情報収集
スラム街では毎日多くの人間が野垂れ死んでいる、ボロボロのマンションのエントランスには数十人もの子供や老人が集まって来ている。
入り口には重機関銃が数門も備えつけられており、重武装のオートマトンが聳え立っている。
この場所はスラムの取りまとめと交渉した結果怪我や、仕事のない子供が集められ仕事の斡旋、治療などが善意で行われている。
きっかけは私が情報端末に無い情報を収集する為に、奇跡の甘露での子供の怪我の治療や義手の製作、汚れがひどい人間へ病気の治療ついでに、スキル/清浄を広範囲に渡り使用していた。
当然、裏組織に目を付けられ悉く殲滅してきた。比較的全うなスラムの組織のリーダーが護衛や物資の交渉に出て来た為、これを承諾。拾ってきたオートマトンや重機関銃を仕入れて分配。治安維持活動に精を出してもらっている。
高額依頼をいくつもまとめて完遂してきたせいか、ある意味で私の縄張り認識されてしまった。これは面倒になるなと思った私は、スラムと住宅の境目に襲撃者を磔にして火葬する死刑場を作成した。
毎日、公開処刑を行っており、スラム名物になっている。
小さな少年兵でも訓練を施しており、私が供給したオートマトンが数十機を組織の人員が操作し今日も治安が守られている。
装備も食事も潤沢で、ある意味新たな経済圏ができ始めてもいる。ついつい興に乗ってしまい組織作りを楽しんでしまった。
「ボス、今週の報告書をデータにまとめておきました。企業のスパイが複数やってきましたがこちらで処理しておきました――貧乏人と怪我人しかいないのに奴らも好きですねぇ」
そうなのだ、本気で慈善事業染みた集まりでしかないのに、何かのカモフラージュだと変に勘繰られてしまっている。おかげで企業スパイがわんさかやって来る。
「ありがとう。近々遠征に行ってくる。アースユニオンの重要軍事施設だ。ちょっとキナ臭い依頼を見つけてな――念のため組織の装備の更新を行う。それとこれをつかえ」
数件ほど家が購入できるクレジットをリーダーであるオネストに渡す。でかい図体に筋肉達磨だが意外と律儀で仁義のわかる男だ。
装備更新は身に着ける防具一式や、アサルトライフル、ガトリングなどオートマトンを参考にそこら中にある建物を吸収し、腐る程製作している。食料は購入しているが。そこらの軍並みに装備は潤沢だろう。
まあ、ちょっと異常さは披露しているが何も聞いてこない。ただ、すごく熱い目で見つめてこられるけどな。
「組織の名をそろそろ決めたらどうだ? いつまでも私の名を使っている? リーダーは君だろう?」
「いえ、リーダーは私ですが、ボスはあなたです! 組織、ダンタリオン。今や一番勢いのある武装組織ですよ」
「――そうか、悪さしないならダンタリオンと名乗っていいぞ。敵は私が潰してやる、命を大事にな。――そうだ、私の名の由来である同格の悪魔の名前なんだが。オネストの部隊名をバルバトスにしてみたらどうだ? 狩人の悪魔だ」
驚愕し目を見開いたオネストは飛び上がらんばかりに喜んでいる。
「ありがとうございます!! “バルバトス”の部隊名を名乗らせて頂きます!」
情報端末を操作し主だったメンバーへ部隊名を頂いたと連絡をしている。
そんなに嬉しいのか……よし。
「――オネスト、万が一だが強大なの戦力が攻めて来た時に使え。PCGだ。三丁程渡しておく。威力が凄いからなるべくバレないように使え。奪われても大丈夫なように個人認証システムと解析されると自己崩壊するようになっている。届く範囲の原子崩壊を起こす危険物だ。プラネットリングのビームより強いぞ?」
うやうやしく受け取ると個人認証を行う。後の二丁は予備にするか信頼できる奴に渡して欲しい。
「私の使っているPCCの小型版だ。一度起動すれば弾数補給の為、圧縮時間は取られるが実質撃ち放題だ。これからもよろしく頼むぞ」
「ハッ!」
綺麗な敬礼を行い部屋を出て行った。ここは軍隊じゃないんだがな。
エントランスにいる怪我人の治療が終わり、周囲に≪清浄≫を広範囲にかけ終わると、街へ繰り出していく。
スラムを歩いて移動する際は無作為に≪清浄≫を掛けている為、建物や人々が綺麗になっていく。認識さえしていれば“汚れ”と判断されたものが清潔になるので意外と喜ばれている。スラムの腸内の寄生虫駆除や、感染病の予防は街よりもスラムの方が進んでいるのは皮肉だよな。
待ちの裏路地を進み、地下排水施設の蓋を開ける、とても嗅ぎたくない匂いだったので向かう先までの範囲を一気に≪清浄≫を使う。実はこの世界に来て一番使っているスキルでもある。
「またあんたか、匂いが消えちまって辺りがすっかり快適になっちまう。分かり易い旦那だね」
隻腕の女だった情報屋、インファだ。“だった”私がテストがてらサイバネ技術を使って高性能の義手を作成し手術を行ったためだ。高周波ブレードも格納されており、何かと重宝しているそうだ。
なぜこの場所を拠点にしているのは、インファが中々の非合法な組織と繋がっており、情報端末に残らない情報を取り扱っている。
私は彼女の常連であり、お得意様でもある。
「アースユニオンの施設――知ってたか。詳細を教えてくれ、報酬は、これだ」
新鮮な葉を巻いた天然物の葉巻五セットと、十五年物のウイスキーを彼女の目の前へ置いた。
「やるねぇ旦那。このご時世こんな上物いくらクレジット積んだって手に入れられねえよ! スラムでもそうだぜ。あんた、魔法使いか何かかよ? そう言われてもおかしくねえぜ!」
追加で紙巻煙草を積み上げ、ブランデーも五本置く。彼女がこちらの話をするときは口止め料を払うのが常識だ。
「愛してるぜ旦那、あんたに綺麗にしてもらった下のお口、後で使って行きな。こんな場所だから燃えるものもあんだろ? ――アースユニオン攻略作戦、特亜重工が独断で私兵を集めている。集会所を経由せずに、だ。なんでもお宝――七賢者の鍵がな……」
彼女翠眼に合う、エメラルドの指輪をそっと指に嵌める。危険な情報なのだろう。
「――七賢者の鍵、プラネットリングへの分配されたアクセス権を持つアンドロイドが見つかったって話だ。企業へ情報が売られる前に生きてた奴の情報だ。知ってるだけで始末されちまった――あんたも情報を端末に乗せるなよ?」
もちろんだ、対策はしているがな。空気中に散布されているナノマシンのアクセス権を一部企業が持っているらしいからな。
今時珍しい、茶がかった紙に簡易的だがアースユニオンの概略が書かれている。
宝石を数種、地図と交換で手渡しする。
「――もし、コネが無くなっちまったら旦那に拾ってもらおうかな。気味が悪いくらい払いが良すぎるぜ。まさかホレちまったとか? んなわけねえよな、こんな女」
軽く頬を撫でてあげ、キスをする。
「……本気になっちまったら情報屋もおしまいじゃねえか……ほら、裏にきな、支払い。こっちが貰い過ぎだ」
壁を破壊して穴倉の中に簡易宿泊施設が設置されており。よく拠点として利用しているようだ。
腕を引かれ中へ連れていかれると、ベットに引きずり込まれてしまう。
両頬を掴まれ熱烈な愛情を注ぎこまれる。
「――ぷはっ。あー、かなり、むらむらしちまった。旦那、相当好きものそうだからな、楽しませてくれよ?」
情報を買いにきたのだがどちらが買われているのか分からないな。
彼女との逢瀬を夜中まで楽しんだのだが、家で待っていたクティに拗ねられてしまった。
ご機嫌取りに朝まで相手させられてしまうのだが、随分と爛れた生活になってしまったな。




