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SYUGYO

 自宅に帰宅するとすぐに家の周囲を術式が無いか走査する。――あったか。


 これは簡易的な帰宅を知らせる術式のようで、攻撃性はないようだ、これで反応が有れば殺しに行くんだけどな。


 目覚めて二日ちょっとで荒れるもんだな、いちいち力を秘匿しすぎなんだよ。阿呆か、大した力を持ってないくせにな。ポポンと、私に目の前にモンブランを出したら泣いて喜び、最高だと叫び散らす自信があるわ。何、退魔術士って。需要ねえよ、私にな」


 せっかく女子高生とボーイミーツガールを楽しんでいたのに……。


 深夜零時過ぎ、誰もやってこない。期待してたんだけどな、仕方ないので深夜の散歩に出ることにした。


 地を蹴って跳躍し、ビルの屋上間を飛び交っていく。この世界いまいち、力という物が弱い気がする。そういえば霊力という物を手に入れてなかったな、力の形としては霊脈から湧き出る粒子のひとつの形ではあるんだろうけど。


 ――アラメス、霊脈は存在しているかい?


[――ありますよ、あの高い山もそうだったんですよ、どこかの阿呆は盛ってましたけど]


 ――すいません。陰陽術士の力の源探ってくれない?


[――もう、分かってますって。いつ聞くのかと思ってたぐらいです。阿呆]


 ――教えて頂けますか? アラメス様……。


[――しょうがないですね、簡単に言うとブランクの発する力です。漏れ出る力を流用しているだけですね]


 ――え、私使えないの? 


[――使っているではないですか、概念に権能を。あなたはコア自体が強力なブランクみたいなものなんですから、そこらへんの有象無象は砂粒以下過ぎて見えにくいんですよ。事実、探知しにくいですね。あなたの気配がでかいから。わざわざ、電子顕微鏡を持ち歩いて地面に落ちたほこりを探すようなものです]


 ――それって、私、迷惑かけてるね。


[――別に迷惑に思ってませんよ? ただ、気にするだけ無駄なレベルでお察しという事です。ちょっと呪文が違う魔力とでも思っておけば問題ないです]


 ――ありがとう。霊力を扱えれば。強くなれるかなと思ったからさ。


[――……それならば霊脈に行ってみましょう。それを大量に摂取してみて、解析しますから拗ねないで下さい。ちゃんと一緒に強くなりましょう?]


 ――ふふ、優しいな。分かった、案内してくれ。


[――網膜に表示します]


 ――ありがとう。


 街中を抜け山間部の上空を飛行していく。やはり奥まった場所に存在するようだ。ここは地元でも有名な紅葉の景色を楽しめるスポットだな、山と山の丁度谷に当たる位置から粒子が湧き出ているのが魔眼に切り替えると見えて来る。


 その地点に降下し、地面に手を当てた。


 ――吸収頼む。


[――了解、解析します]


「お、温泉に浸かったような感覚になるな。これが地球の霊脈か、精霊世界の物とはちょっと違うな。雑味が混ざっているというがミネラル成分と言えばいいのか……」


 しばらくすれば解析も終わるだろう。凄い勢いでぐんぐんと吸収していっている。願いの空間に行ってから効率が物凄く上がっている。


 すると、手のひらには水晶の結晶のようなものができていた、多少濁りはあるがこれが雑味という物か?


[――これは通称・霊的“自然”エネルギーですね。精霊世界は人為的な設定から発生しています。霊脈の正体は地球のブランクから漏れ出た自然全ての息吹、霊的エネルギーですね。霊力も人間のブランクから漏れ出た霊的エネルギーという事になりますね。今のあなたは肉の身体を持っているんですから“気”もついでに練習してみては? そちらは肉体の細胞単位での生命エネルギーになりますが……]


「“気”も面白そうだな。ここからありったけの霊的“自然”エネルギーを吸収してストックしておいてくれないか? ちょっと練習してみる。この霊脈を利用すれば何か掴めるだろうか」


 退魔術士から奪った退魔符を持ってみると光り始めている。――解析頼む。


[――魔なる存在を払う事を答えとして、正と負が反発する物と計算します。呪文により正エネルギーに指向性を持たせ増幅、負のエネルギーを拡散させ微小単位まで落とし込めば事実上の消失になります。

 悪霊、怨霊が負のエネルギーが何かしらの要因でブランクを持つに至り、精神生命体に昇華。結果、反発性を抱く正のエネルギーを持つ人に対して害意を持つ性質となっている。反対に正のエネルギーをもつ精神生命体は、負のエネルギーを持つ悪霊に強い害意を持った]


「なるほど、理に適っているな。正と負は根源が同じだが、攻撃性の矛先で正義と悪に分けられているわけだな。それに知性があり感情マップが加わることで性質がより顕著に表に出ているわけだ」


[――霊力は等しく正にも負にもなり得るという事です。式神があるとしても性質が違うだけで好きなように作れるとも。霊力を粒子と捉えて刀を作るイメージをして下さい]


 今霊脈より感じている力を手刀の先に刀を作る……できた。コア内に残っている怨念達に湧きあがる黒い感情マップを薄く乗せる、黒い禍々しい刀が現出する。


「これって、負の方が属性が付加が付加されている分、存在力が強いね。素の状態が正、いや純エネルギーと言ったところか。負の性質が付与されて反発性が生まれているだけだわ」


 霊刀が出来ちまったな。様々な形に変えることが出来るし退魔符も負の性質を持たせ増幅させることが出来てしまった。


「もしかして式神って隷属の術式に、自然発生したブランクを使ったか、負の精神生命体を使役してるんじゃないのかな?」


 試しに私の中にあるブランクに純エネルギーを集めている。簡単な指示に従う命令を刻み込んだ。好きな形にできるので、巨大な、がしゃ髑髏を想像する。


 ぐももも、と地の中から出現し込めた力が強固すぎて、私を頭に乗せて浮かび上がった。


「これ、死霊術似ているな。元々あったものを利用して魔力で包むか。新たに作って霊力で包むかの違いかな。ただ、優しいがしゃ髑髏ってなんだか面白いな」


 ブランクに薄く感情マップができている、正の性質だな。――私の中に戻ってくれ。命令にも従順だな。


[――術式さえ分かれば、簡単に使えそうですね、あとは“気”ですが……]


「肉の身体が久々すぎてなぁ……霊力浴びながら、座ってみるか」


 霊力の概要は分かったが、肉の身体は今までになかったもの……。


 ガンガン霊脈の力を吸収しながらそれとは違う物を探す。気づけば数時間程経っている。細胞の発する熱源、目を瞑り内なるものを魔眼で精査する。


 これか――。ぶわり、と身体から暖かいものが流れ出て行く。これは普通の人間が行うと即死だったな。身体が冷え切って死ぬだろう。


 内気術、身体能力を上げる事から細胞の活性操作により、戦闘術と肉の肉体の細胞再生を促す治癒術にも通じる。他には体表面の硬化や、柔軟性を上げ武術に応用が利く。浸透系におけるものと相性が良さそうだ。


 ――シッ。パアァァアン。


 柔軟性を上げ空気を捉えて、直撃の瞬間に硬化、前面に突き出した掌底の衝撃が空気を伝播して正面の大木が弾け飛び粉砕された。

 

「うっわぁ……。強烈だな。これが掌打だな」


 数度ほど試し、成功させる。この衝撃を体内に伝播させれば浸透系の完成体だな。もちろん拳でも、正拳突き、崩拳、貫手、も試してみる。貫手は衝撃波に切れ味が発生し、大木の真ん中に指程の穴が開いてしまった――もちろん手刀は大木が切れました。


 外気功、他社の細胞の活性操作で治癒に特化しているが、細胞破壊を起こせる戦闘術に応用できそうだ。大木に細胞活性を過剰に行うと壊死し始めて腐り落ちてしまった。


 総評は、短中距離ならば格闘技の範疇で使えなくも……ないかな。趣味技として記録しておこう。

 

 お気に入りは、霊刀に掌打かな? 達人みたいで正直カッコいいと思う。偶に暗黒面に落ちた演出で霊刀が黒くなっちゃう奴やりたい。

 

 ドッカンドッカン、大木を粉砕したり、切り刻んでいると人の気配がやって来る。――まぁ霊脈だし監視する人間いるよな。


 陰陽術士の格好って動きにくそうだよな。そうぼんやり考えていると五人程が駆けつけてきた。


「貴様! ここを大事な霊脈と知っての所業か! ――ッ! 峯山心太ッ! ここで何をしていた!」


 ちょっと話聞かない系の人がやって来たな、良い修業相手になるかな。


「いえ、ちょっと修行していただけですよ。霊力なるものに興味が湧きまして」


「貴様がちょっと修行しただけでできるわけ――何ぃっ!?」


 霊刀を展開し数度、演武を行った、そして退魔符を周囲に浮かべて光らせてみる。――何この人反応が面白いんだけど。


「これなんだけど、あんたから見て霊力扱えている?」


 駄目押しにがしゃ髑髏を顕現させた。頭の上に乗って周囲を回ってみた。その間警戒はされていたが驚愕の表情の方が大きい。


「確かに扱うことが出来ている。だが、下手をすれば妖魔の気を操ってしまえば戻れなくなる危険な術ぅぅぅうぅっ!? や、やめろ! 今すぐ辞めるんだ!」


 霊刀の刃を撫でて黒く変化させ禍々しさを溢れ出させる。およそ数百人分の怨念だろう。周囲呪い威圧する圧力が発生している。


 ぶんぶん振り回して制御アピールを行う。


「霊力って元々同じものでできているから制御できないことはないんだよね? ほら、別に呪われていないし、ちょっと威圧感が激しいだけだよ」


 そしてまた黒い刀身を撫でると綺麗な純白となっていく。

 

 シュパッ、と納刀の振りをして刀を解除する。


「これの訓練に丁度良かったんだよねここ、大分吸っちゃってカラカラになりかけているけど」


「な、に……。霊脈が……枯れている。いや、あるにはあるが……ごっそり減っている。戻るにはどれだけかかる事か……峯山、なんてことをしてくれたんだ……」


「え、霊脈って誰かの所有物なの?」


「――そうではないが、霊脈を守るのも陰陽術士の定め。厳しく罰せねばならん」


「それ、あなた達の自分ルールですよね? じゃあ、今ここで霊脈消えるまで全力で吸っていいの? ごめんなさいするなら今の内だけど?」


「!! 頼む。ここまでにしておいてくれ……」


 おお、大人だ。後ろの陰陽術士は切れそうだけど。


「まともな陰陽術士に初めて会った気がする。――じゃあこれはお土産にあげるね」


 霊脈から抽出した、高純度の霊的自然エネルギーの結晶だ。すでに数千個単位で所持しているが。


「ここの霊脈の霊的自然エネルギーを凝固させた純結晶だよ。それを持っているだけで陰陽術士には相当なメリットがあるはず。ほら、ついでだけど後ろの人達にもお裾分けね。上司が有能だと得だよね」


 ポイポイと投げた結晶を大事そうに抱えている。


「まあ、ちょっと騒がしくしてたけど破壊するつもりもないし霊脈を枯らす気はないよ。なんなら今の結晶欲しいなら売ってもいいしね。値段は妥当だったら吹っ掛けないし」


 反応の良かったおっさんは霊力を通して術を試しているようだ。


「これならば相当高位の式神や霊具を作れるぞ。恐らく代々伝わる霊具の再生もできるやもしれんッ!! どうかキチンとした値段で購入する。後、数個程サンプルで頂けないだろうかっ! 私、土御門と申す物。名に懸けて嘘は言いませぬ」


 おお、好印象。オッケーだね。


「分かった、ちょっと待って」


 パチンと指を鳴らしテーブルに人数分のイスを用意する。テーブルには和菓子のあんこの饅頭と暖かい緑茶が出て来る。


「まぁ、座ってよ。商談でしょ? 悪くはしないから。その饅頭と緑茶、私の好物なんだよね」


 桐箱を生成して柔らかいクッションを中に敷く。その上に掌から出て来る、結晶を数十個ほど並べて行く。


「ほらほら、おもてなしなんだから毒なんか入ってないよ? 飲食せずに商談がご破算していいの? これだけ結晶出してるのに……」


 そう言うと慌てて食べ始めるが、意外に美味しいぞ? と、言う顔をするとうまそうに食べていた。素直が一番だね。


「これだけあれば、足りるかね? 今回は霊脈から絞り過ぎて問題だったけど、少々程度だったら回復するし結晶をちゃんと買ってくれるなら契約してもいいんだけどね? まあ、指名手配みたいな事されてちゃ私としては嬉しくないよね?」

 

 定期収入が入るならボロ儲けだし。お金はあって困る物でもないしね。


「――うむ。そうだな。こちらにもメリットはあまりあるほどあるな」


「ぶっちゃけ勝てる気しないでしょ? 私に。組織丸ごと含めても。指名手配したままでもいいけど。被害を受ける意味あるの? 私から手を出してないんだよ? 知らない人から窓に手榴弾ブチ込まれたら怒らない?」


「いや、まぁ、怒るよな」


「でしょ。初めて分かってくれた気がする。殺したのはやり過ぎだと言われるけどお宅の中ではそういう世界なんでしょ? ちょっと良く分からん力持ってるやつ見つけた! 多分あぶねー奴だ! 殺せ殺せ! ヤバい逃げろ! 指名手配だ! が、現状の端的な説明だよ? ホント愚痴ぐらい言いたくなるよ」


 なんとも分かり易い説明に苦笑いされてしまう。


「力っって言ってもこういうやつだよ?」


 右手に炎、左手に雷、光輪を背に発生させ空を飛び、炎を舞い上がらせる。


「これこれ、権能って言う概念を操る術だよ。霊力とは違うから警戒したんじゃない? 霊力もこれも所詮は力、知らないから怖いが前面に出てきただけだよ。知らないのは悪。知ろうとする努力を怠って来て、疑心暗鬼になりやすい組織体系が今回の背景にあると思うよ? 心当たりあるんじゃないの?」


「……うむ」


「通常の一般人はまず対話。責任者が訪問して、それはどういう力なんでしょうか? 私達、組織は知らない力に負のエネルギーの可能性を推測しております、あなたの身の安全の為にどうか教えてくださいって言えば良いのに。穏健派がね。普段から暗殺ばっかして、自分たちの正義が絶対という自信があるから傲慢になっているんだよ? 負のエネルギーだって私からしたらただの力だよ。要は使い方って事」


「……そなたのいうとおりだ、力は所詮力。暗殺と言う安易な方法に至る要因が組織体質に土壌としてあるやもしれん――すまなんだ」


 うーん、殺したのは事実だけど素直に謝れるこの人に印象はかなり良い。


「――土御門さんの顔に免じて襲撃が来ても、ちゃんと生かしておくから早めに何とかしておいてね。あなた達も反省の色が見えるからこれもサービスします」


 霊的自然結晶を錫杖の形と、刀の刀身に成型したものを五セットづつテーブルに置いた。


「これ、とんでもないものだと理解して頂けると思います――ですよね?」


「あ、ああ、とんでもなくヤバイものだ、持っているだけで周囲が浄化される勢いだ」


「――上げます。プレゼントします。差し上げます。あなた達五人に」


 顔が呆けている。


「済まない。聞き違えだろうか……これを、頂ける、と?」


「ええ、どうぞ? 形は私の趣味ですがデザインの変更もできますよ? 今なら承ります」


 それから怒涛の勢いで家名を彫って欲しいとか、反りをもう少し変えて欲しいとか、錫杖のグリップにメッシュ加工を施して等様々な物を請け負った。





「本当に有意義な時間であった。感謝する」


 同じく後ろの陰陽術士の人たちもニコニコでお礼を言ってくる。


「私は礼には礼を返す人間なんですよ。基本自分勝手ですけど。あなたには共感してもらった、だから私にとっては気持ちをお返ししたまでですよ。結晶の件、スマホの番号渡しておくので機会があれば連絡してください」


「承った。ではまた会おう峯山少年」


 そう言われるなり空に浮かび上がり帰宅を開始する。また驚いていたがさっき見たよね、と思いつつ飛び去って行く。


 ちょっと疲れたけれど、まあ悪い人じゃなければ話が早いんだけどな。

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