酒と煙草と血飛沫と世紀末
荒くれものどもが集まり場末の集会所。そこら中のテーブルではトランプで賭け事をしながら合成アルコールと違法薬物を含んだ煙草を楽しみ、汗の臭さと硝煙の匂いが混ざり、最悪な環境が出来上がっている。
それでもなお人の出入りが頻繁であり、カウンターでは今日も阿呆が獲物の値段を吊り上げようと叫び散らしている。
やかましいそいつの胴体に蹴りを食らわせ、壁際に吹き飛ばす。
受領カウンターの上に依頼されていた暴走したオートマトンのチップを丁寧に置く。解析機にすぐさま置かれると確認が済んだのか、私の情報端末にCCの支払われ、受け取りの処理清算を済ませる。
集会所のボスの女である化粧臭い受付の女が、獲物を狙う目で話しかけて来る。
「遺物使いさんは、稼ぎがいいねぇ。お零れに預かりたいもんだ。私の下の穴が丁度濡れてんだ、安くしとくから使ってくかい?」
「私は堅実な人間でね、将来の為に“貯蓄”しているんだよ。こうして声を大きくして宣言して置けばクズ共の臓器とちょっとしたお小遣いが向こうからやって来るんだ。この集会所は最高に素敵な場所だよ」
数名ほどギラギラとした目で見つめて来るが、悲惨な目に遭った知り合いの末路を知っている為目を逸らす者が多い。
ある意味で、私はこの集会所では掃除屋の二つ名がつけられている。それと遺物使いは、レールガンや携行できるサイズに小型化したPCCを主兵装として使用しているからだ。
もちろん買い取りたい旨の話が多いが、断っている為に襲撃者が後を絶たない。
少しウザったかったので、目玉をコレクションして集会所の目の前に丁寧に並べてやると襲撃者が激減する事となる。
死体収集家とも蔑称で呼ばれるようになったが、二つ名は多いいほどこの世界では幅を利かせれる。
今日も今日とて、集会所に集まった情報を精査して特に目につく程の情報は無かった為、帰還することになる。
帰り際に必ず襲撃しそうなクズに声を掛ける。
「そこのクズ。私は裏に行くからさっさと来い。目玉を抜いてやる――コレが欲しいんだろう? だが、貴様の命を担保にしな」
情報端末をちらつかせると頷きニヤついているチンピラ。
素早く近づくとそいつの首を掴み上げ裏手に引きずっていく。私を襲撃しようと思うのなら死が確定されている。
それぐらい過激な方がここでは舐められない。
集会所は質が低いが大規模な依頼があった際の肉壁が減るとぼやいてはいるがな。ガタイのデカい奴らが私の歩く道を作っていく様は、すでに集会所の名物となってしまっている。
そこまで時間を掛ける事もなく、首をへし折り、目玉を引き抜くとこいつの情報端末にハッキングをしかけてCCと情報を吸い上げて行く。
「――ん。裏経由の依頼情報か? 希少な後期戦闘アンドロイドの確保。場所は、元アースユニオンの重要軍事施設。結構遠いな」
この世界はミュータントと暴走したアンドロイドやオートマトンによって崩壊し、長い年月が経過している。
地上から空を見上げると衛星軌道上に見える、巨大な金属の線は、この惑星を一周する規格外の装置。通称プラネットリング、惑星の環境を整え、オートマトンを常に排出し続けている。
そして、それらを統括しているAIハーヴェストが暴走、環境を整えるナノマシンが動植物を変異させ、ミュータントに。オートマトンは人間を襲うように攻撃性を伴うようになってしまった。
先程でてきたアースユニオン、人類崩壊の引き金を引いたAIやオートマトン、アンドロイドを所持し惑星外への進出の為に随分とあくどい事をしてきた軍隊だ。強引な連合加入は時に戦争を起こし、支配地域を拡大させていった。
他にも大規模な組織は過去に存在していたが全て無くなり、その技術を発見引き継いだもの達が企業を起こし、土地や武器、食料などの権利を握る。
そうした組織が企業連合を結成し、各地域に集会所で仕事を斡旋している。暗号資産、カルテルクレジット/CCの発行も行っており、基軸通貨となっている。
プラネットリングへすでに接近し調査を試みたところビームの雨を降らされ地上部に大損害が発生した。
転移での突入も考えたが強引に調査するよりも認証キーや過去の遺物を地上で探しながらのんびりする事もいいかと遺物ハンターの生活を楽しんでいる。
プラネットリングの表層には空間が歪曲しており防御力がかなり高い、その技術の捜索も兼ねている。突入の際に破壊する必要があるので、なるべく慎重に行きたいところだ。
惑星のどこかにプラネットリングを操作できる最重要施設が眠っていると聞いている。眉唾な遺跡を探すのもハンターとして楽しめる要素が満載だ。人間付き合いが殴って殺すなどシンプルのなのがまたいい。
前回の事で疲れた精神がチンピラに癒されるのは癪だが、私の性分に合っている世界だ。
各都市や、街の首位には防壁が設営されており、検問が存在する、市民権や上位ハンターなどは身分データを登録すればロハで通過できる。市民権は一定の税の支払いをすることで発行される。
支払いをできなくなった市民や、違法に侵入、もしくは連れてこられた人間がスラムを形成、馬鹿にできない一大勢力伴っている。企業が経営する集会所も頭を抱えているが裏では談合が行われているのだろうな。
私の拠点はそのスラム内にあり、ハンターとして登録してからトントン拍子で上位ハンターとなっている、襲撃が多いので少し奥まった場所に住んでいるがこの雑多な環境が意外と好きみたいだ。
セキュリティコードを認証させ部屋に帰って来た。
部屋に入室し終わると、銀行に採用されている金庫程の厚さはないが、三百ミリの厚さの鋼製で、電子制御されているロック付きの扉がガキョン、と施錠音を鳴らして閉まる。
私の拠点の見た目はボロボロで、今にも崩れそうな二階建ての建物だが、内装は全く違う。
内壁に採用されている素材は、爆撃を受けても平気で耐える圧縮金属を使っており、灰色のシンプルで無機質な質感に仕上げている。
壁面に設置されたAIが内蔵された情報集積装置。
思考操作で大型モニターが壁に展開されると、街並みが映し出され、あらゆる情報端末のデータが集積、分析され、カテゴリー毎に表示される。
おおまかに分類されたデータをソファーに寝転がりながら閲覧していく。
部屋の清掃や管理は拾ってきた小型のオートマトンを改造して使っている。駆動音が気にならないことも無いが許容範囲であろう。
炭酸の効いたサイダーをグビグビと飲み干しながら、スナック菓子を頬張る。この世界では存在しないレアものだが、これで商売をする気にはならない。
油っこいスナック菓子をスカッとした炭酸飲料で流し込む快感は何者にも代えがたい。この荒れた世界に紅茶はいまいち合わないのだよ。落ち着いた時に飲むとしよう。
「主殿、この重機関銃はリコイルがとても気持ちがいいのですね。飛び散る血と臓物の色どりが気に入りました」
もう一人の部屋の主であるクティが重機関銃の試し打ちをしていたようだ。片手にひとつずつ人間には持つことが出来ない銃器を平気で振り回している。
襲撃者の処理を彼女に任せて以来、色々な武器を試しているようだ。
性質は悪。虐殺を恍惚とした表情で行っている。人間を殺し排出される負のエネルギーを糧にしているのだが、ここに立っているだけでもガンガン能力が強化されていっているらしい。
悪魔鎧を主武装とし概念もいくらか渡しているが魔眼の成長が著しい。
咆哮によるマヒ攻撃がラミアの時に使用していたが、それが魔眼に採用され、静止も魔眼へと進化した。他にも遠視、未来視、呪視、とバリエーション豊富だ。
呪いの魔眼など、私が持っておらず欲しいくらいだ。
「主殿、この世界は素晴らしいですね。力が漲ってきます……その、昂ってしまいましたので――私を使って頂けないでしょうか? 恐れ多い事ですが……」
こうしてクティとの関係も定番となってしまった。戦闘能力も高く依頼にも頻繁に同行している。どうやら妻の会合に影響されてしまい、このような感じになってしまった。
「ああ、おいで。近々、大きな施設に潜ることになる、その英気を養うとしよう」
ソファーへクティを引き寄せると、褐色のハリのある肌をするりと撫でる。
男を誘う性質なのか甘い匂いがうなじから漂い、長髪の輝く黒髪が私の首筋に垂れて来る。
艶やかな唇をむさぼり食うと、長い二股の舌が私の鎖骨を舐めて来る。
「ご奉仕させて頂きますわ……主殿。お慕いしております――」




