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修復不可能

 数週間ぶりに朝まで励んでしまい微睡みがとてつもなく幸せに感じる。腕に掛かる心地の良い重さが丁度いい。

 

 腕枕している手でサラサラした髪を手櫛をしながら、彼女の頬にキスをした。


「ん、おはよう」


「おはようさん。一緒に風呂に入って朝食でも取ろうか」


「うん、わかった」


 もう、お互い慣れたもので、一緒に風呂に入っても恥ずかしがらなくなっている。あの、初々しさも魅力的なポイントではあったのだがな。





 朝食取り終わり日本に帰還する。勢いで海外のホテルにしけこんだが今日は立派な平日である。


 私も、数週間ぶりで若さと勢いに負けてしまった。


 取り敢えず彼女が一度家に帰りたいと言うので家の前へ転移、当然お母さんとやらがいるが今日の私は賢者となっている。多少寛容な心で受け止めてやろう。


「オカエリナサイ。遅かったわね――峯山さん」


「ええ、朝まで若い肢体を貪り食っていたんでね。ああ、避妊は私しない主義なので悪しからず。お義母さん?」


「――チッ! クソガキが! 色付きやがって」


「ああ、女日照りなんですね、残念、ピチピチしていない人は私、守備範囲外なんですよ。親子丼も良いと最初は思ったのですが――うーん、無し寄りの……ギリ有りか……?」


「殺すぞ」


 あーあー、こんな張り詰めた空気でも心地よく受け流せる。ニチャリと汚らしい笑みを盛大にプレゼントしてあげる。


 実は土御門の縁で取引を開始しており、陰陽寮で下にも置かない扱いへと変貌している。あの錫杖と刀を鑑定した結果。霊力の結晶であることが駄目押しで判明し。ありえない物質、秘宝級を作成できる貴重な人材として認定されたようだった、当然、お義母さんは面白くない。


 大事な一人娘に数十人も虐殺するクソ虫が付いているのだ。だけど手が出せない重要人物。でも、稼ぎはすでに億を超えている優良物件。ああ、なんて世の中はうまく行かないのでしょう。


「お義母さん、結納金入ります? 母子家庭で大変でしょう? ああ、ついでにおまけでギリセーフであなたも貰ってあげますしょうか? 結納金増やしてあげますよ?」

 

 高速の貫手が私の目を抉ろうと、突き進んできたが人差し指の腹で受け止めた。


 貫手の風圧でふわりと私の髪が舞う事から、絶対本気の殺意マシマシで放たれたのはおわかりだろう。


「ふふふ、妻の癇癪も可愛いものですね? よーしよし。可愛い可愛い」


 高速の格闘戦を全て人差し指で逸らしながら、お義母さんの胸の突起を突きまくる。


 あんっ、と数回吐息が漏れるも、顔は般若も裸足で逃げ出すほどガチギレである。

 

 応酬に飽きてきたので、軽くキスをしてあげた。


「格闘戦が激しくなっていくとエスカレートするんですが……まさかッ!! それを狙って」


 脇差の霊刀で切り付けてきたので、腕を掴み舌を捻じ込んでやった。舌を噛み切ろうとギリリと力を入れるも、そんなもので私の部位が千切れるわけがない。


 数十秒程堪能すると意外にも顔が赤くなり、満更でもない顔をされてしまった。胸を鷲掴みにして、耳元で囁く。


「もっとして欲しいなら全力で殺しに来なさい。あなたの旦那と違って死んで離れることはありませんよ?」


 今度は本気で切れてビンタをしてきたので、掴み取って先程の繰り返しだ。


 怒りも限界とうに超えており、涙を流し始めていた。


 私が頭を優しく撫でるも逃げることをせずに、なされるがまま受け入れていた。

 

 背中をポンポンとリズムよく叩き、力が抜けて私にしなだれかかって来る。


 自身の全力が敵わない事に、無力感よりも身体を委ねてしまっていることに後で気づく事だろう。


 それほど、旦那の死は彼女にとって大きいのだろう。


 娘の育てる責任感、旦那を仕事で死なせた無力感、一人残された寂寥感、まあ、後は殺す気でも掛かっても、殺せない強い男への期待感は、ちょっぴりかな。

 

 いくら歳を取っても女性の心は複雑怪奇だね。


 場に空気に流されてるのもあったりするから怖い怖い。


 なんで母親のカウンセリング染みたことをしているのか分からないが、まあ、家族が仲が良い方が霞も、暮らしやすいだろうというちょっとしたお世話だ。





 この数週間で変わったというか戻ったというか、仙崎がクラスに復帰している。


 私に股関節と睾丸を破壊された二人は未だに入院しているが、生命力の強い奴である。


 壬生さんと不仲になっている事を知った瞬間から、彼女に今まで以上に纏わり付くようになり。強引に連れまわしている。


 ネトラレの趣味はないが、あの一軒で割とどうでも良くなっているのでどうぞ貰ってやって下さい。


 ただ、ニヤつきながら壬生の肩に手を回してドヤ顔でアピールされるのはそろそろウザったいのでまた入院してもらおうかなと考えている。


 私の父親からも久しぶりに連絡があったのだが、もう縁切って戸籍抜いていいかと聞くと慌てて帰って来ると言ったので辛うじて我慢している。


 税金が掛からない高額の収入を経ているので、土御門さんに大きめの一軒家を探してもらっている。プライドが高くエリート思考だが、意外に話が通じる人で好感度が結構上がってきている。仕事を受ける際も彼を通してなら割と受けてもいいかなと思っていたりする。


 テスト期間中なのでさっさと答案用紙に記入を終わらせて帰宅しようかと準備をしていると、ウザったい仙崎が話しかけてきた。


「よぉ。トコロテン、どうしたんだぁい? 花蓮に振られたって聞いたぜ?」


「お前その質問何度目だ? そろそろ闇討ちしようか悩んでるんだけど、どうする? 割と証拠残さず殺せるんだけど?」


 目の前で、空中を握る動作をするだけで、仙崎の息が止まる。


「ああ、苦しいでちゅか? たしゅけてーでしゅか? 大丈夫、私は触れていないよ? ちょっと失禁してもらうだけさ。良いかその出来の悪い脳味噌に叩き込んで置け。お前みたいなゴミクズは私のお目零しによって生かされていることを忘れるな? 分かったなら返事しろ」


「か、はぁッ。あう。あ゛ぁ」


「返事しないのか、うんうん度胸があっていいね、死ね」


「やめろッ!!」


 壬生さんが突然私の前に立ち仙崎を庇い始めた。うんうん、素晴らしい仲だね。


「? どうしたの壬生さん? 仙崎君の様子がおかしいみたいだけど……具合悪いのかな? 暗殺者の壬生家の娘さん?」


「――ッ!」


 俯かれてもね。ああ、クラス変わらないかな。変えてもらうか?


「壬生さんいつまで学校にいるの? 私、普通に学校生活送りたいんだけど……仙崎君と一緒に転校してもらうように君のパパにお願いしようかな……殺されそうになった人とクラスメイトはちょっと……どう思う? 黙らないでね? 君の悪い癖だよ。壬生さん」


 この空気嫌だな、別に壬生が欲しいわけじゃないの仙崎と争っているように見えるこの構図。


「ねぇ、何で壬生如きで取り合う仙崎と私――みたいな構図に皆から見えちゃうじゃん。どうなの? ねえ。そろそろ対策取るように君から両親に言わないかい? 本気で殺したくなる」


 仙崎が睨みつけてくるので再度首を絞め始めた。


「これ、止めないからね。早く回答しないとたまたま、喉に何か詰まらせて仙崎にお亡くなりにならないといけなくなるね」


「や、やめ「声を張り上げないでくれるかな? 変に思われるよね?」


「転校……します」


「じゃあ、早くしてね。お前らセットでウザ過ぎ。仙崎、次、学校に顔出したらテメーの命日だからな? 理解したか?」


 くだらない時間を過ごしたな。





 壬生家の当主に家に帰る途中電話を掛ける。恐らく壬生さんじゃ話にならないだろうからね。


「もしもし、今いいですか? 峯山です。お宅の娘さんそろそろウザったいので転校させてくれません? 普通に学校生活送りたいのに毎日時化たツラ拝まないといけないんですかね?」


『彼女も反省しておる、どうにか仲直りできませんかの……?』


「それさ、指名手配にした奴が言うセリフかい? 私が霊具を製作できる事が判明してから手配解除されたよね? 君動いた?」


『なかなか部下との意思統一がなかなか纏まらなくて……』


「ああ、もういいよ、次、見かけたら四肢ぶった切るから。手配されようが絶対にやる。別に金なんてそこまで必要ないんだよ、ああ、仙崎も絶対学校に行かせないように手を回せ。確実に殺す」


 彼女は疑い出したらお涙頂戴の演出でもしないと信じなかっただろうし、そういうの面倒臭いんだよね、家族に認めてもらうように妖魔退治頑張ります、私は人間に味方する化け物ですとか。葛藤はいらないんだよ。信じるなら最初から信じろよ。一度でも見捨てたのなら何かあった時に必ず見捨てる選択をする。


 人間なれる生き物なんだよ、残念なことに。もし家族の命と私を天秤にかけられたらきっと彼女は家族を選択する。それは間違いじゃないし正しいと思う。だけどそれまでの関係より進まないだけだよ。

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