概念兵装
豹頭のフラウロスは質量弾が頭部に命中するも、少々仰け反ったがさほどダメージを受けていない。炎壁の突破を確認できたが怒らせてしまったようだ。
過剰に電力供給が開始され次々と質量弾が放たれていく。
炎壁の勢いが増していくが弾は命中していっている、その質量弾の中に紛れ込ませ打ち込んだ特殊な弾丸。
培養されたバエルの体細胞を内蔵した浸食弾が、フラウロスに命中し傷口から侵入していく。
衝撃波を纏う叫び声が周囲に響き渡り、電力供給を行っている車両のガラスさえ破壊され、作業を行っていた隊員にも被害が及んでいる。
悪魔同士は仲が良いわけではないようで、遠慮なくバエル細胞はフラウロスに食らい付いて行く。それでも少量の細胞であるため、すぐさま展開された炎壁で消失する。
フラウロスが海水を蒸発させ、蒸気を纏ったように見える姿は鬼気迫っている。
此方への進行速度が増加し接触するのは時間の問題だ。
マズイな先程の衝撃波で電力供給が間に合っていない。このままでは接近戦に入ってしまう。
ダンタリオン内部に設置した操縦席のモニターから接近戦を想定した朝倉指令官からの指示がケイ君へと出されている。私に未だ“お願い”は来ていない、まだ手を出して欲しくないのだろうな。
高速で接近してきたフラウロスとバエルが間もなく接触する。その様子を望遠モニターで観察しているが――今、激突。
電力ケーブルが破断され、車両も巻き込んで飛んでいく。レールキャノンは取り落し、背部のジョイントごと外れてしまう。
近接戦に使用できる兵装は腰元に装備された、バエルの全長からすれば短剣サイズのブレードのみだな。
激突の瞬間バエルの装甲が溶けだし、ケイ君が悲鳴を上げている、適合者へのフィードバックが原因だろう。一部焼けた体表が見えてきている。
念のためPCC兵装の標準を合わせ、起動状態にする。フォトンの励起状態は感知されないようだ。
果敢にもブレードで応戦、炎壁の展開していない胴体部を狙いすまし、フラウロスが悲鳴を上げた。ブレードが突き刺さっている胴は再生阻害されており、かなり苦しんでいる。
お返しと言わんばかりに炎を纏った前蹴りを、フラウロスがバエルへと叩き込むと地面を削り海岸沿いのビルへ命中、建物がガラガラと崩壊していく。
追撃だと言わんばかりのフラウロスからの突進を許してしまい、二棟、三棟と建物がバエルと共に中程から破壊されていく。
バエルのダメージレポートを参照すると胴部の損傷が激しい。
やはり本来の力は眠っているのか、再生能力が追い付いていない。後部のコックプッチハッチ付近が掴まれ溶けだした、開閉する場所に体細胞で包まれているが若干の耐久性の低下は免れない――どうするケイ君。
『いあやぁああああああぁああ!!』
戦闘継続不可能と判断。
>>フォトン機関出力最大/圧縮効率臨界値/照準固定/PCC発射
シュカッ、周囲の大気、射線上建物、フラウロスの掴んでいる腕諸共消し去った。山岳からの撃ち下ろしの為底の見えない穴が出来上がる。
数瞬の間に腕が存在しないことに気づきフラウロスは苦しみ暴れだす。
やはり、炎壁は概念兵装だな。不意打ちで炎壁の薄い部位を狙ったが、わずかでも炎に包まれている箇所のダメージが減衰している。続けざまに肩、太ももと四肢の繋ぎ目を撃ち抜いていく。――っち。頭部が炎壁に守られている。重要部の保護を優先させたな。
炎を噴き出して後退している間に、欠落した右腕と左足を回収しに背後の光輪を全力で展開、高速で接近し素早く銀で奪い取った。目的の概念兵装を獲得できると内心ほくそ笑む。
司令塔であるコアのデータを調べたところ、あくまでエネルギーの出力機関であり、コアそのものが概念兵装を持ち得てはいなかったからだ。ダンタリオンも身体強化や、部位を変化させての兵装であったため、私には特に代わり映えの無い見慣れたものであった。
『朝倉司令官、どうする? 月島ケイの危機に見えたので援護したが継戦の意思はありか?』
数十秒ほど沈黙が続くと、方針が決まったのか再度通話を開始する。
『――上層部の方針では、月島ケイに戦わせ、コアを奪取できれば、と考えている』
『ああ、あのコアだね。私は肉体部さえあればいいからコアが欲しいならくれてやるよ。どうせろくでもない事に使うんだろうけど。彼女を戦わせたくないし――ね。それでいいかい? 傲慢な糞共? 精々私にゴマを擦っておけ。ああ、朝倉司令官は別だよ、後でお酒でも飲みに行きましょうね』
『――う、うん。了解した。では任せた。月島ケイ、バエルの回収班を回す、それを念頭に置いてくれ』
ちょっと、楽しみが増えてしまったな。フラウロスは私を最大の脅威として認識したのか離れた位置で再生を行い始めている。――素材取り放題なのか、もしかして。
解析中の炎壁をダンタリオンの表面を這わせると、光輪を回転させる。
――一気に、い、く、ぞぉッ!
>>神の権能/加速させる光輪
>>模倣・概念兵装/炎の支配者
ヒュゴッ。
脚部に炎を纏った蹴りがフラウロスの頭部を打ち抜いたのは、光に届き得る程の加速した世界であった。ゴ――ッパァンと、尋常ではない衝撃が周囲の建物を吹き飛ばし地に後頭部から叩きつけられたフラウロスの周りには一キロものクレーターが出来上がった。
『ああ、コア大丈夫かな、フラウロスの機能が一時停止しているな、まずは残りの腕と足を頂く』
PCC兵装の応用で指先に展開したフォトンコラプサーブレード/PCB兵装で四肢を胴体から寸断させる。
切り口は滑らかで青い血液のようなものが噴き出している。炎壁の出力も弱っており銀を内包した黒鋼の杭を手の平に展開。両手で持ち上げ――一気に胴体へ振り下ろした。
左の心臓部、下腹部、呼吸器官。巨大な杭に標本のように張り付けにされていくフラウロス。
『おい、フラウロス。早く四肢を再生させろ。命令だ』
反応しないのか、できないのか分からないが、無言で炎壁を纏わせた拳をフラウロスの顔面に数発叩き込んだ。
『今すぐ死ぬか、少しでも生きながらえるか判断させてやる。ほら、逃げれる可能性出てきたぞ? ――早くしろ』
>>神の権能/威圧《我が前に立つことを許さず》
ルオオォォオオオンッ! と嘆きなのか苦しみかは分からないが四肢の再生が始まる。生えてきた四肢を何度も何度も再生させ、その度に切り飛ばしていく。
何度その行為を繰り返したか分からないが、十分この概念兵装をものにすることが出来た。周囲は青い血の池が出来上がり。凄惨な解体場のようになっている。
『――よし、十分だ。死ね』
最後に咥内から高出力の熱線でも放とうとしたのか、ダンタリオンの貫き手を素早く咥内へ突き込む。
脳内まで届いた貫き手でコアを掴み取ると、グチャリと音を立てて抜き出した。
封印は鉄で包み込むだけなので、これが本部を浸食しようが私には関係ない。
『朝倉司令官、これ、ここに置いといていい? 浸食が始まっても責任取らないぞ、なんせ鉄で包んでいるだけだからな。強欲な人間の愚かさを後で感じようが、止めなかったあなた達にも責任があるからな、精々頑張ってくれ』
そう言い捨てるとその辺に放り投げ、熱線を放つ器官が気になり銀で回収する。
どうにか私に対抗する為に進化でもしたのかもしれないな。
全身青い血塗れなので、上空に魔導を展開させ雨を降らせる。流れ落ちる滝のような水が汚泥を流してくれる。青い血も全て回収し、研究用にストックもしておく、アカネが喜びそうだし、腕の二、三本は残してあるからな。内臓器官も特殊なものが多く見えないように保存しているが凄惨な現場に衝撃を受け気づいていないかもしれない。
まぁ、調子に乗るとこうなるぞ、という示威行為でもあるがな。
ダンタリオンの体細胞をフラウロスと混ぜ合わせて行くと柔軟性も強度も上昇し、特に炎壁の展開速度上昇が顕著で、我が物のように操れるようになった。
これなら基礎である私のコアの標準機能に取り込んでもいいかもしれない。
存在置換に続き存在消滅まで確保できるとは僥倖だ。攻撃的な手段はいくらあってもいいからな。全ての戦後処理が終わるとバエルの格納されている場所へと向かった。




