漂流癖
大気中の魔力を吸収し循環させ浮力を得る。省エネを突き詰めた駆動による機関の実験結果がこれか――学ぶべきことは多いが、兵装そのものは珍しいとは言えない。空島の中央部地下にある、儀式の間、そこには過去の遺産ともいうべき機関が未だに稼働していた。
「これ、長い年月に耐えれる作りをしているけれどメンテナンス誰がやっているのかね? いないのならば滅びが確定した種族としか思えないのだが……」
「馬鹿なんですよぅ。自分らの命を握っている機工術を学びもしないなんて」
地上のマップも古くはあるが詳細に書かれていた。鋼鉄の悪魔は過去大戦時に活躍した空中戦艦であり、元軍事基地に格納されていることが分かった。
記載されているスペックを調べてみるも、気になる兵装も無いしやることが一気に無くなった。
「不味いぞオリビア。一気にすることが無くなった」
「それを私に言われてもう……捨てますか?」
捨てる事などありえないが、彼女には選択をしてもらうしかない。
「私は生命を停止させられても蘇生できる手段がある。それと種族の変更だな、どちらがいい? そうすれば転移も可能だし、話をした魔導世界、エデン世界、精霊世界へと移動できるが……」
彼女はしばらくの間深く悩んでいたが種族の変更を望んだ。
「だって身体が強くなる上に寿命が延びるなら種族変更一択ですよう、すでに転生なんてして人間から天翼人になっていますし今さらですよぅ。ああ、日本が恋しいので精霊世界がいいですぅ」
「了解した、眠っている間に種族の変更と、転移は終わっていると思う。もう差別もされずに好きに生きれるようになるぞ」
「わかりましたぁ。では、おやすみなさい――」
そう言うなり彼女を眠らせる。
>>死霊術/安らかな眠り
疑似コアを胸部に融合させ、仮死状態を継続させる。
この方法を使えば次元間の往来ができるが、あまりしたくない方法だな、種族変更に仮死状態にしなければならない。
彼女をインベントリに収容するとすぐさま精霊世界へと送り付けた。
「私も精霊世界へと戻るとするか。この世界にもう来ることもない。次元を漂流すればハズレの世界もあるものなのだな。言っては失礼だが」
この世界に私が残ることは無いのでそのまま次元の狭間を越えるランダム転移を開始した。
◇
精霊世界の私へと送られて来たオリビアをベットに寝かせている。
最初はヴァーチェに事情を説明したところ彼女に同情していた、どうしようもない種族差別の世界だと憤り、彼女の世話は任せて欲しいと言われてしまう。
しばらくリビングで緑茶を嗜んでいると、オリビアが部屋へと入って来た。
「ああ、懐かしい和室。この世界は元の私の世界じゃないけれど、一度死んでいるんだし、心機一転楽しんで行くわぁ」
「そうか、時間かかってもいいから、好きな事を見つけるといい。部屋も用意するし必要な備品、情報端末や生活費は出すから気にせずのびのび暮らしていいぞ? こう見えても金銭には困っていないのでね」
「わぁ……逆タマですねぇ……あのう――偶にでいいから相手してくれたらぁうれしぃなぁって……ショタで……」
「――君の貢献度に応じよう。その気にさせてくれたら、な」
「わっかりましたぁ! ヤル気まっくすですよぅ!」
まったく、現金な奴だな。――ッ接続が一瞬途切れたようだが……。
何々――ほう。私はまた、面白い事に巻き込まれたのだな。
「クククッハハッハハハハハハ――ああ、これだから辞められない。愉快な世界など数えきれないほどあるのだな」
今の数種で経験してきた世界の物語を彼女達にゆっくりと語って聞かせてみよう。
◇
何かに押し込めれ、私を核に存在を確立させようとしている。
「グゥウウウウウウッ! クソッ! 久しぶりの感触だなッ。私を理に嵌め込めると思うなよッ!! グゥッ解析しろッ逆浸食だッ!」
周囲は何かの肉のような触感だ、そして周囲は私の肉体でもあり、繋がりを感じる。使命か何かを拒絶した為に接続がうまく行っていないが、命令を強制されるなどたまったものではない。時間を掛けてでもこの体を掌握して見せる。
銀の触手で周囲の肉にジワジワと神経のように這わせていく、時間を掛けて浸食に成功しているが、まだ体の操作権を握ってはいない。本能のまま使命とやらを遂行する為に行動を起こしているだろう。
せめて脊椎に当たる位置まで浸食できれば情報が取得できるのだが、アラメスに全力稼働でこの肉体の掌握に力を回している中でのこの状況だ。
かなりのスペックを内包しており。笑みが零れそうになるが、まずは掌握してからの話だ。理の強制力が他の世界と違い強固であり、適応するのにひどく時間がかかりそうだ。
◇
身体の掌握に時間がかかり恐らく数日程経過している、触感など把握できるようになり、脊椎当たりの浸食に入るといきなり抵抗力が強くなった。司令塔である何かが頭部に存在している可能性が高い。
私を出力機関のように扱うなどもってのほかだ。
肉体の作りは人間の作りに似てはいるが根本的に違う。筋肉密度や出力が桁違いに高く、謎の粒子が細胞一つ一つから発生している。無限とも言えるエネルギーを内包しており再生力が尽きる事もない。おかげで浸食に手間取っているわけだな。
ん? なにか振動を感じる。これは――攻撃されている。
攻撃している側の戦力値が分からない中、無抵抗に攻撃を受けるなどあってはならない、できれば使いたくなかったが重要機関でない箇所は存在置換で処理を行っていく。じっくり全てを解析したかったがそうも言ってられない。
神経系を掌握、これで身動きが取れないはずだ――脳中枢に侵食、視覚情報をとにかく得よう。私の網膜に視覚情報を投影させる。
これは。装甲を纏った人型のロボット……なのか? 有機的な人間らしい動きはするものの、姿は完全にロボットだ。まるで取ってつけたかのような印象を受ける。
私の浸食している身体が急に止まったのをチャンスと見たのか丁度私のいる胸部付近を攻撃してきている。――悪いのは頭部の司令塔なのだが。
謎の粒子を腕に展開し胸の肉体が徐々に削れてきている、あと少しだというのに……。後方へ飛べぇッ!! 少しの時間が稼げるくらいの距離を確保はした――一気に行くぞッ!!
往生際の悪い司令塔め、姿かたちは私に似た紅玉のコアのようだが一先ず周囲を銀で包み込み、接続されている操作権を奪取することに成功。今なお戦闘中なので肉体の表面に大量の銀を展開し、攻撃してきている人型ロボットの装甲のように纏い始める。
内部から噴き出した銀を警戒して、攻撃の手が止んではいるが再び始めるのは時間の問題だろう。ここで発揮されるのは私の得意分野、コミュ力が発揮されるはずだ。
両手を握ったり開いたりして動作確認をする。
――よし、古今東西ボディーランゲージは世界を越える。
両手を合わせてかのロボットにごめんなさいのポーズをとる。――よし、固まっているな。手を腹部に置き丁寧なお辞儀を披露する、周囲の援護を行っていたミサイル兵器なども一旦止まっている。――よしよしよし。
最後に口元に手をパクパクさせ会話をしたい旨を伝え、正座をする。これで完璧だ。
さすがに困惑したのか外部スピーカーで声を掛けて来る。おや、なかなか若い声をしているようだな。
『――一応声を掛けてみます。あ、聞こえますか? 返事は頷いてください』
頭をゆっくりと上下に振ると伝わったようだ。
『先程まであなたにこの都市に侵略行為を受けていました、あなたの意思ですか?』
これは、首を横に振る。
『今現在その身体の制御権はあなたにありますか? そして奪われそうですか?』
前者にイエス。後者にノーだ。
『――ッ! まずは移動します。いつでも攻撃される危険な場所ですが付いて来ることで誠意を証明できますか?』
もちろんイエスだ。右手をグットポーズを取ると呆れた溜息が聞こえてきた気がする。
『――。――――ッ! とにかく付いてきてください』
恐らく上層部の指揮系統が混乱しているのだろう。分かるよ。侵略生命体に意思があるなんて仮説でしかなかったんだろうな。
だが攻撃されると聞いて対策を取らないとは言っていないのだよ。
銀の装甲に上に黒鋼色の複合装甲を展開、魔導刻印でマグマや宇宙空間でも耐えれる耐性を付与する。背部にPCC兵装のラックを増設し、フォトン機関内蔵する。
装甲内部には魔力を循環させ浮力を発生させ機動力を確保し、背後に神の権能の飛行を発生させた。これであとは頭部のコアを奪取できれば問題無しだな。
おっと、忘れていたが外部スピーカーを作成。会話ができるようにする。
『――あ゛あぁー、う、う゛ん。テストテスト、おお、会話できるようにできたな。――おっとそう構えないでくれたまえ、対話は平和への第一歩だよ?』
急に声を掛けられ、後方から微妙なナイフのようなものを突き付けられた。




