こんにちは、撃たないでね
ふむ、世界中に現れ都市を攻撃してくる、悪魔の名を関する巨大生命体、か。
どうやら私の処遇に困っているらしく、過去に解析を試みたが生命活動を停止させるも解析結果がまともに得られなかったと。――まあ、正しい答えは返ってこないと思っていたが恐らく嘘だな。
『ふむ、私はどうしたらいいのかね? そちらの上層部とやらはヤキモキしているんだろうがね。――そいつに真実など語る必要もない、実験台にしてしまえばいい。とでも言い合っているのだろうが……』
『――ッ!』
『なぜわかったか? どこの組織も考えることは一緒なのだよ。人類の平和と歌っておきながら所詮は利己的な組織だ。裏じゃ世界の覇権を握るべく、人体実験や悪い事など散々やり尽くしてるんだろうよ。ほら――こうして大事なサンプルである君に余計な事を吹き込まれると困るものだから、今から攻撃してくるんじゃないかな?』
周囲の砲塔が発射の体勢に入る。
『こんなものだよ人類というモノは。きっと何かの禁忌を各都市にでも隠しているのだろう、だから我々みたいなものが侵略してくる、物語ではね、最終的に人類が一番の悪なのだよ?』
私の胸部に集中砲火が始まる――だが、効かないなぁ。
『だから、こうして対策を取らせてもらった。君が搭乗しているロボットみたいなものの攻撃なら分からないけれど、対話を希望し攻撃されてもなお反撃しない私を君は攻撃するのかね? ――返答や如何に』
周囲の砲撃は止まないが、彼女、なのか? 攻撃はしてこない。
『好きなだけ待ってあげるよ? ミサイルの代金がもったいないだけさ、これって税金なのかな? おっと国民の血税を消費させてしまうのは悪だね、どうしたものか……』
『僕は攻撃するべきではないと思います。――――。分かっています、あなたの識別名称はダンタリオンに決まりました、以後そう御呼びしても?』
『結構結構、大変満足だ。これから私が君に、危害を加えない限り君は私に攻撃をしない――簡単な約束だがいいかね?』
『ええ、――――ッ! 何をッ!』
『ん? 私の権能が自動発動したみたいだね、ここで意識が芽生える前に呼ばれていた名称がね――契約の悪魔の王、だね。なに、不可侵の契約だ君に都合は悪くあるまい。ただ、上層部の命令だろうが私が“君に”攻撃を仕掛けない限り、だ』
『ッ! それはッ!! 人類を攻撃しても契約はなされるという事じゃないかッ!!』
『そうだね。君以外死のうがした事じゃない。誠意をもって対応してくれた君だけは私は紳士でいよう、私に攻撃あるいはそう取られた時がここに居る人間達の最後だね? ――聞いてるかい無能な職員たち。君達の運命は君たちが決めるといい、馬鹿な上層部はとっとと暗殺なりクーデターを起こすといい、もちろん契約を結んでもいいよ? 私の信条は基本的に楽しめればいい、だ。
はたして彼女? が乗っている兵器以外に対抗できるものはあるのかね? まああってもそれは楽しみなのだがね――おっと、長話をしてしまった。さっそく君たちの本部へ遊びに行こう。そうか、心配なんだね、今日は攻撃されても君たちを攻撃しない、“約束しよう”これでいいかね?』
そう言い終わるとひとまず攻撃は止んではいるが信用はされていないな。あのロボットので攻撃ができないか先程確認をしていたがもちろん契約は履行されている。意思を持っての攻撃が出来なくなり、洗脳や、自動制御なら攻撃はできてしまうんだけれどね。
地下施設に降りて行く搬入出口にロボットが拘束され降下していく、これ、私、置き去りにされていくような気がする。――ならば。
コアの掌握は済んだ、概要の報告は後で把握するとして現在の兵装パターンを登録しコアに収納する。すると人間姿の私が空中に出現したように見える。
降下していくロボットの肩に座ると、のんびり葉巻で吸い始めた。稀に香りを楽しのがいいんだよね。
『――あなたは、人間だったんですか?』
「最初は、人間だよ? 色々な次元を漂流しててね、ここに来た瞬間にあの巨大な生物の中にいたんだよ、制御権を奪うのに時間がかかってしまい、奴の行動原理のまま動いていたようだよ? むしろ、被害者なんだがね私は」
『すべては信用できませんが、一先ず理由の一つとして聞いておきます』
「そのほうがいい、なんでも信じるのは危険だし、慎重に物事を見極めなさい。君に何かあった時私が力になろう、君に誠実さはとても心惹かれるものがある」
『ありがとうございます――ですが本部で暴れないでくださいね』
「善処しよう。基本的に親切な人には無害なんだがね、私は。ああ、そうだ、別世界のお土産でも後で食べるかい? 美味しい紅茶を入れるのが得意なんだ」
『――ふふっ。上の人が了承してくれたらお願いします』
そうなるといいけれどね、世の中うまくいかないんだよね。
そろそろ地下施設の格納庫らしき場所に付くころだな、拘束されるのは嫌いだしついてはいこうかね。真意を話すとは思わないけれどね。
◇
ロボットの背部のハッチが開くと、彼女が扇情的なパイロットスーツで出て来た。パーソナルカラーは藍色なのかな、冷静で誠実そうな彼女にぴったりだ。
「なかなか扇情的な衣装だね、私には刺激が強いようだ。これ着たまえ」
何もない空間からフロントチャックの付いたパーカーを掛けてあげる。
少し大きめだがお尻の部分まで隠すことが出来るだろう。
「ありがとうございます――」
銃を構えた警備兵のような集団が格納庫へ突入してくる。
銃口が私を捉えて離さない。だが、手を握るワンアクションで銃を全て握り潰した。
「そのようなチャチなもので私を拘束できるとでも? 約束だから攻撃はしないが自衛をしないとは言っていないのだよ? 拘束は攻撃の範囲ではない」
掌を上へ向けて掬い上げると、数十人もの人間が宙へ浮き動かなくなる。
「格納庫の高さは、結構あるね、“たまたま”拘束がうっかり解けてしまうのは事故――だよね? 客人待遇で持て成し給え、私は君らの言う悪魔とは違う、被害者なのだがね……まぁ言っても分からないか。――それで君たち、命令だとは思うが、謝罪の言葉を聞きたいのだが?」
彼らは蠢くばかりで謝罪はしない。
「どうしたらいいと思う? ――名を聞いていなかったな、決して真名を握るとかそういう類ではないのだが教えてくれないかね? 円滑なコミュニケーションの道具だ」
彼女の方を振り向き名を尋ねるもイマイチ信用が私にはなさそうだ。
「そう、ですね。僕は……いえ、私は、月島ケイ、です」
「そうか、素敵な名前だ。ケイ、私の事はダンタリオンでもダリオとでも呼んでくれたまえ。――これ、どうする? 割と融通利かせているつもりなのだが、この国では銃口を向けると殺人未遂か殺人の罪に問われず、挨拶代わりなのかな?」
「いえ、立派な殺人未遂及び暴行未遂、強要罪などが考えられます。ですが別格な脅威に対する人の反応としてはなくもないかとは……思えなくもないかも……」
「そうか、君は勤勉なのだな。ここまでにしておくか。君たち、彼女に後で礼でも言いたまえよ、命が救われたんだから」
そう言うと適当にそこらへんの床に放り投げた。インカムで撤退の指示が出たのか退散していく。代わりに白衣を羽織った美女がカツカツとヒールの音を鳴らしながら近づいて来る。
私に近づくなり、空の注射器を打とうとしてきた、敵意は感じないので手を掴むだけで終わったが。
「――はぁ、この国では注射器を打ち込んでくる美女といい頭のネジが千本程ぬけているのではないかね、ケイ君」
「面目ないです。さすがにフォローできません」
んぎぎぎ、と一生懸命針を刺そうとするも腕が動かないらしい。
「あなたね、人型に変形する悪魔“ダンタリオン”最重要警戒対象として認定されたわおめでとう。――で、サンプルが欲しいのよね。どうしたら譲ってくれる?」
ふむ、と彼女を見る。クリス女史に近い空気を感じる人物ではあるか……。
「君の研究を見せてくれ。そうすれば多少は協力しよう。その前に――お茶でもしないかね? 制御権を奪うのに数週間何も食べていないんだ。ちょっとは人間らしく生活を営ませてくれないかね?」
「わかったわ、私の権限で許可するわ。早速、研究所に来なさい。――聞いていたけれど紅茶を入れるのが上手いそうね、あなたの持っている紅茶に興味があるわ」
「紅茶好きに悪い人間はいないって教訓があってね、そうさせてもらおう。ケイ君。君も着替えて来るといい」
わたわたと更衣室に行ったのだろう、彼女が駆けて行く。
私はこの美女でマッドそうな彼女の後ろを付いて行くことにする。
「――本当、あなた、興味深いわね。危機に瀕した人類の切り札に成り得るのかしらね?」
「さぁてね。逆に人類への最悪の選択しになるかもしれないぞ。取り扱い注意、だ」
ケタケタ、笑えないジョークを互いに飛ばしながら通路を進んで行った。




