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激闘

「は、はは、はははははははは……もう嫌だ。――それが真実ならば私達は何なのだ……確かに真たる証拠すら見せてもらった。――そこにいる女神が証拠なのだろう? 気まずそうな顔してるがな」


 バツの悪そうなセレスティアがこちらに顔を向けて来る。知らないよ、君の信徒じゃん。


「我々の神がまさかの侵略者で、物語のこの世界を真実にしようと現世に侵略し、世界の平定の為に神を復讐ついでに狩り殺しており、残りの殆どが配下となっている、と。――冗談だろう……。この世界の者が存在する為に、真に迫らなければ認識されず世界は存在力を失う。我々はとばっちりではないか……だが知らぬまま数年経てば現世の住民に飽きられ、消え失せてしまうとも……そなたは我々の救世主でもあり本当の意味での邪神であったのだな」


 そうだよね、大分殺したのは真実だしな。


「――もう、戦う気など起きぬ。ならば願い事でも叶えてもらい剣技でも教授した方が得だ、やってられん。――アーティもいいのだな? 聞くまでもないか」


 アーティ何某は、穏やかに眠る弟にキスの嵐を降らせている、膝に弟の頭を乗せてご満悦の様子だ。


「はぁ。そなたを憎めばいいのか感謝すればいいのか分からん。だが我々の存在を生かして頂いたことには本当に感謝する。今生きる人々には福音だった。知られてはならぬ功績だが私はそう思っている。――そうだな、私には剣技しかない。色々と経験させてくれ、そしたら願い事を言おう、それでもよいか? 仕事は引き受けよう」


「ああ、問題ない、もう少しで世界の接続が終わる。邪神の役目もここに居る女神と相打ちになる段取りだ」


「それで世界は平和になりました。めでたしめでたし……か。茶番だが最高の幸福を迎えるのだろうな。この世界も異世界も――私達はこれからどうしたらいい? さすがに茶番で命は落としたくないぞ」


「我々の拠点へと飛ばす。メイドがいるから寛いで待っていてくれ。好きに異世界を勉強するなり快適に寛ぐなり隙にしてくれ。――こうも優遇するのは君達の剣技がそれほどの魅力と価値を持っているからだと自負したまえ」


「――ふふ、ありがとう。では頼むよ」


 そう言い終わると、私が転移門を開き、それに入っていった。


「セレスティア、そろそろ出番だよ。先攻したチームが壊滅寸前だ。逆転の奇跡を見せてくれ」


「趣味悪いわね本当。なまじ世界の救世主だから文句言いずらいのよね。――ご褒美まってるわん」


 唇に触れる程度のキスをセレスティアからもらうと翼を広げて飛んで行ってしまった。――あいつ翼なんてあったんだ。







「ククク、その程度で邪神討伐かえ? 足らぬな、全然足らぬわ」


 ギルドの仲間たちが壁に体をめり込ませており、今もなお、血反吐を吐きつづけている。なんとか死者を出してはいないが時間の問題だ。


「ふざけるなッ! 貴様が現世へと顕現すれば人類全てを滅ぼすのだろうッ! こんなところで死んでいられるか!」


 俺は力を振り絞り何とか立とうとして入るが全身が押さえつけられるように重たい、――それでもッ


「それでも負けられない時がぁッ、あんだよッゲボ――」


 喉に血液が溢れ出してくる。とうとう息ができなく始めやがったか……。


 だが、ここで折れるわけにはいかねえ、肺にサブウェポンの短剣を刺して血抜きを行い回復薬を掛けた。


「――お主。侮っておったがなかなかの気概の持ち主じゃのう。どれ、相手をしてやるか……」


 身体が急に軽くなる。仲間は依然として、いや、多少の重力らしき圧力は緩和されている。


「――仲間が気になっていると戦いに集中できぬであろう? 死にはせん。さて――かかって来るがいい」


 全力で地を蹴りながら刺突、見切られている――フェイントを掛けると、しゃがみながら背後へ回る、緩急を付けて目を錯覚させる技術だ。そら、コンマ一秒見失ったな。


 背後からの一突き――すぐ予想され回避に入られる。ゴルディアスぅぅぅ! 愛してるぜぇ!!

 

 邪神がこちらに意識を向けた時を狙い、動けない振りをしていたゴルディアスがハンマーを投擲していた。――命中。邪神が玉座の椅子まで吹っ飛んだ。


「追撃ぃ!! ――全力だ!」


 瀕死のメンバーが各々の持ち技を繰り出していく。なけなしの魔力を振り絞り全力の雷撃、轟音が玉座の間に響く、こんなのでは足りない。


 仰け反っているッ、炎槍を叩きこめ!


「――良し、任せろ、殺してやる」


 そして――バフ効果を上乗せした閃光突きを食らえッ!! 


 バフの三段掛けも行った音を置き去りにする加速力だ、俺もただじゃすまないだろう。筋肉のブチブチと切れて行く音が聞こえている。加護を受けた肉体でも音速には耐え切れない。音の壁をブチ抜き周囲に衝撃波が発生する。


 思考すら加速し、刺突の構えで繰り出したた短剣の先が邪神の肉体へとズブリと突き進むのが良く伺えた、一ミリ進むたびに金属を刺しているような感触と負荷が腕に掛かって来る。――突き進め、突き抜け、心臓を破壊するッ!!


 ――ギィン。


 邪神は後方の玉座を破壊し、壁をぶち抜いて飛んでいった。――ああ、チャンスだった、のに……決め切れない男だね俺は。


「――キルト、どうだ?」


 不安げな顔で呟いてくるゴルディアス、ああ、駄目だと視線で返事を返す、フラグは立てたくないんだ。


「回復早くしろ、次を考えろ。俺ならいくらでも酷使してくれ――だからチャンスをくれ……頼む」


 すでに満身創痍で回復薬すら効力の効きが悪いんだ。次で最後だろうなと思う、皆も分かってはいるんだろう、俺の事。――花を持たせてくれや、邪神に一矢報いてやんよ。


 壁が粉砕された砂煙が晴れて来ると邪神のシルエットがハッキリと浮かぶ。――ああ。全然ピンピンしてやがる。服が切れたのか? といった具合だ。


「やるのぉ、お気に入りの勝負服がチョッピシ切れたではないか。褒めてやろう」


 ああ、このスキルは使いたくなかったんだけどな。ボス戦でも多用した自爆に近スキルだ、死が確定する代わり五秒間だけ何十倍もの力を得ることが出来る。


「ゴルディ、あんがとよ。――愛してるぜぇ」


「――ッ! まッ――」


>>スキル、仙術/一念三千《やるときゃやるぜ?》


 一念は何物も通ずるってかぁ――


>>スキル、短剣術/絶死突き(ぜってぇ殺す)


「――ッシィ!!」


 グリュゥ、意識が途切れかけるも手繰り寄せ、絶大な突きを放った。

 その感触は、邪神の命に届き得る一撃だと確信した。

 肉が抉れる感触と暖かい血液が俺の短剣を支える手に零れて来ていた。


「――グフッ。見事だ。この体で初めての傷を付けられてしもうた」


 短剣は半分程邪神に突き刺さってはいるが――タマ取れなかったか。


「――あとは任せた、ぜ。――皆」


 身体から命が尽きて行くのが分かる、どうしてわかるんだなんて言わないでくれよ。冷たいんだ。――深淵に飲み込まれていく。








 目の前で、我に短剣を半ば突き刺し散っていった男に素直に賞賛の気持ちが湧いて来る。人類とはこれだから愛おしいのだな。――よくやった。


「――素晴らしい。人類の可能性をまざまざと見せつけられた気持ちじゃな」


「――あああああ゛あぁああ゛ああぁ!!」


 ハンマーを我に振り下ろして来ておる小娘。こやつの伴侶であったかの? ハンマーを軽く受け止めるも、ギルドとやらの仲間の連撃が始まった。


「ふむ、あの男には及ばぬがなかなかの連携力、この世界の精鋭とやらも混じっておるの。――あの男は周りの者の心を動かす才能があったようじゃのう」


 爪を鋭く伸ばし、全てをいなしていく。じゃがな――


「――才能が有ろうと、なかろうと、悲しき事に絶大な力の差には、何の歯牙も与えられぬのよ。神の権能/威圧《我が前に立つことを許さず》」


 全ての人間が等しく床へと頭を垂れる。


「――悲しのう、悔しいのう。残念じゃが時間切れじゃ。すでに異世界――現実世界との同期は終わってしもた。お主等はそこでゆるりと滅びを眺めていよ。特等席じゃぞ?」


 それにしても、あのクソ女神いつ来るんじゃ? 時間を引き延ばしてはおるがそろそろアドリブも限界なのじゃが――来たか。


「主役は遅れてやって来る、と言うセリフを貴様に送ってやろうか? ――クソビッチ女神。セレスティア」


「――あら、ビッチなんて失礼ね。友達の一人もいないんじゃないの? クソボッチ邪神」

 

 合図なんて必要ないと言わんばかりの神威を互いに出し始め、城の天井を突き破り。殴り合いを始める。

 もう、会話など周囲には聞こえていないだろう。聞こえるのは破壊音と、衝撃波の音のみ。


「――キサマ。我が旦那に恵んでもらった子種、大層大事に子宮内に留めておるな? 我の拳で叩き出してくれようぞッ!!」

 

「あら、ヤキモチなんてみっともない、私の運命操作の権能でちょっと卵子に届くように操作しただけよ? ――着床しちゃったけどね。えへっ」


「――――――これほどまでに、我を忘れそうになったのは初めてじゃぁ……我がッ我がッ先に身籠ろうと計画しておったのにいいいいぃぃぃぃッ!! クソビッチめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええぇぇぇぇぇ!! 子宮への一撃は勘弁してやる! その代わり見れないツラにしてやるのじゃあぁぁぁぁッ!!」


「あら、嫉妬? 嫉妬ね? 嫉妬だわぁ~、うふふふぅ、可愛い我が子、愛しい我が子。きっとあの方の子、素晴らしく素敵な子が産まれるわ~、それとあなた、嫉妬の邪神を名乗ったらどう? わ・た・しは、母性を司る女神になるからぁん」


 激突。


 大気が歪み衝撃波が地面を撫でる。その衝突音は戦場の空気を凍り付かせる。

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