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舞台の裏側

 うひゃひゃひゃひゃ、とムジュルが大笑いを上げている。運命の女神だったセレスティアは私の眷属として活動してもらった。モンスターを出したのも私だし、セレスティアが加護を与たのも私の指示だ。


 やや豪華になっているホームのソファーに彼女がゴロゴロしていると、先程まで国連本部にいたセレスティアが帰って来るなり、中継を見ていたムジュルが彼女を指を刺して転げまわっていた。


 おそらく、マッチポンプとして行動させられ、その信仰すら私が握っているのだ。それはもう滑稽なのだろう。


「――っく! これで頼まれた仕事は熟したわよ。早く自由にしなさいよね」


「残念ながら君は私の疑似コアで生きているに過ぎない。自由になりたいのなら構わないが本当の意味での自由は消滅でしかないぞ? いや、これは脅しではなく本当に事実だぞ? 何なら現世に遊びに行ったりしてもいいぞ? 仕事は定期的にお願いするから金銭の類は払うし、力も好きに使ってくれていい。その代わり情報を流さない契約を結んでもらっているからな」

 

「――はぁ。あんたに手を出したのが間違いだったわ……あの時の私ったら馬鹿ね。分かるわけないじゃない、異次元を越えて異常な奴がやってきているなんて」


「我も、最初は驚いたからのう。今は最高の旦那様じゃ」


 ムジュルが私に抱き着いてくると、これでもかと身体を擦り付けて来る。


「はぁ、あの全盛期のトゲトゲしていたムジュルユグゥはどこに行ったのよ。――あなたの慈悲に生かされた私が言うのもなんだけど、変わり過ぎよあなた。もちろんいい意味でね?」


「もう寂しくないというのもあるがのう。我の元にこの世界が戻りつつある。残るは滑稽な神共じゃな。権能を奪われた神共は我への信仰の為にあくせく働くといい」


 事実、すでに数十の神が私の疑似コアを内包し通常通り働かされており、進行はムジュルへと流されている。


「かつての力などとうに越えておるわい。今ならば全ての神すら従えようぞ」


「――はぁ。溜息は美女を劣化させるというけれど、出るものは出るのよねぇ。私達が侵略した報いと思えばいいのかしら? 生かされてるだけマシなのよね、もうあの剥奪される痛みは二度と味わいたくないわ……事実死んだもの、私」


「無理やり権能を魂から剥しとる技能だからな。特にブランク、一個の生命として成立していれば痛みを感じるだろうな。所詮神は力を持った生命体と言うことだな。ちょっと力を持った人間と変わらん」


「そのちょっとが、あなたみたいな人間を表していると? バカじゃないの。どこの世界に粘性で、再生するし、分裂する人間がいるのよ。異常なエネルギーにさらに権能まで手に入れられたらたまったもんじゃないわ。私の中に存在するコアがあなたの力を感じ取れるのよ」


 私の意思を持たない疑似コアは、マスター権限を私が持つだけで、すでに彼女は個として存在している。だがパスが繋がっている為に感じ取れるのだろう。


「もうすでにあなたは私の創造主として揺るがないのよ。はぁ、ちょっと買い物にでも行ってくるわね。――それと、現世で過ごしやすいようにマンションでも買ってくれないかしら? そのぐらいはねぇ、いいでしょ?」


 私の背後にセレスティアが移動すると首筋に絡みついてくる。頬にキスをされると赤らみながらも耳元で囁いて来る。


「人間の文化で“愛人”という制度があるらしいの。お金持ちが美女や美少女を別邸に囲うのね。私みたいな女神を侍らせることが出来るのだからそれぐらいしなさいな?」


 この女神、やはりいい性格をしているらしい。一度も手を出していないのだが、こいつもう一度痛い目を見た方がいいのではないかと思う。


 ああ、ムジュルがセレスティアの顔面に蹴りを入れている、後方に吹っ飛んで行くがここは殺傷禁止区域として設定してある。衝撃だけは受けるだろうが。


「いったぁーい。もう! ちょっとくらいいいじゃないの! 減るもんじゃないし!」


「貴様、処女神の癖してウチの旦那様に言い寄っておる!? さては力に目が眩んだな!? その上、現世を見て羨ましく思ったのだろう! 世界では貴様の事をこう呼んでいるようじゃな、浪費家とッ! 金銀財宝を旦那に貢がせて美味しい所だけを食らう毒婦ともなぁッ!! させん! させんぞぉ!」


「……ちょ、ちょっとくらいいいじゃない! 大丈夫よ! 庇護下に入るなら、私を貰ってもらうのもいいかなぁって……処女だし価値は高いのよ! その代わりちょっと贅沢したって罰が当たるもんでもないでしょ? そりゃ愛があるかと言われれば無いけれど力への信奉者ではあるわ。強大な力で組み敷かれるのは……ちょっと濡れるわ」


 さらにヒートアップしていくが私は知らん。来るものは拒まない。

 確かに現世に拠点を散りばめておくことに損はなさそうだな。戸籍を作成して取得をアラメスにお願いしておくか。VR技術が発展したこの世界では、電子決済が盛んであり、現場に行かずとも契約や振り込み手続きなど簡単に行える。

 

 ネットワークの大部分を掌握しているアラメスからすれば片手間で用意できる。


 情報端末を表示させると日本家屋やイギリスにある豪華な館が表示された。


「あら……なかなかセンスがあっていいじゃない。――お手伝いやメイドはどうするのかしら?」


 こいつ身の回り事を自分でしないつもりだな。――精霊を使うか?


「精霊を使役してデータをインプリンティングするか? 感情マップにメイドを行っていたものがいるのだが……他の世界の話をしてはいたが、帝国の、な」


「――うーん、使えるならせれでいいんじゃない? ああ、でも女性で、性格が悪くない子をお願いするわ! 大事な価値ある私だもの。何かあったり勘違いされたら困るわ」


「――そうか。二人程付けるとするか」


 どうしてこうも神という奴らはナルシストなんだろうか。偶に霊脈を訪れて、精霊粒子を溜めておいた精霊結晶とコア内にいる比較的真面目な性格の感情マップと付随したブランクを精霊結晶と混ぜて行く。


>>精霊顕現/従者召喚サモン・サーバント


 栗色のふわふわな髪と、幼い矮躯のクラシカルなメイド服を着た少女と。キツメい眼差しをこちらに向けてきている、褐色の肌をした、先程と同じくメイド服の黒髪の美女が現れた。


「自己紹介をしてくれ。記憶の整合性は確か? 現在の情報と常識、使命は与えられているはずだが?」


 今にも殴りかかってきそうなメイドは契約に縛られているのか怒りはすれども攻撃をしてこない。


「――ック! ヴァーチェ、だ。そこの男に無残にも切り殺された一人だ。戦争だったので生き死には仕方ないのは分かる。――だが理不尽というモノだろう貴様の存在は」


 うんうん、頷いているセレスティア。理解してもらえて嬉しいのかセレスティアと仲良くできそうな雰囲気を出している。あとはちっこい子だな。


「わ、わたしゅは。メルロでしゅッ! ――えふんえふんッ! メイド見習いで、貴族様の館で働いていた時に、ドーンと大きい音がして死にました戦争があったんですね……」


「あら……知らないうちに巻き込まれたなんて可哀想――ほら、こっちにおいでなさい。仕えてくれるなら待遇はいいわよ? 情報で知っていると思うけれど、私も一度殺された女神よ? 今は下僕として働かされているわ、ああ、私って可哀想な女神ね――」


 すでにテーブルに用意されていた茶菓子を食べながら私は放置されている。女子会がうらやましかったのかムジュルもこっそり混ざっている始末だ。


 精霊としての能力も把握していると思うので訓練用の武装と、手に入れた館の手入れや、セレスティアの護衛兼、世話係を命じる。


 メルロは元気いっぱいに返事をしてくれたが、ヴァーチェの返答は舌打ちだけだった。メルロには美味しいお菓子を今度上げようと思う。


「ムジュル。もしかして友達欲しいのか?」


「……かつて女神というモノは、一つの世界に一人であり孤独な座じゃ。侵略してきたアホウ共でも少しは嬉しかったの。隙を見せた時に権限を奪い去っていきおったわい――欲しいといえば欲しいの、裏切らない友が……な」


「――ちょっと神ブッコロしてくるわ。セレスティア、肝に銘じておけよ。裏切りは永遠に続く拷問だということを――」


「――ええ、正しく理解しているわ。早く下僕を増やして私に使わせてね? とことん扱き使ってあげるから」


 視線で返事をすると対戦神用の武装をそろえていく。


 そろそろ、下界に顕現して襲ってきそうだからな。いつまでも受け身のままではいないだろう。どんな戦力で来ようが徹底的に潰してやる。

 

 ムジュルの話を聞いて怒ってなんかいないんだぞ。


 目を潤ませて見つめてきているムジュルは関係ない。

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