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傲慢

 穏やかな日々が過ぎて行くうちに、海外で特殊な悪魔が出現したと報告に上がっていた。私は研究室を私室同然に扱っており、部屋の隅には立派なベッドも備えられている。寝転がりながらぼんやりと報告書を流し読みしているとバエルタイプではない機体での撃退に成功したようだ。


 グラシャラボラスの細胞を培養され建造された格闘戦を得意とし獣の特徴を色濃く持つ機体。

 

 大きく肥大した腕部には凶悪なガントレットが装備されており、データを見る限り予知に近い動きをしている。――これは目がいいんだな。


 概念兵装の種類としては腕よりも目に現れている。物理的な戦闘スタイルでグラシャラボラスを撃退できたのは絨毯爆撃したか、街を犠牲に核でも叩き込んだのかしたのだろうな。格闘戦では比類なき戦闘能力だ。


 それにしても概念兵装が現出しているという事は、適合者が悪魔に近い体になっている可能性がある。パイロットはかなり身体を弄られているな。


 恐らくこいつがここに来る予定の機体とパイロットだ。


 撃退した悪魔は“アガレス”新しいタイプではあるが地を操作し、隆起させたり陥没させたりと辺り一帯物凄い被害が出ている。素早く近寄って始末できたが、相性の問題だろうな。


 アガレスの肉体を回収出来たら嬉しいのだが、現実的ではないな。サンプルが少なければ概念兵装を手に入れられる程の量には満たない。


 EUとどんな取引をしたのか分からないが碌でもない内容だろうな。一応調べておくか。





 研究所には偶にケイ君が遊びに来るようになっている、戦闘シミュレーションを行ったり、身体検査など様々だ。アカネの身体の変容も話しているし、羨ましそうに見ていたが君もその一歩手前の状態なんだけどね。


 最近の流行りは精霊世界のゲームで、よく遊んでおり年齢相当の笑顔を見せてくれている。あのキャラのスマッシュ攻撃で私をハメないでくれたまえ。ゲームは良く負けているんだ。


「ダンタリオン。明後日ようやく新型機とパイロットがやって来るわよ。色々と訳アリのね。――月島ケイも他人事じゃないわよ。あなたのクローンよ」


「――ッ! やっぱり、いたんですね……」


「遅かれ早かれよ。急速成長させ、基礎知識を植え付けられ訓練させられた数百人の一人。恐らくグラシャラボラスの細胞を混入させているわね。じゃないとあの適合率はおかしいもの」


「――。どうする事も出来ないんですか……?」


「もうすでに数百人以上、もしかすると千人近い実験体が死亡していても?」


 握りしめる拳には涙が零れ落ちている。あり得たかもしれない自身を想像したのだろう。


「根本の原因には私がバエルの細胞を培養させ、クローン計画にも関わっているわ、それでどうしたいの? 私を恨むの?」


「分かりません――あなたのお陰で救われた命もいるはず。だけど犠牲前提の行動には納得できません」


 目の下を赤くしながら強くアカネを睨んできている。


「――もうその辺にしておけ。あんまり意地悪をいうんじゃないぞアカネ」


「はいはい、ちょっとからかっただけじゃない、まったく青い事。なんでも願いをかなえてくれそうな男ならそこにいるじゃない? 頼ってみたら?」


 シュバッ、と私に振り向かれても困るぞ。そんなに目を輝かせないでくれ。


「なんでもできるんですか!?」


「……できない事もあるが……何を願うんだ?」


「私の分身、クローンをその境遇から救いたい……です。私の命を分けてでも生きているその子に――上げれますか?」


「一人二人なら現実的だが、それ以上となるとクローン計画を潰して世界が危なくなったらどうする? ――あまり意地悪な質問はしたくないんだがな」


 またしても深く考えてしまう、全てを救う事なんてできない、取捨選択しなければいけない時が来る。


「――その子、だけでも。身近に来るその子だけ……」


 言わんこっちゃない、ボロボロと泣き出してしまった。


「全く。――アラメス、クローンの研究所の場所分かるか? ああ、ありがとう」


「一体何をするの? 嫌な予感がするんだけど」


「ちょっと事故に遭ってもらうだけさ――ケイ君、君の選択で数百人程死んでもらうけどいいかな? その人には家族がいるんだけど」


「――僕の知らない外道なんてどうでもいいです、アカネさんも反省して下さい」


「はいはい、怖い子になって来たわね、まさかそう答えるとはね。教育者の影響かしらね?」


「大人しく待っていなさい、夕方には終わっているだろう。そのパイロットはこちらに向かっているだろうからその時にな」

 

 この世界内の座標なら確認できている。少し騒がしくなるだけだ。





 国立総合遺伝子研究病院ねぇ……。内部に侵入をし、資料を纏めて精査している。事前にデータを引き抜いてはいるが紙媒体の資料の方が内容が濃いな。


 検体番号1275/腕部細胞/獣化の傾向性が強い、知能低下/廃棄

 検体番号1285/脚部細胞/獣化の傾向性が強い、知能低下/廃棄

 検体番号1342/末端細胞/四肢に欠損あり、身体機能低下/廃棄

 検体番号2266/脳幹細胞/脳障害を発症、衰弱死/廃棄

 検体番号2459/コアの欠片を投与/悪魔化、暴走/強制排除


 なんともまぁ。ケイ君のクローンじゃなきゃ放置しても良かったが。似ている顔を見ると、ね。死んでもらいますか。


 たまたまこの研究所に来た人は運が悪かったってことで。


 すれ違いざまに首を切り飛ばす。精霊世界で剣技を学んだかいがあったというもの、音もなく近寄ると一閃。そのまま回転しつつ二閃。逃げ出そうとした者の背後から心臓と貫く。刃を壁に振り血液を吹き飛ばす。長い廊下の壁には独創的なオブジェが彩られた。


 まだまだ、いるな。適当に拾った銃でも使うか。さすがに斬撃のみだとごまかしが効かないからね。――脳を打ち抜く。


 警備兵がやって来たかめんどくさいな。


 炎壁を操り、全ての階層を埋め尽くす。瞬く間に生きている者などいなくなり、この世から存在が消滅した。壁面には一切焦げ跡を残さず人間のみが消える。


 確認したところ隔離施設にまだ生きているクローン体が存在しているはず。


 月島ケイの面影が無い人物以外を全て焼き尽くせ。


>>概念兵装/炎の支配者(フレイム・ルーラー)


 隔離施設の施錠されたドアの破壊し内部へ侵入する。


 獣の強い匂いが室内に漂う。


 足が無くなった月島ケイ。口を開けて空を見上げる月島ケイ。顔が犬になっている月島ケイらしき者。内臓が摘出されるも辛うじて生きている月島ケイ。眼球を失っている月島ケイ。


 壁一面に臓器の標本が飾られており、趣味の悪い博物館、脳幹が液体の中を漂、綺麗なピンク色の内臓が延ばされ、眼球が複数集められた瓶がいくつあるのか数えられない程あった。


「――んー。滅ぼそうか。だって国ぐるみだよねコレ」


>>死霊術/安らかな眠り(デス・スリーピング)


「今は眠りな。後で治してあげる。こちらへおいで」


>>死霊術/魂縛ソウル・バインド


「ちゃんと間違えないように、ね」


 さぁて、この前撃退したアガレスは頂いておこうかな。ちょっと機嫌が悪いのだよ私は。来い、ダンダリオン。


 百メートルに満たないほどの鋼の巨人が現出、建物が全て破壊される。


>>フォトン機関出力最大/圧縮効率臨界値/拡散モード/PCC発射


 キィン。


 威力が格段に下がるも肩部と腰部合わせて四門もの砲身から拡散性を持つ消滅光が視界一杯に広がっていく。


『ああ、地平線までしか殲滅できないか、ちょっと時間がかかるなぁ、面積は……日本の半分よりちょいか。頑張りますか』


>>闘争の権能/血肉湧き踊る闘争(漲って来るぜ)

>>神の権能/加速させる光輪アクセラレーション・ハーロ

>>概念兵装/炎の支配者(フレイム・ルーラー)


 まさか、闘神の権能を使う日が来ようとは、煮えたぎる内心が相当酷いのだろういつもの何倍もの力が湧きあがって来る。


 炎壁よ、出力は最低限でいい、全方位を死の炎で包み込め。


 その日、欧州のとある国家が消滅した。







 いつもの研究室に欠伸をしながら帰って来た。室内にいるのはアカネだけだな。


「ただいま。ちょっと頑張って来たから疲れたな。意外と面積が広くて、根こそぎ殲滅するのに時間がかかってしまった」


 おかげさまで三千万人以上のブランクが回収出来たわ。今後の実験に使用してみようと企んでいる。魔臓結晶のようにブランク結晶が何かに利用できないか考えている。残りの三千万人は私の基本膂力の強化に当てている。おかげでドアノブを破壊してしまった。


「ん? ほれ、紙媒体の資料データとその光景を撮影した様子だ。ちょっとカチンと来ちゃってね、これで守られた国土ならいらないかな、とね。ついでにアガレスの概念兵装も手に入れられたしプラス収支かな?」


「――ッ! さすがに気分が悪くなるわね。あなたはクローンを容認しても決しておもちゃにしてはいけないという事ね。でも、殺した中には優しい人や子供も多くいたのでしょう? ただの疑問だから気を悪くしないでね?」


「私の中では国ぐるみならば同罪だな。ましてや他人だ、痛くもない。私が良ければどうとでもない。もし、機会があれば新天地で善性の人間だけ蘇生を試みる予定だ、本当に運が良ければ生き返れるかもな」


 私の本質は変わらない。おかげで神の権能/傲慢、が自然に取得していたんだよな。事象を自らの思うままに操る権能。納得できない結果に自らの理想を捻じ込む。なんて我儘なんだろうか。

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