世界の行く末
国連の大会議室では準軍事行動に対する緊急案件の可決と、部隊の設営と、工程表の進歩状況の報告が行われていた。
それぞれの代表や参加している人員のデバイスには位階の上昇率や配布された装備などが細かく表示されている。
特別アドバイザーとしてギルド上位陣営のトップも会議に参加している。
問題となっている事があり。スタッフはそのままで、運営そのものを国連へと移譲がなされたのだが装備や、アイテムなどが無尽蔵に増やせずに、通常の手段でシステムへと課金しなければいけなかったこと、不正行為での位階上げができない。細かい所を上げて行けばキリがないが、戦闘訓練などはできるが、戦力としては通常通りにコツコツ鍛えて行かなければならないことが判明している。
その消えた金銭がどこに消えているかは謎である。
スピリットファンタジアの古参であるギルドトップ陣営は、ゲームが掻き乱されはしたがプレイ人口が増え、ゲーム性が担保されており、内心溜息を吐く。できればのびのびとプレイしたかったが世界がそれを許さなかった、こうしてアドバイザーとして呼ばれたがいいが、何をアドバイスすればいいのかと悩んでいる。
隣の席に座って言いるアメリカを代表するトッププレイヤーも似たような顔をしている。ゲームをプレイしていない人間である、政治家や軍関係者に説明するなど土台無理な話である。人にはそれぞれの得意畑があるのだから。
世界各国の戦闘に優れた軍人の人数は数百万人にも及ぶ。位階上げや訓練の実効性と効率を考えると半分以下になっていくだろう。現実世界の移動が無い分効率は上がっているのだが。ナイフの訓練なら得意分野だが魔術戦ともなると一手間かかる。アドバイザーとしても剣や槍のある程度の訓練にも協力している。システムアシストがある為、楽はできているが。
各々の国のトッププレイヤー達が、訓練所を設営した仮想世界に赴き、アドバイスをしながら、軍人達の位階上げに同行することが、いつの間にか決定していた。こんな一個人に世界の命運何てどうこうできないぞ、と溜息を吐く。
私達には報奨金や協力金が払われるが割に合っているかと言うとわからない。プレイ状況を生放送で実況していたトッププレイヤーもいたはずだ。守秘義務だと書類にサインを書かされたが補填内容がてんで話にならない。世界には滅びて欲しくないが政治家や軍人も好きには慣れないな。
会議は先程終了しており、人が減ってはいるがギルド組は数人集まって話し合いをしている。稼ぎがどうこう、装備が揃ってはいないなど。
ボンヤリとその様を眺めていると、急に各々の端末にBGMが一斉に鳴り出した。これは……またなのか。
『スピリットファンタジアをプレイされていない方々にも朗報です! ログインし、アカウントを作られた方に一定の報奨金を指定口座へと支払われます! ≪※不正なアカウント重複はNG≫ さらに、アバターに設定された撮影機能で、生放送をし、一定数の視聴者を越えると別途記載した報奨金が得られます。もちろん、撮影を補助するアイテムをプレゼントキャンペーンを行っております! 一度素晴らしきこの世界を体験されてみてはいかがでしょう! あなた達を待っている』
とんでもないな、記載された報奨金は……すげぇ……。トッププレイヤーがもらえている金額よりは少ないが普通に生活してる金額の報奨金が書かれている。アドバイザーよりも設けれそうだ。実際に支払われればだが……。
画面が切り替わり。現在プレイ中でかつ、生放送しているプレイヤーの口座に振り込まれる瞬間が映像に映りだす。それが数人、数百人を増えて行く。
『現在プレイをされている方には新規加入者への金額と装備、アイテムをプレゼント! 生放送で継続宣伝をされますと、さらに報酬が上乗せされます! そ・れ・と、現実世界との換金レートが変動はしますが、新システムとしてマネートレードシステムを開設致しました! ぜひこの機会に挑戦されてみてはいかがでしょう! 以上、スピリットファンタジア宣伝担当の電子精霊からでした!』
うわぁ。軍事費の流れて行く先が安易に想像された瞬間だな。
他にもモンスター討伐、クエストの報奨金が現実世界の金銭とトレードできるシステムも立ち上がっている。世界の経済が崩壊待ったなしだな。
もうこれ、経済的に支配されていないか?
ある意味、すぐに行ける新世界が誕生し、交易が始まっているようなものだ。
恐らくシステムが停止できない算段が付いているのだろう。それと、トッププレイヤーの個人資産を換金したら、それだけで億万長者だ……。やべえ、俺金持ちになっちまった。だが、強盗やプレイヤーキラー/PKが横行することになるだろう。歓迎すべきかは判断できないな。
「閃光のキルトレインさん、これ、どうなんでしょう? 本当ならば手が震えて来るんですが……レートは十分の一以下でも、私億万長者なんですが……」
閃光のキルトレインは私のプレイヤーネームだ。リアルでそう呼ばれるのは相当恥ずかしい。顔はいたって醤油顔の冴えないおっさんなのだから。アメリカのギルドでかなり有名な弓聖のアルスティアさんが声を掛けてきた。
ギルド対ギルドの攻城戦で頭を撃ち抜かれた記憶が蘇り、顔が引きつる。
現代のデバイス技術で言語の壁が無くなって久しいが本当に便利だと思う。俺がパツキンの美女とも会話ができるんだもの。ビバ、バインバインの巨乳美女。
「ええ、私も困惑しておりまして……たまたま、レガシーアイテムを売却しておりまして……マンションの支払いが終わりそうで、喜んでいいのものかどうか……税金どうなるんでしょう……これ……」
「そうですよね……子供の学費や住宅ローンの支払いが、終わりそうなので私は歓迎なのですが、こっそりしてしまおうかしら……」
そう言うと、情報端末を操作し始め換金しシステムを立ち上げると、すぐさま住宅ローンの完遂画面がチラリと見えた。勇ましいな子持ちの母親は。はぁ、春が来るとは思っていないが期待してすでに無理だと分かるとガックリするな……いや、人妻……俺には口説ける自身がないや。
俺もローンの支払いを済ませようとしていると、どうやらこのシステムは、指定口座にも振り込むことはできるが、暗い使い方にも対応し想定しているのか、様々な支払方法に対応できるらしい。
スピリットファンタジアに出稼ぎをしに来る、お父さんお母さんが増えそうだな。もちろん年齢制限がある為小さい子供は無理なのだが。
痒い所に手が届くなこれ。いいのかな? マネーロンダリングできるぞ。いや、これは逆の発想だ。“撒き餌”なんだこれは。闇の部分をあからさまにして根こそぎ始末する気だな。議題にもマフィアなどが暗殺されている件数が、数万人を越えている。既存の組織では対応できていない、と。
しばらくいすると退出したはずの世界各国の役員たちが、バタバタと慌てて集まり始めた。その様子眺めながらきっと今日中に解決しないだろうと内心笑いながらそそくさと体質した。世界経済の話なんざ関係ないからな。
ゲームのフレンドにも換金して支払いを済ませている人間から連絡が回ってきている。もちろん、法が設立される前に“やっちまえ”と自己責任だがギルド資金の八割を分配した。また稼げばいいと通話をしながらギルド員を会話している。
まあ、法整備が施行され、罪状を過去に遡及されたらアウトなので、バレないようにごまかしたが、どこまでうまく行くかは分からない。
社会的に経済的に混乱している今だけだろう。
宿泊しているホテルへと戻ると首元に掛けている情報端末でログインする。
世界の行く末よりもお金稼ぎが大事な小市民なのだよ俺は。




