滅びの始まり
数か月ほど時間が経つと精霊世界と現実世界の同調率も限りなく上がって来た。
そろそろ邪神の住む居城に対する総攻撃が行われるであろう。
その前に地球の霊脈と精霊世界のゲートを繋ぐ作業を行う、そうすることで地球に魔力が溢れ、モンスターの発生と共に、魔術が通常の何倍もの効率で使用することが出来る。
そして理が地球にも反映され、神達が現実に降臨することになる。
神の殆どは私が滅ぼし糧となったが少数だが傘下に下っている者もいる。その九割が闇の勢力なのだが、すでに精霊世界は闇の飲まれているということなのだが、統制はキチンと取れている。でないと私が滅ぼしに行くからな。
見せしめとして虐殺や略奪の度合いが酷い奴らには滅んでもらっている。戦争行為は否定はしないが、いくら何でも最低限の品性というモノは必要だ。
オークども、貴様らのことだ。族滅と言っていいほどに滅ぼしてやった。
光と闇の勢力の共同戦線が初めて成り立った出来事だったな。
塵も残さずに滅ぼしたので戦果を分け合い緩衝地帯となっていたので、両陣営には良い経験だったかもしれない。
あいつ、やべえ邪神の奴だと言っていたのを聞いていたが、私が寛容で良かったな。
さて、同調率を急上昇させていく。霊脈付近には天然の転移門が開いていく。地球が急激な変化に耐え切れず、地震が起き始め、火山の噴火も始まった。
「フハハハハハ、これで世界が闇に包まれるッ! 人間共よ恐れおののくがいい――と言えばいいのか?」
世界の極点に位置する霊脈上空に居るのだが、見晴らしはかなり良い。
転移門が自然発生する間、言ってしまえば暇なんだ。
「ほんに、やることは邪神そのものなのに締まりがないのう。――そろそろ我は、まおー城とやらに待っておらねばならんと言うのに。もう、あいつらほっとけばいいじゃろう? せっかく建てた城に傷を付けたくいないんじゃが……」
「まぁ、防備は十分強化しているし大丈夫だろう。ほら、霊脈の重なりが安定するまでは認知してもらわなければいけないのだよ。神としての宣言もしてもらわないと。――世界は闇に包まれたってね」
「これが最近やったゲームで学んだ、ムリゲーという奴かのう? いつでも剥奪できる加護にすでに掌握された地球。――可哀想と人類に対して思っても、罰は当たらんじゃろう。せめて死者をなるだけ減らしてやるとするかの」
手を地面に向けて振り下ろすと、霊的な楔が地中深くに幾本も打ち込まれる。
恐らく過去最大規模の地割れが起きると、極点の氷が解け始める。
地殻変動により大気の温度が上昇し、異常気象を巻き起こす。
地脈からはマグマが噴き出し何れ島となっていく。
地軸はズレ季節の変動も発生する。
世界の終りのような災害は始まったばかりだ。
◇
精霊の掲示板から告知された緊急事態。どうやらセレスティナ様の情報では霊脈に何かしらのものが打ち込まれ、精霊世界と現実世界が急激に同調を始め地球が悲鳴を上げているのだとか。
判明しているだけでも。大地震が発生し火山の噴火、海底に亀裂が走り、津波も発生、ライフラインは地震で寸断され壊滅状態。ネットワーク自体は衛星が機能している為問題はない。唯一の良い報告が――
「魔術の効率が上がったことと一斉ログアウトが起きて、現実にもインベントリが十全に使用できることなったことか――マズイぞ。繋がるということは精霊世界と地続きになる、死に戻りができない可能性が発生するということじゃないか。蘇生魔法なんてないぞ……」
次々と判明していく新事実に頭を抱えることになる。ログインができない。しかも、アイテムや装備が離れても消えないし、限定的だった回復薬もあるだけインベントリに入っている、制限が撤回されたためだ。ホームも恐らくなくなっているか、どこかの位相に存在はしているかもしれないが……。
「邪神討伐作戦の直前に事が起こった……バレているか死の覚悟を持たずに来るなとの警告なのか? 転移門は機能している、恐らく精霊世界へ行けるのだろう。だがな、死を覚悟していける奴ら等多い訳ではない。――むしろ行ってはならないのだろう」
刻一刻と悪くなる事態に、皆の顔色が悪くなっていく会議室内。
「命――、命を掛けるしかないのでしょう。こうして現実に影響を与える邪神の脅威、いづれ本当に滅ぼされてしまう。幸いにも準備は整っており、場所も判明している。アクションが少なかったのはこの為だったのでしょう。してやらやられましたね……」
アルスティアが邪神の策略に顔を顰めるとギリリと噛み締める音が聞こえた。
「――掲示板にはすでに死に戻り/リスポーンは不可能とセレスティア様から連絡が着ている。天然の転移門ができているとも。完全な同調が終われば完全な地続きとなるとおっしゃっている。――神が完全に降臨できるとも」
俺の言葉に、まさか、という反応。――そう、邪神までもがこの世界に降臨し蹂躙されることになる。
災害が発生した今。時間の猶予はそう多くはない。決断するなら今だ。
「私は邪神討伐に行ってくる。組織の長として今までの時間は夢のように楽しかった。私には、眩しすぎた時間、いや――小市民な俺には十分な時間だったぜ? いつでも丁寧語は硬っ苦しくてたまんなかったぜ? ――ちょっと邪神ブチのめしてくるわ」
そう言うと立ち上がり、転移ポイントへ向かおうとする。
だが、目の前に巨大なハンマーで行く手を遮られた。
「なにカッコつけてんのよ? 養い主であるあんたがいったら私はおまんま食い上げよ? ――連れて行きなさい。最後まで……ね?」
なぜかしらないが俺がこいつ――殲滅のゴルディアスの仕事を割り振っている内に付き合う事になっていた。本当にいつの間にかだ……恐ろしいものを見たぜ。
付き合てくれるなら最後まで来てくれると心強い味方だ。
「旦那ぁ、結構あんたの事気に入ってたんだぜ? 俺んとこのギルドは非戦闘員を除き稼働率九割ってとこだ。連れっててくれよな?」
多種多様な武器や、相手をハメる戦法を好む、奇術のパラミシオンが声を上げてくれた。彼には良く助けて貰ったなぁ……。
それからというもの、およそ精霊幻想同盟の七割の人員が参加を決意してくれた。――世界の滅びを座して待つつもりはない、と。
「――人員が集結次第女神様が転移門を開いてくださるそうだ。国連でも軍人部隊が派遣されてきている。自国の防衛が優先されてはいるが世界の危機に応じなくてはと集まってくれた」
総数数十万にも及ぶ軍と精霊幻想同盟だ。これだけいるのはとても心強い。
「死ぬわけにはいかない。連携を生命重視で回復薬とヒーラーを厳重に守りつつ攻撃を行っていく。作戦は多少変更点はあるが俺達ならできるはずだ――邪神を倒すぞ!!」
そう、宣言すると訓練場内には次々と転移門が開かれていき、続々と人員が集まって来ている。これだけの人数でも総指揮を執っているのは未だに俺だというのは驚きだ。
軍の責任者が壇上で士気高揚の演説を行っているが、こちらを向いて手招きをしてくる。――マジか。
渋々壇上に上がると訓練場に設置されている拡声器から俺の声が出て来る。
「――守りたいものはあるか? うん、あるよな。邪神がひとたび降臨すれば人類は滅ぶ、それを未然に防ぐための作戦だ。――死ぬもの者もいるだろう。だが俺達しかいないんだッ! 未だに災害が頻発し、人類は危機に瀕しているッ! 一刻も早く邪神を討伐せねば未曽有の事態となって返って来る! それとこれだけの人数だ、指揮も難しいだろう」
一息切って周囲を見渡す、散々不安を煽って起きながらどうするんだとゴルディアスが心配そうに見つめて来る。――大丈夫だ。
「目印、旗頭、なんでもいい。――俺に付いてこい、真っ先に邪神の眼前へと喰らい付いてやるッ! 誰も俺の前には走らせねえ!! ――俺の背中に付いてこいッてめぇらぁッ!! 俺は全力でッ! 命を掛けて突っ走してやるぞッ!!」
言い終わると一瞬の間を開けて爆発的な歓声が響き渡った。指揮官として最悪の判断だが副官として聖弓のアルスティアを置いてある。問題ないだろう。
同盟のメンバーの元へ戻るとバシバシと背中を叩かれてしまった。
ゴルディアスが自慢げにふふん、と鼻を鳴らしているがお前も最前線に行くのになと思ってしまう。――いい女だな。
頭を撫でてあげると照れくさそうに、また、生きていたら、ね? とキスをされてしまう。ロリコンではないのだが、周囲には勘違いされてしまってるようだ。
さて、精霊世界の軍隊とも合流しないとな。




