顛末
轟音、轟音、轟音。
あいつら渡した権能、フル活用してるんじゃねえか?
ムジュルには戦闘強化系を、感情で力が増幅される奴だったかな。セレスは満遍なく渡してはいるが、技能系に偏ってはいるな。いわゆる技巧者の真似事や見切りが多い。強大なパワーを受け流して耐えている――いや、カウンターを入れているな。
なるべく目立つところで戦いを始めろとは言ったが。激し過ぎだな。
しかも、セレスの奴、一回で懐妊など初めて聞いたな、運命操作なんて高度に権能を扱えるのは、さすが女神だったとも言えよう。まあ大切にしないとな。ムジュルもそれは理解しているらしく。攻撃の箇所も限定をしている、だがそれを分かったうえでセレスの奴、煽り散らかしてやがる。
この様子は全世界に中継されており、セレスへと信仰が集まっているかのような演出を施している。――お願い、みんなの祈りをセレスの力へと、だね。
それと、最終決戦を見ていたが、あのキルトレインを蘇生しておいた。身体はそのままだし魂が抜けかけていただけだから、元に戻しておいた。今頃めを覚ましているんじゃないかな? なかなかの底意地を見せてくれたお礼だ。カッコ良かったぞ人類代表。
すでに特型モンスターは塵へと還り、私が倒された事にしてある。眷属を撃破していないと、今後不安だろうからな。
おっと、せっかくの居城が半壊してるな。
ムジュルが城へと叩きつけられたな。――止めを刺す演出だな。命を燃やし尽くし邪神を討つ。瓦礫の中にはすでにいないが最後の一撃を放ち、城の崩壊を持って終幕だ。
セレスの身体の粒子を手の平に輝く光の槍へと変換していく。
それを崩壊寸前の城とムジュルへ向かって投擲。
辺りは眩い光に包まれると城の瓦礫そのものが消え去り、ムジュルの断末魔が周囲へと響き渡った。
それを見ていた連合軍、精霊幻想同盟は歓声を上げ始めた。
ゆっくりとセレスが地に落ちて来る、身体の半分は大気に溶け消え、今にも亡くなりそうな雰囲気である。
『――数多くの人々が亡くなりました、しかし、こうして邪神を討ちとることが出来ました……私も間もなく生命が尽きるでしょう……我が子らよ、良く成し遂げました。世界は繋がり、平和となった。最後の力を使い私の加護をあなた達への褒美とします。己がなすべきことへと使いなさい――あなた達の真摯な祈りは、心地良かったですよ……さようなら――』
とうとう、顔の部分が大気に溶けていった。周囲は喜びと共に悲しみに塗れた。
女神の置き土産を必ず大切に使って見せると決意新たに、戦後処理を始めて行く。精霊幻想同盟でも死者数が十万単位で出ている為に、頭を抱えている。治療が間に合うように迅速に行動を始めているようだな。
世界も無事とは言わないが同調も完了し、すでに一個の世界へと繋がった。もう同じ世界。理へと変貌した。あとは神がどうやって信仰心のリソースの奪い合いをするか見物だな。
◇
私達の中で比較的良く滞在している、日本家屋へと帰宅する。
玄関にはみんなが待っていた。
「ふえぇぇぇぇぇぇええええん。旦那様、はよう種付けしておくれ、セレスに負けとうないのじゃあぁああぁ!」
「まぁ、そればかりはタイミングだし私は操作する気はないよ? セレスは本当は怒らなきゃいけないんだけど――まぁ、幸せそうだし今回だけだよ?」
セレスは反省した振りをしているがムジュルへの優越感が溢れ出てきている。
「その代わり今日は一晩中ムジュルといようかな。よく頑張ったしね。美味しいものでも食べに行こうか」
「ふふふ、なんたる愉悦。ああ、母性が溢れてたまりませんわぁ」
「奥様、そこまでになさらないと後が大変ですよ? それと適度な運動は良いですが、そろそろ控えてください。通常よりも出産への期間が短いと旦那様もおっしゃっていますので」
メルロは慌てているのを愛でるだけなのだが。ヴァーチェはしっかりしていて安心できるな。このまま出産も手伝ってもらおう。
あとはしばらく世界間の調整としばらく休暇だな。ちょっと働き過ぎた気がする。
◇
確か俺は邪神への一撃を食らわせて……食らわせて、死んだはずだ。
なぜ、意識があるんだ? 今流行りの異世界転生でもしたのかは?
ん? 掌に感触が……。
「あんっ。バカッ!? こんなところ発情するな!」
頭を叩かれた感触がある、その前は柔らかく気持ちのいい感触が……って生きてるし、ゴルディアス!?
「――あれ? 俺生きてんの? 状況は!?」
慌てるも周囲で戦闘は行われておらず戦後処理に移っているようだった、ゴルディから死者数と、どういう顛末かを落ち着いて聞いていた。
「……そうか、そんなに逝っちまったか。人員の確認を行い遺族へと説明しに行かなければな。それと石碑に名を刻もう――平和へと貢献した戦士として、な」
どうやら語らずとも、あの激闘は中継されていたそうだ。どういうシステムか知らないが世界という奴かもしれないな。
邪神を討ち果たした時にはみんな涙なしに見れなかったようだ。
あの激闘は本当に死力を尽くして死んでいたはずだからな。なぜ、俺が生き返ったか分からないが本当に運が良かったのだろ、もう二度と使ってやらねえぞ。あんな自爆技。
治療が終わった人間から順次、帰国していく。何もかもが崩壊したこの場所だが転移門はそのまま残されているらしい。
女神掲示板や、換金システムもそう、ハラスメント対策も機能している。そう考えると女神様もここまで見通していたのかと、驚愕しっ放しだな――あの、ジュエリア隊長の言葉も引っかかっていた。
裏で策謀している奴がいるかもしれない。
それは間違いない。俺が生きているのもそう。運が良かったんだ。気まぐれな奴が気分が良かったに違いない。
だが、触れてはならない領域かもしれない。平和で、俺の周りがちょっと幸せならいいんだ。
いつだって、これからも、俺は小市民で居たい。
大事な彼女と一緒に家庭を気付いていくのが夢さ。
今回はちょっとばかし死んでしまったけど、もう運は使い果たした気がする。
――もう、死にたくない。
「死にたくないんだって、よ。――なぁゴルディ、俺の手は暖かいか?」
「何言ってんだ? いつだっててめえの手はあったけぇよ? んだ? 寂しいのか? わたしが温めてあ・げ・る。ハァトっ!」
「なにが、はぁと。だよ。急にロリっ子になんじゃねえよ、だけど手を握っていてくれ。寒いんだ――頼む」
「――わかった。いつでも温めてあげる。寒く何てならないくらい傍にいるね……私も愛しているんだからね」
「ああ、わかってる――俺もだ」
それからの日々は忘れたいくらい、激務だった。世界中で表彰され、英雄と称えられ、遺族からは責められた。――子を残していった父親には、なぜ逝ってしまったと、恨み言を吐きたかったが、孤児院を設立なんかもして引き取っている。
世界は繋がり、アイテムや装備の輸出入も盛んになってきている。世界にはモンスターが絶えず出現し、地球の生態系に影響も与えている。
唯一良い点は、なぜかオークがいないことと。闇の勢力がやけに大人しい事だ。
生き残った神達が、信仰の奪い合いになる事は予測していたが、スキルの大安売り合戦が始まり、勧誘にもルールが設けられたりと大変な日々だった。
スキル所持者が激増した為に、警察組織もスキル導入がものすごい速度で浸透していき、数年待たずに世界は適応していくだろう。
俺達ギルド員はさらに金を稼ぎ出し、一人一人が億万長者に名を連ねている、だが冒険者の根性は治らずに未だに精霊世界を旅したり、危険には身を置いている。
ゴルディにも生まれて来る子供の為にも落ち着きなさいって言われてるんだが――どうも、な。冒険心がおさえられねえんだわ。
今日も今日とて、旦那様は精霊世界へ出稼ぎに、かぁちゃんは自宅で帰りを待つ。偶に美味しいご飯を食べて友達と飲みに行く、それぐらいが丁度いい生き方さ。――さて、地球にできた天然のダンジョンでも潜ってきますか。
――あなた、いくら忙しいからって生まれた子供の顔を見に来ないってどういう事? そろそろ――離婚を考えるわよ?




