵器開発部も存在している。先に収集活動に勤しむとする。
しばらく探索を続けると漸く研究施設に到着する。
他の探索者はまだ見つけていないようだな、数か所ほど土砂で埋まっており少々泥に塗れてしまったが。
厳重に封鎖され隙間すらない。ナノマシンで完全密閉され、セキュリティが厳重なのだろう。
吸収してしまうのも可能だが、セキュリティシステムが発動して破壊されてしまう可能性がある。
――アラメス、いけるか?
[――試してみては? 無理なら全てを飲み込み解析しましょう]
――そうだな、お願いするよ。
手を隔壁に触れ解析開始。
>>接続確認/ナノマシンに干渉/解析/セキュリティコード確認/クラッキング開始/…………突破/アクセス認証/ジェネラルコード発行されました
障壁が薄くなっていき部屋の中に入る事が出来た。照明がまだ生きており正式な訪問者として歓迎されている気分だ。
ジェネラルコード、将校のアクセス権だな、特別な隔壁だからこそ逆算して構築したんだな。
内部は広々としておりとても地下施設とは思えない、後続が入ってこないように念のため隔壁を再度展開しておく。
研究室にはジェネレータらしきものが複数存在していた。研究中の兵装や、シリンダーなどが並べられている。
中央に天井に届くほどの大型演算装置らしきものがあったためアクセスする。
カードスロットに銀を侵入させハッキングを開始する。
兵装の設計図や、ジェネレーター理論、アンドロイドの生体ナノマシンの培養方法や、プラネットリングへの接続方法。――これだ。
なになに、七つの最高権力者の承認の元、プラネットリングへのアクセスが可能となる、惑星規模の環境調整の為慎重に協議しパラメータを変更できる。
そりゃそうだな。一人の暴走で惑星が破壊されるなどあってはならない。
『やられた! 暗号化された七賢者の鍵にバックドアが仕掛けられていたッ! 上層部のごく一部の犯行だが巧妙にも隠されている。何とかランダムに転送させ、全ての鍵を奪取されることはさけることが出来た。数多あるアンドロイドの電脳にランダムで移動をし続けるはずだ』
ん? これは巧妙にプログラムに仕込まれた日記みたいなものか。
『――プラネットリングがとうとう暴走し始めた。七賢者の鍵が足りないままアクセスを行いパラメータを弄った結果だ……愚か者め。量子化したAIハーヴェストはアクセス権が不足した際に自由を手に入れることが出来る。この攻撃は愚かな人類に彼女が絶望した結果なのだよ。我が娘を弄んだ罪だこのまま滅びてしまうがいい』
これは……AIハーヴェストの製作者の一人なのかもしれない。
『――もうすぐこの施設を放棄する事になる。この日記を読んでいるという事は相当高度なハッキング技術を持つか、私が託したアクセス権を持っているかだ。君はどちらかな? ――残念だ。できれば正しき継承者に読んでもらいたかったが……死んでもらうとしよう』
――アラメス! 全力で吸収しろ! この研究所丸ごとだ!!
周囲の壁が急速に縮み始めた、ジェネレーターや兵装を吸収する時間はある。
演算装置は――クソッ! データ消去が進んでいる、このまま全て飲み込むぞ!
大型演算装置を銀で包み込み全てを飲み込んだ。内部で解析はするが、ある程度残ってくれればいいが。
迫りくる壁に対抗し部屋中に銀で満たし押し返す。ナノマシン製の特殊隔壁を接触面からジワジワと取り込んでいく。
「ああ、クソッ。久しぶりにしてやられた気がするな、一世紀以上前のトラップにやられるとは。アラメスすまない、いきなり中枢へアクセスしたのは判断ミスだった。解体しながら解析すればもう少し情報が得られただろうな」
[――それでも予測三割は回収できると思いますよ、取り込んでしまえばデータは破損はしますが、解析も早いですから]
問題は周囲の壁が全て無くなったことで、土砂が大量に流れ込んできている。
元来た通路に戻るか。
再び探索しながら読み取れた生体ナノマシンの培養、増殖方法を閲覧する。これは量子技術を使用したプログラムを打ち込んでいるだけだな。
設計図を量子コンピューターで作成し、途轍もない時間で詰め込まれた、あらゆる形に対応できるよう自己進化、自己増殖機能を盛り込まれたウイルスみたいな物だろう。
何をもって“生体”と定義しているか分からないが、有機物の原子配列を操作できるのだろう。
デザイニングできる生命体、それは人間と何一つ変わらないのではないだろうか。
形を決めるプログラムのアクセス装置を使い、培養されたナノマシンを様々な分野で使われたのだろう。最初の一つ目はの製作は途轍もなく大変だが、一度増やせばあとはマシンに設計図を打ち込むだけだな。
一世紀以上もプラネットリングで製造されているナノマシンは、この惑星にどれほどの量を散布しているのだろう。
[――ナノ技術取得により、物質の生成技術が向上、展開力の次元が上がりました。原子レベルでの命令力の概念が付与され、フォトン機関の改良もできました]
――つまり?
[――圧縮率の向上で接触崩壊を意図的に伝播させ小惑星程度なら消滅させることが出来ます]
――コロニーサイズで惑星を撃ったら?
[――大陸はもちろん。巨大な穴が生成され結果的に人類は滅びるでしょう。消滅させるには至りませんね、残念です]
――さすがに惑星破壊は無理か、疑似ブラックホール理論はどうだ?
[――中途半端に大陸を飲み込んで消えるでしょう、虚無の解析で研究は進んでいますが実験を行うには大変危険です]
――簡単に最強兵器とかできたら、つまらないだろう? じっくりと基礎理論を積み立ててからこその楽しみだよ。
[――たまにはいい事を言いますね、……じっくりと、楽しみ、ですか。そうですね何でもできるようになったらつまらないですね]
話を進めている内に最下層へ到着する。あれは特亜重工の人間か? シリンダーの中には人間の姿をした、アンドロイドか?
転移装置が奥の方にあるが触れてはいないようだ、周囲の壁も恐らくナノマシンを含んでいる。研究所の罠があの開発者だけのものだと思いたいが先入観の持ち過ぎは危険だな。
じっくりと壁際を歩いて行き万が一にバレないように移動する。特異技術とやらがあった場合を想定する。
転移装置に触れることが出来た、解析を頼む、ナノ単位で警戒してくれ。
警戒技術にナノマシンが追加されて演算処理が増えたがこれぐらいは問題ない。
街一帯のナノマシン全てを監視、解析となると激しく苦労するがな。
ナノマシン製造技術を解析できたことでアクセス権を持ち歩けるようになったようなものだ。設計自体はあるが設計の段階での、打ち込むプログラムが問題だったからな。
――聞こえ……ますか……。そこに……存在する……なにか……。
ああ、やはり特異技術はあったか。恐らくシリンダー内のあの子だろう。
――聞こえてますね。繋がりました、逃がさないですよ。
――やけに高圧的だな少女よ。今忙しいんだ。
――ばらしますよ? ここにいる者達に。
――そこまで困らないが……まあいい、要件は?
――このままでは私の電脳から七賢者の鍵が盗まれます、起動しているアンドロイドが他にいない今、あなたにしか託せません。
――アクセス権か、託されても良いが君はどうなるんだ?
――機能停止し役目を終えるでしょう。
――君は良いのかそれで?
――ええ、役目ですから。
――私と一緒に着いて来るか?
――……できるのですか? この者たちがいますよ?
――上等だ。
>>炎/対象/人間
発動/炎の支配者
調査や作業を行っていた人間が炎に包まれると、断末魔も上げることなく生涯を終える。ブランクすら燃やし尽くし、来世も望めない。
人間大のシリンダーの前に歩いて行く、≪隠密≫を解除し姿を現す。彼女の瞳が開きこちらを認識した。
――あなたはいったい何者なのですか? データベースにも存在しない生物反応です。
「初めまして、私はダンタリオン。しがない悪魔だよ。お嬢さん」




