世界の真実
神殿騎士とではなく、邪神討伐の軍勢として集まった多国籍から成る連合軍。数多の神が滅ぼされ、闇の軍勢の勢力が日に日に強くなっていっている。
ある日冒険者の軍勢が邪神討伐に参戦すると、報告が上がって来るも、戦場を合わせはするが指揮系統は渡す気はない、と。
果たして本当に討伐する気はあるのだろうかと、と会議でも紛糾はしていた。
彼らは疑似的な不死を体現していたはずだから遊びのつもりなのだろうと。
だが、急な天変地異が起こり、不死が無くなったと連絡が来た。これで参戦者もいなくなるだろう皆は馬鹿にしていた。
だが、命を賭して邪神を討ち取るのだと決意を胸に集ってきている。数十万もの人間が集まって来ている。
高台に聳え立つ邪神の居城の前に士気は高い。
その中でも立場の高い指揮官、閃光のキルトレインとやらと、簡単な打ち合わせを行った。
どうやら最高指揮官が邪神へ向かって特攻を仕掛けるという。気でも狂ったのかとこちらは言いそうになったのだが、アーティア副長は目を輝かせていたので同行させることになった。なってしまった。
アーティア副長も遂に仇が討てると息を巻いている。
はぁ、と溜息も出る。
冒険者の軍勢は数十万、連合軍はそれを上回る百数十万、質は冒険者の達が高いがこの数の前をもってすれば邪神を討ち取る可能性も出て来る。そう、出て来るだ。
神々の力である加護を授かっていた我々が果たして高次存在に敵うのであろうか? 神を滅ぼしつくされ今や我々の加護は風前の灯だ。――何か切り札でもあれば……。
突如、眩い光が辺りを包み込み、視認できる上空に――運命の女神セレスティア様が顕現した。
『ようやく……ようやくこの地に戻ってくることが出来ました。異世界の地、地球。その地で大勢の戦士たちが命を掛けて集ってくれました。それが“冒険者”達。この地に住まう生きとし生ける戦士達よ、再び、私の加護を与えます。――待たせて
しまいました。かの地で力を蓄えることで、ようやく我が子らへと加護を与えることが出来るようになったのです』
確かに衰えていた加護が十全に使えるようになっている。だが、これはなんだ――違和感。そう、何かが引っかかっている。答えはない。そう、勘だ。勘なんだが女神様……いや、女神の発言になにかが引っかかる。
『私は邪神討伐の為に全力で支援を行います。あなた達が道半ば尽きようとも私が無駄にはしない。私の力へと変換し、刺し違えても邪神を討伐します――ご武運を』
そうか、神殿でも腐りきった上層部の女だ。嘘に塗れたドブの匂いがあの女神からしてきている。証拠はない。私はそう確信した。――あれは、仕事が面倒で早く帰りたい空気を纏っている。どうしてだ? 幾つもの神すら滅ぼされているというのに? なぜセレスティアは滅びていない? まるで裏切者になっているような状況ではない――
――避けろッ!!
私の警告が間に合わずともこの状況は変わりなかっただろう。
冒険者にしろ、連合軍にしろだ。なにせ突如特型のモンスターがおおよそ数百体現れたのだから。ブレスに焼き尽くされ、踏みにじられ、死んでいく。
特型とは規格外の存在であり。一個体でも国を滅ぼすと言われるほどの超戦力だ。山と見間違えるほど強大で、それが――数百体も。心がれる音が聞こえた気がした。こんなことをする奴は、何処にまでいっても邪神だということが分からされてしまった。
「大隊規模で指揮をとれぇッ!! 特戦隊は邪神の捜索にいくぞぉッ! 邪神を討伐せねば生き残れないぞ!! ――私に付いて来い!」
そう宣言すると邪神の居城目掛けて走り出した。
もちろん、アーティア副長もギラギラした目で付いて来ている。
向かっている途中で何度も特型のブレスを回避したのだが、数十名ほど炎に飲まれてしまっていた。後ろに振り返らずに叫び声だけで判断したのだがそう間違っておるまい。
冒険者も横目で見ているがかなりの数がやられてしまっている。最高戦力の者が同じ方向へと共に駆け出しているが、なかなか頼もしいものだな。
しばらくすると閃光のキルトレインの団とも合流する流れになっていた。
居城の足元は驚くほど静かであったのだが。
「えっと、連合軍のジュエリア隊長……ですよね? 残存戦力はどうですか? 私達も今から突入いたしますがなるべく合わせたいなと思っています。――生き残りは多い程良いので――ちなみにメンバーはここに居るだけです、数十名ほどですが特型モンスターもソロで刈れる逸材です」
なんと、冒険者の戦闘力はそこまで高かったのか。確かにオーラは出ているのだが閃光のキルトレインとやらはあまり強そうに見えないな。
「私達の部隊は残り二百名ほどだな。これでも強者揃いだ。女神の加護も戻ってきているしな。ひとつ聞きたいことがあるのだが……」
「はい、手早く行っていただければ」
彼の耳元に近寄ろうとすると幼い子供のような奴に警戒をされてしまう。まぁ、彼にそんな気は微塵も抱いていないがな。
「――女神が嘘を言っている可能性がある。胸に留めておくだけでいい。――これは私の勘だけだ、証拠はない。どうしても奴は信用できないのだよ、顕現してからだが……死んだはずなのになぜ生きている? 神を他にも滅ぼされたはずだ」
目を見開いて驚いてはいるがもしもの可能性として受け取り冷静でいる者の目だな。話を続けよう。
「そちらの世界でタイミングの良い時などなかったか? 今回戦場に現れたのも偶然にしては作為を感じた。良く職場の上司でああいう者を見たことがある。仕事が面倒くさくてしょうがない腐った心の持ち主だ――私の女の勘だが、奴には好きな奴がいるな。今にも会いに行きたいと子宮が訴えているはずだ。雌臭かったぞあの女神は」
とんでもない言い方だが私にはそうとしかみえんのだから許せ。
さすがにキルトレインとやらも驚き同様しているようだがすぐそばに居るゴルディアスにも確認を取っている。
「そういうことだ。邪神討伐――協力して事に当たろう」
「――確かに女性目線ではその可能性が“ある”との返答が多数ありました。言われてみれば確かに……と。観察力に長けた人物がいますので。一応伝えてはいますので緊急事態の際、女神に攻撃を仕掛けても動揺されないで下さい――では」
「了解した。――者ども、今から、邪神の居城へと突入を始めるッ! 心してかかれぃッ!!」
城門は開かれており、いつでも歓迎をしているぞ、と言わんばかりであった。
通路を突き進み、何度か階段を上ろうとも罠の欠片も存在しなかった。むしろ自然光が程よく取り入れられており、植えられた草木もセンスが良かった。悔しい程に感心してしまう心があった。
「おかしい。本当に我々を歓迎しているとでもいうのか?」
「――そうですね。実際歓迎していると思いますよ? 俺――、私がこの城を作ったら自慢したくてたまりませんからね」
キルトレインが罰の悪そうに私の独り言に返答すると、納得できる答えであった。――邪神はひどく人間らしく、子供っぽいのではないか……と。
「無理に丁寧語を使うモノでもあるまい。確かに私も納得はした。それにしても此度の所業計画的すぎる。裏にいるのは誰だ――グゥゥウウウゥゥッ!」
一瞬、視認できたが私の胴を思いっきり蹴り飛ばし、壁に叩きつけたものが見えた。――あれは。
「シィィィィイイイィィントゥゥゥゥゥッ!!」
マズイな。アーティアが冷静ではない。
「グボォッ。――ッペ。――全部隊に次ぐッ! こいつはアーティア副長と共に引き付けておくッ! 先にいけぇッ!!」
咥内に溜まっていた血を吐き飛ばすと命令を下す。すぐさま邪神の元へ私の部隊が移動を開始した。冒険者は数瞬迷いはしたが私へと回復薬を投げ渡すとすぐさま奥へと向かって行った。
ギィンギィンと、アーティア副長の烈火の如き両手剣の剣技は荒々しさを感じさせるも嵐の中を思わせる技巧だ。身体のひねりや慣性をも利用してうまくつなげている。
「貴様が貴様が貴様が私の可愛いッ! 弟をッ!」
一方的な会話を叩きつけながらも私も隙を伺う、奴め以前よりも基礎能力がかなり上がっていると見た。今の私では厳しいかもしれない、が――そこッ!
呼吸を感じ取り、途切れる隙を縫い合わせるようにアーティア副長の嵐の隙間を突いた――チリリと、シィーンの耳たぶを切り裂くことに成功はしたのだが。
仕切り直しと言わんばかりにアーティア副長、いや、アーティも下がって来る。
「――二人ならばできる事もある。だろう――アーティ?」
「初めて私の事アーティって呼んでくれたんですね。どこか距離を感じていましたが。私も現実を見ればひとりじゃ犬死ですね、冷静に行きますよ、今回だけは確実に殺したいので――で、あなた、気持ちよく死んでくれませんか?」
覆面の男は、仮面に手を当てると急に外し始める。なぜだ?
「どうも。初めまして、騎士さんは二度目だね? 君の素晴らしい剣技には惚れ惚れしたんだよ。惜しくなって回復したけど――余計だったのならすまないね?」
――なるほど。そういう理由があったのか。そうか、剣技に惚れたのか。ならば、うん仕方あるまい。これでも自信はあったんだが、貴様ほどの巨悪に言われるとは胸を張って自慢できそうだな、うん、これでも人生の大半を捧げて来たんだが……うむ、もっと褒めるがいいぞ!」
「ジュエリア隊長、後半から声に出ていましたよ?」
ぽかんと口を開けていたシィーンとやらは、クツクツと笑いだしてしまいには膝を叩き始めた。目元を拭って飲み物を飲み始めると一息ついて会話を再び始めた。
「――ククク、楽しい人ですねぇ。これは邪神の眷属として一本取られました、あなた、いえ、あなた達は殺すには惜しい。条件を出しますので飲んで頂いたら大抵の願い事をかなえて差し上げますよ?」
「ふざけるなぁッ!! 弟を生き返らせるなんぞできるわけねぇだろうがぁ!!」
アーティが激高し始めた。これはシィーンの策略なのか?
「――ふむ。遺骨はありますかね? 弟君でしたかな、魂が残っていれば可能ですが? 別に私や邪神の眷属として、とか言いませんのでご心配なく。それで、あなたの願いはそれで良いのですか?」
悪魔的な取引無いようだ。アーティも条件次第では受けてしまうだろう。それを咎めはしない、たとえ敵になろうとも許すさ。
「――ッ! ならやってみなさいよ! 欠片なら貸してあげるからさぁッ! 早くッ! その間なら待ってやってもいいわ――」
そう言うとほんの遺骨の欠片を、布に包んで投げる。ああ、奴ならできてしまいそうな雰囲気がある。――アーティ……。
「アーティ。頼むから敵に回る事だけはせずに、逃げる等してくれた方がマシだぞ? 君なら命を奴に捧げそうだ……」
「――ッ…………」
悲痛な顔をした後には顔を俯けこちらを見てこない。――ああ、今の内に討ち取っていた方がいいのかと迷う。
遺骨を調査していたのか目を瞑り何かを呟いていたが、遺骨が逆再生の様にグロテスクな内臓ができて行き、筋肉で装飾され、皮膚の再生が終わると、儚げな美少年の裸の肉体が現れた。
「ふむ、あの欠片に含まれた記憶とでも言いましょうか、まだ、足りませんね。遺骨があれば、あるだけ再生と記憶の構築が可能ですが……どうやら、結果にご満足いただけたようで」
寝かせられた少年の裸にアーティが涙ながら抱き着き擦りついている、もう離さないと言わんばかりにだ。これで戦力は私だけ、か。厳しくなるな。
「あなたのお願いは何でしょう? 私、種族が悪魔なので契約は守りますよ? 約束を履行して頂ければですがね……どうします?」
「ならば約束の内容を先に言うべきだろう? そうやって約束させ履行を強要するのだろう? 悪魔らしいやり方だ」
「――ああ、これは失敬、規約期間が長くなりそうでしたので先に言わなかったのですよ」
やはりそうか、魂か何かと交換か、継続的に眷属にでもするのだろう。――悪魔に落ちる気はない――
「いえ、私、剣技がですね、我流でして、お二方にご指導いただけないかと思いましてね、お給料も要相談で決めますし、家も用意させて頂きますよ?」
――はぁ?
「ええ、もう一声ですか……でしたら、なにか条件がありますか? 知り合いの遺骨さえあれば蘇らせてもいいのですが――」
「――ならば、邪神を止めろッ! 人類の破滅させるのだろう!?」
キョトンとした顔を見せると先程よりも大きな声で笑いだした。
「何がおかしいッ! 我々はそのために来たのだぞ! 数多の命を奪い、殺して来たお前たちを殺しになッ!」
「ああ、なんだ。そのことか、言ってもいいが秘密にしてくれるならば答えるが――約束できるか?」
「ッ! 真実を知れるのならばそれでもよかろう。今まさに別動隊が邪神の元へ向かっている、真実がどうであろうとも約束しても問題ない」
「分かりました、約束です。そちらのアーティさんもいいですね?」
アーティも頷くと約束をしてしまう。
聞かなければ良かったと、のちに後悔してしまうとは思うまい。世界の真実と、私達の存在の救世主であったことも。




